友情の指輪と新しい仲間
ー/ー
旅はそれまでとは比べ物にならないほど危険なものになった。危険な場所危険な場所と歩いているような感じで朝昼晩と毎日それぞれ一回ずつ、敵と遭遇するというスリリングな冒険になった。狩りをしていても射抜いた獲物を狼に喰われたり、危険を避けるつもりで立ち寄った村で寝込みを襲われるなど散々だった。
極め付けはゴブリンの一団による襲撃だ。
晴天の草原を歩いていた四人の前に、十数体のゴブリンが突如として釘を打ち付けた棍棒を振り回して襲ってくる。ツグミが仲間の周りの空気を魔法で壁のように硬くする「障壁」の呪文を唱える。けれど、ツグミの魔法で作った空気の壁はレンガのようなもので、壊す事が出来る。ゴブリンたちは、棍棒で壁を壊してくる。爪で引っ掻き削ってくる。障壁の空いた穴にトキが矢を射かけたのだが、ゴブリンたちは逃げるどころか恐れも知らずに突撃してくる。
「逃げましょう」
ツグミはセッカやトキに守られながら「加速」の呪文を仲間にかけると、四人は一斉に走り出す。ゴブリンたちはトキの矢やセッカたちの攻撃でほとんどが怪我をしていたし、加速の魔法でいつもの二倍以上の速さで動けるようになっていた四人はなんとかゴブリンたちを振り切って、森の中の泉のほとりまで逃げてくる事が出来た。
「どういう事? ゴブリンってあんなに狂暴だった?」
まだ肩で息をしているツグミが、苦しそうに言う。
「確かにおかしい。ゴブリンはいたずら好きだが小心な性格だ。最初の呪文で逃げ出したっていいくらいなのに、怪我も構わず襲ってくるなんて尋常じゃない」
「それだけじゃないど、トキ。ゴブリンは土の妖精の中でも夜行性の部類だから、こんな天気のいい日に草原を歩いている事自体、おかしいんだな」
「ーってことは、誰かに操られていた?」
セッカの一言で、トキもノスリもツグミを振り返る。
「ありえるわ。ゴブリンやオークは低能な種族だから、魔法で操るのは案外簡単よ。ただ、一度にあんな数操れるなんて、よっぽどの魔術師ね」
セッカは不思議に思った。
「でも、もし、闇の魔術師の仕業だとして、どうして僕ら襲われたの?」
「君たちが、オオジュリンの野望を阻止しようとしているからだろ?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
四人が辺りを見回すと、泉の向こうに少女の姿が見えた。いや、よくよく見るとそれは男の人だった。
とても綺麗な人だった。
背中まで伸びた黄金色の髪が、サラサラと風に靡いている。切れ長の目は、灰色がかった薄い緑色の瞳をした奥二重。すっと通った鼻筋に薄い唇は桜色だ。特徴的なのはとんがった耳だろうか? セッカはそれを見てようやくエルフだと気がついた。
華奢ではあるがまさに絶世の美男子である。
ツグミなんか、目がハートの形にでもなりそうな表情で見つめている。トキも本物のエルフに出会ったのは初めてだった。なる程、妖精の王様といわれるだけはある。美しいだけじゃなく、気品があって威厳も感じる。
「あなたは?」
圧倒されそうな気持ちを奮い起こして、トキが尋ねる。
「私はアイリス。バックランド群島のエルフ族だ」
ツグミは、脳天までしびれてしまった。バックランド群島といえば、大陸の北東に浮かぶ妖精の聖地である。そこのエルフということは、エルフ族の王族、俗に「ハイエルフ」と呼ばれるエルフ中のエルフではないか。
「ハイエルフが、どうしてこんな所に?」
「婚姻の準備のためだったんだが、どうもそれどころではなくなってしまったらしいな。道中知ったのだが、千里の眼と万里の瞳が何者かに奪われたそうじゃないか」
「うん」
セッカがうなずく。
