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【1】

ー/ー



 今日は高校の卒業式。

「あゆ()先輩! ご卒業おめでとうございます!」
 ホームルームのあと、中庭でクラスメイトの輪の端にいたわたし、屋敷(やしき) あゆ美に親しい後輩が駆け寄って声を掛けて来た。

 委員会で一緒になって以来、何かと懐いて来てくれていた二年生なの。小柄で、緩いウェーヴの掛かった長い髪を二つに結ってる可愛らしい女の子。
 一緒に居るお友達二人も、口々にお祝いしてくれる。

倉掛(くらかけ)さんたち、クラス代表だった?」
 卒業生以外は、生徒会役員と下級生の各クラスの代表だけが式には参列してた筈なんだけど。
 わたしの素朴な疑問を、倉掛 乃梨子(のりこ)さんは勢い良く首を振って否定する。

「いいえ! ……だから式には出られなかったんですけど、せめて先輩に直接ご挨拶したかったんです」
「……わざわざ来たってこと?」
 ただ、わたしに会うためだけに学校に?

「はい! あの、先輩。ボタン、──セーラー服のボタンをいただけませんか?」
 真っ赤な顔で見上げながら言い募る後輩。

 一瞬びっくりはしたものの、わたしは冷静に彼女に問い掛けた。
「わたしでいいの?」
「あゆ美先輩『が』いいに決まってるじゃないですか! お願いします!」
 食い気味に返して来る彼女に思わず頬が緩む。
「わかったわ。でも、……取れるかしら?」
 糸でしっかり縫い付けてあるボタン。どうすればいいのかな、って戸惑うわたしに。

「屋敷、これ使えよ」
 少し離れたところにいたらしい野上(のがみ)くんが、つかつかと近付いてきて何かを差し出した。
 つまみをスライドさせて刃を出すタイプの、ごく小さな丸いカッターナイフ。『使用済み』なのは、彼の姿で一目瞭然だったわ。
 全部のボタンがなくなって、前が閉じられない状態になってる。カッターナイフを持つ手の袖口にも、ボタンはひとつも見当たらない。
 凄い。こんなこと本当にあるのね。学園ドラマみたい。
 ……確かに前生徒会長で人気があったのは知ってるけど、ここまでだとは思わなかった。

「あ、ありがとう。野上く──」
「野上先輩、ありがとうございます! でも、あんまりあゆ美先輩には──」
 カッターを受け取ろうと右手を差し出し掛けたわたしの前に、倉掛さんが小さな身体で進み出た。まるで彼からわたしを庇うみたいに。

「ちょ、ノッコ! 何言ってんの! ……野上先輩、この子ちょっと舞い上がってるんですよ」
「そうなんです、すみません。もう屋敷先輩しか目に入ってなくて」
 野上くんに向かって好戦的な態度を隠さない倉掛さんに、お友達の方が二人して慌てて止めに入って代わりに謝ってるわ。

「いやいや、気にしてないよ。……じゃあ君から」
 そう笑いながら、野上くんは倉掛さんがおずおずと出した掌にカッターナイフをそっと落とす。

「屋敷、それやるから。でももし気ぃ遣うんなら、また怜那(れいな)に会った時に渡しといて」
「そうする。野上くん、どうもありがとう」
 彼が去った後、わたしはカッターの刃でジャケットの生地を切らないように注意しながらボタンを外した。

「はい、どうぞ」
 笑顔でボタンを渡したわたしに、倉掛さんは感極まって目を潤ませてる。
 わたしなんかにどうしてそんな……。

「あ、ありがとう、ございます……。大事に、します、から」
「ノッコ、よかったねぇ」
「宝物だよね」
 涙が溢れてそれ以上言葉にならない状態の彼女を、二人が両側から寄り添って労わるように声を掛けてる。
 いいお友達ね、倉掛さん。きっとあなたが思いやりのある素敵な人だからね。
 そういう子に慕ってもらって、本当にわたしにはもったいないような気はするけどやっぱり嬉しいわ。

