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第2章〜H地区のある場所について〜⑭

ー/ー



 壮馬の言動が、やはり、普段とは異なることを感じ取オレは、このライブ配信が始まる前のことを思い返す──────。 

 シロと一緒に父親の墓参りを済ませたオレは、撮影の準備が始まる夕暮れ時まで、彼女とともに近くのカフェで時間を潰すことにした。

『ティールーム・アイリス』という名の隠れ家的なカフェは、大きな書棚にたくさんの本が並び、ピアノや電子オルガンも置かれている落ち着いた雰囲気の店だった。ここで、久しぶりにシロと語らう時間を楽しんだオレは、今日も集合場所である自分たちの通う市立高校に向かう。

 西日が大きく傾き山際に隠れようとする時間になると、撮影に参加するメンバーが集まってきた。
 今日の参加メンバーは、前回は撮影に付き添ってくれた文芸部の天竹葵が、古美術堂で課された課題の調査に専念するという理由で抜けたため、合計で六名だ。

 もう三回目の配信であることと、今回の撮影場所は、墓地というロケーションであるものの、集合場所から徒歩十五分ほどの距離で、撮影候補地の中でも、もっとも近い場所にあるため、メンバーの緊張感もやや薄れがちだと思われたのだが――――――。

 そんな中、今回の企画の発案者である親友は、オレの顔を見るなり、こう切り出してきた。

「竜司、柔琳寺(じゅうりんじ)の撮影許可は取れたの?」

「いや、それが……古美術堂の(あるじ)さんは、なかなか先方と連絡が取れないみたいでな……」

「ちょっと待ってよ! 最後の撮影日まで、もう三日しか無いんだよ? 牛女に関する言い伝えがあるからこそ、柔琳寺(じゅうりんじ)を最終日の撮影場所の候補にしているってことは、竜司もわかってるよね? どうして、その場で『すぐに連絡を取ってくれ』って催促しないのさ!?」

 普段は、他人に対して感情を表に出すことは少なく、何事においても、淡々としたようすでこなしていく壮馬にしては珍しい剣幕だ。
 小学生の頃からの長い付き合いである親友の言動に困惑しながらも、自分が古美術堂の店主との連絡係を買って出ておきながら、いまだに次の撮影候補地のアポイントを取ることが出来ていない、ということに申し訳なさを感じ、

「スマン……こっちからも、柔琳寺(じゅうりんじ)の責任者に連絡を取ってくれるよう、お願いはしてるんだが……」

「それでも、結果が伴ってなければ意味のないことだよね? 次に古美術堂を訪問するときは、ボクも一緒に行って()()するから! それで良いよね?」

 つい先日までは、外部との交渉事は、すべてオレに丸投げをしていたことから考えると、ずい分と積極的に行動するようになったものだ、と感心するのだが……。

 そのあまりに前のめり気味な言動には、壮馬との付き合いが長いオレ自身も戸惑いを覚えてしまう。
 そんあオレたちのことを見かねたのか、下級生の女子が会話に割って入ってくる。
 
「まあまあ、きぃ先輩。くろ先輩も古美術堂に遊びに行ってる訳じゃないと思いますし、柔琳寺(じゅうりんじ)での撮影までは、まだ三日ありますから。ワタシ達は、今日のライブ配信を無事に終えることだけを考えて、次の準備は、それからにしましょう?」

「わ、わかったよ佐倉さん」

 後輩の女子に諭されたことで、さすがにバツが悪くなったのか、壮馬はオレに対する(ほこ)をアッサリと収めた。

「ありがとう、モモ。気を遣わせてしまったな」

 そう言って、これまた付き合いの長い後輩女子に礼を言うと、桃華は、

「いいえ、どういたしまして」

と、ドヤ顔を作ってみせたが、そのあと、一瞬だけカゲのある表情を見せて、そのようすから

(やっぱり、きぃ先輩の言動には注意が必要ですね)

