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あんなふうに笑えたら

ー/ー



 物語りの始まりは二年前、出会いは唐突で最悪でした。

 列車が目まぐるしく行き交う都会の中心駅。高速列車の改札口を出ると、乗り換え通路に犇めく色とりどりの土産物屋の軒先と通路を埋め尽くす人の波。攫われそうになりながらも必死に逆らい黒髪を揺らしながら歩く私は、自分に敷かれた道をなぞっています。
 覇気のない虚ろな目で、忙しない人々に眼も暮れない闇を纏って。

 Uターンするように回った私は二つ隣の改札口を再び通り、高速列車のホームへ立つと、未だ消えることのない強いオフィスビルの白光が目に飛び込みます。無機質な鉄柱とコンクリートのオフィスビル、暗がりに溶け込んだそれは星を散りばめた夜空のよう。

 太陽が無いからこそ望める煌々と輝く摩天楼に眼を奪われて、トランクが鈍い音を立てて地面へ落ちました。

 二年前、思い描いていた将来の展望と重なって、感極まります。正反対の今の自分を、さながら嘲笑しているその光達に、私の頬は涙を伝わせたのです。

 黒く滲むプラットホームのアスファルト。かき消すようなブレーキの金切り音を傍目に、奏でられる透かした歌声が前を過りました。

 見られまいと、流れ続ける涙を乱暴に袖で拭き取って、その歌声を私は絶望に浸された瞳で一瞥します。

 物珍しそうに覗き込む円らな紅い瞳。目線に気づいたのか朗らかにはにかんでくれました。正直、今はそういう気分ではないのでやめて欲しいのですが、それでも仕掛けたのはこちらです。

 小さく手を振ってトランクに手を掛け、扉の開け放った列車へ逃げ出しました。昼間であれば抜群の景観を誇る二階席の指定席で、屈託のない純粋な笑みに一言溢します。

「今の私でも、あんな風に笑えたらいいのに……」

 手を振られた少女にその言葉はきっと届かないだろうと、その瞬間は考えていました。列車は大都会のターミナル駅を定刻通りに発って、私を終身閉じ込める目的地へと誘っていきます。

 その少女が私の目に気を留めて、隣の座席を占有するまでは、少なからず私の人生は、色を変え切った果てに塗りつぶされた、二度と返り咲かないものだと、諦観していたのです。


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 物語りの始まりは二年前、出会いは唐突で最悪でした。
 列車が目まぐるしく行き交う都会の中心駅。高速列車の改札口を出ると、乗り換え通路に犇めく色とりどりの土産物屋の軒先と通路を埋め尽くす人の波。攫われそうになりながらも必死に逆らい黒髪を揺らしながら歩く私は、自分に敷かれた道をなぞっています。
 覇気のない虚ろな目で、忙しない人々に眼も暮れない闇を纏って。
 Uターンするように回った私は二つ隣の改札口を再び通り、高速列車のホームへ立つと、未だ消えることのない強いオフィスビルの白光が目に飛び込みます。無機質な鉄柱とコンクリートのオフィスビル、暗がりに溶け込んだそれは星を散りばめた夜空のよう。
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 黒く滲むプラットホームのアスファルト。かき消すようなブレーキの金切り音を傍目に、奏でられる透かした歌声が前を過りました。
 見られまいと、流れ続ける涙を乱暴に袖で拭き取って、その歌声を私は絶望に浸された瞳で一瞥します。
 物珍しそうに覗き込む円らな紅い瞳。目線に気づいたのか朗らかにはにかんでくれました。正直、今はそういう気分ではないのでやめて欲しいのですが、それでも仕掛けたのはこちらです。
 小さく手を振ってトランクに手を掛け、扉の開け放った列車へ逃げ出しました。昼間であれば抜群の景観を誇る二階席の指定席で、屈託のない純粋な笑みに一言溢します。
「今の私でも、あんな風に笑えたらいいのに……」
 手を振られた少女にその言葉はきっと届かないだろうと、その瞬間は考えていました。列車は大都会のターミナル駅を定刻通りに発って、私を終身閉じ込める目的地へと誘っていきます。
 その少女が私の目に気を留めて、隣の座席を占有するまでは、少なからず私の人生は、色を変え切った果てに塗りつぶされた、二度と返り咲かないものだと、諦観していたのです。