 後輩たちは、わたしに何度も頭を下げて帰って行った。

 ──あとは。










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 今日は高校の卒業式。
「あゆ|美《み》先輩! ご卒業おめでとうございます!」
 ホームルームのあと、中庭でクラスメイトの輪の端にいたわたし、|屋敷《やしき》 あゆ美に親しい後輩が駆け寄って声を掛けて来た。
 委員会で一緒になって以来、何かと懐いて来てくれていた二年生なの。小柄で、緩いウェーヴの掛かった長い髪を二つに結ってる可愛らしい女の子。
 一緒に居るお友達二人も、口々にお祝いしてくれる。
「|倉掛《くらかけ》さんたち、クラス代表だった?」
 卒業生以外は、生徒会役員と下級生の各クラスの代表だけが式には参列してた筈なんだけど。
 わたしの素朴な疑問を、倉掛 |乃梨子《のりこ》さんは勢い良く首を振って否定する。
「いいえ! ……だから式には出られなかったんですけど、せめて先輩に直接ご挨拶したかったんです」
「……わざわざ来たってこと?」
 ただ、わたしに会うためだけに学校に?
「はい! あの、先輩。ボタン、──セーラー服のボタンをいただけませんか?」
 真っ赤な顔で見上げながら言い募る後輩。
 一瞬びっくりはしたものの、わたしは冷静に彼女に問い掛けた。
「わたしでいいの?」
「あゆ美先輩『が』いいに決まってるじゃないですか! お願いします!」
 食い気味に返して来る彼女に思わず頬が緩む。
「わかったわ。でも、……取れるかしら?」
 糸でしっかり縫い付けてあるボタン。どうすればいいのかな、って戸惑うわたしに。
「屋敷、これ使えよ」
 少し離れたところにいたらしい|野上《のがみ》くんが、つかつかと近付いてきて何かを差し出した。
 つまみをスライドさせて刃を出すタイプの、ごく小さな丸いカッターナイフ。『使用済み』なのは、彼の姿で一目瞭然だったわ。
 全部のボタンがなくなって、前が閉じられない状態になってる。カッターナイフを持つ手の袖口にも、ボタンはひとつも見当たらない。
 凄い。こんなこと本当にあるのね。学園ドラマみたい。
 ……確かに前生徒会長で人気があったのは知ってるけど、ここまでだとは思わなかった。
「あ、ありがとう。野上く──」
「野上先輩、ありがとうございます! でも、あんまりあゆ美先輩には──」
 カッターを受け取ろうと右手を差し出し掛けたわたしの前に、倉掛さんが小さな身体で進み出た。まるで彼からわたしを庇うみたいに。
「ちょ、ノッコ! 何言ってんの! ……野上先輩、この子ちょっと舞い上がってるんですよ」
「そうなんです、すみません。もう屋敷先輩しか目に入ってなくて」
 野上くんに向かって好戦的な態度を隠さない倉掛さんに、お友達の方が二人して慌てて止めに入って代わりに謝ってるわ。
「いやいや、気にしてないよ。……じゃあ君から」
 そう笑いながら、野上くんは倉掛さんがおずおずと出した掌にカッターナイフをそっと落とす。
「屋敷、それやるから。でももし気ぃ遣うんなら、また|怜那《れいな》に会った時に渡しといて」
「そうする。野上くん、どうもありがとう」
 彼が去った後、わたしはカッターの刃でジャケットの生地を切らないように注意しながらボタンを外した。
「はい、どうぞ」
 笑顔でボタンを渡したわたしに、倉掛さんは感極まって目を潤ませてる。
 わたしなんかにどうしてそんな……。
「あ、ありがとう、ございます……。大事に、します、から」
「ノッコ、よかったねぇ」
「宝物だよね」
 涙が溢れてそれ以上言葉にならない状態の彼女を、二人が両側から寄り添って労わるように声を掛けてる。
 いいお友達ね、倉掛さん。きっとあなたが思いやりのある素敵な人だからね。
 そういう子に慕ってもらって、本当にわたしにはもったいないような気はするけどやっぱり嬉しいわ。
 後輩たちは、わたしに何度も頭を下げて帰って行った。
 ──あとは。