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第三部 80話 新国の介入

ー/ー



「ニナさん。きっと森の入口近くに陣取ってるはず!」
「分かりました」

 ナタリーの言葉にニナが応じた。
 走り寄って来た帝国兵を斬り捨てて、ニナはさらに馬の速度を上げた。

 その後をナタリー、アリス、セシリー、ミアが続く。
 残っている帝国兵が慌ただしく走り回っている。

 ナタリーの考えでは森の近くに上層部が固まっているはずだった。
 急いでそこまで向かう必要がある。
 
「……!」
 
 そして――大きな広場に出た。視界が広がる。
 ナタリーには、ここが目的地だと直感できた。

「な、に?」
「……嘘でしょ」

 先頭を行くニナと、隣のアリスが呟いた。
 そこにいたのはすでに帝国軍ではなかった。

 見慣れない白銀の鎧を着た軍勢が軍服を着た帝国軍を殺し尽くしていた。
 非武装の上級士官たちが剣で裂かれ、槍で貫かれている様子に全員が眉をひそめる。

 ナタリーは内心で舌打ちを漏らしていた。
 ほとんど反射的だった。

 ――先を越された、と。



 そうして、一人のハーフエルフが森から姿を現した。
 いつの間にか、夕日は沈んでいた。

 やっと昇り始めた三日月は妙に大きくて。
 月光を浴びる短い金の髪、白く透明な肌はその舞台に良く映えた。
 
 紅玉のような赤い瞳。無機質にも思えるほど整った容姿。
 不吉にも思えるのに、その眼差しや微笑みは酷く穏やかだった。

 彼はナタリー達の方へと歩み寄る。
 その間も背後では帝国軍が掃討されている。
 だというのに、彼の足音が響いていた。

 阿鼻叫喚が聞こえない。
 場違いなくらいに静かだった。

 隣には男性が一人。こちらもハーフエルフだった。
 白いローブを纏い、一歩後ろを付いてくる。
 
 ナタリー達の前まで歩み寄ると、彼は口を開いた。
 
「俺はゼノ・イリオス。王国軍だな?」
「……新国の」

 それは『ハーフエルフの新国』の王だった。
 ニナが慌てて馬を降りて跪く。他のメンバーも続いた。

 王国と新国は親しいとは言えないが、一応は友好国としている。
 何せエルフの森全域を領土とするような連中だ。簡単に敵には回せない。

 友好国の王が目の前に現れたなら当然の対応だった。
 ……もちろん疑問はいくつもあったが。

「いや、危ないところだったな?」
「は?」

 ゼノの言葉にニナが首を傾げる。
 ナタリーが一人で奥歯を噛んだ。

「友好国である王国が攻め込まれているから救援に来たのだ」
「御冗談を。ここは王国の領土です。いくら友好国とはいえ……」

 ゼノの言わんとすることを理解して、ニナが首を横に振った。
 救援を理由にここまで侵入されては堪らない。

「何を言っている? この辺りは元々エルフの森だ。
 ならばここは我ら新国の領土だろう。こんなに伐採されているとは思わなかったよ」

 ナタリーが左を見れば、ミアが「そんな詭弁が通じるか」と言わんばかりに舌を出していた。
 しかし、それよりも早くゼノ自身が言葉を続ける。

「しかし、未だ正式な国境を定めていなかったのでね。
 王国の援軍に来たのだが、せっかくだから話し合っていこうか」

 そこで、一人の帝国兵がゼノへと飛び掛かった。
 隣の側近が対応しようとするが、それより早くゼノが応じる。

「風よ、吹き飛ばせ」

 帝国兵を見もせずに『命令』した。
 ナタリーの右隣でアリスが体をびくりと震わせた。

 次の瞬間、真上から吹き下ろされた強風で帝国兵は地面に叩きつけられた。
 頭を強打したのか、そのまま動かない。

 ナタリーはこの状況の意味を考える。
 もちろん言葉通りの意味ではないだろう。
 こんな時に領土問題が目的であるはずもない。

 ――やられた。
 ――これで新国は手柄を主張し始める。王国の危機を救ったと。
 ――事実として帝国の上層部を討ち取ったのはこいつらだ。
 ――あたしたちは間に合わなかったことにされる。
 ――捕虜を取って追い返す予定が新国に助けられた結果になる。
 
