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恋の百人一首

ー/ー



全校百人一首大会に向けて、今日もクラスで練習試合が行われている。
先生は札を読み上げていく。

「あまつ風 雲の(かよ)() 吹き閉じよ 乙女(おとめ)の姿 しばし留めむ」

「「はい!」」

あちこちから声が上がり、札を取る音が聞こえてくる。

俺の名前は、恭介(きょうすけ)
百人一首には自信がある。
明日の百人一首大会では、全校一位を目指している。
今日はクラス内での練習の日だが、俺は負けるつもりはない。


先生は次の札を読み始める。

「め……」

「はい!」

俺はすかさず札を取る。

俺が取った下の句は『雲隠れにし 夜半(よわ)の月かな』
みんなは驚いた表情で俺を見る。
先生はまだ、「め」しか言っていないからだ。
さて、合っているかな?

「めぐりあいて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半(よわ)の月かな」

「恭介、すげぇな……」

隣にいるクラスメイトが感嘆の声を上げる。
俺はドヤ顔で、取った(ふだ)を横に積み上げる。
ちなみに、この歌は紫式部が詠んだものだ。

練習試合は進んでいく。

* * *

先生が次に読み上げた札はこれだった。

「ふ……」

「はい!」

今回も誰よりも早く、俺は札を取る。
そして、またもクラスメイトたちからの羨望の視線を浴びる。
俺は優越感に浸った。
俺が取った札は『むべ山風を 嵐というらむ』
先生は、最後まで読み上げた。

()くからに 秋の草木の しおるれば むべ山風を 嵐というらむ」

この歌は漢字パズルのような歌だ。
「山風」という漢字を合わせれば、「嵐」という漢字ができあがる。

百人一首では、秋をテーマにした歌は多い。
秋は風情があるので、和歌を作りやすいのであろう。
ちなみに、百人一首で秋を詠んでいるのは全員男性。

秋は、男性の方がロマンチックになってしまう季節なのだろうか。

* * *

さて、百人一首に詳しい人なら、なぜ俺が一文字目で札を取れるのか、ご存知のことと思う。

「む」「す」「め」「ふ」「さ」「ほ」「せ」

この7文字から始まる歌は、百人一首の中で1つずつしかない。
まずはこの7首を暗記する。
そして、試合が始まる前に、この7首の札が置かれている場所を確認し、その場所を覚えておく。
読み手がこの7文字のどれかを言ったらすぐに取れるようにしておくのだ。

* * *

練習試合は続く。
先生は次の札を読み上げる。

「いにしえの 奈良の都の……」

「はい!」

目の前に座っている女の子が札を取った。
俺は驚き、その子の顔を見る。

咲良(さくら)さんだ。

咲良さんは、色が白く、整った顔立ちをしているが、あまり笑わないので、なんとなくとっつきにくい感じがする子だ。

上の句を読んでいるうちに札を取ってくるということは、この歌を暗記しているということ。
ほとんどのクラスメイトは、下の句を読み始めないと札を取れない。
百人一首を暗記している生徒なんて、あまりいないからだ。

しかし、咲良さんは上の句を読んでいるうちに取ってきた。
まじめそうな感じの子だし、家で練習してきたのかもしれない。
意外なライバル出現だ。

次の札が読まれる。

「たかさごの おのえの……」

「はい!」

またしても、咲良(さくら)さんに取られた。
ぐぬぬぬ……
おとなしそうに見えて意外にやるな、この子は。

2連続で取った咲良さんは、(ふだ)を積み上げると、ニコリと微笑んだ。

か……かわいい……!!

