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#28-monster children-

ー/ー



「お姉ちゃん!ゆー君にもっとしっかり噛んで食べるように言って!」
 食事毎に私と弟の間でこやぎが不満を漏らす光景が日課になりつつある中、今日も勝手に妹になった彼女は食卓でただ一人にしか聞こえない叫びをあげる。 黒山羊の伝承の主人公が子供であったことこから栄養となる咀嚼音の吸収効率は大人よりも同じ子供からの方が格段によろしいらしく、まだ小学生の弟のたてる音が彼女にとって最高の栄養源だそうだ。 最初は本人の周りをうろちょろしながら届かない要求をするだけだったのだが、やはり届けたい本人に聞こえないというのはもどかしいらしく結局私から伝えるようせがむようになってしまった。 母上はそれに答えて注意する姿を見て何故か喜んでいたものの、此方としては同じ事を注意し続けることで弟からうざがられ嫌われてしまう事を危惧している為、正月明けからは無視している。
「いいの?このままじゃゆー君馬鹿になっちゃうよ?手遅れになってから泣きついても手遅れなんだからね!」
 食事を終え部屋に戻ると自称妹は何処で学んだのか内容の薄い文句をぶつけてくる。 ここの所は先日の様に栄養失調にならぬよう定期的に食事イベントが起こることが確定している居間で待機し寛いでいるため、きっとテレビからいらぬ知恵を得てしまったのだろう。 よく噛むことで脳が刺激されて頭が良くなるというよく聞く話からの連想で、逆に咀嚼回数が少なければ馬鹿になると考えたのかもしれない。この噂の真偽は不明だがよく噛んで食べるということ自体は体や胃にいいというのは確かなので否定するのも憚られ、取り合えずわかったわかったといなしておいた。
「本当にみんなには見えないんだね。」「それはそうだよ。ちび塚みたいに受肉してたらともかく、僕は伝承から産まれたイメージみたいなもんだし。受肉できたら自分で食べるだけで最低限の栄養賄えるのになー。」「ふと思ったんだけど受肉ってどういう風にするものなの?伝承がもっと広まるとか?」「それでもいいんだけど、もっと簡単にも出来る方法もあるよ。生贄とか。」
 先程までのベッドの上で駄々をこねてじたばたする子供らしい仕草からは想像もつかない物騒な単語が飛び出てきた。
「生贄って大昔に流行った神様に人間を奉げるってやつ?そんなの無理に決まってんじゃん。」「ちび塚の産まれた時代なら僕も当たり前に受肉できたのになー。でもでも姉さんから聞いた噂だけど今でもアステカのお祭りならやってるみたいだし、それに参加できたらすぐに身体もてるかも。お姉ちゃん、次の長い休みはちょっと海外旅行いこうよ!」
 無理に決まってると一蹴し、万が一受肉したら家から追い出すと繋げるとじゃあいいやと大人しく引き下がられる。 受肉の優先度はその程度なのかと思いつつあの少年が肉体を持った経緯なんて考えたこともなかった事に気が付いた。 もしかすると過去は神の様に崇められていた時期もあったりしたのだろうか。 彼の仕事柄かもしれないが面倒見も良いように思うし何となく想像できるが、であれば奉げられた子供の身体はどのような経緯で彼のものとなったのだろうという所で知ってしまえば何か彼との関係が変わってしまいそうな予感があり、思考を止め聞くのもやめておこうと思った。
 ところ変わって土曜日の昼過ぎ。 現在ストライキ中と看板の掛かる固く閉ざされた図書館の黒壇扉の前で友人と二人、中に何と声を掛ければよいものかと思案している。 扉の前に仁王立ちして悩む私をよそにくれ縁に座って庭を眺め、こんなに見事なお庭を前にゆっくりしないと勿体ないとでも言わんばかりに先ほど貰ったばかりのまだ熱いお茶缶を嗜める冬華が羨ましい。 ここに来るまでに駅前にある学生御用達の斯波カレー専門店で食事をしながら軽く相談をし、面識もないしどんな人か分からないからからあなたに任せるわと一任されてしまい一人で考えながら坂を登り始めたのだが、たっぷり悩む時間はあったものの結局何といえばいいのか分からないまま目的地へと到着してしまったのだ。
