15 腕輪の偽話
ー/ー
むかしむかし、一人の美しい娘がいました。
娘の住む村はとても貧しく、日照りや病にいつも悩まされていました。
娘はある日、仙界の山に向かって祈りました。
「どうか村を豊かにしてください」
すると、仙山から美しい男が娘の前に現れました。
「そなたは皆の幸せを願える尊い女性である。私とともに村を豊かにしよう」
美しい男はそう言って娘の手を取り、その村を豊かにしていきました。
豊かになった村は国となり、その仙山から来た男は皇帝になりました。
皇帝の妃となった娘は、ほどなくして皇子を産みました。
数年経って、国がとても豊かに、広くなったのを見届けると、皇帝は妃に言いました。
「私の役目は終わった。これからは皇子を皇帝に即位させて国を守りなさい」
仙人でもあった皇帝は、長くはこの国にいられないのです。
帝位をおりた仙人は、生まれたばかりの第二皇子を連れて仙山に帰っていきました。
仙人の子孫である新しい皇帝は、立派に国を治め、このフラーウムをもっと豊かにしました。
しかし、皇帝は仙山に父と共に帰った実の弟のことが気がかりでした。
自分が国のことを怠れば、弟が再びやって来て代わりに皇帝になるのではないかと不安でした。
その様子を仙山から見ていた仙人は、皇帝に腕輪を授けます。
「毎日、その腕輪を磨きなさい。それが清廉であるうちはそなたの治世は揺るがない」
皇帝は遠くから見守ってくれる父に毎日感謝し、腕輪と国を大切に守り続けました。
めでたしめでたし。
「……と言うのが、我が国フラーウムの成り立ちを説いた伝説である」
「……」
「どうした、シウレン?」
ジンが滔々と語ってみせた昔話に、ミチルは言葉を失っていた。
アルブスにて、スノードロップの小屋で、ジェイから聞いたカエルレウムのものと激似だったからだ。
「オレ、最近、その話と似たものを聞いてて……」
ミチルはジェイの昔話を出来るだけ間違えないように、言葉遣いを思い出しながらジンに聞かせる。
するとジンは、顎を摩りながら唸っていた。
「ううむ、なるほど。男女の逆転はあれど、ほぼ同じような話だな」
「あの、もしかして、ここでもそのカミサマみたいな人達のこと、チル一族って言います?」
恐る恐るミチルが聞くと、ジンは首を振った。
「いや、その言葉は知らん。単純に『仙人』などと呼ぶな。仙山に移り住んだ、皇帝の弟の名なら『福寿』と言うが」
「ああ、その所がカエルレウムとは違う所ですよね。あっちでは王様に兄弟がいたっていうくだりはなかったもの」
「そこなんだが、儂は以前からその部分に違和感を持っていてな。何故わざわざ皇帝の地位を揺るがすような文言があるのだろうと」
「ああ、確かに。何かの教訓ですかね?」
ミチルが知っている日本の昔話は必ず教訓がある。
約束を破ってはいけないとか、欲張ってはいけないなど。それを破った登場人物はお爺さんになったり、お化けに襲われたりしている。
「冴えてるな、シウレン。儂もそう思っていた。そして今の貴様の話で確信した事がある」
「なんですか、それ?」
「つまり、皇帝に弟がいた云々の部分は我が国のオリジナルだと言う事だ。フラーウムは仁義礼節を重んじる国。代々伝え聞く昔話にわざと教訓を入れたのかもしれん」
「はあ。何かいけないんですか?」
ジンの言っていることの真の意味がわからずに、ミチルは首を傾げた。
そこでジンはもっと噛み砕いて説明する。
「いいか、この世界はカエルラ=プルーマ。世界の創世神話はどこの国でも共通しているし、その頂点──カエルレウムではチル神と言うのか? それは我が国では名称が違うだけで、結局は同じ存在であることは世界の共通認識だ」
「ああ! ここでもカミサマは世界でただひとつなんですね!?」
ミチルはアルブスで聞いた話を思い出していた。この世界はカミサマの存在はただひとつのみ。国や文化の違いによって名前や解釈が少し違うだけで、同じカミサマを崇めていると教わっていた。
「そうだ。カエルレウムやアルブスに兄弟云々の話がないならば、それは余計なものだということ。つまり、この腕輪の存在及びそれにまつわる話は、無かったことに出来るかもしれない」
「ええ!? その腕輪が、伝説にあった腕輪なんですか!?」
目の前に掲げられた青い石の腕輪に、ミチルは飛び上がりそうな程驚いた。
「もちろん、そうだ。門外不出の国宝がこんな片田舎にある。鐘馗会はこれを狙っているのだろう」
「いやいや、ケロっとしてるけど、それすっごい古代の伝説のお宝ってことですよね!? 歴史的価値が計り知れなくないっ!?」
そんな物を、裸で、なんか指でくるくる回しちゃって大丈夫なの!?
