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#23-monster children-

ー/ー



「音山羊こやぎです!これからしばらくの間お世話になります!よろしくお願いします!」
 帰宅早々居間に走り込んだ子供怪異が晩御飯の準備をする母に向かって元気に自己紹介をしているが、当然母には聞こえていないようで全くの無反応である。 結局ファミレスで衝撃の事実に気づいた後も軽く探索したのだが怪異の憑いていない家屋は見つからず、貴女の家に怪異が居なければ万事解決なのにねと言われ一か八かで自宅に戻ってみると、なんとも都合の良い事に我が家には怪異の姿が見当たらなかった為こうして家に無事招き入れる事が出来たのだった。 いつも通りにただいまを言いつつキッチンで水を飲む体でなおも一生懸命自己紹介を続けるこやぎを回収し、二階の自室の扉を閉める。 一先ずミッションコンプリートといった所だろうが、最寄り駅から自宅までの間に決めた約束を改めて確認した。
「いい、絶対にあたしとの約束守ってよ?」「そんなのわかってるってば。お姉ちゃんの家族って事は僕の家族でもあるんだし、変な事なんてしないよ。」
 最初の出会いが最悪だったので信用して良いものか怪しい気もするが、今日こうして一日共に過ごしてみた感じ私にも冬華にも何かをする様子などなく、むしろあの日の様子の方が異常だと思えるほどに大人しいものだったのだ。 食事後は目の届く範囲にいることを条件に手を放していたが、せわしなく人の間を縫う用に走っていたので何度か衝突もしていたもののぶつかられた相手は皆一様に何もない所で躓いた程度の反応しか示さず謝るこやぎの横をすっと通り抜けていたし、こういった自称は人間から見えていないだけで割とよくある事なのかもしれない。
 誰もこの子の影響下にいないので瞳に映ることは無く、仮に怪異であるこの子が何かしても世界の理とやらでいい具合に辻褄が合うよう改編されると分かってはいても緊張していたのだが、とりあえず先ほど母には見えていないことが確認できたので多少気は楽になった。 とはいえ先の事を考えるとやはりあまり家族に接触してほしくは無いので改めて念押ししておかなければならないだろう。
「変な事しないのは当たり前でしょ?あと絶対にこの部屋から出ないこと、わかった?」
 怪異の子供も人間の子供と同じく興味が移りやすいようで、生返事しつつ四つん這いで本棚へ移動し私の集めている漫画を引き出して取り読み始める姿にはため息しかでなかった。 まだ晩御飯まで少しあるので音山羊という物について改めて頭の中で纏めておこう。 塵塚邸でまたしても聞き覚えのない種族名を耳にしすぐさま辞典で調べた所、言い伝えが出来たのはどうやら三百年程前らしく、子守雀よりは古いが怪異の中では比較的新しい部類に入るらしい。 その内容も前者と同じく簡素な物で、とある村の子供が夜中に家の保存食を盗み食いしたところ親に音を聞かれており、卑しい者と思われない為に最近裏で飼い始めた山羊が食ったという苦しい嘘から産まれた怪異のようだ。 なんともくだらない話だが続く展開もありきたりで、それからというもの子供が盗み食いをしていないのにも関わらず部屋には夜な夜な租借音が響くようになったそうだが、その音は親には聞こえておらず子供は自分にだけ聞こえる音が恐ろしくてたまらなかった。ある日勇気を振り絞って音の正体を暴くべく音のする台所へ行ってみた所、そこには子供の嘘が作り上げた山羊の影のみが揺れ、床に落ちた食材を食んでいたのだという。これ以降その子供は嘘をつかなくなり、地方には嘘吐きの元には山羊がやって来て食べられてしまうという形に変化した言い伝えが残っているらしい。
