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第1章〜広報部のある企画について〜⑨

ー/ー



 7月6日(水)

「だいぶ、企画の内容は固まってきたみたいね? アイデアがまとまったら、早速、専門家を訪ねてみる?」

 鳳花(ほうか)先輩は、初回のプレゼンテーションで、具体的な企画内容が決まりつつあると判断したのか、企画会議が終わると、そんあ提案をしてくれた。
 彼女の言葉にしたがって、オレたちは、()()()()()()()()として紹介された古美術店の店主さんの元を訪れることにした。

 先輩が紹介してくれた亜慈夢(あじむ)古美術堂は、花見の名所として知られる祝川(しゅくがわ)のほとりに店を構えている。

 放課後、今回の企画立案者の壮馬、情報提供者として頼りになる文芸部の部長である天竹葵を同伴した三人でこの店に到着すると、時刻は午後五時を回ろうとしていた。

「お邪魔します」

 ガラスがはめられた木製の引き戸を開け、店内に入ると、古美術店特有の防カビ剤とともに、白檀(びゃくだん)の香木のニオイが鼻をついた。

「いらっしゃい。待っていたわ、芦宮(あしのみや)高校の生徒さんね? 店主の安心院妖子(あじむようこ)よ」

 古美術堂の主は、そう言って、オレに名刺を手渡してくれた。

「広報部の花金部長の紹介で来ました。芦宮(あしのみや)高校の黒田です。今日は、クラスメートの黄瀬と天竹と一緒にお話しを聞かせてもらおうとと思います。なるべく、お仕事の邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします」

 名刺を受け取りながら、客商売を営む相手に気を遣って申し出ると、

「あら……お気遣いありがとう。でも、この時間は、人払いをしているから、気にしなくてイイわ」

和服姿の店主は、そう言って微笑む。
 ホームページには、店舗の紹介のみなのでわからなかったが、亜慈夢(あじむ)古美術堂の女性店主は、和製ホラーかファンタジー漫画から、そのまま抜け出してきたかのような妖しく艶やかな雰囲気を漂わせていた。

 香木の香りも相まって、意識がボヤけそうになるのをこらえながら店内を見渡すと、古めかしい和風の装飾が目立つ店内には不釣り合いなPCの液晶モニターや、西洋のライフル銃とともに、壁に掛けられた色紙が目に止まる。

 胎児よ
 胎児よ
 何故(おど)
 母親の心がわかって
 おそろしいのか

 と文字が書かれている

「『ドグラ・マグラ』……」

 オレと同じく、色紙を目にしたのか、天竹葵つぶやくように口にした。
 すると、彼女の言葉に反応した店主が、興味深そうに、いっそう、妖しく微笑む。

「あら、若いのに、良く知ってるわね? この色紙に反応したのは、今年に入って二人目かしら? 花金(はながね)さん宅のお嬢さんも、なかなか見どころがある後輩を紹介してくれるじゃない」

「知っているのか天竹?」

 店主の言葉からも、色紙に反応を示したクラスメートのつぶやきが正鵠を射ていると判断したオレは、格闘マンガの解説役にたずねるように問いかけた。

「はい……あの色紙に書かれている詩は、夭逝(ようせい)した戦前の作家・夢野久作の代表作である『ドグラ・マグラ』の巻頭歌です。その歌の意味するところは、諸説あるようですけど……」

 壮馬がプレゼンを行ったときも、()()()()()()()()の関係をホラー小説を例にとって解説してくれたように、さすがに、文芸部の代表を務めているだけあって、天竹は文学の方面に明るい。

 さらに、店主の安心院(あじむ)さんにも気に入られたようでもあるし、やはり、彼女に同行してもらって良かった、と感じる。
 
 そんなことを考えていると、古美術店の店主が悠然と微笑みながらたずねてきた。

「それで、今日は、どんなことを話せば良いのかしら? 花金家のお嬢さんからは、『後輩が、近隣の心霊スポットを巡るから注意事項とアドバイスを伝えてほしい』と聞いているんだけど」