 いつもの様に少年を呼び斑さんの様子を聞いてもみたのだが、期待してはいなかったがやはりあれ以来顔を見ていないという事で、彼女の心境を知る者はおらず手がかりは私の中のイメージだけとなる。 もしかして開いてやしないかと彫刻の施された黒い扉の丸ノブを回そうと試みてみるのだが、流石にそれで開くようなことは無くとりあえずノックをしてみようと見慣れぬ金具に手を掛ける。ドアの中心、だいだい目の高さの位置に付けられている獅子に咥えられた輪っかは、使ったことは無いが確かドアノッカーという名前だったろうか。 指を掛ける様に持ち上げこんこんと軽く叩いてみるがこれで本当にあの広い空間に響き渡り、彼女の耳に届いているのだろうかと戸惑いつつ待つが中からの反応はない。
「流石に弱すぎるんじゃない?ドラマなんかではもっと強く叩きつけてたと思うのだけれど。」「そうかな、そうかも。」
 人生初めての金属製手動ノックなので力の加減が分からなかったのだが、やはりはた目にも弱すぎたらしい。 ここは思い切ってやるしかないと握りしめ、輪の当たるところに取りつけられている受け金具めがけて思い切り打ち付ける。 目の前の金具から爆音が、少し遅れて中からもバアァンと反響したような音が返って来てこれなら聞こえそうだともう一度同じくらいの力で打ち付ける。
「あなたそれは流石に。加減というものを知りなさいよ。」
 背の向こうから恐らく目を真ん丸に見開いて呆れ声を挙げている友人の声がしたが、少なくとも目の前の金獅子は壊れていないのでこれ位の力なら問題ないと思う。 依然として中の様子は分からないしそもそも在宅でない可能性すらあるのだが、こうなってくると元のここを訪れた理由よりもドアノッカーがどの程度まで大きな音が出せるのかを試してみたくなってきた。 なおもドアは開く様子がないので先程以上の轟音を響かせるべく軽く腕を回して準備運動をし、筋肉達に心の中で呼びかけながら腹の底から息を吐きだしつつ金の輪を握る。
「来客には気づいてるし今直ぐ開くから、ゆっくりその手を放すんだ。いいね?」
 ドアの向こうからではなく頭の横あたりからした声がしたのでよくよく見てみると、壁に溶け込むようにした同色のスピーカー取り付けられていた。今まで気づかなかったがその横には小さなカメラも取り付けられており、どうやら中からこれで来客の様子を伺っていたようだ。 カメラやスピーカーを付けるなら素直にインターホンにすればいいのにと思いつつ輪から手を離すと、それを見計らったかのように鍵が開けられ扉が内側に開かれる。 そこに立っていたの当然斑さんだったのだが、少し着崩れているのと髪がぼさついていることでいつものシャキっとした印象から打って変わってだらしのない印象を受けた。
「ようこそ八玉図書館へ。本日は何用かな?」
 一先ず中へと通され管理人の後ろに付いてカウンターまでの長いカーペットを五分程進んだだろうか。ようやっとたどり着いたカウンターの内部に彼女は座ると、以前ここに初めて訪れた私へ向けた物と同じ文言を口にする。きっと新顔が居る場合は必ずこう言うと決めているのだろう。
「遅くなっちゃったんですけど、前に言ってた本好きの友達を連れてきました。」「なに気にしないでくれ給え。君たち人間にとっては一ヶ月という時間は長いかもしれないけれど、私達怪異にとってはほんの一瞬だからね。気に病むほどのことじゃないさ。」
