第112話 オーディション終了後 意志確認と意思表示
ー/ー その後は淡々と配役発表が進められた。
時に静かに喜ぶ者。時に静かに悲しむ者。
そしてそれ以外の感情を抱く者。
それぞれの想いが激動して、配役発表は静かに幕を閉じた。
今後の予定や注意事項を部長の轟先輩が一通り話す。
俺は静かに、されど高揚しながら黙ってそれを聞いた。
ついに始まるんだ。
春大会は先輩たちとの最後の劇だし、後輩たちとの最初の劇だ。
そして何より、俺達の方向性を決める分水嶺になるだろう。
この高鳴りは喜びか恐怖か。
どちらでもよかった。
俺は今覚えている感覚を楽しんでいた。
喜びだろうが恐怖だろうが、みんなで劇を創るということが楽しみで仕方なかった。
「今日のところはこれで部活を終わりにします! 各人! 明日からの稽古に備えてしっかりと休むように!」
轟先輩の声が響き、解散となった。
さて、俺は何気なく斜め後ろにいる椎名の方を見た。
次にどう動くか話し合うだろうと思ったからだ。
しかし椎名は別の方向を見ていた。
何だ? と思い椎名の視線の先を向こうとしたとき、俺の名前を呼ぶ声がした。
「杉野―」
正面を見ると山路がいた。
俺は主役のことで何か言われると思い身構えた。
しかし山路はいつもの飄々と様子で立っていた。
「おう、どうした?」
「この後ちょっと残ってもらっていいー?」
ああ、みんなのいるところでは話づらいか。
そう思い、俺はすぐに承諾する。
「いいぞ」
「ありがとうー。みんなにも話は通してあるから―」
「みんな?」
あれ? 二人で話すんじゃないの?
てか、主役の話じゃないのか、これ。
不思議そうにしている俺を見てか、山路は落ち着いた笑顔で言った。
「うん。二年のみんなだよ―」
――――――――――――――
先輩たちと後輩たちが続々と帰っていく中、俺たち二年生は静かに教室に残っていた。
「すみません。お先に失礼します」
『お疲れ様です』
最後の一人、池本が帰り教室の扉を閉めた。
『…………』
俺たち七人はそれぞればらばらに立ち、沈黙していた。
……ああ、さすがの俺でも分かる。
これは良くない雰囲気だ。
そしてこれから良くないことが起こるのだろう。
確信めいた何かが俺の中で警告を出していた。
「みんな残ってくれてありがとうね―。なんか、みんなで集まるのなんて久しぶりだねー」
依然変わらずに山路は飄々とした態度で話す。
しかし、他のみんなの表情は硬かった。
この温度差は何だ?
「ねぇ山路。やっぱりさ――」
「これは必要なことだよ」
増倉が何かを言いかけたが、山路が遮った。
その言葉は力強く、何かを覚悟しているようだった。
重い空気の中で山路は続ける。
「僕もね。この部活が好きだよ。そりゃ、色々面倒くさいこともあるし、呆れることも多々あった。それでも今はこのメンバーでいることが当たり前に感じている」
俺は山路がなぜそんなことを言っているのか、分からなかった。
ただ哀愁漂うその雰囲気から、俺は嫌な予感がして堪らなかった。
「僕たちももう二年生だ。そろそろはっきりと部活のことを考えて、行動しないといけない時期に差し掛かった。だから明確にしとこうかなって」
「何を、かしら?」
椎名が山路に問うた。
それは疑問というより、分かっている問題の答え合わせのようだった。
「分かるはずだ。この演劇部の青春についてだよ」
青春。
山路の口からその言葉出ると思わなかった俺は驚いた。
同時にその意味を考える。
それってつまり――。
「椎名……と杉野は全国を目指すつもりなんでしょ?」
「つもりじゃないわ。目指すのよ」
山路の質問に、椎名はすぐに断言した。
ついに、いや今更かもしれないが椎名がみんなの前で明確に全国を目指すことを言った。
他のみんなは知っていたかのように特に反応はせず、山路と椎名を見守っていた。
山路が俺の方を見てきた。
さっきの問いの答えを俺にも聞いているのだろう。
「ああ、俺もそうだ」
少し震える声で俺は頷いた。
山路は満足そうに笑った。
「ありがとう……でもね。誰もがそれを望んでいるわけじゃないことも分かっているよね」
「ええ、それも覚悟の上よ」
「さすがだね」
少しの間が生まれた。
なんだ? この話の終着点はどこだ?
静けさの中、俺は必死に考える。
しかし答えが出ず、場が動く。
「じゃあ、望んでいない人はどうなるのかな?」
「それは……その人次第よ」
「なるほどね。でもそれじゃあ部活として不安定なんじゃないかな」
「不安定?」
「そう、一致団結できないのに全国を目指せるの?」
「……何が言いたいのかしら」
椎名が山路を睨む。
何だこの状況は。
山路は全国を目指すことに反対なのか?