ミチルはジンの腕輪の扱い方に、恐れ慄いた。
「だから! その腕輪の逸話が、たった今、偽物だと証明されたのかもしれんのだ! わかるか? これは凄いことなんだぞ!」
「え? ええ?」
なんか急に興奮しだしたジンに、ミチルは大いに怯えた。
あっちの意味以外で興奮した姿を初めて見たからだ。
「皇帝陛下は代々、この腕輪の存在を恐れておられた! だが、もはや腕輪の意味が無くなったと知れば、陛下の憂いが消える!」
「ははあ……」
「この事を早く陛下にお知らせしなければ! だがしかし、私は都の罪人! どうやって陛下にお目通り……」
ジンは興奮したまま、今度は頭を抱えて悩みだす。
ミチルはこれだけ狼狽えている姿も初めて見た。
「む? 待て、あれだ。あれがあった……!」
オジサンがくるくる表情を変えるのも、意外と面白いな。それがイケメンだからずっと見てられる。
「シウレン!!」
「はい?」
ジンは突然ミチルにずいと寄り、目をキラキラさせて言った。
「貴様、武道大会に出ろ!」
「ええ?」
それって、この前お弟子さんが言ってたやつ?
ヤダよ! 絶対ボコボコにされるじゃん!
「そして、優勝するんだ!!」
「ハアア!?」
突然の無理難題に、ミチルの目の前は真っ暗になった。
だが、とっくにかんぬきがバカになって開きっぱなしの、アノ扉をミチルは通り抜ける他ないのだった……
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娘はある日、仙界の山に向かって祈りました。
「どうか村を豊かにしてください」
すると、仙山から美しい男が娘の前に現れました。
「そなたは皆の幸せを願える尊い|女性《にょしょう》である。私とともに村を豊かにしよう」
美しい男はそう言って娘の手を取り、その村を豊かにしていきました。
豊かになった村は国となり、その仙山から来た男は皇帝になりました。
皇帝の妃となった娘は、ほどなくして皇子を産みました。
数年経って、国がとても豊かに、広くなったのを見届けると、皇帝は妃に言いました。
「私の役目は終わった。これからは皇子を皇帝に即位させて国を守りなさい」
仙人でもあった皇帝は、長くはこの国にいられないのです。
帝位をおりた仙人は、生まれたばかりの第二皇子を連れて仙山に帰っていきました。
仙人の子孫である新しい皇帝は、立派に国を治め、このフラーウムをもっと豊かにしました。
しかし、皇帝は仙山に父と共に帰った実の弟のことが気がかりでした。
自分が国のことを怠れば、弟が再びやって来て代わりに皇帝になるのではないかと不安でした。
その様子を仙山から見ていた仙人は、皇帝に腕輪を授けます。
「毎日、その腕輪を磨きなさい。それが清廉であるうちはそなたの治世は揺るがない」
皇帝は遠くから見守ってくれる父に毎日感謝し、腕輪と国を大切に守り続けました。
めでたしめでたし。
「……と言うのが、我が国フラーウムの成り立ちを説いた伝説である」
「……」
「どうした、シウレン?」
ジンが滔々と語ってみせた昔話に、ミチルは言葉を失っていた。
アルブスにて、スノードロップの小屋で、ジェイから聞いたカエルレウムのものと激似だったからだ。
「オレ、最近、その話と似たものを聞いてて……」
ミチルはジェイの昔話を出来るだけ間違えないように、言葉遣いを思い出しながらジンに聞かせる。
するとジンは、顎を摩りながら唸っていた。
「ううむ、なるほど。男女の逆転はあれど、ほぼ同じような話だな」
「あの、もしかして、ここでもそのカミサマみたいな人達のこと、チル一族って言います?」
恐る恐るミチルが聞くと、ジンは首を振った。
「いや、その言葉は知らん。単純に『仙人』などと呼ぶな。仙山に移り住んだ、皇帝の弟の名なら『|福寿《ふくじゅ》』と言うが」
