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藤乃とぬらりひょん

ー/ー





 ぬらりひょん。

 声を荒げる社長の隣で悠然と盃を傾けている妖怪は、そのしわくちゃな皴の奥にある瞳で、藤乃のことをじっと見つめていた。

 藤乃は、ハルタくんの側に居たかった。

 たとえ自分の事を忘れてしまっているのだとしても、彼の助けになりたかった。

 だから、故郷を遠く離れたこの土地まで彼についてきたのだ。

 けれど、藤乃が側にいることがここまでハルタくんを苦しめる一因となってしまったならば、望みは捨てなければならない。

 ぬらりひょんの瞳は、まっすぐに藤乃を見つめている。

 藤乃は意を決し、立ち上がった。

 黒いおかっぱ頭を振りかざし、怒声を放つ社長の方に向かっていく。

 突如として行動を起こした藤乃の姿を、ハルタくんが目で追った

 けれど、怒り狂う社長も、周りにいる社員たちも、ハルタくん以外は誰一人として、藤乃の行動に意識を払っていない。

 当然の事だった。

 藤乃の姿は、普通の人間の目には見えない。

 ハルタくんを睨みつける社長の前に立ち、藤乃は人差し指をビッと伸ばして、それを真っすぐに突き付けた。

 

「……私、あなたの会社を出ていきます。ハルタくんの為にならないって分かったから。退職です。永遠にサヨナラです。一身上の都合により、です!!」

 

 藤乃は叫ぶように言い放った。

 社長の耳には、やはり届いていない。

 しかし、その隣に居たぬらりひょんの口元は、ニヤリと動いた。

 

「あい、分かった」

 

 びゅう、と風が吹き抜け、花宴の席に桜の花びらが舞う。

 ひらり、ひらりと薄桜色が翻り、表裏が交わる。

 

「わしはこの社の『会長』じゃからな。今この場で、お主の退職を受理する」

 

 ぬらりひょんはそう言った。



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 ぬらりひょん。
 声を荒げる社長の隣で悠然と盃を傾けている妖怪は、そのしわくちゃな皴の奥にある瞳で、藤乃のことをじっと見つめていた。
 藤乃は、ハルタくんの側に居たかった。
 たとえ自分の事を忘れてしまっているのだとしても、彼の助けになりたかった。
 だから、故郷を遠く離れたこの土地まで彼についてきたのだ。
 けれど、藤乃が側にいることがここまでハルタくんを苦しめる一因となってしまったならば、望みは捨てなければならない。
 ぬらりひょんの瞳は、まっすぐに藤乃を見つめている。
 藤乃は意を決し、立ち上がった。
 黒いおかっぱ頭を振りかざし、怒声を放つ社長の方に向かっていく。
 突如として行動を起こした藤乃の姿を、ハルタくんが目で追った
 けれど、怒り狂う社長も、周りにいる社員たちも、ハルタくん以外は誰一人として、藤乃の行動に意識を払っていない。
 当然の事だった。
 藤乃の姿は、普通の人間の目には見えない。
 ハルタくんを睨みつける社長の前に立ち、藤乃は人差し指をビッと伸ばして、それを真っすぐに突き付けた。
「……私、あなたの会社を出ていきます。ハルタくんの為にならないって分かったから。退職です。永遠にサヨナラです。一身上の都合により、です!!」
 藤乃は叫ぶように言い放った。
 社長の耳には、やはり届いていない。
 しかし、その隣に居たぬらりひょんの口元は、ニヤリと動いた。
「あい、分かった」
 びゅう、と風が吹き抜け、花宴の席に桜の花びらが舞う。
 ひらり、ひらりと薄桜色が翻り、表裏が交わる。
「わしはこの社の『会長』じゃからな。今この場で、お主の退職を受理する」
 ぬらりひょんはそう言った。