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第2章〜H地区のある場所について〜⑮

ー/ー



 7月27日(水)

 満地谷墓地(まんちだにぼち)での撮影が終わった翌日、オレは、撮影メンバーの一人をともなって、祝川(しゅくがわ)沿いの古美術店を訪れた。

 言わずもがなではあるが、今回の同行者は、我が親友の黄瀬壮馬である。

「週末には配信をする予定だからね。なんとしても、今日中に 柔琳寺(じゅうりんじ)の撮影許可をもらわないと!」

 そんな意気込みを語る親友をどうなだめようかと考えながら、いつものように客のいない古美術堂に入店し、店主に声をかけて、ライブ配信を行った前夜の映像を確認してもらう。

 正直なところ、映像を見たくらいで、自分たちがなにかに祟られたり、呪われていることがわかるのか、とは思うものの、撮影には色々と協力をしてもらっているので、彼女の申し出を断ることは出来ない。

 それだけに、
 
「そう……墓地のあの少女像は、『火垂るの墓の少女像』という設定で進めるのね?」

という一言は、オレの心にグサリと刺さった。
 オレは、同行したシロととともに、店主に紹介してもらった吉田老人から聞き取った少女像にまつわるエピソードをライブ配信中に情報提供することができなかった。

 もちろん、今回の企画は、心霊スポットの訪問から動画配信者が失踪する、という主旨で行われているので、怪談にまつわる真相を追求する、ということは目的から外れてしまうことではあるのだが……。

 オレのそんな後悔をよそに、親友は店主の問いかけに、得意げに答える。

「えぇ、その方がエピソードとして盛り上がりますから! この第三回目の映像は、次回への伏線にもなるので、配信版を編集したアーカイブ版の少女像には、ちょっとした工夫を凝らすつもりです」

 しかし、女性店主は、壮馬のドヤ顔を「そう……」と、無関心に受け流す。
 その態度に、いささか気分を害したのか、親友は「それより……」と前のめり気味に店の主に問いかける。

「最初に訪問したときに訪れた柔琳寺(じゅうりんじ)での撮影に関する話しは、どうなりましたか? 撮影日まで、もう余裕がないので、まだ連絡が取れていないなら、今日ここで柔琳寺(じゅうりんじ)に連絡してもらいたいんですけど?」

 その苛立たしげなようすに、オレは、またか……と思いながら、親友を落ち着かせようと制止する。

「壮馬、ちょっと()()()()()だぞ! ちょっと、落ち着け」

 競馬のレース中に、競走馬が騎手と折り合うことが出来ずに、前に行きたがることを指す言葉で諭そうとするが、オレの配慮も、店主の一言で水の泡となるのだった。

「あぁ、柔琳寺(じゅうりんじ)での撮影ね。それなら、昨日、先方のご住職から、『今回はお断りしたい』と、返事をもらったところよ」

 その言葉に、親友はあからさまに動揺を見せる。

「そんな! 今さら『お断りします』なんて言われても、困りますよ! こっちは、最後の配信と残された映像のネタを牛女にするために、ここまでスケジュールを組んできたのに!」

 壮馬の言い分も分からなくはないが、それは、あくまで自主企画で、自分たちが勝手に組んだ撮影スケジュールに支障をきたす、ということでしかない。そんな、こちら側の都合を押し付けられても、お寺側はもちろん、この少々(どころではないか?)妖しげな雰囲気を醸し出している女性店主も困惑するだろう。

 そう考えて、親友を諭そうと言葉をかける。

「壮馬! もう、それくらいにしておけ……! 最後は、オレたち二人だけなんだし、配信のネタなら、今から考えれば良いだろ!?」

 だが、友人を制止するオレの言葉を気にも留めないように、店の主は、相変わらずの鷹揚な口調で問い返す。

「アナタ達は、うしおんなを配信のネタにできれば良いのよね?」

「は? まあ、そうですけど……」
 
 怪訝な顔つきの壮馬に女性店主は代替案を示した。

「それなら、問題はないわ。アナタ達も、地元の柔琳寺(じゅうりんじ)の前を走っている県道に夫婦岩と呼ばれる巨石があるのは知っているわよね?」

「え、えぇまあ……」

「じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()、というウワサを聞いたことはない?」

「「!」」
 
 これまでオレ達を試すように問いかけるたびに見せている妖艶な表情から発せられる問いかけに、オレも壮馬も全身に電気が走ったように、ビクリと反応する。

「あの岩に関する逸話は、ちゃんと、地元の新聞にも取材記事として残ったいるわよ」

 オレたちの反応を予想していたのだろう。そう言葉を続けた店主は、和風の店舗に似つかわしくないデスクトップPCのモニターをこちらに向けて、WEB版の新聞記事を提示した。