 女性店主の言葉に反応した壮馬が、前日にまとめた資料を手にしながら応じる。

「はい、もうすぐ夏休みなので、市内を中心に合計四か所のホラースポットで撮影を行おうと思っています。安心院(あじむ)さん古美術だけなく心霊現象に詳しいと聞いているので、夜間に撮影を行うときの心構えや準備しておくもの、あと、撮影候補地で起きた怪現象について話していただけると助かります」
 
 壮馬が作った資料には、プレゼン会議のときに上がったホラースポットの候補地が記されている。

 ・武甲(むこ)川鉄橋付近の三途の踏切
 ・日之池公園のテッちゃん
 ・満地谷(まんちだに)墓地の火垂るの墓の少女像
 ・五ガ池の二川ピクニックセンター
 ・()()()()()の伝説が残る柔琳寺(じゅうりんじ)

 候補地と簡単な説明書きが記載された資料に目を通した店主は、

「あらあら、どれも、いわく付きの場所ね……」

と、興味深そうにつぶやいたあと、ふたたび妖しげな笑みを浮かべる。

「これらの場所で語られる逸話や、夜間の撮影時に注意すべきことがあれば、お話しをうかがえないでしょうか?」

 初対面の相手にも物怖じせず語りかける親友の姿を目にしながら、オレは、

(壮馬もずい分と積極的になってきたな……)

と、その成長ぶりに感心していた。

 少し前までの壮馬は、こうした対外交渉をオレに任せきりにしていたのだが、学内のプロモーション・ビデオ制作を通じて、自分たちのチームの協力者を募るために他のクラブと交渉を重ねたことが、経験として生かされているようだ。

