それは意外と早かった。
午前中にピノが俺を呼びに来た。
俺は急いで準備をすると、家を飛び出す。
ティアナは学院に行っている。交流会も終わり、授業を再開していた。
向かった先は組合の窓口。
全力で走って、大きな音を立てながら中に入ると、すでにナタリーとアリスがいた。
「……来たね」
ナタリーが苦笑交じりに言った。
「おい! 早すぎるだろ! もう来たってのか!?」
「残念ながら。ティアナがいなくて良かったよ」
俺の剣幕にアリスが笑う。だが、その通りだ。
出来ればティアナには聞かせたくない。
「もう追いついたってのか!?
フットワーク軽すぎだろ、あの婆さんっ!」
連合に置いて来たはずの老婆がティアナを追ってきたのだった。
王女であるティアナを執拗に追い回すので、何も言わずに逃げたのに。
「ひとまず対策を立てないと。
まず、ティアナの名前はバレてるのよね」
「あとは王立学院の生徒だってこともバレてるでしょうね。
交流会に来ていたのは知っているはずだから」
ナタリーの言葉にアリスが付け加える。
まずいな、これだけ情報があれば俺の家まで来てもおかしくない。
老婆は王女の世話をしたいらしく、ティアナに構っては失敗し続けていた。
悪意がないのは分かるが、ティアナ本人が嫌がっているのだから良くない。
「よし、偽の情報を流そう。家名は言ってないはずだから誤魔化せるかも」
「了解。それじゃあ、私はすぐに助けを呼べるような仕組みを作るね」
ナタリーとアリスが対策を立てていく。
A級冒険者のやることではない気がするが黙っておいた。
翌日には『ティアナ』という人物のガセ情報が王都中に山ほど出回った。
さらにティアナ本人には一枚の紙が手渡される。
そこには魔法陣が書かれており、起動すると大きな警告音が鳴る。
恐らくこの世界初の防犯ブザーである。
……変質者かな?
「……執念って怖いわね」
数日後、ナタリーは頭を抱えていた。
老婆は『ティアナ』のガセ情報を虱潰しに確認していったのだ。
顔は知っているのだから、会えば良いという単純な手である。
「それも、少しずつ特定していってるし。
一昨日からは一番街に絞って、昨日はすぐ近くまで行ってたね」
ナタリーの言葉に俺は両手で顔を覆った。
「そうなんだよ! 昨日、家の近所で見かけたんだ!
どうやったら足だけで『ティアナ』っていう名前からここまで来れるんだ!?」
「まずいね。少しずつ近づいてる。
このままだと、捕まるかもしれない」
俺の肩にぽんと手を置いて、アリスが言った。
三日前は王都。一昨日は一番街。
そして、昨日は家の近所だ。
まだ遭遇はしていないが、どんどん近づいている。
このままでは時間の問題かもしれない。
……怪談かな?