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第21話 雅子の推測2

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「それから、ぼくは仲里の横浜の家に行って、彼女のママとパパに手紙を見せた。パパは激怒してほっとけ!と言うけど、ほっとけない。それで、ママがヒメの友達に聞いて回ったりした。ぼくは仲里に、ぼくの高校の同期で茨木の大学の寮にいるんだけど、連絡して調べたけど、ヤツもよく知らない。どこに行ったのか、さっぱりわからない。木曜日も横浜に行ったけど、ぼくができることはなかったんだ」

「う~ん、なぜ手紙?直接会いたくなければ電話でいいじゃない?それで、家族には言わないで、なぜ明彦だけ?なんだろう。腑に落ちない。明彦、その手紙、私が見ても良い?見てみたい」
「いいよ。カバンに入っている」とサッサと立ち上がって、ダイニングに置いてあるカバンをゴソゴソ探している。ああ、彼、そういうプライベートな手紙を私みたいな立場の女に見せるのをためらわない。躊躇せずに見せようとする。これ、私を信頼してくれてるってことかな?なんか安心。

 彼が封筒を持ってきた。ピンクの可愛い封筒。中にピンクの便箋が入っていた。几帳面な字で黒のボールペンで書いてある。

『 明彦、

 まず、ゴメンナサイ。謝ります。
 去年の末から、私の大学進学のことで、明彦はいっぱい心配してくれて、それに答えられませんでした。2月、3月、私が入学試験をすっぽかして、さんざんにパパとママ、お兄ちゃんから非難されたのを、浪人したと思えばいいじゃないですか?来年、また試験を受ければいいことだし、今年は塾にでも通って過ごせばいいと、私をかばってくれました。うれしかった。私の味方は明彦だけだ、と思いました。
 だけど、以前にも明彦には言いましたが、私が大学に進学する意味がわからない、というのは明彦には認めてもらえませんでした。あくまで、あなたは私が大学に進むと決めていました。
 これだけ味方になってくれたのに、だんだん私の心は明彦から離れていきました。日曜日に、明彦、私にボーイフレンドができたら、キミ、どうする?と聞いたけど、真面目に受け取ってくれなかったよね?
 そう、私、ボーイフレンドができました。もう明彦にいろいろ言われるのはたくさん!好きな人ができたので明彦から逃げます!私にもう構わないで下さい。

 さよなら

 美姫』

「う~ん・・・」私は唸った。腑に落ちない。
「雅子、わかっただろう?ガミガミ勉強しろ、大学にいけと言うぼくにあいそがついて、ぼくより好きな男ができたから、もうぼくは要らない、ぼくの元から逃げますってことだよ」
「そうなのかなあ?」

 便箋の裏を引っくり返してみたが、何か書いてあるわけじゃない。ヒメはどこからこの封書を投函したんだろう?と思って封筒の消印を見る。『横浜中華街郵便局 XX.7.12』?

 今日は7月16日だから、7月12日は火曜日。明彦が千駄ヶ谷のアパートで封書を受け取ったのが水曜日。最後にヒメに会ったのが先週の日曜日、7月10日。その時、『ねえ、明彦、私にボーイフレンドができたら、キミ、どうする?』と明彦に聞いた・・・う~ん。

「私がヒメだったとしたら、3年も付き合って、いくら気持ちが離れてつつある彼氏でも、明彦みたいな優しいヤツは、別れたとしても彼女の味方であり続けるわよね?ボーイフレンド?ナンパするようなバカな不良もいるしね。ねえ、明彦、ヒメの実家の近くの郵便局ってどこかしら?」
「横浜共立の近くだから・・・唐沢、打越橋・・・山元町郵便局じゃないかな?」
「私、横浜の地理は知らないけど、中華街郵便局ってどこ?彼女の家から離れている?山元町郵便局から離れている?」
「中華街郵便局は、ずっと離れているよ。中華街の中の郵便局だな?彼女の家から歩いて30分以上かかる」

「なるほど。この封書の消印を見て。ヒメは中華街周辺のポストから投函したのよ。日付は7月12日の火曜日。ヒメがキミに会いに来たのが日曜日。その後、姿を消した。今日で6日経ってる。誰かの家に転がり込んでいる可能性がある。離れた場所にいることだってあるけど、投函した中華街周辺にいる可能性は高いと思わない?」