 ・「動かせばたたり」巨岩かわして県道整備

「市街地北部を走る県道の真ん中に、『動かすとたたりがある』と地元で言い伝えられる大きな岩がある。工事のために動かそうとした関係者が相次いで亡くなった、といううわさがその根拠。真相ははっきりしないものの、県道の改修工事を予定する兵庫県西宮土木事務所は『ないがしろにできない』と、岩を避けて整備する異例の対応を決めた」

「市内柔琳寺(じゅうりんじ)町の県道82号線にある通称『夫婦岩』。高さ約二・五メートル、幅約五メートルで真ん中に亀裂があり、二つの岩が寄り添うように並んでいる。県道はこの岩を挟んで前後で北行き、南行きに分かれている」

「地元では古くから『動かそうとするとのろわれる』とうわさされる。『一九三八年の阪神大水害の復旧工事で国が爆破しようとしたが、工事関係者が急死して中止されたらしい』と地元のお年寄り。交通量が多い割に道路幅が狭く、見通しの悪いカーブとなっていることから、県は夫婦岩の南北約一キロの区間で拡幅工事を計画。夫婦岩を動かさないように道路全体を西側にずらす形で設計した」

 新聞記事に目を通したオレたちは、互いに目を見合わせて、うなずきあう。

(このネタは、行けそうだ!)