俺は、咲良さんが笑った顔を初めて見た。
うちのクラスに、こんなにかわいい子がいたとは……

俺は、咲良さんの顔に見とれていた。

* * *

「……」

「はい!」

どこかで誰かが札を取った。
しまった、読み札を聞き逃していた。

次はちゃんと聞いていなくては……


「もろともに あわれと思え……」

「はい!」

また、咲良さんが札を取った。
華奢な体つきをしているが、札を取る時の動きは俊敏であり、そして、その動きは洗練されているように思えた。

美しい……

俺は咲良さんに見とれていた。
ポニーテールも似合っている。
そして、意外にも百人一首が得意ときたものだ。
咲良さん、いいかも……

あぁ……俺はこんなところでクラスメイトに一目惚れをしてしまうとは……

俺の視線に気づいた咲良さんは、顔を上げてこちらを見た。

ヤバイ!

ジロジロ見ていたのがバレてしまう!!

俺は慌てて視線を反らした。
何をやっているんだ、俺は。

「花の色は うつりにけりな……」

「はい!」

またしても、咲良さんが札を取る。
俊敏かつ優雅な動き、そして、揺れるポニーテール……
札を取るときの真剣な表情は、とても美しい。
そして、札を取った後に見せる笑顔は、とびきりかわいい。
俺はずっと、咲良さんの方を見ていた。

俺の視線に気づいたのか、咲良さんは再び俺の方を見る。

慌てて視線をそらす俺。
ずっと見ていたのがバレたのかも。
もう、これ以上は咲良さんを見ないようにしなくては。

隣のクラスメイトが俺にささやく。

「恭介、急に取れなくなったな。どうした?」

「い……いや……別に……」

俺は動揺を隠せなかった。

ちなみに、この歌は世界三大美人の一人と言われている小野小町が詠んだものだ。
百人一首の中で、唯一、肖像画が後ろ姿で書かれている札である。
世界三大美人の一人である小野小町の顔を安易に描くわけにはいかない。そういう理由で、百人一首では後ろ姿で描かれ、顔が隠された札となっている。

俺の中で、小野小町のイメージが咲良さんと重なる。

『花の色は うつりにけりな いたずらに わが身世(みよ)にふる ながめせしまに』

恋のことを考えているうちに桜は散ってしまい、無駄に時が過ぎてしまった、という歌だ。
なんだか、俺の心を見透かしたかのような歌だった。

ここのところ、札も全然取れていないし、このままでは一位になれないかもしれない。

集中しよう! 集中!

* * *

「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心(しずごころ)なく……」

この札は、俺が取ってやる!!
しかし、探せど探せど見つからない……

その時、咲良さんは俺の方に突進してきた。
俺の心臓は止まりそうになった。

「はい!」

なんと、札は俺の目の前に置かれていたのだ。
灯台下暗(とうだいもとくら)し。

憧れの咲良さんがすぐ近くに……
俺はドキドキした。

咲良さんは、俺の目の前から札を取ると、俺の顔を見てニコリと微笑んだ。

!!

これが漫画なら、俺の目はハート型になり、頭のてっぺんが噴火しているみたいな絵になっていることだろう。
咲良さんは、俺を見て微笑んでくれた。
さっきまで、ジロジロ見ていて嫌な印象を与えたのではないかと不安だったのだが、笑顔を見せてくれるってことは、咲良さんは俺のこと、ひょっとしたら興味を持ってくれているのかも。
そんな都合のいい妄想にふけってしまう。

