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#5 聖女認定 (ラウル視点)

ー/ー



 テルサが手を放すと、鑑定水晶から放たれていたピンク色の光も収まった。


 静まり返っていた。
 誰もが、今起きたことが信じられず呆然としていた。


「え~と……これで良かったのでしょうか?」


 魔力のことなど何一つ知らない彼女が、そんな我々の様子を見て首を傾げる。


「す、素晴らしい……! これはまさに、三百年前の初代『聖女』様と同じ御力! 太陽と見紛(みまご)うほどの光の魔力! あなた様こそ、サウル神の加護と祝福を(たまわ)りし当代の『聖女』に違いありませぬ!」
「はぁ……」


 感極まったラモン教皇が叫びながら、テルサの手を取る。
 熱気を帯びた教皇の様子に、彼女も呆気に取られた様子だった。


「教皇猊下、興奮されるのは分かりますが……」
「おお、そうであった。失礼」


 サファース枢機卿に(たしな)められ、落ち着いた教皇が一旦下がる。
 テルサの鑑定はこれにて終了だ。


「では次はカグヤ様、お願い致します」
「は、はい……」


 魔力は遺伝する傾向が強く、私が先天的に優れた魔才を持って生まれたのも、父ゼルレークがやはり強い魔力を持っていたからであり、エーゲリッヒの祖先たちから連綿と受け継いできたものだ。
 故に騎士や魔術師を多く輩出する家系では、婚姻に際して家柄や血統よりも魔力を重視することも珍しくない。


 共に『招聖の儀』で召喚され、かつ双子なのだから、カグヤにもテルサと同等の力が宿っていても何ら不思議ではなく、むしろその可能性は大だ。
 姉妹揃って『聖女』となれば、今回の『儀式』は三百年前を超える期待以上の成果となる。


 今度は不安のムードは無く、期待が場に満ちていた。
 カグヤが恐る恐る、鑑定水晶に両手で触れた。


 全員が、先程の強烈な光が来ると思って身構え──


「……………あ、あれ……?」


 ──何も起こらなかった。


 シーン、という数秒の沈黙が続いた後、カグヤが申し訳無さそうにサファース枢機卿の方を窺う。


「あ、あの……私、何か間違えてしまったのでしょうか……?」
「いえ……その……もう一度、触れて頂けますかな?」


 言われ、カグヤは離した手をもう一度水晶に当てる。
 次こそは、と皆が再び身構えたが、依然何も起こらない。


「これは……鑑定水晶の故障か?」


 私が発した独り言に、隣のザッキスがフンと鼻を鳴らして反応した。


「おいおいラウル君、頭は大丈夫かい? あれは栄耀教会が所有する中でも最高性能の品であり、今日の『儀式』に備えて、整備や点検は入念に行われていた。つまらない不具合が生じるなんて有り得ないんだよ」
「確かに普通ならザッキス君の言う通りだが……先程のテルサ様が普通ではなかった訳だからな。水晶を取り換えて再度試してみるべきだろう」


 速やかに聖魔術師たちが鑑定水晶の点検を行い、その間に同型の予備と交換、再度鑑定を行わせた。


 しかし、予備の鑑定水晶でも反応は変わらず。
 点検を終えた最初の水晶を再使用しても、カグヤの魔力は皆無、テルサの魔力は絶大な光属性、という反応しか見られなかった。


「やはり、鑑定水晶の異常ではなかったようだね、ラウル君」
「では原因はカグヤ様の方にある、ということですか」


 鑑定水晶がマッチ棒の火程度しか光らない、すなわち魔力が雀の涙程度、という鑑定結果なら学術院時代でも何度か見てきた。
 しかし、水晶が微塵も光らず、魔力が皆無(ゼロ)と判定、というのは初めてであり、明らかに異常だ。


「すみません、質問しても宜しいでしょうか?」


 テルサが小さく手を挙げる。


「魔力というものは、その……どういうものなのでしょうか? 私が居た世界には、そうしたものが無かったので、よく分からないのですが……」


 初代『聖女』に関する記述にも、彼女が居た世界には魔素(マナ)が存在せず、したがって魔力や魔法も、単なる空想上のものとして扱われていたとあった。


「そうでしたな。魔力とはこの世界の全生物が、体内に取り込んだ魔素(マナ)を糧に生成するエネルギーです。道端の虫一匹、雑草一本でさえ微量ながら魔力を帯びており、魔法が使えるほどの魔力を持つ人間は『魔才持ち』と呼ばれます。今この場ではラモン教皇猊下を始め、このサファース、ゼルレーク聖騎士団長、隣に居るラウル隊員とザッキス隊員も皆、この『魔才持ち』に該当します」


