秋の話
ー/ー 秋。
北から来た新しい者たちが我が物顔で町の中を歩くようになっていた。今、滞在している大きな怪異たちは、魔法を見破る力を持つらしい。私たちは一層用心して、何十にも魔法をかけて暮らしている。とうとう、森の住居も結界に鍵をかけるようになった。私の買い出しも三重に魔法をかけて――あし、ひれ、はね、それぞれの魔法で。
町に行くと、がやがやと騒がしい大きな顔を持つ怪異とすみっこで静かに暮らす旧き住人たちの対比が激しい。新しいもの達のカラフルな姿とは対照的に、町の人達の表情は暗い。襲われたという話は聞かないが、他の町での小さく脆いもの達への仕打ちを聞き、覇気を失っているのが目に見えた。
その日。私はこっそり買い出しに来ていた。具合が悪いと寝ているあしちゃんに甘い実を買ってあげようと、一人。
見つかってしまったのは普段かけている三重の魔法が一つ少なかったからに違いない。
「おお、まだ小さな手足が生き残っているとはな」
「しかも、こどもだ」
「愛らしいな」
「お前、どこで飼われている。私たちが代わりに飼ってやろうか」
八百屋のおばさんと私の前に大きな顔が立ちふさがり、あっという間に私たちは壁に追い詰められてしまった。長い触腕が私の腕を撫でた。指がいくつもある手が私の肩を抱き引き寄せようとする。
おばさんは腰を抜かして立ち上がることができない。
私の身体は指先から身体の芯にかけて勝手にぶるぶると震えていた。突き飛ばす? 逃げる? それを実行するには、身体が強張りすぎている。さっきまで、暖かかく感じていた空気はいつの間にか冬の夜のように冷たかった。
あまりに近くで聞こえる低い唸り、生臭い息に声を出すことができない。
私の頭で言葉が渦巻く。愛玩動物、奴隷、実験体。どれならマシだろう。尋問されて、森の家のことを話してしまうかもしれない。魔女が一人じゃないとバレたら? みんなの家に大型の化け物が群がる様子を思い描き、気が遠くなった。
その大きな身体たちをかき分けて、私の前に立った者がいる。複数の手から引き剥がし、細い身体がねじ込まれる。
あしちゃんだった。
「新しきもの達よ。この小さき手足は私たちが飼っている娘。何も覚えず、何もできない。ただの子供よ」
化け物たちがあしちゃんと私を睨め付ける。いくつもの口と耳がなにやら相談しているようだった。食いちぎる、連れていく、そんな言葉が聞こえる。
あしちゃんがきて安心した私だったけれど、あしちゃんが放った言葉で再び私の背が逆立つ。
「それよりも、この身体をやろう。成熟した人間の身体だ。魔法も使える。貴殿らの飽くことはさせない」
あしちゃんと新しいもの達の間で飼うだとか、わたすとか、物騒な言葉が飛び交っている。それを止めて家に帰らなくちゃいけないのに、足がすくんで動かない。
化け物たちはあしちゃんを品定めするように見ていたものの、良しとしたのか、あしちゃんの腰を抱いて肩に載せ、どこかへ行ってしまった。
どこをどう帰ったのかわからない。家に帰った時に、はねちゃんの蒼白な顔とひれちゃんの唇を噛み締めた顔だけを憶えている。
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