俺の妄想は暴走していく。
ちなみに、下の句は『静心(しずごころ)なく 花の散るらむ』

桜の花が落ち着かない様子で散っている様子を詠んだ歌だ。

俺も静心(しずごころ)をなくしていた……

* * *

「あさじゅうの 小野の篠原 しのぶれど……」

「はい!」

ようやく、俺は札を取ることができた。
下の句は、『あまりて などか 人の恋しき』
好きだという気持ちを抑えきれない、そういう意味の歌だ。

またしても、百人一首に俺の心を見透かされてしまった気がする……

* * *

今日の練習試合は終わった。
俺は、ぎりぎりのところでクラス1位を取ることができた。
ちなみに、2位は咲良さんである。


俺は意を決して、咲良さんに話しかけることにした。




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次のエピソードへ進む 桜の札は……


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全校百人一首大会に向けて、今日もクラスで練習試合が行われている。
先生は札を読み上げていく。
「あまつ風 雲の|通《かよ》い|路《じ》 吹き閉じよ |乙女《おとめ》の姿 しばし留めむ」
「「はい!」」
あちこちから声が上がり、札を取る音が聞こえてくる。
俺の名前は、|恭介《きょうすけ》。
百人一首には自信がある。
明日の百人一首大会では、全校一位を目指している。
今日はクラス内での練習の日だが、俺は負けるつもりはない。
先生は次の札を読み始める。
「め……」
「はい!」
俺はすかさず札を取る。
俺が取った下の句は『雲隠れにし |夜半《よわ》の月かな』
みんなは驚いた表情で俺を見る。
先生はまだ、「め」しか言っていないからだ。
さて、合っているかな?
「めぐりあいて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし |夜半《よわ》の月かな」
「恭介、すげぇな……」
隣にいるクラスメイトが感嘆の声を上げる。
俺はドヤ顔で、取った|札《ふだ》を横に積み上げる。
ちなみに、この歌は紫式部が詠んだものだ。
練習試合は進んでいく。
* * *
先生が次に読み上げた札はこれだった。
「ふ……」
「はい!」
今回も誰よりも早く、俺は札を取る。
そして、またもクラスメイトたちからの羨望の視線を浴びる。
俺は優越感に浸った。
俺が取った札は『むべ山風を 嵐というらむ』
先生は、最後まで読み上げた。
「|吹《ふ》くからに 秋の草木の しおるれば むべ山風を 嵐というらむ」
この歌は漢字パズルのような歌だ。
「山風」という漢字を合わせれば、「嵐」という漢字ができあがる。
百人一首では、秋をテーマにした歌は多い。
秋は風情があるので、和歌を作りやすいのであろう。
ちなみに、百人一首で秋を詠んでいるのは全員男性。
秋は、男性の方がロマンチックになってしまう季節なのだろうか。
* * *
さて、百人一首に詳しい人なら、なぜ俺が一文字目で札を取れるのか、ご存知のことと思う。
「む」「す」「め」「ふ」「さ」「ほ」「せ」
この7文字から始まる歌は、百人一首の中で1つずつしかない。
まずはこの7首を暗記する。
そして、試合が始まる前に、この7首の札が置かれている場所を確認し、その場所を覚えておく。
読み手がこの7文字のどれかを言ったらすぐに取れるようにしておくのだ。
* * *
練習試合は続く。
先生は次の札を読み上げる。
「いにしえの 奈良の都の……」
「はい!」
目の前に座っている女の子が札を取った。
俺は驚き、その子の顔を見る。
|咲良《さくら》さんだ。
咲良さんは、色が白く、整った顔立ちをしているが、あまり笑わないので、なんとなくとっつきにくい感じがする子だ。
上の句を読んでいるうちに札を取ってくるということは、この歌を暗記しているということ。
ほとんどのクラスメイトは、下の句を読み始めないと札を取れない。
百人一首を暗記している生徒なんて、あまりいないからだ。
しかし、咲良さんは上の句を読んでいるうちに取ってきた。
まじめそうな感じの子だし、家で練習してきたのかもしれない。
意外なライバル出現だ。
次の札が読まれる。
「たかさごの おのえの……」
「はい!」