「だからと言って、ヒメが誰かの家、ボーイフレンドの部屋とかに転がり込んでいたとしても、両親ならともかく、ぼくがどうこうできる立場じゃない」
「私がヒメで、明彦を本当に嫌いになったら、こういう手紙の文章は書かない。両親にも伝えず、嫌いになった明彦にだけ手紙で知らせるなんてこともしない。可能性の話よ。それから、母親がヒメの友人に聞いて回ったとして、高校生、じゃないな、卒業した元高校生の友人が知っていたとしても正直に家出した友人のことを話すかしら?」
「仮定の話としてはあるかもしれないけど・・・」

「明彦、彼女の親しい友達を知らない?」
「二人、会ったことがある。一人は、高橋良子さん。もうひとりは坂下優子さん。高橋良子さんは、元生徒会長。真面目そうに見えるけど、実はワル。でも、ヒメには優しくて、ヒメのお目付け役みたいな女の子。美少女だよ。ぼくのアパートで予備校の帰りによく三人で受験勉強をしてたんだ」
「ふ~ん、なるほど。なんか怪しいけど・・・その二人の家を知ってる?」
「ああ、二人ともヒメの家の近くだ」
「電話番号とかわかるかしら?」
「ヒメのママに聞けばわかるよ。生徒名簿があるからね」
「そっか。今日、明彦、暇?私と横浜にデートに行かない?」
「別にいいけど、午後、伊勢佐木町のアトリエで絵を教える予定がある。1~3時くらいだけどね」

「あら?私もそのアトリエ、着いていって良い?明彦が何をしているのか、見てみたい」
「いいよ。でも何を雅子、企んでいる?」
「うん、そうね。私だったら、この手紙は、明彦に別れを言う手紙じゃない。SOS、私を探してって意図を込めた手紙だと思う。それで、友達の誰かに手がかりを残していると思う。だから、高橋良子さんの電話番号を聞いて、ヒメの件で会ってくれないか?と頼む。彼女にヒメの居所の心当たりを聞いてみる。別にやってみても問題があるわけじゃないでしょ?」
「なぜ?」
「女の勘よ。私は大学の先輩です、ってたまたま一緒って顔でついていく。女連れだから安心するでしょ?わかんないわよ。でも、何もしないよりもマシでしょ?」


※未成年の飲酒シーンが書かれてあります。
※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーンを含みます。
※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。


