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第百八十三話

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 エントランスであり、清志郎と出会うまでリラクゼーションスパを堪能していたアヴァロンエリア。そこの広間で二人が見たものは、まさに想定外であった。
 そう、誰もいなかったのだ。
 通常ならだれか待ち受けているはずなのだが、そこには誰もいない。気配を感じ取ろうにも、誰もいない。二人は、御庭番衆以外の忍者が裏切った事実も聞かされているため、その可能性も考えたが、文字通り誰も感じ取れなかったのだ。
 しかし、それがどうしようもなくおかしく思えたのだ。
「――誰もいないだなんてこと、ありますの」
「どうだろうな、正直にわかには信じがたいな」
 二人が背中を合わせながら辺りを見渡すも、本当の意味で誰もいない。どことなく眠気と空腹を感じ取りながらも、じりじりと広間の出口に手を掛け、その広間を抜け出す二人。
 しかし、扉を開けた先には多量のテーブルの上に、大皿に盛られた多量の料理と、二人用のキングサイズのベッドのみ。二人は呆気にとられたものの、その眼前の欲望を煽るそれぞれの物に興味を惹かれていく。
「――なあ、なんでこうも俺らの好物を抑えてあんだ??」
「……奇遇ですわね、本当に好物ばかりで……」
 院の好物は海鮮料理全般、透はカレー。特にちびっ子にも食べさせやすい甘口の物。それが、所狭しと立ち並んでいるのだ。しかもそれぞれが表層では到底食べられないハイレベルの食材ばかりを使った最高級品ものであり。
「「――気味が悪い」」
 即座に二人は、何者かの仕掛けた罠に気づいたのだ。一瞬だけの呆けた顔を引き締める。
 ここまで警戒心を増した理由は、二人はどこであったとしても『好物を明かしたことはない』のだ。この理想郷に来てからも、特段目立ったものは食していない。頼んだとしても、ルームサービスにて注文したランダムな料理のみ。悟られないよう、そこに特別法則性はないようにしている。
「……誰もいない空間に、誰かがいることは確定しました。少なくとも、好物で釣ろうとしている狡猾な思考の方が」
「――姿を見せな。ここまであからさまな(トラップ)……引っ掛かるのは俺の知る限り一人しかいねえ。ただ同年齢のそいつは引っ掛かったとしても、後に馬鹿力と機転でリカバリーの利く……俺よりも強ェ存在だ」
 その透のドスの利いた声に応えるように、まるで光学迷彩を解いたように何もない空間から現れた人物は、たった一人。しかしその人物は、『教会』のバッジをしていないように思えたのだ。
「――ああ、どうだったかなこの製品。五斂子社製品を用いた隠密行動……新たなバリエーションになると思わないか」
 その人物の顔には、実に見覚えがあった。だからこそ、二人は絶望に似た表情を見せたのだった。
 現状、黒幕の「顔」をしている人物は『二人』存在する。当人と、もう一人。
「何で……アンタもそっち側なんだよ」
「…………」
 御庭番衆筆頭、名を古村十郎太≪コムラ ジュウロウタ≫。変化の術にて変化した善吉の顔のままであり、善吉愛用のスーツ姿にて、二人を出迎えたのだった。

 古村には、一つの計画があった。それは変化の術を用いた大衆の印象操作以外に、もう一つ。エヴァたちの陣営には一切明かしていないものであった。この状況はその内に入る。
「アンタ……恥ずかしいと思わねえのかよ。レイジーを裏切って……アンタに忠義の心はねえのかよ!!」
「――詳しいことは語るまい。私は……五斂子社の頂点に立つ者の代わりとして相手をしようじゃあないか」
 その表情には、悪意が滲み出ていた。味方であったはずの人間が裏切ったのにも拘らず、一切の違和感を抱かないほど。院と透は静かに構えると、古村はエアコンを操作するような気軽さでリモコンを操作する。
 特にこれといった変化が起きなかったため、二人はそのままドライバーを装着。ライセンスを認証、装填という変身までの流れを行おうとした瞬間、院が即座に違和感に気づいたのだ。
「――おかしい、ここまでこれと言って何の妨害が入らないのがおかしい」
「……違和感があろうと、シバくだけだ。行くぜ」
 しかし、いくら認証部にライセンスをかざそうにも、ドライバーがうんともすんとも言わないのだ。いつものような野太いシステムボイスも待機音声も鳴らないため、次第に焦りが生まれ始めた。しかし、院は察しがついていた。
「――先ほどの操作こそが、罠の本領という訳ですか」
「ご名答。君たちのドライバー、その内の変身シークエンスの全てを封じさせてもらった。私とは……ライセンス云々を用いないような闘争を行ってもらう」
 裏切った者とはいえ、ドライバーとライセンスを破壊しない良心、あるいは慢心を感じ取った二人はすぐにドライバーを脱着、及び戦闘態勢に入る。
「――貴方の思惑は正直よく分かりません。裏切るメリットがどこにあるのか……それを見定めさせてもらいますよ」
「御庭番衆……その筆頭が君たち卵二人の相手をしてやろうじゃあないか。かかって来たまえ」
 真意が謎に包まれた御庭番衆筆頭・古村と、二人の英雄見習いが対峙するのだった。



