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第1章〜広報部のある企画について〜⑧

ー/ー



「あらためて聞くと、ヤバすぎだなピクニックセンター……」

 放送室に流れる重い空気に耐えられなくなったオレは思わず、そう口にした。
 ピクニックというのどかなフレーズに相応しくない事故や事件ばかりで、話しを聞いているだけで気分が落ち込む。
 
兜山(かぶとやま)って、やっぱり、霊的な存在を呼び込みやすいんでしょうか?」

 オレの言葉に、地元民である桃華が同調するようにつぶやいた。
 
 一方、今回の企画の発案者である壮馬は、平然とした表情で、「う〜ん」と、うなったあと、

「たしかに、創作の必要もないくらいエピソード満載なのは、ありがたいけど……さっきも言ったように、出来れば、今回の企画には、ホラー動画を象徴するようなアイコン的な存在が欲しいんだよね。天竹さん、ついさっき話してくれた()()()()()のことをもう少し、詳しく聞かせてくれないかな?」

と、自説を述べてから、文芸部の代表者にたずねる。
 クラスメートの言葉にうなずいた天竹は、「わかりました」と言ってから、語り始めた。

()()()()()()()()の関係が深いように語られるのは、さっきも話した小松左京の『くだんのはは』の影響が大きいと思われます。この短編は、ホラーとしての評価が高く、怪奇小説のアンソロジーや幻想小説のアンソロジーに何度も選ばれていて、とても人気が高いんです。あらすじをお話した方が良いですか?」

 文芸部の部長の穏やかな語り口に、親友は、静かに首をたてに振る。
 壮馬の無言の返答を確認した天竹は、続けて、傑作と名高い短編のストーリーを語り始めた。

「昭和20年6月。主人公の少年は、父親とともに阪神間の都市に暮らしていましたが、阪神間大空襲で家が焼けてしまいました。住む場所を失い困る少年たちでしたが、かつて家の家政婦をしていたお咲という女中が心配して駆けつけ、現在住み込みで勤めている屋敷へと案内してくれます。父親は少年を独り置いて疎開先の工場へと去って行ったが、その実は不倫相手のアパートに転がり込むためでした」

「少年が身を寄せたお屋敷は空襲の危険もなく、戦況が苦しくなっているにもかかわらず、食事に困らない。大きな屋敷にであるもかかわらず住んでいる人物は、お咲、病気にかかっているという姿を見せない女の子、その女の子の母親で屋敷の主である『おばさん』だけ。少年は毎日を生きるのに精一杯であり、違和感は覚えるものの謎を追求しようとはしませんでした」

「それでも、時おり、誰かの視線を感じたり、すすり泣く声を聞いたり、お咲が血のようなどろっとした物が盛られた皿や血膿の臭いがする汚れた包帯を持って奥の間に出入りするのを見かけたり、獣の毛が付いた血肉の塊を見たりします。おばさんも少年の母親と弟妹の疎開先が広島県と聞いて心配したり、『もっとひどい事になるわ』『もうじき何も()も終わります』というようなわけのわからない予言を語ります」

「そして、終戦の日の8月15日。予言のせいで敗戦したのだと怒った少年は、ついに奥の間に隠されていた病人を見ることとなるのですが――――――ここから先は、ぜひ、原作を読んでみてください。ちょうど、図書室にある小松左京の短編集に、『くだんのはは』が収録されていますよ」

 ビブリオバトルという書評合戦に学校代表として出場していることもあって、文芸部の天竹は、魅力的にストーリーを語る。オレ自身も、『くだんのはは』は、コミック版を読んだことがあるのだが、今の話しを聞いて、原作を読んでみたくなってきた。

 そして、どうやら、親友も同じ気持ちのようだ。
 
「ありがとう、天竹さん! 天竹さんの紹介のおかげで、『くだんのはは』を読みたくなったよ! あとで、図書室に案内してくれないかな?」

「ええ、ぜひ!」

 壮馬の言葉に、嬉しそうに応じた天竹の反応をニヤニヤと見つめながら、文芸部の二年生部員である今村なつみが、補足するように付け加える。

「ウチの部長が、さっき言ったように、()()()()()は、戦災や天災が起きたときに目撃談が発生するんだよね。三十年前に発生した大震災のときにも、()()()()()が目撃されたという報告があるみたい。震災直後、県庁所在地の周辺で自衛隊員や警備員が赤い着物を着た()()()()()を目撃したという話が広まった。注目すべきは、六匣(ろっこう)山麓での目撃情報である。『赤い着物姿で直立した牛の群れ』が、目撃されたという報告が二十件にも及んだんだって」

 あの震災のときに、そんなオカルトめいた話しがあったのか……と、興味深く話しを聞いていると、今村は続けて、おどろおどろしい口調で語る。

「さらに衝撃的なのは、瓦礫の上で犬の死骸を食べている()()()()()が目撃されたという証言もあるってことだよね。これらの目撃情報は、震災による恐怖や混乱と相まって、()()()()()の存在に現実味を帯びさせることになったんだって」

 原作は未読であるが、コミック版を読んでストーリーのオチを知っているオレは、

「おいおい、それって、『くだんのはは』の話そのものじゃないか……」

と、なかば呆れながらツッコミを入れた。

 すると、文芸部の部長がクスリと笑って返答する。

「そうですね……小松左京の作品とそっくりな目撃談が出てくる時点で、()()()()()()()()()()()()()()()()ということに矛盾を感じますよね。ただ、『くだんのはは』自体は、何度か話が出ている『火垂るの墓』と共通する雰囲気もありますし、テーマの連続性として面白いかも知れません」