 サファース枢機卿が学術院の魔法教師のようにスラスラと説明すると、テルサは頷き、


「程度の差はあれど、魔力はこの世界の生き物全てが共通して持っている。つまり鑑定水晶に触れさえすれば、例え微量であろうと必ずその魔力に応じた反応を示す、ということでしょうか?」
「仰る通りです。故に水晶に触れているのに魔力の反応が表れない、などということは有り得ないのですが……」


 枢機卿が言葉を区切り、戸惑うカグヤをチラリと見遣る。
 生物なら持っていて当然の魔力を持たないというのは、例えるなら、肉体は動いて意識もはっきりしているのに、脈拍も呼吸も体温も無い、生きているのに死んでいる、というくらいの矛盾だ。


「ま、まあ、お二人は異世界の方。初代『聖女』様がそうであったように、我々の常識から逸脱していても不思議は無いのかも知れませんな……」


 ラモン教皇もそう結論付けるしか無いようだった。


 絶大な魔力を有するテルサと、全く魔力を持たないカグヤ。
 同じ血を持つ双子だというのに、この姉妹は雰囲気も魔力も対照的だ。


 そう──まるで太陽と月のように。


 そのカグヤだが、何とも言えないような顔をしている。
 落ち込みや悲しみの色ではなく、どう反応したらいいのか困っている、という感じだ。


 そのカグヤの妹テルサは、今のこの結果をどう受け止めているのかと思い、チラリと様子を窺う。


 ──笑っていた。


 歯を見せるはっきりとしたものではないが、ほんの少しだけ口角を吊り上げて小さく笑む表情を私は見た。


 ともあれ、最も肝心な点は判明した訳で、我々としては充分だ。


 光の極大魔力を宿す異世界の乙女、テルサ・アケチ。
 彼女こそが、この国を厄災から救う待望の『聖女』に違い無い。


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次のエピソードへ進む #6 月夜の刺客 (カグヤ視点)