 そして大陸の勢力図が書き換わっていく。
 帝国に代わって、新国が大国の一つになろうとしていた。

 まだ夜は始まったばかりだった。



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「ニナさん。きっと森の入口近くに陣取ってるはず!」
「分かりました」
 ナタリーの言葉にニナが応じた。
 走り寄って来た帝国兵を斬り捨てて、ニナはさらに馬の速度を上げた。
 その後をナタリー、アリス、セシリー、ミアが続く。
 残っている帝国兵が慌ただしく走り回っている。
 ナタリーの考えでは森の近くに上層部が固まっているはずだった。
 急いでそこまで向かう必要がある。
「……!」
 そして――大きな広場に出た。視界が広がる。
 ナタリーには、ここが目的地だと直感できた。
「な、に?」
「……嘘でしょ」
 先頭を行くニナと、隣のアリスが呟いた。
 そこにいたのはすでに帝国軍ではなかった。
 見慣れない白銀の鎧を着た軍勢が軍服を着た帝国軍を殺し尽くしていた。
 非武装の上級士官たちが剣で裂かれ、槍で貫かれている様子に全員が眉をひそめる。
 ナタリーは内心で舌打ちを漏らしていた。
 ほとんど反射的だった。
 ――先を越された、と。
 そうして、一人のハーフエルフが森から姿を現した。
 いつの間にか、夕日は沈んでいた。
 やっと昇り始めた三日月は妙に大きくて。
 月光を浴びる短い金の髪、白く透明な肌はその舞台に良く映えた。
 紅玉のような赤い瞳。無機質にも思えるほど整った容姿。
 不吉にも思えるのに、その眼差しや微笑みは酷く穏やかだった。
 彼はナタリー達の方へと歩み寄る。
 その間も背後では帝国軍が掃討されている。
 だというのに、彼の足音が響いていた。
 阿鼻叫喚が聞こえない。
 場違いなくらいに静かだった。
 隣には男性が一人。こちらもハーフエルフだった。
 白いローブを纏い、一歩後ろを付いてくる。
 ナタリー達の前まで歩み寄ると、彼は口を開いた。
「俺はゼノ・イリオス。王国軍だな?」
「……新国の」
 それは『ハーフエルフの新国』の王だった。
 ニナが慌てて馬を降りて跪く。他のメンバーも続いた。
 王国と新国は親しいとは言えないが、一応は友好国としている。
 何せエルフの森全域を領土とするような連中だ。簡単に敵には回せない。
 友好国の王が目の前に現れたなら当然の対応だった。
 ……もちろん疑問はいくつもあったが。
「いや、危ないところだったな?」
「は?」
 ゼノの言葉にニナが首を傾げる。
 ナタリーが一人で奥歯を噛んだ。
「友好国である王国が攻め込まれているから救援に来たのだ」
「御冗談を。ここは王国の領土です。いくら友好国とはいえ……」
 ゼノの言わんとすることを理解して、ニナが首を横に振った。
 救援を理由にここまで侵入されては堪らない。
「何を言っている? この辺りは元々エルフの森だ。
 ならばここは我ら新国の領土だろう。こんなに伐採されているとは思わなかったよ」
 ナタリーが左を見れば、ミアが「そんな詭弁が通じるか」と言わんばかりに舌を出していた。
 しかし、それよりも早くゼノ自身が言葉を続ける。
「しかし、未だ正式な国境を定めていなかったのでね。
 王国の援軍に来たのだが、せっかくだから話し合っていこうか」
 そこで、一人の帝国兵がゼノへと飛び掛かった。
 隣の側近が対応しようとするが、それより早くゼノが応じる。
「風よ、吹き飛ばせ」
 帝国兵を見もせずに『命令』した。
 ナタリーの右隣でアリスが体をびくりと震わせた。
 次の瞬間、真上から吹き下ろされた強風で帝国兵は地面に叩きつけられた。
 頭を強打したのか、そのまま動かない。
 ナタリーはこの状況の意味を考える。
 もちろん言葉通りの意味ではないだろう。
 こんな時に領土問題が目的であるはずもない。
 ――やられた。
 ――これで新国は手柄を主張し始める。王国の危機を救ったと。
 ――事実として帝国の上層部を討ち取ったのはこいつらだ。
 ――あたしたちは間に合わなかったことにされる。
 ――捕虜を取って追い返す予定が新国に助けられた結果になる。
 そして大陸の勢力図が書き換わっていく。
 帝国に代わって、新国が大国の一つになろうとしていた。
 まだ夜は始まったばかりだった。