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 エントランスであり、清志郎と出会うまでリラクゼーションスパを堪能していたアヴァロンエリア。そこの広間で二人が見たものは、まさに想定外であった。
 そう、誰もいなかったのだ。
 通常ならだれか待ち受けているはずなのだが、そこには誰もいない。気配を感じ取ろうにも、誰もいない。二人は、御庭番衆以外の忍者が裏切った事実も聞かされているため、その可能性も考えたが、文字通り誰も感じ取れなかったのだ。
 しかし、それがどうしようもなくおかしく思えたのだ。
「――誰もいないだなんてこと、ありますの」
「どうだろうな、正直にわかには信じがたいな」
 二人が背中を合わせながら辺りを見渡すも、本当の意味で誰もいない。どことなく眠気と空腹を感じ取りながらも、じりじりと広間の出口に手を掛け、その広間を抜け出す二人。
 しかし、扉を開けた先には多量のテーブルの上に、大皿に盛られた多量の料理と、二人用のキングサイズのベッドのみ。二人は呆気にとられたものの、その眼前の欲望を煽るそれぞれの物に興味を惹かれていく。
「――なあ、なんでこうも俺らの好物を抑えてあんだ??」
「……奇遇ですわね、本当に好物ばかりで……」
 院の好物は海鮮料理全般、透はカレー。特にちびっ子にも食べさせやすい甘口の物。それが、所狭しと立ち並んでいるのだ。しかもそれぞれが表層では到底食べられないハイレベルの食材ばかりを使った最高級品ものであり。
「「――気味が悪い」」
 即座に二人は、何者かの仕掛けた罠に気づいたのだ。一瞬だけの呆けた顔を引き締める。
 ここまで警戒心を増した理由は、二人はどこであったとしても『好物を明かしたことはない』のだ。この理想郷に来てからも、特段目立ったものは食していない。頼んだとしても、ルームサービスにて注文したランダムな料理のみ。悟られないよう、そこに特別法則性はないようにしている。
「……誰もいない空間に、誰かがいることは確定しました。少なくとも、好物で釣ろうとしている狡猾な思考の方が」
「――姿を見せな。ここまであからさまな|罠《トラップ》……引っ掛かるのは俺の知る限り一人しかいねえ。ただ同年齢のそいつは引っ掛かったとしても、後に馬鹿力と機転でリカバリーの利く……俺よりも強ェ存在だ」
 その透のドスの利いた声に応えるように、まるで光学迷彩を解いたように何もない空間から現れた人物は、たった一人。しかしその人物は、『教会』のバッジをしていないように思えたのだ。
「――ああ、どうだったかなこの製品。五斂子社製品を用いた隠密行動……新たなバリエーションになると思わないか」
 その人物の顔には、実に見覚えがあった。だからこそ、二人は絶望に似た表情を見せたのだった。
 現状、黒幕の「顔」をしている人物は『二人』存在する。当人と、もう一人。
「何で……アンタもそっち側なんだよ」
「…………」
 御庭番衆筆頭、名を古村十郎太≪コムラ ジュウロウタ≫。変化の術にて変化した善吉の顔のままであり、善吉愛用のスーツ姿にて、二人を出迎えたのだった。
 古村には、一つの計画があった。それは変化の術を用いた大衆の印象操作以外に、もう一つ。エヴァたちの陣営には一切明かしていないものであった。この状況はその内に入る。
「アンタ……恥ずかしいと思わねえのかよ。レイジーを裏切って……アンタに忠義の心はねえのかよ!!」
「――詳しいことは語るまい。私は……五斂子社の頂点に立つ者の代わりとして相手をしようじゃあないか」
 その表情には、悪意が滲み出ていた。味方であったはずの人間が裏切ったのにも拘らず、一切の違和感を抱かないほど。院と透は静かに構えると、古村はエアコンを操作するような気軽さでリモコンを操作する。
 特にこれといった変化が起きなかったため、二人はそのままドライバーを装着。ライセンスを認証、装填という変身までの流れを行おうとした瞬間、院が即座に違和感に気づいたのだ。
「――おかしい、ここまでこれと言って何の妨害が入らないのがおかしい」
「……違和感があろうと、シバくだけだ。行くぜ」
 しかし、いくら認証部にライセンスをかざそうにも、ドライバーがうんともすんとも言わないのだ。いつものような野太いシステムボイスも待機音声も鳴らないため、次第に焦りが生まれ始めた。しかし、院は察しがついていた。
「――先ほどの操作こそが、罠の本領という訳ですか」
「ご名答。君たちのドライバー、その内の変身シークエンスの全てを封じさせてもらった。私とは……ライセンス云々を用いないような闘争を行ってもらう」
 裏切った者とはいえ、ドライバーとライセンスを破壊しない良心、あるいは慢心を感じ取った二人はすぐにドライバーを脱着、及び戦闘態勢に入る。
「――貴方の思惑は正直よく分かりません。裏切るメリットがどこにあるのか……それを見定めさせてもらいますよ」
「御庭番衆……その筆頭が君たち卵二人の相手をしてやろうじゃあないか。かかって来たまえ」
 真意が謎に包まれた御庭番衆筆頭・古村と、二人の英雄見習いが対峙するのだった。