「ああ、その所がカエルレウムとは違う所ですよね。あっちでは王様に兄弟がいたっていうくだりはなかったもの」
「そこなんだが、儂は以前からその部分に違和感を持っていてな。何故わざわざ皇帝の地位を揺るがすような文言があるのだろうと」
「ああ、確かに。何かの教訓ですかね?」
ミチルが知っている日本の昔話は必ず教訓がある。
約束を破ってはいけないとか、欲張ってはいけないなど。それを破った登場人物はお爺さんになったり、お化けに襲われたりしている。
「冴えてるな、シウレン。儂もそう思っていた。そして今の貴様の話で確信した事がある」
「なんですか、それ?」
「つまり、皇帝に弟がいた云々の部分は我が国のオリジナルだと言う事だ。フラーウムは仁義礼節を重んじる国。代々伝え聞く昔話にわざと教訓を入れたのかもしれん」
「はあ。何かいけないんですか?」
ジンの言っていることの真の意味がわからずに、ミチルは首を傾げた。
そこでジンはもっと噛み砕いて説明する。
「いいか、この世界はカエルラ=プルーマ。世界の創世神話はどこの国でも共通しているし、その頂点──カエルレウムではチル神と言うのか? それは我が国では名称が違うだけで、結局は同じ存在であることは世界の共通認識だ」
「ああ! ここでもカミサマは世界でただひとつなんですね!?」
ミチルはアルブスで聞いた話を思い出していた。この世界はカミサマの存在はただひとつのみ。国や文化の違いによって名前や解釈が少し違うだけで、同じカミサマを崇めていると教わっていた。
「そうだ。カエルレウムやアルブスに兄弟云々の話がないならば、それは|余《・》|計《・》|な《・》|も《・》|の《・》だということ。つまり、この腕輪の存在及びそれにまつわる話は、無かったことに出来るかもしれない」
「ええ!? その腕輪が、伝説にあった腕輪なんですか!?」
目の前に掲げられた青い石の腕輪に、ミチルは飛び上がりそうな程驚いた。
「もちろん、そうだ。門外不出の国宝がこんな片田舎にある。|鐘馗《しょうき》会はこれを狙っているのだろう」
「いやいや、ケロっとしてるけど、それすっごい古代の伝説のお宝ってことですよね!? 歴史的価値が計り知れなくないっ!?」
そんな物を、裸で、なんか指でくるくる回しちゃって大丈夫なの!?
ミチルはジンの腕輪の扱い方に、恐れ慄いた。
「だから! その腕輪の逸話が、たった今、偽物だと証明されたのかもしれんのだ! わかるか? これは凄いことなんだぞ!」
「え? ええ?」
なんか急に興奮しだしたジンに、ミチルは大いに怯えた。
あっちの意味以外で興奮した姿を初めて見たからだ。
「皇帝陛下は代々、この腕輪の存在を恐れておられた! だが、もはや腕輪の意味が無くなったと知れば、陛下の憂いが消える!」
「ははあ……」
「この事を早く陛下にお知らせしなければ! だがしかし、私は都の罪人! どうやって陛下にお目通り……」
ジンは興奮したまま、今度は頭を抱えて悩みだす。
ミチルはこれだけ狼狽えている姿も初めて見た。
「む? 待て、あれだ。あれがあった……!」
オジサンがくるくる表情を変えるのも、意外と面白いな。それがイケメンだからずっと見てられる。
「シウレン!!」
「はい?」
ジンは突然ミチルにずいと寄り、目をキラキラさせて言った。
「貴様、武道大会に出ろ!」
「ええ?」
それって、この前お弟子さんが言ってたやつ?
ヤダよ! 絶対ボコボコにされるじゃん!
「そして、優勝するんだ!!」
「ハアア!?」
突然の無理難題に、ミチルの目の前は真っ暗になった。
だが、とっくにかんぬきがバカになって開きっぱなしの、アノ扉をミチルは通り抜ける他ないのだった……