私の名前は田中健二。今年で45才。いわゆるアラフィフだ。
「スタドリのライブ、入場開始しまーす。」
戦闘開始の号砲だ。「ケンジくん、さあ、行こうか。」
アヤさんが私の背中を押す。
「よし!」
さあ、いよいよ、初陣だ。狭い階段を降りると、すぐの所にテーブルがあって、スタッフが座っている。
「チケット。1人2000円になりまーす。ドリンク代は500円でーす。」
「ここで、チケ代とドリンク代を払うんだよ。」
「わかりました。師匠。」
「・・・師匠って・・・。」
「アヤさんは、スタドリの推し活の先生だから、師匠です!」
「まあ、いいや。おじさんに師匠って言われるのも悪くない。」チケット代とドリンク代を払って、ドリンクコインを受け取る。「物販はこちらでーす!」
「ケンジくん、グッズ何か買う?」
「アヤ師匠のおすすめは?」
「ソウダナー。一推しのメンバーのサイリウムとか?」
「サイリウム。それにします。」
「ケンジくんの推しは誰なの?」
「・・・ユウくんです。」
「私と同じだ―。ユウくんの色は、赤だね。」
「じゃあ、赤にします。」
私は、赤いサイリウムを買った。
アヤ師匠と一緒なんて、光栄だ。武器(サイリウム)を装備して、いよいよ、戦場へ。。。ライブハウスの中は、思った以上に狭い。そして、舞台が近い!
私は緊張で膝が震えた。
「大丈夫?ケンジくん、今日初めてだから、後ろでゆっくり観よう。」
「わかりました。師匠。」
ライブハウスの後ろには丸いテーブルがいくつかあって、そこでドリンクを飲みながら観れるらしい。
「ケンジくん、コインくれる?私、交換してくるから。何がいい?」
「じゃあ、ビールで。」
「了解!」アヤ師匠が、直々にドリンクを交換してきてくれた。
「じゃあ、ケンジくんの初ライブを祝して、乾杯!」
「か、乾杯。」
何故だか照れる。こういうのは久しぶりだ。「アヤちゃん!」
男の人の声がして、自分じゃないのに思わず振り返ってしまった。
「マサさん!ミドリちゃんも!」
男性の方は、私と同年代だろうか?いかにも中年のおっさんという感じだ。禿げてはいないが、頭頂部が結構薄い。私と同じくスーツ姿だから、どこかの会社員だろう。
女性の方は、アヤ先輩よりも少し上か。ショートカットで落ち着いた雰囲気の女性だ。服装からして会社帰りのOLさんだろう。
「久しぶり!そちらは?」
マサさんと呼ばれた男性が、私の方を見て話しかける。
「こちらは、ケンジくん。今日が初ライブ。」
「初めてかー。私が初ライブの時もアヤちゃんが声かけてくれたんだよね。」
ミドリちゃんと呼ばれた女性が笑いながら話す。意外にフレンドリーな人だ。
「そうだったねー。懐かしい。」
「3人はお知り合いなんですか?」
私は、緊張しながら聞いた。
「そう。マサさんとミドリちゃん、私の3人でスタドリのライブとかイベントによく行くんだ。今日からは、ケンジくんも仲間だね。良いでしょ?2人とも。」
「もちろん!」「もちのろん!」
2人に受け入れてもらえたのは嬉しい。私に友人が一遍に3人も出来た。スタドリとの出会いに感謝しかない。
「よし、決まり。じゃあ、改めて、4人の出会いを祝して乾杯!」
「かんぱーい!」「かんぺー!」「乾杯!」なんだか、今日は良い日だ。と、会場の音楽が徐々に大きくなってきた。
「ケンジくん、いよいよ始まるよ。サイリウム準備!」
「はい。師匠。」
ミドリさんが笑う。
「師匠って何?」
「アヤさんは、スタドリの先生なんです。だから師匠。」
「変なの。」
笑われた。。。でも、師匠は師匠だ。ワー!
キャー!地響きのような歓声が起きる。
舞台袖からスタドリのメンバーが現れた。「ユウくーん!!」
アヤ師匠とマサさんが同時に叫ぶ。・・・しまった!遅れをとったっ!!「スタドリー!」
ミドリさんはグループ名を叫ぶ。誰推しとかではなく、グループ全員が推しなのか。舞台上には、スタドリの5人が揃っていた。
ま、眩しい!眩しすぎるっ!!
やはり、センターのユウくんが一番光っている。「こんばんはー!僕達、Star☆Dreamでーす!!」更に歓声が大きくなる。こんなに近くでスタドリが観れるなんて。彼らの息遣いさえ感じられそうで、気を失いそうになる。「今日は、僕らのライブに来てくれて、ありがとう!」
「一生懸命、歌います。最後までよろしく!」
「それでは、1曲目聴いてください。僕らの大事な曲です。」
「DREAM STAR」会場が暗転し、曲のイントロが始まる。
この曲は・・・初めてテレビで聴いた曲だ。私は、無心でステージ上の彼らを見ていた。
一瞬たりとも目を離したくない。彼らを目に焼き付けたい。
彼らは、まさにアイドル(偶像)だった。素晴らしい。なんて、素晴らしいんだ。
彼らの声が、踊りが、歌が、私に生きている実感を与えてくれる。
こんなアラフィフのおじさんにも夢を与えてくれる。
彼らに出会えて良かった。本当にそう思った。