 本に書かれていたのはそれだけだった。 何処にでもありそうな物語ではあったが肝心な事が抜けている、それは私が襲われる時にしていた話し声についての記述がさっぱり含まれていないことだ。 もちろん本に書いてあるのは産まれるに至った経緯でしかないので、それから音山羊が何処でどのように時を過ごしたのかは分からないわけだから、伝承が変化したように怪異の方も変化したのかもしれないなどと考えてもみるが、果たしてそんなことが起こりうるのか否かという事すら分からないのでここで思考を止めて本人に聞いてみることにした。
「こやぎって具体的に何をする怪異なの?」
 塵塚少年曰く、怪異とは最初の怪異達と八百万、そして所謂化け物まで人間の上位に存在する者を一括りにあらわした言葉で役割或いは起こす事象は千差万別らしく、スポンジ君を例にするなら美の神から産まれた清潔という概念、更に清潔や物といった概念と人間の思いから産まれた様々な怪異の中の一種という区分になるらしい。 説明を受ける私はもちろんスポンジ君本人もよく分かっていない風ではあったが、少なくとも自身の役割は分かっているそうで塵塚邸の流しに来た器達を洗っているらしい。 こき使われて可哀そうな気もするが、スポンジ君曰くそうしなければ存在が保てずただの物言わぬ物になるし、洗っている時の充実感と終えた後の達成感は何物にも代えがたいとのことで今の生活に何一つ文句はないそうだ。
 本題に戻るが音山羊こやぎはいったい何をするのだろうか。 少年曰く単体であれば何も危険はないそうだが、可愛い見た目をしているとはいえ一度耳をもがれているので本当に安心していいものかと今更ながら疑ってしまう。
「僕はね、音を出したり消したりするよ。」「音?」「うん。あっでも、音って言ってもおっきな音とかはできなくて、何かを食べたり飲んだりする時に出る音だけなんだけどね。」
 つまりスポンジ君がひたすら食器を洗うことに喜びを覚えているように、この子は咀嚼音を響かせたり吸音したりすることに生き甲斐を感じるということだろうか。 洗い物が終わったあとの一仕事終えた達成感なら理解できないでもないが、食事中のくちゃくちゃ音を食べて喜ぶというのは私の貧相な想像力では全く理解が及ばなかった。


 事が起きているのに気が付いたのは十二月三十日朝のことだ。 昨夜布団にくるまって眠りに就くまでは普通に話していたはずなのだが、ふいに目が覚めた午前七時、寝返りをうちカーテンの隙間から差し込む陽光に照らされたこやぎの顔を見て思考が停止する。 そこにあったのは活動的な内面を反映したような若さ弾ける張りと艶を持つもちもち肌ではなく、まるで死人のようにカサカサな土色の肌でその頬はゲッソリと痩せこけていたのだ。 気の抜けた声ならぬ声が出た後、何でとか嘘でしょとか一人呟き騒ぎながら赤みと水気を失った頬を叩いて起こそうとしても反応はなく嫌な予感がしながら口許に手を翳したり胸に耳を当ててみたところ、その表面から何とか生きている証を伝えきて安心したが、猶予は幾ばくも無いと思わせる程に弱くか細い心音と、浅すぎる呼吸から今すぐ何かしらの対策が必要な事は火を見るよりも明らかだった。
 休日ダイヤにイラつきながらいつもと違う電車に乗りいつもと同じ駅で降りる。 多くの母親達がそうするように腹の前に童女を括り付け、胸で窒息しないよう胸元から顔だけ覗かせるように配慮しつつ上からジャンバーを羽織ってここまで来たが、伝わってくる子供らしからぬ冷たさに半泣きになりながらひた走る。 息を切らせて駅北商店街を疾走しいつもの書店もどきの廃屋の戸を開こうと手を掛けるが、今日に限ってガタつくだけで開く気配はない。 最速で少年に会えると思って此処に来たが、よく考えてみれば一昨日の時点で年明けまでは来ないと言ってあったし、そもそもここは店であって家ではないので早朝から中に誰かがいる訳がないのだ。
