東の空が随分明るくなってきた。
ついこの間までは残暑が厳しかったというのに、今は気温も下がり、深まりゆく秋を感じる。
ひとつ身震いをした。
寒さの所為ばかりでもなかった。これから私がしなければならない事の重大さに今更ながら怖気づいてしまうのだ。
「少し寒くなってきたね。着る物は持ってきた?」
私の右に立つ亜由美が沈んだ声で聞いてきた。
「持ってきたわよ。大丈夫、一人じゃないんだしね。ジロもついているから」
座って尻尾を揺らしていた茶色のシバ犬の頭を撫でてやる。
尻尾の揺れる速さが少しだけ速くなった。
村境の小道は目の前で急に下っている。ひと一人が歩けるだけの幅の細い踏み分け道だ。
薄暗かったその道が、昇り始めた朝陽の中に浮きあがり、道の脇に茂る雑草が金色の光を反射した。
思えば二週間前の自分はごく普通の何処にでもいる女の子だった。
それなのに、このたったの二週間で人生そのものがまったく違ったものになってしまうなんて。
少し残念。ごく普通の女の子の楽しみが失われてしまった事は寂しさを感じる。
でもどうしようもないのだ。
これが出来るのは自分だけなのだから。
私はこれをするために生まれてきたのだ。きっと。
唇をかんだ。そして、こうなる発端を思い起こした。
十四日間でいろいろな事が起こったけど、一番印象に残っているのはやはりあれの事だった。
男飼デビューを見せてやる、と的屋のおばさんに連れられて行った場所は、男飼の敷地の地下にあるコントロールルームだった。
そこの奥の壁は一面がモニターになっていた。
そんな事より母さんに会わせて、という私の願いはあっさり無視された。
壁のモニターにはすでに全裸にされたミナエさんが映し出されていた。
顔は上気しており、たくさん汗をかいている。
興奮が高まっているのが手に取るようにわかった。
生々しいうめき声もリアルに聞こえていた。
「ほら、このオンの股にぶら下がった棒を口に含みなさい」
モニターの中で先輩の姉さんがオンの首輪を引いて立たせながらミナエさんに命令する。
目を背けたいけど好奇心の方が強かった。
ミナエさんは操られたようにゆっくりひざまずき、目前にぶら下がったオンの肉棒を左手の平に受け止めた。
ずっしりした量感がモニター上からでも見て取れる。先端にてらてらと光る赤黒い固まりがぴくぴく、それ自体が生き物みたいにうごめいていた。
ミナエさんは大きく口を開けてその先端を含んだ。大きく開けなければ口の中には到底入らないくらいの物だった。
苦しそうにしているミナエさんの声が響く。
うーうーという声は棒を口に含んで動くミナエさんの頭の動きに連動していた。
「かなり大きくなってきたわね。そろそろいい頃かな」
先輩の姉さんが、モニター上には映っていない別の姉さんに話しかけた。
オンはというと、恐怖の表情が薄れて弛緩した顔をしていた。
「いいわ、そこで思いきり噛み千切りなさい。ミナエ、力一杯噛むのよ」
え、どういう事、そんな事をしたらオンが死んでしまうじゃないの。
私の気持ちとは関係なく、ミナエさんは言われるままに顎に力を入れたようだ。
大きな悲鳴と噴き出す赤い液体。
ミナエさんの顔は赤く塗りたくられ、口から赤い紐のような細長い管を何本も垂らしていた。
「いいわよ、次は玉も噛みきるのよ」
見ていられない。
口から泡を吹きながらぎゃあぎゃあ喚くオンの恐怖の表情。
それに、あんなに優しかったミナエさんの血塗られた鬼のような顔が……。
思い出してもぞっとする光景だった。
でも、十八歳になった姉さんたちは皆男飼デビューしなければならない仕来りがあるのだ。
近所の小春姉さんも、奈津子先輩も、そして母さんだって、あの形相をしてオンのPを噛み切ったはずなのだ。
この村の習慣というか掟なのだ。十八歳になった人が男飼デビューする事は。
二週間前に話を戻そう。十五歳の、まだ何も知らない子供だったころの私の話に。