 欠伸交じりに上機嫌を装って返答しているが流石に嘘だろう。 でなければ先日の二千五百文字に及ぶ質問に矛盾するしあれは何だったのかという話になる。 そんな私の思考など露知らず、この広い図書館の管理人は隣に立つ友人へ自己紹介をした。
「こんにちわお嬢さん。私は斑有子、この図書館の司書をしている者さ。質問があれば答えられる範囲でなら何でも答えるからね。その時は是非親しみを込めて斑さんとか有子さんと呼んでくれたまえ。なんならちゃん付けでも構わないよ、その方が印象づいて忘れ去られることが無くなりそうだからね。」「初めまして、マメの友人の羽曳野冬華です。早速なのですが、一つ質問してもよろしいですか?」
 確実に私への当てつけの言葉をおまけのようにつけた自己紹介に、友人が自身のそれを返すと同時にいきなりの質問をし始める。 台越しに司書はどうぞと手でカウンター席の椅子への着席を促し、私達が座ると改めて質問を聞く姿勢を取ったので、それに呼応するように冬華は質問内容を口に出した。
「先ほどご自身の事を話すときに私達怪異にとってと言っておられましたが、斑さんは何という怪異なんですか?」
 さらっと聞き流していたがそういえば私も知らないと視線を友人から前へ戻すと、いつの間にか目の前に珈琲が出されていた。 淹れたての証拠である黒い水面を撫でるような湯気の発つ珈琲に驚きつつ、添えられているミルクと砂糖を入れてスプーンで混ぜる。
「なかなかに鋭い質問だね羽曳野さん。私や塵塚のような古い世代に対して元を尋ねるのはマナー違反に当たる行為ではあるのだけれど、ここは一つ新人さんを迎え入れ居ついてもらう為にも広い心で受け入れ答えようじゃないか。」
 勿体付ける様に席を立ち、座った二人に見上げられる中、私から見ても長身の管理人は恭しく左手を腰の後ろへ隠し右手の指を揃えて胸の前へトンと置き、音吐朗々と自身の正体を明かしつつ、またしても当てつけの言葉を最後に付け加えたのだった。
「私は元は原初の一つ≪創造≫。隣のお嬢さんの様に忘れないでおくれよ?」


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「お姉ちゃん!ゆー君にもっとしっかり噛んで食べるように言って!」
 食事毎に私と弟の間でこやぎが不満を漏らす光景が日課になりつつある中、今日も勝手に妹になった彼女は食卓でただ一人にしか聞こえない叫びをあげる。 黒山羊の伝承の主人公が子供であったことこから栄養となる咀嚼音の吸収効率は大人よりも同じ子供からの方が格段によろしいらしく、まだ小学生の弟のたてる音が彼女にとって最高の栄養源だそうだ。 最初は本人の周りをうろちょろしながら届かない要求をするだけだったのだが、やはり届けたい本人に聞こえないというのはもどかしいらしく結局私から伝えるようせがむようになってしまった。 母上はそれに答えて注意する姿を見て何故か喜んでいたものの、此方としては同じ事を注意し続けることで弟からうざがられ嫌われてしまう事を危惧している為、正月明けからは無視している。
「いいの?このままじゃゆー君馬鹿になっちゃうよ?手遅れになってから泣きついても手遅れなんだからね!」
 食事を終え部屋に戻ると自称妹は何処で学んだのか内容の薄い文句をぶつけてくる。 ここの所は先日の様に栄養失調にならぬよう定期的に食事イベントが起こることが確定している居間で待機し寛いでいるため、きっとテレビからいらぬ知恵を得てしまったのだろう。 よく噛むことで脳が刺激されて頭が良くなるというよく聞く話からの連想で、逆に咀嚼回数が少なければ馬鹿になると考えたのかもしれない。この噂の真偽は不明だがよく噛んで食べるということ自体は体や胃にいいというのは確かなので否定するのも憚られ、取り合えずわかったわかったといなしておいた。