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 テルサが手を放すと、鑑定水晶から放たれていたピンク色の光も収まった。
 静まり返っていた。
 誰もが、今起きたことが信じられず呆然としていた。
「え~と……これで良かったのでしょうか?」
 魔力のことなど何一つ知らない彼女が、そんな我々の様子を見て首を傾げる。
「す、素晴らしい……! これはまさに、三百年前の初代『聖女』様と同じ御力! 太陽と|見紛《みまご》うほどの光の魔力! あなた様こそ、サウル神の加護と祝福を|賜《たまわ》りし当代の『聖女』に違いありませぬ!」
「はぁ……」
 感極まったラモン教皇が叫びながら、テルサの手を取る。
 熱気を帯びた教皇の様子に、彼女も呆気に取られた様子だった。
「教皇猊下、興奮されるのは分かりますが……」
「おお、そうであった。失礼」
 サファース枢機卿に|窘《たしな》められ、落ち着いた教皇が一旦下がる。
 テルサの鑑定はこれにて終了だ。
「では次はカグヤ様、お願い致します」
「は、はい……」
 魔力は遺伝する傾向が強く、私が先天的に優れた魔才を持って生まれたのも、父ゼルレークがやはり強い魔力を持っていたからであり、エーゲリッヒの祖先たちから連綿と受け継いできたものだ。
 故に騎士や魔術師を多く輩出する家系では、婚姻に際して家柄や血統よりも魔力を重視することも珍しくない。
 共に『招聖の儀』で召喚され、かつ双子なのだから、カグヤにもテルサと同等の力が宿っていても何ら不思議ではなく、むしろその可能性は大だ。
 姉妹揃って『聖女』となれば、今回の『儀式』は三百年前を超える期待以上の成果となる。
 今度は不安のムードは無く、期待が場に満ちていた。
 カグヤが恐る恐る、鑑定水晶に両手で触れた。
 全員が、先程の強烈な光が来ると思って身構え──
「……………あ、あれ……?」
 ──何も起こらなかった。
 シーン、という数秒の沈黙が続いた後、カグヤが申し訳無さそうにサファース枢機卿の方を窺う。
「あ、あの……私、何か間違えてしまったのでしょうか……?」
「いえ……その……もう一度、触れて頂けますかな?」
 言われ、カグヤは離した手をもう一度水晶に当てる。
 次こそは、と皆が再び身構えたが、依然何も起こらない。
「これは……鑑定水晶の故障か?」
 私が発した独り言に、隣のザッキスがフンと鼻を鳴らして反応した。
「おいおいラウル君、頭は大丈夫かい? あれは栄耀教会が所有する中でも最高性能の品であり、今日の『儀式』に備えて、整備や点検は入念に行われていた。つまらない不具合が生じるなんて有り得ないんだよ」
「確かに普通ならザッキス君の言う通りだが……先程のテルサ様が普通ではなかった訳だからな。水晶を取り換えて再度試してみるべきだろう」
 速やかに聖魔術師たちが鑑定水晶の点検を行い、その間に同型の予備と交換、再度鑑定を行わせた。
 しかし、予備の鑑定水晶でも反応は変わらず。
 点検を終えた最初の水晶を再使用しても、カグヤの魔力は皆無、テルサの魔力は絶大な光属性、という反応しか見られなかった。
「やはり、鑑定水晶の異常ではなかったようだね、ラウル君」
「では原因はカグヤ様の方にある、ということですか」
 鑑定水晶がマッチ棒の火程度しか光らない、すなわち魔力が雀の涙程度、という鑑定結果なら学術院時代でも何度か見てきた。
 しかし、水晶が微塵も光らず、魔力が|皆無《ゼロ》と判定、というのは初めてであり、明らかに異常だ。
「すみません、質問しても宜しいでしょうか?」
 テルサが小さく手を挙げる。
「魔力というものは、その……どういうものなのでしょうか? 私が居た世界には、そうしたものが無かったので、よく分からないのですが……」
 初代『聖女』に関する記述にも、彼女が居た世界には|魔素《マナ》が存在せず、したがって魔力や魔法も、単なる空想上のものとして扱われていたとあった。
「そうでしたな。魔力とはこの世界の全生物が、体内に取り込んだ|魔素《マナ》を糧に生成するエネルギーです。道端の虫一匹、雑草一本でさえ微量ながら魔力を帯びており、魔法が使えるほどの魔力を持つ人間は『魔才持ち』と呼ばれます。今この場ではラモン教皇猊下を始め、このサファース、ゼルレーク聖騎士団長、隣に居るラウル隊員とザッキス隊員も皆、この『魔才持ち』に該当します」
 サファース枢機卿が学術院の魔法教師のようにスラスラと説明すると、テルサは頷き、
「程度の差はあれど、魔力はこの世界の生き物全てが共通して持っている。つまり鑑定水晶に触れさえすれば、例え微量であろうと必ずその魔力に応じた反応を示す、ということでしょうか?」
「仰る通りです。故に水晶に触れているのに魔力の反応が表れない、などということは有り得ないのですが……」
 枢機卿が言葉を区切り、戸惑うカグヤをチラリと見遣る。
 生物なら持っていて当然の魔力を持たないというのは、例えるなら、肉体は動いて意識もはっきりしているのに、脈拍も呼吸も体温も無い、生きているのに死んでいる、というくらいの矛盾だ。
「ま、まあ、お二人は異世界の方。初代『聖女』様がそうであったように、我々の常識から逸脱していても不思議は無いのかも知れませんな……」
 ラモン教皇もそう結論付けるしか無いようだった。
 絶大な魔力を有するテルサと、全く魔力を持たないカグヤ。
 同じ血を持つ双子だというのに、この姉妹は雰囲気も魔力も対照的だ。
 そう──まるで太陽と月のように。
 そのカグヤだが、何とも言えないような顔をしている。
 落ち込みや悲しみの色ではなく、どう反応したらいいのか困っている、という感じだ。
 そのカグヤの妹テルサは、今のこの結果をどう受け止めているのかと思い、チラリと様子を窺う。
 ──笑っていた。
 歯を見せるはっきりとしたものではないが、ほんの少しだけ口角を吊り上げて小さく笑む表情を私は見た。
 ともあれ、最も肝心な点は判明した訳で、我々としては充分だ。
 光の極大魔力を宿す異世界の乙女、テルサ・アケチ。
 彼女こそが、この国を厄災から救う待望の『聖女』に違い無い。