 オレも壮馬も、たしかに、そんな手応えを感じ取ったのだった。


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 7月27日(水)
 |満地谷墓地《まんちだにぼち》での撮影が終わった翌日、オレは、撮影メンバーの一人をともなって、|祝川《しゅくがわ》沿いの古美術店を訪れた。
 言わずもがなではあるが、今回の同行者は、我が親友の黄瀬壮馬である。
「週末には配信をする予定だからね。なんとしても、今日中に |柔琳寺《じゅうりんじ》の撮影許可をもらわないと!」
 そんな意気込みを語る親友をどうなだめようかと考えながら、いつものように客のいない古美術堂に入店し、店主に声をかけて、ライブ配信を行った前夜の映像を確認してもらう。
 正直なところ、映像を見たくらいで、自分たちがなにかに祟られたり、呪われていることがわかるのか、とは思うものの、撮影には色々と協力をしてもらっているので、彼女の申し出を断ることは出来ない。
 それだけに、
「そう……墓地のあの少女像は、『火垂るの墓の少女像』という設定で進めるのね?」
という一言は、オレの心にグサリと刺さった。
 オレは、同行したシロととともに、店主に紹介してもらった吉田老人から聞き取った少女像にまつわるエピソードをライブ配信中に情報提供することができなかった。
 もちろん、今回の企画は、心霊スポットの訪問から動画配信者が失踪する、という主旨で行われているので、怪談にまつわる真相を追求する、ということは目的から外れてしまうことではあるのだが……。
 オレのそんな後悔をよそに、親友は店主の問いかけに、得意げに答える。
「えぇ、その方がエピソードとして盛り上がりますから! この第三回目の映像は、次回への伏線にもなるので、配信版を編集したアーカイブ版の少女像には、ちょっとした工夫を凝らすつもりです」
 しかし、女性店主は、壮馬のドヤ顔を「そう……」と、無関心に受け流す。
 その態度に、いささか気分を害したのか、親友は「それより……」と前のめり気味に店の主に問いかける。
「最初に訪問したときに訪れた|柔琳寺《じゅうりんじ》での撮影に関する話しは、どうなりましたか? 撮影日まで、もう余裕がないので、まだ連絡が取れていないなら、今日ここで|柔琳寺《じゅうりんじ》に連絡してもらいたいんですけど?」
 その苛立たしげなようすに、オレは、またか……と思いながら、親友を落ち着かせようと制止する。
「壮馬、ちょっと|掛《・》|か《・》|り《・》|過《・》|ぎ《・》だぞ! ちょっと、落ち着け」
 競馬のレース中に、競走馬が騎手と折り合うことが出来ずに、前に行きたがることを指す言葉で諭そうとするが、オレの配慮も、店主の一言で水の泡となるのだった。
「あぁ、|柔琳寺《じゅうりんじ》での撮影ね。それなら、昨日、先方のご住職から、『今回はお断りしたい』と、返事をもらったところよ」
 その言葉に、親友はあからさまに動揺を見せる。
「そんな! 今さら『お断りします』なんて言われても、困りますよ! こっちは、最後の配信と残された映像のネタを牛女にするために、ここまでスケジュールを組んできたのに!」
 壮馬の言い分も分からなくはないが、それは、あくまで自主企画で、自分たちが勝手に組んだ撮影スケジュールに支障をきたす、ということでしかない。そんな、こちら側の都合を押し付けられても、お寺側はもちろん、この少々(どころではないか?)妖しげな雰囲気を醸し出している女性店主も困惑するだろう。
 そう考えて、親友を諭そうと言葉をかける。
「壮馬! もう、それくらいにしておけ……! 最後は、オレたち二人だけなんだし、配信のネタなら、今から考えれば良いだろ!?」
 だが、友人を制止するオレの言葉を気にも留めないように、店の主は、相変わらずの鷹揚な口調で問い返す。
「アナタ達は、うしおんなを配信のネタにできれば良いのよね?」
「は? まあ、そうですけど……」
 怪訝な顔つきの壮馬に女性店主は代替案を示した。
「それなら、問題はないわ。アナタ達も、地元の|柔琳寺《じゅうりんじ》の前を走っている県道に夫婦岩と呼ばれる巨石があるのは知っているわよね?」
「え、えぇまあ……」
「じゃあ、|あ《・》|の《・》|岩《・》|の《・》|上《・》|で《・》|牛《・》|女《・》|が《・》|目《・》|撃《・》|さ《・》|れ《・》|た《・》、というウワサを聞いたことはない?」
「「!」」
 これまでオレ達を試すように問いかけるたびに見せている妖艶な表情から発せられる問いかけに、オレも壮馬も全身に電気が走ったように、ビクリと反応する。
「あの岩に関する逸話は、ちゃんと、地元の新聞にも取材記事として残ったいるわよ」
 オレたちの反応を予想していたのだろう。そう言葉を続けた店主は、和風の店舗に似つかわしくないデスクトップPCのモニターをこちらに向けて、WEB版の新聞記事を提示した。
 ・「動かせばたたり」巨岩かわして県道整備
「市街地北部を走る県道の真ん中に、『動かすとたたりがある』と地元で言い伝えられる大きな岩がある。工事のために動かそうとした関係者が相次いで亡くなった、といううわさがその根拠。真相ははっきりしないものの、県道の改修工事を予定する兵庫県西宮土木事務所は『ないがしろにできない』と、岩を避けて整備する異例の対応を決めた」
「市内|柔琳寺《じゅうりんじ》町の県道82号線にある通称『夫婦岩』。高さ約二・五メートル、幅約五メートルで真ん中に亀裂があり、二つの岩が寄り添うように並んでいる。県道はこの岩を挟んで前後で北行き、南行きに分かれている」
「地元では古くから『動かそうとするとのろわれる』とうわさされる。『一九三八年の阪神大水害の復旧工事で国が爆破しようとしたが、工事関係者が急死して中止されたらしい』と地元のお年寄り。交通量が多い割に道路幅が狭く、見通しの悪いカーブとなっていることから、県は夫婦岩の南北約一キロの区間で拡幅工事を計画。夫婦岩を動かさないように道路全体を西側にずらす形で設計した」
 新聞記事に目を通したオレたちは、互いに目を見合わせて、うなずきあう。
(このネタは、行けそうだ!)
 オレも壮馬も、たしかに、そんな手応えを感じ取ったのだった。