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第三部 32話 創世記

ー/ー



 俺は学院の図書室へと足を踏み入れた。

「何で俺がこんなところに……」
「図書室を『こんなところ』って言う人間がこの世にいるのね」
 頭の上でエルが呟いた。余計なお世話だ。

 エルが図書室を見てみたいと言い出したのだ。狐のくせに。
 ぺち、と尻尾が俺の首筋を叩いた。何も言ってないぞ!?

 エルが俺の頭上から本棚を物色していく。

「あれが良い」
 エルの声に従って、本を取ってやる。

 近くの机の上に置いてやった。
 エルが女生徒の姿に化けて、本を読み始めた。

 本を取ってくることが難しいらしい。
 まぁ、実体は狐だからな。

 そうなると、俺は暇になった。

 かと言って放っておくのは駄目だろう。
 勉強するなんて論外である。また、読書などという苦行もしない。
 
 ティアナが聞いたら、冷たい視線を向けそうだと思った。
 それが原因というわけではないが、せめて本棚を物色する。

 しかし目的は散歩だ。ぶらぶらと適当に歩き回る。
 一応、本の題名だけ眺めていた。どれもこれも難しそうな題名だった。

「!?」
 思わず足を止めた。見覚えのある題名があったのだ。

 その本の題名は『創世記』とあった。
 それは『アッシュ・クレフ』が死ぬ前に『白鬼』が読んでいた本だった。

 ――対話を選んで頂いたことへの誠意として、せめてヒントを。
 ――ええ、そうです。この本が面白くて。

 すっかり忘れていたが、重要な情報があるかもしれない。
 俺は震える手で『創世記』を手に取った。



 神は三種のヒトを生み出した。

 一つはエルフ。
 彼は知性に優れ、魔力を生成して魔法を扱った。
 
 一つはドワーフ。
 彼は技術に優れ、多種多様なスキルを持った。

 一つは人間。
 彼らは変化に優れ、子を成して増えることが出来た。

 残りは失敗作だった。



 ページをめくる。
 そこには挿絵があった。

 耳の尖った男性がエルフだろう。
 背が低くて体格の良い男性がドワーフ。
 男女一組で描かれているのが人間か。

「……これは」
 挿絵の端に描かれている姿が気になった。

 赤、青、白、黒。
 それぞれの色で異形が描かれている。
 
 ――その姿は『鬼』のように見えた。

 俺はさらにページをめくる。



 神は「各々が繁栄を目指すように」と言った。
 地上に降り立った彼らは神の命令に従った。

 エルフは魔法の研鑽を極めた。
 ドワーフはさらに多くのスキルを修めた。
 人間は生と死を繰り返して数を増やした。

 やがてエルフやドワーフと人間が交わり、ハーフエルフとハーフドワーフが生まれた。
 彼らはそれぞれの長所を併せ持っていた。

 最初、エルフとドワーフは人間を侮っていた。
 不老の彼らと違って、人間たちは少し時間が経てば死んだからだ。

 時間が経てば死ぬのだから放っておけば全滅するだろう、と。
 しかし、急速に数を増やしていく人間に脅威を感じるようになった。

 百年も経てば、確かに人間は死んだ。
 ただし、その何倍もの別の人間が生まれていた。

 そこでエルフとドワーフは手を組んで、人間へと戦いを挑んだ。
 失敗作も巻き込んで、人間に宣戦布告したのだ。

 死闘の末、勝利したのは人間だった。
 血が混ざり、人間は魔法とスキルを手に入れていたのだ。

 不老であるエルフとドワーフは死んだ。
 失敗作も命数を使い切った。

 そうして、この世は人間のものとなったのである。



「命数……」
 他にも気になることは数えきれないほどにある。
 だが、この単語はあまりにも重要に思えた。

 ――二代目赤鬼。
 ――赤と青と白。一枚ずつやるよ。

「あと、いくつあるんだ?」
 それが重要だった。

 間違いない。鬼は失敗作だ。
 しかし、この事実を知っている味方はいない。

 そうか。だから『白鬼』はヒントを出したんだ。
 伝える隙を与えずに殺すから。どうせ死ぬから。