「本当にみんなには見えないんだね。」「それはそうだよ。ちび塚みたいに受肉してたらともかく、僕は伝承から産まれたイメージみたいなもんだし。受肉できたら自分で食べるだけで最低限の栄養賄えるのになー。」「ふと思ったんだけど受肉ってどういう風にするものなの?伝承がもっと広まるとか?」「それでもいいんだけど、もっと簡単にも出来る方法もあるよ。生贄とか。」
 先程までのベッドの上で駄々をこねてじたばたする子供らしい仕草からは想像もつかない物騒な単語が飛び出てきた。
「生贄って大昔に流行った神様に人間を奉げるってやつ?そんなの無理に決まってんじゃん。」「ちび塚の産まれた時代なら僕も当たり前に受肉できたのになー。でもでも姉さんから聞いた噂だけど今でもアステカのお祭りならやってるみたいだし、それに参加できたらすぐに身体もてるかも。お姉ちゃん、次の長い休みはちょっと海外旅行いこうよ!」
 無理に決まってると一蹴し、万が一受肉したら家から追い出すと繋げるとじゃあいいやと大人しく引き下がられる。 受肉の優先度はその程度なのかと思いつつあの少年が肉体を持った経緯なんて考えたこともなかった事に気が付いた。 もしかすると過去は神の様に崇められていた時期もあったりしたのだろうか。 彼の仕事柄かもしれないが面倒見も良いように思うし何となく想像できるが、であれば奉げられた子供の身体はどのような経緯で彼のものとなったのだろうという所で知ってしまえば何か彼との関係が変わってしまいそうな予感があり、思考を止め聞くのもやめておこうと思った。
 ところ変わって土曜日の昼過ぎ。 現在ストライキ中と看板の掛かる固く閉ざされた図書館の黒壇扉の前で友人と二人、中に何と声を掛ければよいものかと思案している。 扉の前に仁王立ちして悩む私をよそにくれ縁に座って庭を眺め、こんなに見事なお庭を前にゆっくりしないと勿体ないとでも言わんばかりに先ほど貰ったばかりのまだ熱いお茶缶を嗜める冬華が羨ましい。 ここに来るまでに駅前にある学生御用達の斯波カレー専門店で食事をしながら軽く相談をし、面識もないしどんな人か分からないからからあなたに任せるわと一任されてしまい一人で考えながら坂を登り始めたのだが、たっぷり悩む時間はあったものの結局何といえばいいのか分からないまま目的地へと到着してしまったのだ。
 いつもの様に少年を呼び斑さんの様子を聞いてもみたのだが、期待してはいなかったがやはりあれ以来顔を見ていないという事で、彼女の心境を知る者はおらず手がかりは私の中のイメージだけとなる。 もしかして開いてやしないかと彫刻の施された黒い扉の丸ノブを回そうと試みてみるのだが、流石にそれで開くようなことは無くとりあえずノックをしてみようと見慣れぬ金具に手を掛ける。ドアの中心、だいだい目の高さの位置に付けられている獅子に咥えられた輪っかは、使ったことは無いが確かドアノッカーという名前だったろうか。 指を掛ける様に持ち上げこんこんと軽く叩いてみるがこれで本当にあの広い空間に響き渡り、彼女の耳に届いているのだろうかと戸惑いつつ待つが中からの反応はない。
「流石に弱すぎるんじゃない?ドラマなんかではもっと強く叩きつけてたと思うのだけれど。」「そうかな、そうかも。」
 人生初めての金属製手動ノックなので力の加減が分からなかったのだが、やはりはた目にも弱すぎたらしい。 ここは思い切ってやるしかないと握りしめ、輪の当たるところに取りつけられている受け金具めがけて思い切り打ち付ける。 目の前の金具から爆音が、少し遅れて中からもバアァンと反響したような音が返って来てこれなら聞こえそうだともう一度同じくらいの力で打ち付ける。
「あなたそれは流石に。加減というものを知りなさいよ。」
