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第四部 32話 名所見学

ー/ー



 翌日。すでに交流会も三日目になる。
 午前中だけ授業を受けた後、俺たちは馬車で移動する。

 馬車に乗り込もうとすると、二人に声が掛けられた。
 すっかり馴染んできたようだ。

「ティアナちゃん! どこか行くの?」
「うん。今日は見学に行くんですよっ」

 話しかけてきた女生徒にティアナが答える。
 実に学生らしい姿だった。

「グレイ君! 今日は授業じゃないんだ。あ、大峡谷か」
「……ああ、ちょっと行ってくる」

 こちらも女生徒だった。グレイが微笑みながら答える。
 すごいよな。こっちも学生らしく見える……馴染むものだ。

 人は適応するんだなぁ……。
 ああ、多分成長はしていない。今も何一つ理解していないはずだ。
 何なら一日目に暗記した台詞はすでに頭の中にないだろう。

 グレイ、お前ちょっとモテ始めてるじゃねーか。
 女生徒を眺めながら、俺は考える。

 実際『統一学舎』の教師陣からも評価が高い。
 転入の話があるかも、ということだ。恐ろしい。

 ちょうど教師がグレイに話しかけていた。
 快活にグレイの肩を叩く。
 
「今までの交流会で、最高の生徒だって評判だぞ!」
「……ありがとうございます」

 グレイが微笑んで、頷きを返す。
 何度も言うが『その二、話しかけられたら、笑って頷け』である。

 すげーな、ナタリー。お前のハリボテは最強だ。
 だって『王立学院』始まって以来の落ちこぼれと呼ばれた俺たちだぞ。
 
 ……座学は捨てた。ペンは剣よりも重し。
 入学時点が最高学力。軽量化の重要性。
 
 全て同級生が俺たちを表した言葉だ。
 全部悪口じゃねえか……誰が脳みそ空っぽだよ。
 
 最低を最高に見せれば、ハリボテとしては最強だろ。
 ……どんな気持ちで笑ってるんだろうな?

 評価が過大すぎて、ハリボテは少し引き攣っているように見えた。
 


 しばらく馬車に揺られて、大峡谷を目指す。
 その名の通り、大きな崖を意味している。
 
 エイク市を南に小一時間ほども走ると、エルフの森がある。
 森を越えた先にはまるで大きな穴でも空いたような峡谷が広がっているのだ。
 
 王国のターナー公爵領から連合に入れないのはこの峡谷があるからだ。
 王国からすれば、広大な峡谷をどうにか越えた後、ハーフエルフと連合のどちらも敵に回すことになる。

 ただし、連合側からも攻めることが難しい。
 公爵家の軍は精強な上、峡谷は常に南から北へと強風が吹いていて、連合からでは峡谷を越えること自体の労力が大きい。

 交流会ということで『王立学院』の生徒はこの峡谷を見学する。
 ひとまずは峡谷手前のエルフの森までは辿り着いた。

 ……新国の領土ということになる。



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 翌日。すでに交流会も三日目になる。
 午前中だけ授業を受けた後、俺たちは馬車で移動する。
 馬車に乗り込もうとすると、二人に声が掛けられた。
 すっかり馴染んできたようだ。
「ティアナちゃん! どこか行くの?」
「うん。今日は見学に行くんですよっ」
 話しかけてきた女生徒にティアナが答える。
 実に学生らしい姿だった。
「グレイ君! 今日は授業じゃないんだ。あ、大峡谷か」
「……ああ、ちょっと行ってくる」
 こちらも女生徒だった。グレイが微笑みながら答える。
 すごいよな。こっちも学生らしく見える……馴染むものだ。
 人は適応するんだなぁ……。
 ああ、多分成長はしていない。今も何一つ理解していないはずだ。
 何なら一日目に暗記した台詞はすでに頭の中にないだろう。
 グレイ、お前ちょっとモテ始めてるじゃねーか。
 女生徒を眺めながら、俺は考える。
 実際『統一学舎』の教師陣からも評価が高い。
 転入の話があるかも、ということだ。恐ろしい。
 ちょうど教師がグレイに話しかけていた。
 快活にグレイの肩を叩く。
「今までの交流会で、最高の生徒だって評判だぞ!」
「……ありがとうございます」
 グレイが微笑んで、頷きを返す。
 何度も言うが『その二、話しかけられたら、笑って頷け』である。
 すげーな、ナタリー。お前のハリボテは最強だ。
 だって『王立学院』始まって以来の落ちこぼれと呼ばれた俺たちだぞ。
 ……座学は捨てた。ペンは剣よりも重し。
 入学時点が最高学力。軽量化の重要性。
 全て同級生が俺たちを表した言葉だ。
 全部悪口じゃねえか……誰が脳みそ空っぽだよ。
 最低を最高に見せれば、ハリボテとしては最強だろ。
 ……どんな気持ちで笑ってるんだろうな?
 評価が過大すぎて、ハリボテは少し引き攣っているように見えた。
 しばらく馬車に揺られて、大峡谷を目指す。
 その名の通り、大きな崖を意味している。
 エイク市を南に小一時間ほども走ると、エルフの森がある。
 森を越えた先にはまるで大きな穴でも空いたような峡谷が広がっているのだ。
 王国のターナー公爵領から連合に入れないのはこの峡谷があるからだ。
 王国からすれば、広大な峡谷をどうにか越えた後、ハーフエルフと連合のどちらも敵に回すことになる。
 ただし、連合側からも攻めることが難しい。
 公爵家の軍は精強な上、峡谷は常に南から北へと強風が吹いていて、連合からでは峡谷を越えること自体の労力が大きい。
 交流会ということで『王立学院』の生徒はこの峡谷を見学する。
 ひとまずは峡谷手前のエルフの森までは辿り着いた。
 ……新国の領土ということになる。