またしても、|咲良《さくら》さんに取られた。
ぐぬぬぬ……
おとなしそうに見えて意外にやるな、この子は。
2連続で取った咲良さんは、|札《ふだ》を積み上げると、ニコリと微笑んだ。
か……かわいい……!!
俺は、咲良さんが笑った顔を初めて見た。
うちのクラスに、こんなにかわいい子がいたとは……
俺は、咲良さんの顔に見とれていた。
* * *
「……」
「はい!」
どこかで誰かが札を取った。
しまった、読み札を聞き逃していた。
次はちゃんと聞いていなくては……
「もろともに あわれと思え……」
「はい!」
また、咲良さんが札を取った。
華奢な体つきをしているが、札を取る時の動きは俊敏であり、そして、その動きは洗練されているように思えた。
美しい……
俺は咲良さんに見とれていた。
ポニーテールも似合っている。
そして、意外にも百人一首が得意ときたものだ。
咲良さん、いいかも……
あぁ……俺はこんなところでクラスメイトに一目惚れをしてしまうとは……
俺の視線に気づいた咲良さんは、顔を上げてこちらを見た。
ヤバイ!
ジロジロ見ていたのがバレてしまう!!
俺は慌てて視線を反らした。
何をやっているんだ、俺は。
「花の色は うつりにけりな……」
「はい!」
またしても、咲良さんが札を取る。
俊敏かつ優雅な動き、そして、揺れるポニーテール……
札を取るときの真剣な表情は、とても美しい。
そして、札を取った後に見せる笑顔は、とびきりかわいい。
俺はずっと、咲良さんの方を見ていた。
俺の視線に気づいたのか、咲良さんは再び俺の方を見る。
慌てて視線をそらす俺。
ずっと見ていたのがバレたのかも。
もう、これ以上は咲良さんを見ないようにしなくては。
隣のクラスメイトが俺にささやく。
「恭介、急に取れなくなったな。どうした?」
「い……いや……別に……」
俺は動揺を隠せなかった。
ちなみに、この歌は世界三大美人の一人と言われている小野小町が詠んだものだ。
百人一首の中で、唯一、肖像画が後ろ姿で書かれている札である。
世界三大美人の一人である小野小町の顔を安易に描くわけにはいかない。そういう理由で、百人一首では後ろ姿で描かれ、顔が隠された札となっている。
俺の中で、小野小町のイメージが咲良さんと重なる。
『花の色は うつりにけりな いたずらに わが|身世《みよ》にふる ながめせしまに』
恋のことを考えているうちに桜は散ってしまい、無駄に時が過ぎてしまった、という歌だ。
なんだか、俺の心を見透かしたかのような歌だった。
ここのところ、札も全然取れていないし、このままでは一位になれないかもしれない。
集中しよう! 集中!
* * *
「ひさかたの 光のどけき 春の日に |静心《しずごころ》なく……」
この札は、俺が取ってやる!!
しかし、探せど探せど見つからない……
その時、咲良さんは俺の方に突進してきた。
俺の心臓は止まりそうになった。
「はい!」
なんと、札は俺の目の前に置かれていたのだ。
|灯台下暗《とうだいもとくら》し。
憧れの咲良さんがすぐ近くに……
俺はドキドキした。
咲良さんは、俺の目の前から札を取ると、俺の顔を見てニコリと微笑んだ。
!!
これが漫画なら、俺の目はハート型になり、頭のてっぺんが噴火しているみたいな絵になっていることだろう。
咲良さんは、俺を見て微笑んでくれた。
さっきまで、ジロジロ見ていて嫌な印象を与えたのではないかと不安だったのだが、笑顔を見せてくれるってことは、咲良さんは俺のこと、ひょっとしたら興味を持ってくれているのかも。
そんな都合のいい妄想にふけってしまう。
俺の妄想は暴走していく。
ちなみに、下の句は『|静心《しずごころ》なく 花の散るらむ』
桜の花が落ち着かない様子で散っている様子を詠んだ歌だ。
俺も|静心《しずごころ》をなくしていた……
* * *
「あさじゅうの 小野の篠原 しのぶれど……」
「はい!」
ようやく、俺は札を取ることができた。
下の句は、『あまりて などか 人の恋しき』
好きだという気持ちを抑えきれない、そういう意味の歌だ。
またしても、百人一首に俺の心を見透かされてしまった気がする……
* * *
今日の練習試合は終わった。
俺は、ぎりぎりのところでクラス1位を取ることができた。
ちなみに、2位は咲良さんである。
俺は意を決して、咲良さんに話しかけることにした。