「おはよ~」
「あ、
穂香おはよーん」
「おはよ。いつも早いのにどしたの?」
連休明けの朝。
教室に入った穂香に、親しい友人の
理央と
早織が挨拶で迎えてくれる。
「乗るはずの電車に間に合わなくてさぁ」
「まあ穂香は毎朝余裕持って出てるから、一本逃したって遅刻はないよね」
「早織は結構ギリギリも多いよな~。穂香もだけど、本数多い沿線でいいなぁ。あたしはいつものに乗れないともう遅刻だから、早めに出ないとヤバいんだよ……」
穂香にとって「特別な友達」と言えるのは理央と早織くらいだ。
クラスメイトは皆すごく仲良し、というほどではないものの、お互いの違いは認め合いそれなりに上手く付き合えている状態だと思っている。
穂香はこの関係に満足しているし、自分で希望して入ったこの学校もクラスメイトも好きだった。
「あ、ねえねえ! あたし、実は小説書いたんだ。初めてちゃんと最後まで書けたの! 読んで感想聞かせてくれない?」
昼休み、食堂で食べ終わって話しながらの穂香の問い掛けに、理央と早織が顔を見合わせている。
もともと穂香は、小さい頃から物語を考えるのが好きだった。空想好きというのだろうか、いつも自分の世界に入り込んでいたものだ。一時期は親や周りに心配されていたのも知っている。今はそれも個性と受け止められているようで安心していた。
それが高じて『お話』を書いてみたくなったのが中学の頃だ。
実は誰にも言ったことはないけれど、将来は小説家になりたいと漠然と考えていた。高校生になって一つ作品を完成させられたことで、一気にその『夢』が膨らんだ、気がする。
当然、たっだ一つ書き上げたくらいで調子に乗ってはいけないと考える冷静さは保てていた。頭ではきちんと理解しているのだ。
けれど油断すると勝手に
|逸る心を、穂香はなんとか捉まえている状態だった。
穂香の本分はやはり勉強なのだから。
「……あー、ゴメン! あたし、小説ってダメなんだよね。本読むと頭痛くなるの」
「私も全然読まない。ノベルゲーでさえ苦手なくらいだもん。でも小説書けるのって凄いね!」
「そっか、ならいいんだ。誰か読んでくんないかなぁ」
理央も早織も申し訳なさそうに断って来たけれど、それ自体は一向に構わなかった。気が進まないのなら押し付ける気など最初からない。仲の良い子が読んでくれたら嬉しいな、という程度だ。
穂香たち三人組は、学校では大抵一緒にいるが趣味はまったく合わなかった。理央は『アニヲタ』とも呼ばれるアニメ好きで、早織はゲームが好きらしい。「らしい」というところからもわかるように、二人とも穂香に自分の趣味を決して強要はしなかった。
そして穂香も、小説を書いていることを言ったかどうかさえ覚えていないほどだ。だから少し残念には感じたとしても「断られた、傷ついた!」とはならない。
何もかもべったり一緒でなくていい、というところが楽で、まったくタイプが違う三人が仲良くしていられるのかもしれない。もちろん、趣味や好みが違うのに何故か意外と気が合うというのが一番大きかった。
「私のお姉ちゃん、ゲームもだけど小説も好きなんだ。ネット小説とかよく読んでる。感想もらえるか訊いてあげよっか?」
「迷惑じゃなかったらすごくありがたい、けど。いっぱい読んでる人には、あたしの小説なんてレベル低すぎてくだらないと思われちゃうかも」
早織の提案に、穂香は今更腰が引けてしまう。
この二人のようにに気心の知れた親友ならともかく、その姉など穂香にとっては実質「知らない人」に過ぎない。
向こうも妹の友人には駄目出しをするにしても余計な気を遣うのではないか、と考えたのもあった。
己がそんな大層なものを書いている自信などないし、褒められたい、評価されたいと言える段階ですらないのもわかっているからだ。
「だったらさ、一応訊くだけ訊いてみるよ。お姉ちゃんが直接じゃなくても、なんか他にやり方知ってるかもしんないじゃん?」
明確に言葉にはしなかったものの、早織には穂香の内心は伝わったらしい。
「いやあ、『創作』できるってだけで尊敬するわ。あたし、人の創ってくれたもの楽しむしかできないもん。しかも高校生だからお金も落とせないし」
「それは私も同じ。ゲーム好きだけど、『ゲーム作ろう!』って方には行かないんだよね。そんな発想もなかった。穂香、すごいよ!」
大袈裟なくらいの親友の反応には照れるけれど、やはり嬉しかった。
──うん。あたし、いつか小説家になれたらいいなあ。