という彼女の無言のメッセージを受け取った。

 そして、そんな桃華の気遣いに感謝しながら、オレは、壮馬にこう切り出した。

「そう言えば、柔琳寺(じゅうりんじ)の責任者と連絡を取ってもらう代わりに、古美術堂の(あるじ)さんの紹介で、今日の撮影場所の満地谷墓地(まんちだにぼち)周辺の歴史に詳しい人に話しを聞くことが出来たんだ」

「なんだい? 今日のライブ配信を盛り上げてくれそうなネタでもあるの? ボクらが知らない怪談のネタとか……」

「いや、オレもそういう方面の話しを期待していたんだが……実は、予想もしていなかった意外な真相ってヤツを聞くことが出来てな……」

「なんだよ、もったいぶった言い方で……その意外な真相って、なんなのさ?」

「あぁ、モモが紹介してくれた『火垂るの墓の少女像』は、もともと、別の意図で制作されたモノらしいんだ。満地谷墓地(まんちだにぼち)の近くで交通事故に遭った女の子がいたそうなんだが、あの少女の像は、その女の子を偲んで建てられたモノらしい。あの像が制作されたのは、『火垂るの墓』の原作が発表される前のことで、像が建てられた当時は、手毬を抱えているから、マリちゃんと呼ばれていたらしいぞ」

 オレは、吉田老人から聞き取ってきたばかりの情報が、動画の配信に役立つだろうと披露したのだが、語り手であるこちらのテンションに反して、親友の反応は芳しいものではなかった。

「竜司、悪いけど、そのエピソードは配信に使えないよ。交通事故で亡くなった子どものネタは、この前の『日之池公園のテッちゃん』と丸かぶりじゃないか? それに、もう今回のネタは、『火垂るの墓』を絡めたネタで進めようと準備しているんだ……もう、今さらネタの変更なんて出来ないからね?」

 ピシャリと言い放つ親友の表情からは、

(次の撮影場所の許可は取れていないのに、余計な情報を持ってきて……)

という気持ちがにじみ出ているようにも感じられた。

 そんな壮馬のようすに、桃華は唖然とした表情になり、シロは少し表情を曇らせ、サポートメンバーの宮野と緑川は、不安そうな表情で、オロオロとオレたちのことを眺めるばかりだった。