 まあ、もともと頭の回転は早い方なので、対人関係で物怖じすることがなければ、この程度のことは、容易にこなせていたのだろうが……。

 そんなことを考えていると、成長著しい親友の言葉に返答するべく、女性店主が口を開いた。


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 7月6日(水)
「だいぶ、企画の内容は固まってきたみたいね? アイデアがまとまったら、早速、専門家を訪ねてみる?」
 |鳳花《ほうか》先輩は、初回のプレゼンテーションで、具体的な企画内容が決まりつつあると判断したのか、企画会議が終わると、そんあ提案をしてくれた。
 彼女の言葉にしたがって、オレたちは、|そ《・》|の《・》|方《・》|面《・》|の《・》|専《・》|門《・》|家《・》として紹介された古美術店の店主さんの元を訪れることにした。
 先輩が紹介してくれた|亜慈夢《あじむ》古美術堂は、花見の名所として知られる|祝川《しゅくがわ》のほとりに店を構えている。
 放課後、今回の企画立案者の壮馬、情報提供者として頼りになる文芸部の部長である天竹葵を同伴した三人でこの店に到着すると、時刻は午後五時を回ろうとしていた。
「お邪魔します」
 ガラスがはめられた木製の引き戸を開け、店内に入ると、古美術店特有の防カビ剤とともに、|白檀《びゃくだん》の香木のニオイが鼻をついた。
「いらっしゃい。待っていたわ、|芦宮《あしのみや》高校の生徒さんね? 店主の|安心院妖子《あじむようこ》よ」
 古美術堂の主は、そう言って、オレに名刺を手渡してくれた。
「広報部の花金部長の紹介で来ました。|芦宮《あしのみや》高校の黒田です。今日は、クラスメートの黄瀬と天竹と一緒にお話しを聞かせてもらおうとと思います。なるべく、お仕事の邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いします」
 名刺を受け取りながら、客商売を営む相手に気を遣って申し出ると、
「あら……お気遣いありがとう。でも、この時間は、人払いをしているから、気にしなくてイイわ」
和服姿の店主は、そう言って微笑む。
 ホームページには、店舗の紹介のみなのでわからなかったが、|亜慈夢《あじむ》古美術堂の女性店主は、和製ホラーかファンタジー漫画から、そのまま抜け出してきたかのような妖しく艶やかな雰囲気を漂わせていた。
 香木の香りも相まって、意識がボヤけそうになるのをこらえながら店内を見渡すと、古めかしい和風の装飾が目立つ店内には不釣り合いなPCの液晶モニターや、西洋のライフル銃とともに、壁に掛けられた色紙が目に止まる。
 胎児よ
 胎児よ
 何故|躍《おど》る
 母親の心がわかって
 おそろしいのか
 と文字が書かれている
「『ドグラ・マグラ』……」
 オレと同じく、色紙を目にしたのか、天竹葵つぶやくように口にした。
 すると、彼女の言葉に反応した店主が、興味深そうに、いっそう、妖しく微笑む。
「あら、若いのに、良く知ってるわね? この色紙に反応したのは、今年に入って二人目かしら? |花金《はながね》さん宅のお嬢さんも、なかなか見どころがある後輩を紹介してくれるじゃない」
「知っているのか天竹?」
 店主の言葉からも、色紙に反応を示したクラスメートのつぶやきが正鵠を射ていると判断したオレは、格闘マンガの解説役にたずねるように問いかけた。
「はい……あの色紙に書かれている詩は、|夭逝《ようせい》した戦前の作家・夢野久作の代表作である『ドグラ・マグラ』の巻頭歌です。その歌の意味するところは、諸説あるようですけど……」
 壮馬がプレゼンを行ったときも、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》と|く《・》|だ《・》|ん《・》の関係をホラー小説を例にとって解説してくれたように、さすがに、文芸部の代表を務めているだけあって、天竹は文学の方面に明るい。
 さらに、店主の|安心院《あじむ》さんにも気に入られたようでもあるし、やはり、彼女に同行してもらって良かった、と感じる。
 そんなことを考えていると、古美術店の店主が悠然と微笑みながらたずねてきた。
「それで、今日は、どんなことを話せば良いのかしら? 花金家のお嬢さんからは、『後輩が、近隣の心霊スポットを巡るから注意事項とアドバイスを伝えてほしい』と聞いているんだけど」
 女性店主の言葉に反応した壮馬が、前日にまとめた資料を手にしながら応じる。
「はい、もうすぐ夏休みなので、市内を中心に合計四か所のホラースポットで撮影を行おうと思っています。|安心院《あじむ》さん古美術だけなく心霊現象に詳しいと聞いているので、夜間に撮影を行うときの心構えや準備しておくもの、あと、撮影候補地で起きた怪現象について話していただけると助かります」
 壮馬が作った資料には、プレゼン会議のときに上がったホラースポットの候補地が記されている。
 ・|武甲《むこ》川鉄橋付近の三途の踏切
 ・日之池公園のテッちゃん
 ・|満地谷《まんちだに》墓地の火垂るの墓の少女像
 ・五ガ池の二川ピクニックセンター
 ・|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》の伝説が残る|柔琳寺《じゅうりんじ》
 候補地と簡単な説明書きが記載された資料に目を通した店主は、
「あらあら、どれも、いわく付きの場所ね……」
と、興味深そうにつぶやいたあと、ふたたび妖しげな笑みを浮かべる。
「これらの場所で語られる逸話や、夜間の撮影時に注意すべきことがあれば、お話しをうかがえないでしょうか?」
 初対面の相手にも物怖じせず語りかける親友の姿を目にしながら、オレは、
(壮馬もずい分と積極的になってきたな……)
と、その成長ぶりに感心していた。
 少し前までの壮馬は、こうした対外交渉をオレに任せきりにしていたのだが、学内のプロモーション・ビデオ制作を通じて、自分たちのチームの協力者を募るために他のクラブと交渉を重ねたことが、経験として生かされているようだ。
 まあ、もともと頭の回転は早い方なので、対人関係で物怖じすることがなければ、この程度のことは、容易にこなせていたのだろうが……。
 そんなことを考えていると、成長著しい親友の言葉に返答するべく、女性店主が口を開いた。