 入り口から見えるバックヤードへ繋がる通路脇の扉を引けばその中には塵塚邸直通のエレベーターがあるのだが、入口の戸が開かなければ当然そこに至ることなど出来はしない。 仕方がないので心の中で謝りながら拳を振り上げ、戸の曇ったガラスをぶち割って鍵を開けるべく叩きつける。 大仰な音を立てながらガラス片が飛び散る事を覚悟していたのだが拳がガラス表面に当たった瞬間違和感があり、割れるどころか拳に返って来るはずの反作用すら存在せず、まるで何もぶつかっていないかのように戸はもちろん私の拳にも変化が無かった。 激しく動揺しながらも諦めきれず二度三度打ち付けたが結果は変わらず、このままでは埒が明かないので駅へ逆戻りし突き抜けレンタサイクルに跨った。 久しぶりに全力で発ち漕ぎし坂の上まで一息に上り詰め、そのままの勢いで塵塚邸の呼び鈴を鳴らす。 中で聞く以上に外でも大きな音が鳴っているのだが、しばらく待っても少年が出てくる気配はない。 イライラしながら祈るようにもう一度呼び鈴を押すと、恐らくいつものあの部屋からだろう今は手が離せんから勝手に上がれとくぐもった声が返ってきたので、案の定鍵のかかっていない引き戸を勢いよく開き、靴を脱ぎ捨てるようにしながら足音が家中に響き渡るのも気にせずドタドタと客間の襖を開け放った。
「塵塚君こやぎが、……あれ?」「見~上~げて~ごらん~♪」
 家電がなく行燈すら点いていないため朝らしく薄暗い部屋に目が慣れて来ても見えぬ姿に困惑していると、頭上から場違いなビブラートの歌声が聞こえてくる。 このノリこの部屋あの場所にいるのはアイツしかいない。
「ワテやで。」
 顔を上げると想像通り天井に磔にされている山川が、塵塚少年の声音を真似つつキリッとした顔で私の強張った表情を文字通り見下していた。


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 帰宅早々居間に走り込んだ子供怪異が晩御飯の準備をする母に向かって元気に自己紹介をしているが、当然母には聞こえていないようで全くの無反応である。 結局ファミレスで衝撃の事実に気づいた後も軽く探索したのだが怪異の憑いていない家屋は見つからず、貴女の家に怪異が居なければ万事解決なのにねと言われ一か八かで自宅に戻ってみると、なんとも都合の良い事に我が家には怪異の姿が見当たらなかった為こうして家に無事招き入れる事が出来たのだった。 いつも通りにただいまを言いつつキッチンで水を飲む体でなおも一生懸命自己紹介を続けるこやぎを回収し、二階の自室の扉を閉める。 一先ずミッションコンプリートといった所だろうが、最寄り駅から自宅までの間に決めた約束を改めて確認した。
「いい、絶対にあたしとの約束守ってよ?」「そんなのわかってるってば。お姉ちゃんの家族って事は僕の家族でもあるんだし、変な事なんてしないよ。」
 最初の出会いが最悪だったので信用して良いものか怪しい気もするが、今日こうして一日共に過ごしてみた感じ私にも冬華にも何かをする様子などなく、むしろあの日の様子の方が異常だと思えるほどに大人しいものだったのだ。 食事後は目の届く範囲にいることを条件に手を放していたが、せわしなく人の間を縫う用に走っていたので何度か衝突もしていたもののぶつかられた相手は皆一様に何もない所で躓いた程度の反応しか示さず謝るこやぎの横をすっと通り抜けていたし、こういった自称は人間から見えていないだけで割とよくある事なのかもしれない。