「おや? 君はこの世界の人間じゃあないね」
「どうして判るの?」
「フッ、エルフだから、という事にしておこうか」
アイリスによれば、闇の魔術師が最初に奪った千里の眼と万里の瞳を使えば、探し物を簡単に見つけ出す事が出来るそうだ。術者の技量によるけれど「邪魔者を見つけ出す」なんていう事は簡単な事のようだった。
「やつらはおそらく、障害になる存在を片端から殺しているだろう」
「殺す!」
セッカはその直接的な言葉に恐怖と戦慄を覚えた。元の世界では割と簡単に使っていた言葉だったような気がする。こっちの世界に来てみんなと冒険するようになってからは、その言葉の重みをなんとなくだったけれど実感出来るようになっていた。そして今、この冒険がTVゲームと違って「やり直し」出来ないんだと言う事を改めて確認させられた。彼は、無意識のうちにサイクロプスとの戦いで受けた左腕の傷痕を抑えていた。
アイリスは続ける。
古エルフの村に来た彼が村の最長老に言われて、この世界的危難を救える勇者を捜す旅に出た所だったのだと。そこで偶然セッカたちに出会った。
「これは決して偶然ではない」
と、彼は言う。
なぜならば彼は、古エルフの村である儀式を行い「精霊と新たなる契約」を交わしてきたのだという。
「契約って?」
「勇者に終生身を捧ぐ事」
「ハイエルフが!?」
ツグミが信じられないという声を上げる。
「そうだ。風の精霊王は言った。世界の破滅を救えるのは、その勇者だけだと。であれば、世界を救える勇者を助けるのが、エルフの役割。古エルフの村の長老、アヤモズが五百八十年前に勇者オジロに従ったように」
「アヤモズはまだ生きてるのか?」
ノスリはらんらんと瞳を輝かせてアイリスに尋ねる。アイリスは優しく微笑み、左手の中指に輝く白金の指輪を見せてくれた。
「ああ、ノスリに会えたらよろしくと、そう言ってこれを渡してくれた」
友情の指輪である。
それを聞いてノスリが泣き出しそうになった時だ、すさまじい衝撃を伴って雷が落ちた。衝撃が収まり全員が落雷の後を見ると、そこには額の中央に一本の角を生やした男と、二本の角がある女が立っていた。
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旅はそれまでとは比べ物にならないほど危険なものになった。危険な場所危険な場所と歩いているような感じで朝昼晩と毎日それぞれ一回ずつ、敵と遭遇するというスリリングな冒険になった。狩りをしていても射抜いた獲物を狼に喰われたり、危険を避けるつもりで立ち寄った村で寝込みを襲われるなど散々だった。
極め付けはゴブリンの一団による襲撃だ。
晴天の草原を歩いていた四人の前に、十数体のゴブリンが突如として釘を打ち付けた棍棒を振り回して襲ってくる。ツグミが仲間の周りの空気を魔法で壁のように硬くする「障壁《しょうへき》」の呪文を唱える。けれど、ツグミの魔法で作った空気の壁はレンガのようなもので、壊す事が出来る。ゴブリンたちは、棍棒で壁を壊してくる。爪で引っ掻き削ってくる。障壁の空いた穴にトキが矢を射かけたのだが、ゴブリンたちは逃げるどころか恐れも知らずに突撃してくる。
「逃げましょう」
ツグミはセッカやトキに守られながら「加速」の呪文を仲間にかけると、四人は一斉に走り出す。ゴブリンたちはトキの矢やセッカたちの攻撃でほとんどが怪我をしていたし、加速の魔法でいつもの二倍以上の速さで動けるようになっていた四人はなんとかゴブリンたちを振り切って、森の中の泉のほとりまで逃げてくる事が出来た。
「どういう事? ゴブリンってあんなに狂暴だった?」
まだ肩で息をしているツグミが、苦しそうに言う。