 その『リスク』が誠意だったんだ。
 きっと、これは大きなアドバンテージだ。



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 俺は学院の図書室へと足を踏み入れた。
「何で俺がこんなところに……」
「図書室を『こんなところ』って言う人間がこの世にいるのね」
 頭の上でエルが呟いた。余計なお世話だ。
 エルが図書室を見てみたいと言い出したのだ。狐のくせに。
 ぺち、と尻尾が俺の首筋を叩いた。何も言ってないぞ!?
 エルが俺の頭上から本棚を物色していく。
「あれが良い」
 エルの声に従って、本を取ってやる。
 近くの机の上に置いてやった。
 エルが女生徒の姿に化けて、本を読み始めた。
 本を取ってくることが難しいらしい。
 まぁ、実体は狐だからな。
 そうなると、俺は暇になった。
 かと言って放っておくのは駄目だろう。
 勉強するなんて論外である。また、読書などという苦行もしない。
 ティアナが聞いたら、冷たい視線を向けそうだと思った。
 それが原因というわけではないが、せめて本棚を物色する。
 しかし目的は散歩だ。ぶらぶらと適当に歩き回る。
 一応、本の題名だけ眺めていた。どれもこれも難しそうな題名だった。
「!?」
 思わず足を止めた。見覚えのある題名があったのだ。
 その本の題名は『創世記』とあった。
 それは『アッシュ・クレフ』が死ぬ前に『白鬼』が読んでいた本だった。
 ――対話を選んで頂いたことへの誠意として、せめてヒントを。
 ――ええ、そうです。この本が面白くて。
 すっかり忘れていたが、重要な情報があるかもしれない。
 俺は震える手で『創世記』を手に取った。
 神は三種のヒトを生み出した。
 一つはエルフ。
 彼は知性に優れ、魔力を生成して魔法を扱った。
 一つはドワーフ。
 彼は技術に優れ、多種多様なスキルを持った。
 一つは人間。
 彼らは変化に優れ、子を成して増えることが出来た。
 残りは失敗作だった。
 ページをめくる。
 そこには挿絵があった。
 耳の尖った男性がエルフだろう。
 背が低くて体格の良い男性がドワーフ。
 男女一組で描かれているのが人間か。
「……これは」
 挿絵の端に描かれている姿が気になった。
 赤、青、白、黒。
 それぞれの色で異形が描かれている。
 ――その姿は『鬼』のように見えた。
 俺はさらにページをめくる。
 神は「各々が繁栄を目指すように」と言った。
 地上に降り立った彼らは神の命令に従った。
 エルフは魔法の研鑽を極めた。
 ドワーフはさらに多くのスキルを修めた。
 人間は生と死を繰り返して数を増やした。
 やがてエルフやドワーフと人間が交わり、ハーフエルフとハーフドワーフが生まれた。
 彼らはそれぞれの長所を併せ持っていた。
 最初、エルフとドワーフは人間を侮っていた。
 不老の彼らと違って、人間たちは少し時間が経てば死んだからだ。
 時間が経てば死ぬのだから放っておけば全滅するだろう、と。
 しかし、急速に数を増やしていく人間に脅威を感じるようになった。
 百年も経てば、確かに人間は死んだ。
 ただし、その何倍もの別の人間が生まれていた。
 そこでエルフとドワーフは手を組んで、人間へと戦いを挑んだ。
 失敗作も巻き込んで、人間に宣戦布告したのだ。
 死闘の末、勝利したのは人間だった。
 血が混ざり、人間は魔法とスキルを手に入れていたのだ。
 不老であるエルフとドワーフは死んだ。
 失敗作も命数を使い切った。
 そうして、この世は人間のものとなったのである。
「命数……」
 他にも気になることは数えきれないほどにある。
 だが、この単語はあまりにも重要に思えた。
 ――二代目赤鬼。
 ――赤と青と白。一枚ずつやるよ。
「あと、いくつあるんだ?」
 それが重要だった。
 間違いない。鬼は失敗作だ。
 しかし、この事実を知っている味方はいない。
 そうか。だから『白鬼』はヒントを出したんだ。
 伝える隙を与えずに殺すから。どうせ死ぬから。
 その『リスク』が誠意だったんだ。
 きっと、これは大きなアドバンテージだ。