 誰もこの子の影響下にいないので瞳に映ることは無く、仮に怪異であるこの子が何かしても世界の理とやらでいい具合に辻褄が合うよう改編されると分かってはいても緊張していたのだが、とりあえず先ほど母には見えていないことが確認できたので多少気は楽になった。 とはいえ先の事を考えるとやはりあまり家族に接触してほしくは無いので改めて念押ししておかなければならないだろう。
「変な事しないのは当たり前でしょ?あと絶対にこの部屋から出ないこと、わかった?」
 怪異の子供も人間の子供と同じく興味が移りやすいようで、生返事しつつ四つん這いで本棚へ移動し私の集めている漫画を引き出して取り読み始める姿にはため息しかでなかった。 まだ晩御飯まで少しあるので音山羊という物について改めて頭の中で纏めておこう。 塵塚邸でまたしても聞き覚えのない種族名を耳にしすぐさま辞典で調べた所、言い伝えが出来たのはどうやら三百年程前らしく、子守雀よりは古いが怪異の中では比較的新しい部類に入るらしい。 その内容も前者と同じく簡素な物で、とある村の子供が夜中に家の保存食を盗み食いしたところ親に音を聞かれており、卑しい者と思われない為に最近裏で飼い始めた山羊が食ったという苦しい嘘から産まれた怪異のようだ。 なんともくだらない話だが続く展開もありきたりで、それからというもの子供が盗み食いをしていないのにも関わらず部屋には夜な夜な租借音が響くようになったそうだが、その音は親には聞こえておらず子供は自分にだけ聞こえる音が恐ろしくてたまらなかった。ある日勇気を振り絞って音の正体を暴くべく音のする台所へ行ってみた所、そこには子供の嘘が作り上げた山羊の影のみが揺れ、床に落ちた食材を食んでいたのだという。これ以降その子供は嘘をつかなくなり、地方には嘘吐きの元には山羊がやって来て食べられてしまうという形に変化した言い伝えが残っているらしい。
 本に書かれていたのはそれだけだった。 何処にでもありそうな物語ではあったが肝心な事が抜けている、それは私が襲われる時にしていた話し声についての記述がさっぱり含まれていないことだ。 もちろん本に書いてあるのは産まれるに至った経緯でしかないので、それから音山羊が何処でどのように時を過ごしたのかは分からないわけだから、伝承が変化したように怪異の方も変化したのかもしれないなどと考えてもみるが、果たしてそんなことが起こりうるのか否かという事すら分からないのでここで思考を止めて本人に聞いてみることにした。
「こやぎって具体的に何をする怪異なの?」
 塵塚少年曰く、怪異とは最初の怪異達と八百万、そして所謂化け物まで人間の上位に存在する者を一括りにあらわした言葉で役割或いは起こす事象は千差万別らしく、スポンジ君を例にするなら美の神から産まれた清潔という概念、更に清潔や物といった概念と人間の思いから産まれた様々な怪異の中の一種という区分になるらしい。 説明を受ける私はもちろんスポンジ君本人もよく分かっていない風ではあったが、少なくとも自身の役割は分かっているそうで塵塚邸の流しに来た器達を洗っているらしい。 こき使われて可哀そうな気もするが、スポンジ君曰くそうしなければ存在が保てずただの物言わぬ物になるし、洗っている時の充実感と終えた後の達成感は何物にも代えがたいとのことで今の生活に何一つ文句はないそうだ。
 本題に戻るが音山羊こやぎはいったい何をするのだろうか。 少年曰く単体であれば何も危険はないそうだが、可愛い見た目をしているとはいえ一度耳をもがれているので本当に安心していいものかと今更ながら疑ってしまう。
「僕はね、音を出したり消したりするよ。」「音?」「うん。あっでも、音って言ってもおっきな音とかはできなくて、何かを食べたり飲んだりする時に出る音だけなんだけどね。」