 背の向こうから恐らく目を真ん丸に見開いて呆れ声を挙げている友人の声がしたが、少なくとも目の前の金獅子は壊れていないのでこれ位の力なら問題ないと思う。 依然として中の様子は分からないしそもそも在宅でない可能性すらあるのだが、こうなってくると元のここを訪れた理由よりもドアノッカーがどの程度まで大きな音が出せるのかを試してみたくなってきた。 なおもドアは開く様子がないので先程以上の轟音を響かせるべく軽く腕を回して準備運動をし、筋肉達に心の中で呼びかけながら腹の底から息を吐きだしつつ金の輪を握る。
「来客には気づいてるし今直ぐ開くから、ゆっくりその手を放すんだ。いいね?」
 ドアの向こうからではなく頭の横あたりからした声がしたのでよくよく見てみると、壁に溶け込むようにした同色のスピーカー取り付けられていた。今まで気づかなかったがその横には小さなカメラも取り付けられており、どうやら中からこれで来客の様子を伺っていたようだ。 カメラやスピーカーを付けるなら素直にインターホンにすればいいのにと思いつつ輪から手を離すと、それを見計らったかのように鍵が開けられ扉が内側に開かれる。 そこに立っていたの当然斑さんだったのだが、少し着崩れているのと髪がぼさついていることでいつものシャキっとした印象から打って変わってだらしのない印象を受けた。
「ようこそ八玉図書館へ。本日は何用かな?」
 一先ず中へと通され管理人の後ろに付いてカウンターまでの長いカーペットを五分程進んだだろうか。ようやっとたどり着いたカウンターの内部に彼女は座ると、以前ここに初めて訪れた私へ向けた物と同じ文言を口にする。きっと新顔が居る場合は必ずこう言うと決めているのだろう。
「遅くなっちゃったんですけど、前に言ってた本好きの友達を連れてきました。」「なに気にしないでくれ給え。君たち人間にとっては一ヶ月という時間は長いかもしれないけれど、私達怪異にとってはほんの一瞬だからね。気に病むほどのことじゃないさ。」
 欠伸交じりに上機嫌を装って返答しているが流石に嘘だろう。 でなければ先日の二千五百文字に及ぶ質問に矛盾するしあれは何だったのかという話になる。 そんな私の思考など露知らず、この広い図書館の管理人は隣に立つ友人へ自己紹介をした。
「こんにちわお嬢さん。私は斑有子、この図書館の司書をしている者さ。質問があれば答えられる範囲でなら何でも答えるからね。その時は是非親しみを込めて斑さんとか有子さんと呼んでくれたまえ。なんならちゃん付けでも構わないよ、その方が印象づいて忘れ去られることが無くなりそうだからね。」「初めまして、マメの友人の羽曳野冬華です。早速なのですが、一つ質問してもよろしいですか?」
 確実に私への当てつけの言葉をおまけのようにつけた自己紹介に、友人が自身のそれを返すと同時にいきなりの質問をし始める。 台越しに司書はどうぞと手でカウンター席の椅子への着席を促し、私達が座ると改めて質問を聞く姿勢を取ったので、それに呼応するように冬華は質問内容を口に出した。
「先ほどご自身の事を話すときに私達怪異にとってと言っておられましたが、斑さんは何という怪異なんですか?」
 さらっと聞き流していたがそういえば私も知らないと視線を友人から前へ戻すと、いつの間にか目の前に珈琲が出されていた。 淹れたての証拠である黒い水面を撫でるような湯気の発つ珈琲に驚きつつ、添えられているミルクと砂糖を入れてスプーンで混ぜる。
「なかなかに鋭い質問だね羽曳野さん。私や塵塚のような古い世代に対して元を尋ねるのはマナー違反に当たる行為ではあるのだけれど、ここは一つ新人さんを迎え入れ居ついてもらう為にも広い心で受け入れ答えようじゃないか。」
 勿体付ける様に席を立ち、座った二人に見上げられる中、私から見ても長身の管理人は恭しく左手を腰の後ろへ隠し右手の指を揃えて胸の前へトンと置き、音吐朗々と自身の正体を明かしつつ、またしても当てつけの言葉を最後に付け加えたのだった。
「私は元は原初の一つ≪創造≫。隣のお嬢さんの様に忘れないでおくれよ?」