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第2章〜H地区のある場所について〜⑪

ー/ー



 約12万平方メートルにもおよぶ広さの満地谷墓地(まんちだにぼち)は、9200以上もの区画に墓石が並んでいるという。その広大と言っても良い面積は、同じ市内にある()()()()()()()()()()()()()3個分にも匹敵する広さだそうだ。

 その広い墓地の北側にある黒田家の墓は、春先に帰国した母親とともに墓参りに来て以来、足を運んでいなかったため、夏草や雑草が目立ち始めていた。

(もう少し頻繁に墓参りに来なきゃいけないよな)

 これまで、そんなことはあまり考えてこなかったのだが、幼なじみと言って良いクラスメートの女子生徒が、わざわざ時間を作って訪ねてきてくれたこともあり、父親をはじめ、ご先祖様に顔を見せる機会を増やすようにしようという気持ちがわいてくる。

 バケツに入れた水を柄杓(ひしゃく)ですくって墓石に掛けて簡単なそうじと草むしりを行ったあと、線香に火をつけて、墓の前で手を合わせる。
 オレは、正式な墓参りの手順や作法というものを知らないのだが、これが、小学生の頃から母親と行っていた我が家の墓参りの方法だった。

 膝を折って腰を落とし、爪先立ちを行う武道の「蹲踞(そんきょ)の姿勢」で、手を合わせたあと、立ち上がったオレに続いて、シロも墓前にしゃがみ込んで手を合わせた。

「お父さん、ご挨拶が遅れてしまってゴメンナサイ。小学生の頃に竜司クンと知り合った白草四葉です。今夜は、お墓の近くで動画の配信をさせてもらうんですけど……なるべく、騒がしくしないようにしようと思うので、竜司クンとわたし達を見守ってください」

 シロは、小さな声で、そんなことを語っていた。

「まだ暑い時間帯なのに、わざわざ、ありがとうな」

 立ち上がった彼女に、あらためてお礼を言うと、シロは、

「ううん……いつか、クロのお父さんにご挨拶したいなと思ってたから……こちらこそ、連れてきてくれてありがとう」

と言って、穏やかに微笑んだ。

「父親が亡くなってから、もう七年近くになるんだよな……ということは、シロと出会ってからも、もう、それくらい経つのか……」

 今年、クラスメートになった彼女と出会ったのは、父親が亡くなった翌年の春だった。自分にとって印象的な出来事が起こった前後のことは、よく覚えているものだ。

 オレが、さっきの吉田さんの話しの中で、少女像が建てられた年代についての記憶を信頼が置ける、と判断したのも、ご老人が、「ブレーブスが初めて優勝した年」と具体的な事例とともに覚えていたからだ(墓参りまでの移動の間に検索してみたら、話しのとおり、ブレーブスの初優勝は、昭和四十二年だった)。
 
 思い出を懐かしむように語ったオレの言葉に対して、シロも感慨深げに返答する。

「そうだね、ずっと昔のことのような……まだ、つい最近のことのような……なんだか、不思議な気分」

「だな……オレも、シロとの出会いについては、同じように感じてる」

 彼女の言葉に賛同するようにつぶやくと、シロは、「そうなの?」と問いかけながら、フフッと微笑む。
 そして、

「実は、この場所を調べている時に、クロと初めて会った日のことを思い出したんだ。この場所って、わたし達が出会った新池のすぐ近くでもあるんだよね?」

「あぁ、そうだな。この墓地の東側にあるスーパーが、シロと最初に会った日に駄菓子や飲み物を買ったスーパーだ。覚えてるか?」

 オレが、彼女の記憶力を試すようにたずねると、シロは当然だ、と言うように笑みを浮かべながら、

「当ったり前じゃない! なんなら、スーパーで買ったモノも覚えてるよ。だって、クロがわたしに初めてくれたプレゼントだもん」

と断言した。

 母親からもらっていた昼食代を節約して奢ったモノをプレゼントだと認識したことはなかったのだが、彼女自身は、そう受け止めていたのか、という意外な事実に苦笑する。

 そんなオレの表情を見つめながら、シロは、

「クロが、この辺りのことに詳しかったのも、もしかしたら、お父さんのお墓参りに来ていたからかなって考えたら……クロのお父さんにキチンとご挨拶しておかないといけないなって思ったの。『わたし達の出会いを素敵なモノにしてくれて、ありがとうございました』ってね」
 
と言って、何故かクスクスと悪戯っぽく微笑む。

 彼女の言葉と表情をどう受け止めていいのかわからないオレは、「あ、あぁ、そうか……」と、曖昧な表情で言葉を返す。
 すると、オレのようすをうかがっていた彼女は、フッと笑みを浮かべたあと、

「でも、何度もお墓参りに来てるのに、マリちゃんの銅像のことは知らなかったんだね?」

と、可笑しそうにクスリと笑いながら問いかけてきた。

「あぁ〜、それはな……小さい頃は、父親が亡くなったことを受け入れたくなくて、墓参りに来たときも、なるべく、早くここを立ち去ろうとしてたんだよ。その頃は、墓参りのあとのスーパーでの買い物が唯一の楽しみだったんだ。それでなくても、この墓地は野球場3個分のひろさがあるんだ。自分の家の墓から離れた場所のことなんて、わかんねえよ」