 つまりスポンジ君がひたすら食器を洗うことに喜びを覚えているように、この子は咀嚼音を響かせたり吸音したりすることに生き甲斐を感じるということだろうか。 洗い物が終わったあとの一仕事終えた達成感なら理解できないでもないが、食事中のくちゃくちゃ音を食べて喜ぶというのは私の貧相な想像力では全く理解が及ばなかった。
 事が起きているのに気が付いたのは十二月三十日朝のことだ。 昨夜布団にくるまって眠りに就くまでは普通に話していたはずなのだが、ふいに目が覚めた午前七時、寝返りをうちカーテンの隙間から差し込む陽光に照らされたこやぎの顔を見て思考が停止する。 そこにあったのは活動的な内面を反映したような若さ弾ける張りと艶を持つもちもち肌ではなく、まるで死人のようにカサカサな土色の肌でその頬はゲッソリと痩せこけていたのだ。 気の抜けた声ならぬ声が出た後、何でとか嘘でしょとか一人呟き騒ぎながら赤みと水気を失った頬を叩いて起こそうとしても反応はなく嫌な予感がしながら口許に手を翳したり胸に耳を当ててみたところ、その表面から何とか生きている証を伝えきて安心したが、猶予は幾ばくも無いと思わせる程に弱くか細い心音と、浅すぎる呼吸から今すぐ何かしらの対策が必要な事は火を見るよりも明らかだった。
 休日ダイヤにイラつきながらいつもと違う電車に乗りいつもと同じ駅で降りる。 多くの母親達がそうするように腹の前に童女を括り付け、胸で窒息しないよう胸元から顔だけ覗かせるように配慮しつつ上からジャンバーを羽織ってここまで来たが、伝わってくる子供らしからぬ冷たさに半泣きになりながらひた走る。 息を切らせて駅北商店街を疾走しいつもの書店もどきの廃屋の戸を開こうと手を掛けるが、今日に限ってガタつくだけで開く気配はない。 最速で少年に会えると思って此処に来たが、よく考えてみれば一昨日の時点で年明けまでは来ないと言ってあったし、そもそもここは店であって家ではないので早朝から中に誰かがいる訳がないのだ。
 入り口から見えるバックヤードへ繋がる通路脇の扉を引けばその中には塵塚邸直通のエレベーターがあるのだが、入口の戸が開かなければ当然そこに至ることなど出来はしない。 仕方がないので心の中で謝りながら拳を振り上げ、戸の曇ったガラスをぶち割って鍵を開けるべく叩きつける。 大仰な音を立てながらガラス片が飛び散る事を覚悟していたのだが拳がガラス表面に当たった瞬間違和感があり、割れるどころか拳に返って来るはずの反作用すら存在せず、まるで何もぶつかっていないかのように戸はもちろん私の拳にも変化が無かった。 激しく動揺しながらも諦めきれず二度三度打ち付けたが結果は変わらず、このままでは埒が明かないので駅へ逆戻りし突き抜けレンタサイクルに跨った。 久しぶりに全力で発ち漕ぎし坂の上まで一息に上り詰め、そのままの勢いで塵塚邸の呼び鈴を鳴らす。 中で聞く以上に外でも大きな音が鳴っているのだが、しばらく待っても少年が出てくる気配はない。 イライラしながら祈るようにもう一度呼び鈴を押すと、恐らくいつものあの部屋からだろう今は手が離せんから勝手に上がれとくぐもった声が返ってきたので、案の定鍵のかかっていない引き戸を勢いよく開き、靴を脱ぎ捨てるようにしながら足音が家中に響き渡るのも気にせずドタドタと客間の襖を開け放った。
「塵塚君こやぎが、……あれ?」「見~上~げて~ごらん~♪」
 家電がなく行燈すら点いていないため朝らしく薄暗い部屋に目が慣れて来ても見えぬ姿に困惑していると、頭上から場違いなビブラートの歌声が聞こえてくる。 このノリこの部屋あの場所にいるのはアイツしかいない。
「ワテやで。」
 顔を上げると想像通り天井に磔にされている山川が、塵塚少年の声音を真似つつキリッとした顔で私の強張った表情を文字通り見下していた。