だとしても、何かが変だ。
俺が違和感を覚える中、樫田が口を開いた。
「なぁ山路。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
「ごめんね樫田。前置きが長かったかな」
「いや、それはいいんだ。ただ山路、お前自身がまだ明確に言っていないだろ?」
「そうだったね」
樫田の言葉に山路は何かを納得した。
分かっているんだ。樫田は山路が何を言いたいか。
それだけじゃない。みんな何かを察しているから沈黙を保っているんだ。
ああくそ、俺だけがまた何も分かっていない。
拳を強く握るが、現実は何も変わらない。
そして山路は言う。
さらっと、いつものように飄然とした態度で。
「僕ね。春大会が終わったら部活を辞めることにしたよ」
第四章 完
時に静かに喜ぶ者。時に静かに悲しむ者。
そしてそれ以外の感情を抱く者。
それぞれの想いが激動して、配役発表は静かに幕を閉じた。
今後の予定や注意事項を部長の轟先輩が一通り話す。
俺は静かに、されど高揚しながら黙ってそれを聞いた。
ついに始まるんだ。
春大会は先輩たちとの最後の劇だし、後輩たちとの最初の劇だ。
そして何より、俺達の方向性を決める分水嶺になるだろう。
この高鳴りは喜びか恐怖か。
どちらでもよかった。
俺は今覚えている感覚を楽しんでいた。
喜びだろうが恐怖だろうが、みんなで劇を創るということが楽しみで仕方なかった。
「今日のところはこれで部活を終わりにします! 各人! 明日からの稽古に備えてしっかりと休むように!」
轟先輩の声が響き、解散となった。
さて、俺は何気なく斜め後ろにいる椎名の方を見た。
次にどう動くか話し合うだろうと思ったからだ。
しかし椎名は別の方向を見ていた。
何だ? と思い椎名の視線の先を向こうとしたとき、俺の名前を呼ぶ声がした。
「杉野―」
正面を見ると山路がいた。
俺は主役のことで何か言われると思い身構えた。
しかし山路はいつもの飄々と様子で立っていた。
「おう、どうした?」
「この後ちょっと残ってもらっていいー?」
ああ、みんなのいるところでは話づらいか。
そう思い、俺はすぐに承諾する。
「いいぞ」
「ありがとうー。みんなにも話は通してあるから―」
「みんな?」
あれ? 二人で話すんじゃないの?
てか、主役の話じゃないのか、これ。
不思議そうにしている俺を見てか、山路は落ち着いた笑顔で言った。
「うん。二年のみんなだよ―」
――――――――――――――
先輩たちと後輩たちが続々と帰っていく中、俺たち二年生は静かに教室に残っていた。
「すみません。お先に失礼します」
『お疲れ様です』
最後の一人、池本が帰り教室の扉を閉めた。
『…………』
俺たち七人はそれぞればらばらに立ち、沈黙していた。
……ああ、さすがの俺でも分かる。
これは良くない雰囲気だ。
そしてこれから良くないことが起こるのだろう。
確信めいた何かが俺の中で警告を出していた。
「みんな残ってくれてありがとうね―。なんか、みんなで集まるのなんて久しぶりだねー」
依然変わらずに山路は飄々とした態度で話す。
しかし、他のみんなの表情は硬かった。
この温度差は何だ?
「ねぇ山路。やっぱりさ――」
「これは必要なことだよ」
増倉が何かを言いかけたが、山路が遮った。
その言葉は力強く、何かを覚悟しているようだった。
重い空気の中で山路は続ける。
「僕もね。この部活が好きだよ。そりゃ、色々面倒くさいこともあるし、呆れることも多々あった。それでも今はこのメンバーでいることが当たり前に感じている」
俺は山路がなぜそんなことを言っているのか、分からなかった。
ただ哀愁漂うその雰囲気から、俺は嫌な予感がして堪らなかった。
「僕たちももう二年生だ。そろそろはっきりと部活のことを考えて、行動しないといけない時期に差し掛かった。だから明確にしとこうかなって」
「何を、かしら?」
椎名が山路に問うた。
それは疑問というより、分かっている問題の答え合わせのようだった。
「分かるはずだ。この演劇部の青春についてだよ」
青春。
山路の口からその言葉出ると思わなかった俺は驚いた。
同時にその意味を考える。
それってつまり――。
「椎名……と杉野は全国を目指すつもりなんでしょ?」
「つもりじゃないわ。目指すのよ」
山路の質問に、椎名はすぐに断言した。
ついに、いや今更かもしれないが椎名がみんなの前で明確に全国を目指すことを言った。
他のみんなは知っていたかのように特に反応はせず、山路と椎名を見守っていた。
山路が俺の方を見てきた。
さっきの問いの答えを俺にも聞いているのだろう。
「ああ、俺もそうだ」
少し震える声で俺は頷いた。
山路は満足そうに笑った。
「ありがとう……でもね。誰もがそれを望んでいるわけじゃないことも分かっているよね」
「ええ、それも覚悟の上よ」
「さすがだね」
少しの間が生まれた。
なんだ? この話の終着点はどこだ?
静けさの中、俺は必死に考える。
しかし答えが出ず、場が動く。
「じゃあ、望んでいない人はどうなるのかな?」
「それは……その人次第よ」
「なるほどね。でもそれじゃあ部活として不安定なんじゃないかな」
「不安定?」
「そう、一致団結できないのに全国を目指せるの?」
「……何が言いたいのかしら」
椎名が山路を睨む。
何だこの状況は。
山路は全国を目指すことに反対なのか?
だとしても、何かが変だ。
俺が違和感を覚える中、樫田が口を開いた。
「なぁ山路。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
「ごめんね樫田。前置きが長かったかな」
「いや、それはいいんだ。ただ山路、お前自身がまだ明確に言っていないだろ?」
「そうだったね」
樫田の言葉に山路は何かを納得した。
分かっているんだ。樫田は山路が何を言いたいか。
それだけじゃない。みんな何かを察しているから沈黙を保っているんだ。
ああくそ、俺だけがまた何も分かっていない。
拳を強く握るが、現実は何も変わらない。
そして山路は言う。
さらっと、いつものように飄然とした態度で。
「僕ね。春大会が終わったら部活を辞めることにしたよ」
第四章 完
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