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《《20世紀のいつか、良子大学1、芳子大学1、明彦大学2、雅子大学3》》
「それから、ぼくは仲里の横浜の家に行って、彼女のママとパパに手紙を見せた。パパは激怒してほっとけ!と言うけど、ほっとけない。それで、ママがヒメの友達に聞いて回ったりした。ぼくは仲里に、ぼくの高校の同期で茨木の大学の寮にいるんだけど、連絡して調べたけど、ヤツもよく知らない。どこに行ったのか、さっぱりわからない。木曜日も横浜に行ったけど、ぼくができることはなかったんだ」
「う~ん、なぜ手紙?直接会いたくなければ電話でいいじゃない?それで、家族には言わないで、なぜ明彦だけ?なんだろう。腑に落ちない。明彦、その手紙、私が見ても良い?見てみたい」
「いいよ。カバンに入っている」とサッサと立ち上がって、ダイニングに置いてあるカバンをゴソゴソ探している。ああ、彼、そういうプライベートな手紙を私みたいな立場の女に見せるのをためらわない。躊躇せずに見せようとする。これ、私を信頼してくれてるってことかな?なんか安心。
 彼が封筒を持ってきた。ピンクの可愛い封筒。中にピンクの便箋が入っていた。几帳面な字で黒のボールペンで書いてある。
『 明彦、
 まず、ゴメンナサイ。謝ります。
 去年の末から、私の大学進学のことで、明彦はいっぱい心配してくれて、それに答えられませんでした。2月、3月、私が入学試験をすっぽかして、さんざんにパパとママ、お兄ちゃんから非難されたのを、浪人したと思えばいいじゃないですか?来年、また試験を受ければいいことだし、今年は塾にでも通って過ごせばいいと、私をかばってくれました。うれしかった。私の味方は明彦だけだ、と思いました。
 だけど、以前にも明彦には言いましたが、私が大学に進学する意味がわからない、というのは明彦には認めてもらえませんでした。あくまで、あなたは私が大学に進むと決めていました。
 これだけ味方になってくれたのに、だんだん私の心は明彦から離れていきました。日曜日に、明彦、私にボーイフレンドができたら、キミ、どうする?と聞いたけど、真面目に受け取ってくれなかったよね?
 そう、私、ボーイフレンドができました。もう明彦にいろいろ言われるのはたくさん!好きな人ができたので明彦から逃げます!私にもう構わないで下さい。
 さよなら
 美姫』
「う~ん・・・」私は唸った。腑に落ちない。
「雅子、わかっただろう?ガミガミ勉強しろ、大学にいけと言うぼくにあいそがついて、ぼくより好きな男ができたから、もうぼくは要らない、ぼくの元から逃げますってことだよ」
「そうなのかなあ?」
 便箋の裏を引っくり返してみたが、何か書いてあるわけじゃない。ヒメはどこからこの封書を投函したんだろう?と思って封筒の消印を見る。『横浜中華街郵便局 XX.7.12』?
 今日は7月16日だから、7月12日は火曜日。明彦が千駄ヶ谷のアパートで封書を受け取ったのが水曜日。最後にヒメに会ったのが先週の日曜日、7月10日。その時、『ねえ、明彦、私にボーイフレンドができたら、キミ、どうする?』と明彦に聞いた・・・う~ん。
「私がヒメだったとしたら、3年も付き合って、いくら気持ちが離れてつつある彼氏でも、明彦みたいな優しいヤツは、別れたとしても彼女の味方であり続けるわよね?ボーイフレンド?ナンパするようなバカな不良もいるしね。ねえ、明彦、ヒメの実家の近くの郵便局ってどこかしら?」
「横浜共立の近くだから・・・唐沢、打越橋・・・山元町郵便局じゃないかな?」
「私、横浜の地理は知らないけど、中華街郵便局ってどこ?彼女の家から離れている?山元町郵便局から離れている?」
「中華街郵便局は、ずっと離れているよ。中華街の中の郵便局だな?彼女の家から歩いて30分以上かかる」
「なるほど。この封書の消印を見て。ヒメは中華街周辺のポストから投函したのよ。日付は7月12日の火曜日。ヒメがキミに会いに来たのが日曜日。その後、姿を消した。今日で6日経ってる。誰かの家に転がり込んでいる可能性がある。離れた場所にいることだってあるけど、投函した中華街周辺にいる可能性は高いと思わない?」
「だからと言って、ヒメが誰かの家、ボーイフレンドの部屋とかに転がり込んでいたとしても、両親ならともかく、ぼくがどうこうできる立場じゃない」
「私がヒメで、明彦を本当に嫌いになったら、こういう手紙の文章は書かない。両親にも伝えず、嫌いになった明彦にだけ手紙で知らせるなんてこともしない。可能性の話よ。それから、母親がヒメの友人に聞いて回ったとして、高校生、じゃないな、卒業した元高校生の友人が知っていたとしても正直に家出した友人のことを話すかしら?」
「仮定の話としてはあるかもしれないけど・・・」
「明彦、彼女の親しい友達を知らない?」
「二人、会ったことがある。一人は、高橋良子さん。もうひとりは坂下優子さん。高橋良子さんは、元生徒会長。真面目そうに見えるけど、実はワル。でも、ヒメには優しくて、ヒメのお目付け役みたいな女の子。美少女だよ。ぼくのアパートで予備校の帰りによく三人で受験勉強をしてたんだ」
「ふ~ん、なるほど。なんか怪しいけど・・・その二人の家を知ってる?」
「ああ、二人ともヒメの家の近くだ」
「電話番号とかわかるかしら?」
「ヒメのママに聞けばわかるよ。生徒名簿があるからね」
「そっか。今日、明彦、暇?私と横浜にデートに行かない?」
「別にいいけど、午後、伊勢佐木町のアトリエで絵を教える予定がある。1~3時くらいだけどね」
「あら?私もそのアトリエ、着いていって良い?明彦が何をしているのか、見てみたい」
「いいよ。でも何を雅子、企んでいる?」
「うん、そうね。私だったら、この手紙は、明彦に別れを言う手紙じゃない。SOS、私を探してって意図を込めた手紙だと思う。それで、友達の誰かに手がかりを残していると思う。だから、高橋良子さんの電話番号を聞いて、ヒメの件で会ってくれないか?と頼む。彼女にヒメの居所の心当たりを聞いてみる。別にやってみても問題があるわけじゃないでしょ?」
「なぜ?」
「女の勘よ。私は大学の先輩です、ってたまたま一緒って顔でついていく。女連れだから安心するでしょ?わかんないわよ。でも、何もしないよりもマシでしょ?」
※未成年の飲酒シーンが書かれてあります。
※この物語は性描写や飲酒、喫煙シーンを含みます。
※この物語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。