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 壮馬の言動が、やはり、普段とは異なることを感じ取オレは、このライブ配信が始まる前のことを思い返す──────。 
 シロと一緒に父親の墓参りを済ませたオレは、撮影の準備が始まる夕暮れ時まで、彼女とともに近くのカフェで時間を潰すことにした。
『ティールーム・アイリス』という名の隠れ家的なカフェは、大きな書棚にたくさんの本が並び、ピアノや電子オルガンも置かれている落ち着いた雰囲気の店だった。ここで、久しぶりにシロと語らう時間を楽しんだオレは、今日も集合場所である自分たちの通う市立高校に向かう。
 西日が大きく傾き山際に隠れようとする時間になると、撮影に参加するメンバーが集まってきた。
 今日の参加メンバーは、前回は撮影に付き添ってくれた文芸部の天竹葵が、古美術堂で課された課題の調査に専念するという理由で抜けたため、合計で六名だ。
 もう三回目の配信であることと、今回の撮影場所は、墓地というロケーションであるものの、集合場所から徒歩十五分ほどの距離で、撮影候補地の中でも、もっとも近い場所にあるため、メンバーの緊張感もやや薄れがちだと思われたのだが――――――。
 そんな中、今回の企画の発案者である親友は、オレの顔を見るなり、こう切り出してきた。
「竜司、|柔琳寺《じゅうりんじ》の撮影許可は取れたの?」
「いや、それが……古美術堂の|主《あるじ》さんは、なかなか先方と連絡が取れないみたいでな……」
「ちょっと待ってよ! 最後の撮影日まで、もう三日しか無いんだよ? 牛女に関する言い伝えがあるからこそ、|柔琳寺《じゅうりんじ》を最終日の撮影場所の候補にしているってことは、竜司もわかってるよね? どうして、その場で『すぐに連絡を取ってくれ』って催促しないのさ!?」
 普段は、他人に対して感情を表に出すことは少なく、何事においても、淡々としたようすでこなしていく壮馬にしては珍しい剣幕だ。
 小学生の頃からの長い付き合いである親友の言動に困惑しながらも、自分が古美術堂の店主との連絡係を買って出ておきながら、いまだに次の撮影候補地のアポイントを取ることが出来ていない、ということに申し訳なさを感じ、
「スマン……こっちからも、|柔琳寺《じゅうりんじ》の責任者に連絡を取ってくれるよう、お願いはしてるんだが……」
「それでも、結果が伴ってなければ意味のないことだよね? 次に古美術堂を訪問するときは、ボクも一緒に行って|督《・》|促《・》するから! それで良いよね?」
 つい先日までは、外部との交渉事は、すべてオレに丸投げをしていたことから考えると、ずい分と積極的に行動するようになったものだ、と感心するのだが……。
 そのあまりに前のめり気味な言動には、壮馬との付き合いが長いオレ自身も戸惑いを覚えてしまう。
 そんあオレたちのことを見かねたのか、下級生の女子が会話に割って入ってくる。
「まあまあ、きぃ先輩。くろ先輩も古美術堂に遊びに行ってる訳じゃないと思いますし、|柔琳寺《じゅうりんじ》での撮影までは、まだ三日ありますから。ワタシ達は、今日のライブ配信を無事に終えることだけを考えて、次の準備は、それからにしましょう?」
「わ、わかったよ佐倉さん」
 後輩の女子に諭されたことで、さすがにバツが悪くなったのか、壮馬はオレに対する|矛《ほこ》をアッサリと収めた。
「ありがとう、モモ。気を遣わせてしまったな」
 そう言って、これまた付き合いの長い後輩女子に礼を言うと、桃華は、
「いいえ、どういたしまして」
と、ドヤ顔を作ってみせたが、そのあと、一瞬だけカゲのある表情を見せて、そのようすから
(やっぱり、きぃ先輩の言動には注意が必要ですね)
という彼女の無言のメッセージを受け取った。
 そして、そんな桃華の気遣いに感謝しながら、オレは、壮馬にこう切り出した。
「そう言えば、|柔琳寺《じゅうりんじ》の責任者と連絡を取ってもらう代わりに、古美術堂の|主《あるじ》さんの紹介で、今日の撮影場所の|満地谷墓地《まんちだにぼち》周辺の歴史に詳しい人に話しを聞くことが出来たんだ」
「なんだい? 今日のライブ配信を盛り上げてくれそうなネタでもあるの? ボクらが知らない怪談のネタとか……」
「いや、オレもそういう方面の話しを期待していたんだが……実は、予想もしていなかった意外な真相ってヤツを聞くことが出来てな……」
「なんだよ、もったいぶった言い方で……その意外な真相って、なんなのさ?」
「あぁ、モモが紹介してくれた『火垂るの墓の少女像』は、もともと、別の意図で制作されたモノらしいんだ。|満地谷墓地《まんちだにぼち》の近くで交通事故に遭った女の子がいたそうなんだが、あの少女の像は、その女の子を偲んで建てられたモノらしい。あの像が制作されたのは、『火垂るの墓』の原作が発表される前のことで、像が建てられた当時は、手毬を抱えているから、マリちゃんと呼ばれていたらしいぞ」
 オレは、吉田老人から聞き取ってきたばかりの情報が、動画の配信に役立つだろうと披露したのだが、語り手であるこちらのテンションに反して、親友の反応は芳しいものではなかった。
「竜司、悪いけど、そのエピソードは配信に使えないよ。交通事故で亡くなった子どものネタは、この前の『日之池公園のテッちゃん』と丸かぶりじゃないか? それに、もう今回のネタは、『火垂るの墓』を絡めたネタで進めようと準備しているんだ……もう、今さらネタの変更なんて出来ないからね?」
 ピシャリと言い放つ親友の表情からは、
(次の撮影場所の許可は取れていないのに、余計な情報を持ってきて……)
という気持ちがにじみ出ているようにも感じられた。
 そんな壮馬のようすに、桃華は唖然とした表情になり、シロは少し表情を曇らせ、サポートメンバーの宮野と緑川は、不安そうな表情で、オロオロとオレたちのことを眺めるばかりだった。