 天竹葵は、そう言って、()()()()()に関する解説を締めくくった。


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「あらためて聞くと、ヤバすぎだなピクニックセンター……」
 放送室に流れる重い空気に耐えられなくなったオレは思わず、そう口にした。
 ピクニックというのどかなフレーズに相応しくない事故や事件ばかりで、話しを聞いているだけで気分が落ち込む。
「|兜山《かぶとやま》って、やっぱり、霊的な存在を呼び込みやすいんでしょうか?」
 オレの言葉に、地元民である桃華が同調するようにつぶやいた。
 一方、今回の企画の発案者である壮馬は、平然とした表情で、「う〜ん」と、うなったあと、
「たしかに、創作の必要もないくらいエピソード満載なのは、ありがたいけど……さっきも言ったように、出来れば、今回の企画には、ホラー動画を象徴するようなアイコン的な存在が欲しいんだよね。天竹さん、ついさっき話してくれた|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》のことをもう少し、詳しく聞かせてくれないかな?」
と、自説を述べてから、文芸部の代表者にたずねる。
 クラスメートの言葉にうなずいた天竹は、「わかりました」と言ってから、語り始めた。
「|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》と|く《・》|だ《・》|ん《・》の関係が深いように語られるのは、さっきも話した小松左京の『くだんのはは』の影響が大きいと思われます。この短編は、ホラーとしての評価が高く、怪奇小説のアンソロジーや幻想小説のアンソロジーに何度も選ばれていて、とても人気が高いんです。あらすじをお話した方が良いですか?」
 文芸部の部長の穏やかな語り口に、親友は、静かに首をたてに振る。
 壮馬の無言の返答を確認した天竹は、続けて、傑作と名高い短編のストーリーを語り始めた。
「昭和20年6月。主人公の少年は、父親とともに阪神間の都市に暮らしていましたが、阪神間大空襲で家が焼けてしまいました。住む場所を失い困る少年たちでしたが、かつて家の家政婦をしていたお咲という女中が心配して駆けつけ、現在住み込みで勤めている屋敷へと案内してくれます。父親は少年を独り置いて疎開先の工場へと去って行ったが、その実は不倫相手のアパートに転がり込むためでした」
「少年が身を寄せたお屋敷は空襲の危険もなく、戦況が苦しくなっているにもかかわらず、食事に困らない。大きな屋敷にであるもかかわらず住んでいる人物は、お咲、病気にかかっているという姿を見せない女の子、その女の子の母親で屋敷の主である『おばさん』だけ。少年は毎日を生きるのに精一杯であり、違和感は覚えるものの謎を追求しようとはしませんでした」
「それでも、時おり、誰かの視線を感じたり、すすり泣く声を聞いたり、お咲が血のようなどろっとした物が盛られた皿や血膿の臭いがする汚れた包帯を持って奥の間に出入りするのを見かけたり、獣の毛が付いた血肉の塊を見たりします。おばさんも少年の母親と弟妹の疎開先が広島県と聞いて心配したり、『もっとひどい事になるわ』『もうじき何も|彼《か》も終わります』というようなわけのわからない予言を語ります」
「そして、終戦の日の8月15日。予言のせいで敗戦したのだと怒った少年は、ついに奥の間に隠されていた病人を見ることとなるのですが――――――ここから先は、ぜひ、原作を読んでみてください。ちょうど、図書室にある小松左京の短編集に、『くだんのはは』が収録されていますよ」
 ビブリオバトルという書評合戦に学校代表として出場していることもあって、文芸部の天竹は、魅力的にストーリーを語る。オレ自身も、『くだんのはは』は、コミック版を読んだことがあるのだが、今の話しを聞いて、原作を読んでみたくなってきた。
 そして、どうやら、親友も同じ気持ちのようだ。
「ありがとう、天竹さん! 天竹さんの紹介のおかげで、『くだんのはは』を読みたくなったよ! あとで、図書室に案内してくれないかな?」
「ええ、ぜひ!」
 壮馬の言葉に、嬉しそうに応じた天竹の反応をニヤニヤと見つめながら、文芸部の二年生部員である今村なつみが、補足するように付け加える。
「ウチの部長が、さっき言ったように、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》は、戦災や天災が起きたときに目撃談が発生するんだよね。三十年前に発生した大震災のときにも、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》が目撃されたという報告があるみたい。震災直後、県庁所在地の周辺で自衛隊員や警備員が赤い着物を着た|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》を目撃したという話が広まった。注目すべきは、|六匣《ろっこう》山麓での目撃情報である。『赤い着物姿で直立した牛の群れ』が、目撃されたという報告が二十件にも及んだんだって」
 あの震災のときに、そんなオカルトめいた話しがあったのか……と、興味深く話しを聞いていると、今村は続けて、おどろおどろしい口調で語る。
「さらに衝撃的なのは、瓦礫の上で犬の死骸を食べている|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》が目撃されたという証言もあるってことだよね。これらの目撃情報は、震災による恐怖や混乱と相まって、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》の存在に現実味を帯びさせることになったんだって」
 原作は未読であるが、コミック版を読んでストーリーのオチを知っているオレは、
「おいおい、それって、『くだんのはは』の話そのものじゃないか……」
と、なかば呆れながらツッコミを入れた。
 すると、文芸部の部長がクスリと笑って返答する。
「そうですね……小松左京の作品とそっくりな目撃談が出てくる時点で、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》|の《・》|存《・》|在《・》|が《・》|現《・》|実《・》|味《・》|を《・》|帯《・》|び《・》|る《・》ということに矛盾を感じますよね。ただ、『くだんのはは』自体は、何度か話が出ている『火垂るの墓』と共通する雰囲気もありますし、テーマの連続性として面白いかも知れません」
 天竹葵は、そう言って、|う《・》|し《・》|お《・》|ん《・》|な《・》に関する解説を締めくくった。