 言い訳がましい理由にはなるが、小学生の頃のことを思い出しながら答えると、シロは、「ふ〜ん、そっか……」とつぶやいたあと、

「やっぱり、初めて会った日に、あのスーパーでお買い物が出来たのは、クロのお父さんのおかげだったんだね」

と言って、また穏やかな笑みを返してくれた。


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 約12万平方メートルにもおよぶ広さの|満地谷墓地《まんちだにぼち》は、9200以上もの区画に墓石が並んでいるという。その広大と言っても良い面積は、同じ市内にある|日《・》|本《・》|で《・》|も《・》|っ《・》|と《・》|も《・》|有《・》|名《・》|な《・》|野《・》|球《・》|場《・》3個分にも匹敵する広さだそうだ。
 その広い墓地の北側にある黒田家の墓は、春先に帰国した母親とともに墓参りに来て以来、足を運んでいなかったため、夏草や雑草が目立ち始めていた。
(もう少し頻繁に墓参りに来なきゃいけないよな)
 これまで、そんなことはあまり考えてこなかったのだが、幼なじみと言って良いクラスメートの女子生徒が、わざわざ時間を作って訪ねてきてくれたこともあり、父親をはじめ、ご先祖様に顔を見せる機会を増やすようにしようという気持ちがわいてくる。
 バケツに入れた水を|柄杓《ひしゃく》ですくって墓石に掛けて簡単なそうじと草むしりを行ったあと、線香に火をつけて、墓の前で手を合わせる。
 オレは、正式な墓参りの手順や作法というものを知らないのだが、これが、小学生の頃から母親と行っていた我が家の墓参りの方法だった。
 膝を折って腰を落とし、爪先立ちを行う武道の「|蹲踞《そんきょ》の姿勢」で、手を合わせたあと、立ち上がったオレに続いて、シロも墓前にしゃがみ込んで手を合わせた。
「お父さん、ご挨拶が遅れてしまってゴメンナサイ。小学生の頃に竜司クンと知り合った白草四葉です。今夜は、お墓の近くで動画の配信をさせてもらうんですけど……なるべく、騒がしくしないようにしようと思うので、竜司クンとわたし達を見守ってください」
 シロは、小さな声で、そんなことを語っていた。
「まだ暑い時間帯なのに、わざわざ、ありがとうな」
 立ち上がった彼女に、あらためてお礼を言うと、シロは、
「ううん……いつか、クロのお父さんにご挨拶したいなと思ってたから……こちらこそ、連れてきてくれてありがとう」
と言って、穏やかに微笑んだ。
「父親が亡くなってから、もう七年近くになるんだよな……ということは、シロと出会ってからも、もう、それくらい経つのか……」
 今年、クラスメートになった彼女と出会ったのは、父親が亡くなった翌年の春だった。自分にとって印象的な出来事が起こった前後のことは、よく覚えているものだ。
 オレが、さっきの吉田さんの話しの中で、少女像が建てられた年代についての記憶を信頼が置ける、と判断したのも、ご老人が、「ブレーブスが初めて優勝した年」と具体的な事例とともに覚えていたからだ(墓参りまでの移動の間に検索してみたら、話しのとおり、ブレーブスの初優勝は、昭和四十二年だった)。
 思い出を懐かしむように語ったオレの言葉に対して、シロも感慨深げに返答する。
「そうだね、ずっと昔のことのような……まだ、つい最近のことのような……なんだか、不思議な気分」
「だな……オレも、シロとの出会いについては、同じように感じてる」
 彼女の言葉に賛同するようにつぶやくと、シロは、「そうなの?」と問いかけながら、フフッと微笑む。
 そして、
「実は、この場所を調べている時に、クロと初めて会った日のことを思い出したんだ。この場所って、わたし達が出会った新池のすぐ近くでもあるんだよね?」
「あぁ、そうだな。この墓地の東側にあるスーパーが、シロと最初に会った日に駄菓子や飲み物を買ったスーパーだ。覚えてるか?」
 オレが、彼女の記憶力を試すようにたずねると、シロは当然だ、と言うように笑みを浮かべながら、
「当ったり前じゃない! なんなら、スーパーで買ったモノも覚えてるよ。だって、クロがわたしに初めてくれたプレゼントだもん」
と断言した。
 母親からもらっていた昼食代を節約して奢ったモノをプレゼントだと認識したことはなかったのだが、彼女自身は、そう受け止めていたのか、という意外な事実に苦笑する。
 そんなオレの表情を見つめながら、シロは、
「クロが、この辺りのことに詳しかったのも、もしかしたら、お父さんのお墓参りに来ていたからかなって考えたら……クロのお父さんにキチンとご挨拶しておかないといけないなって思ったの。『わたし達の出会いを素敵なモノにしてくれて、ありがとうございました』ってね」
と言って、何故かクスクスと悪戯っぽく微笑む。
 彼女の言葉と表情をどう受け止めていいのかわからないオレは、「あ、あぁ、そうか……」と、曖昧な表情で言葉を返す。
 すると、オレのようすをうかがっていた彼女は、フッと笑みを浮かべたあと、
「でも、何度もお墓参りに来てるのに、マリちゃんの銅像のことは知らなかったんだね?」
と、可笑しそうにクスリと笑いながら問いかけてきた。
「あぁ〜、それはな……小さい頃は、父親が亡くなったことを受け入れたくなくて、墓参りに来たときも、なるべく、早くここを立ち去ろうとしてたんだよ。その頃は、墓参りのあとのスーパーでの買い物が唯一の楽しみだったんだ。それでなくても、この墓地は野球場3個分のひろさがあるんだ。自分の家の墓から離れた場所のことなんて、わかんねえよ」
 言い訳がましい理由にはなるが、小学生の頃のことを思い出しながら答えると、シロは、「ふ〜ん、そっか……」とつぶやいたあと、
「やっぱり、初めて会った日に、あのスーパーでお買い物が出来たのは、クロのお父さんのおかげだったんだね」
と言って、また穏やかな笑みを返してくれた。