「確かにおかしい。ゴブリンはいたずら好きだが小心な性格だ。最初の呪文で逃げ出したっていいくらいなのに、怪我も構わず襲ってくるなんて尋常じゃない」
「それだけじゃないど、トキ。ゴブリンは土の妖精の中でも夜行性の部類だから、こんな天気のいい日に草原を歩いている事自体、おかしいんだな」
「ーってことは、誰かに操られていた?」
セッカの一言で、トキもノスリもツグミを振り返る。
「ありえるわ。ゴブリンやオークは低能な種族だから、魔法で操るのは案外簡単よ。ただ、一度にあんな数操れるなんて、よっぽどの魔術師ね」
セッカは不思議に思った。
「でも、もし、闇の魔術師の仕業だとして、どうして僕ら襲われたの?」
「君たちが、オオジュリンの野望を阻止しようとしているからだろ?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
四人が辺りを見回すと、泉の向こうに少女の姿が見えた。いや、よくよく見るとそれは男の人だった。
とても綺麗な人だった。
背中まで伸びた黄金《こがね》色《いろ》の髪が、サラサラと風に靡《なび》いている。切れ長の目は、灰色がかった薄い緑色の瞳をした奥《おく》二重《ぶたえ》。すっと通った鼻筋に薄い唇は桜色だ。特徴的なのはとんがった耳だろうか? セッカはそれを見てようやくエルフだと気がついた。
華奢《きゃしゃ》ではあるがまさに絶世の美男子である。
ツグミなんか、目がハートの形にでもなりそうな表情で見つめている。トキも本物のエルフに出会ったのは初めてだった。なる程、妖精の王様といわれるだけはある。美しいだけじゃなく、気品があって威厳《いげん》も感じる。
「あなたは?」
圧倒されそうな気持ちを奮い起こして、トキが尋ねる。
「私はアイリス。バックランド群島のエルフ族だ」
ツグミは、脳天までしびれてしまった。バックランド群島といえば、大陸の北東に浮かぶ妖精の聖地である。そこのエルフということは、エルフ族の王族、俗に「ハイエルフ」と呼ばれるエルフ中のエルフではないか。
「ハイエルフが、どうしてこんな所に?」
「婚姻《こんいん》の準備のためだったんだが、どうもそれどころではなくなってしまったらしいな。道中知ったのだが、千里の眼《まなこ》と万里の瞳が何者かに奪われたそうじゃないか」
「うん」
セッカがうなずく。
「おや? 君はこの世界の人間じゃあないね」
「どうして判るの?」
「フッ、エルフだから、という事にしておこうか」
アイリスによれば、闇の魔術師が最初に奪った千里の眼と万里の瞳を使えば、探し物を簡単に見つけ出す事が出来るそうだ。術者の技量によるけれど「邪魔者を見つけ出す」なんていう事は簡単な事のようだった。
「やつらはおそらく、障害になる存在を片端から殺しているだろう」
「殺す!」
セッカはその直接的な言葉に恐怖と戦慄《せんりつ》を覚えた。元の世界では割と簡単に使っていた言葉だったような気がする。こっちの世界に来てみんなと冒険するようになってからは、その言葉の重みをなんとなくだったけれど実感出来るようになっていた。そして今、この冒険がTVゲームと違って「|やり直し《リセット》」出来ないんだと言う事を改めて確認させられた。彼は、無意識のうちにサイクロプスとの戦いで受けた左腕の傷痕《きずあと》を抑えていた。
アイリスは続ける。
古エルフの村に来た彼が村の最長老に言われて、この世界的危難を救える勇者を捜す旅に出た所だったのだと。そこで偶然セッカたちに出会った。
「これは決して偶然ではない」
と、彼は言う。
なぜならば彼は、古エルフの村である儀式を行い「精霊と新たなる契約」を交わしてきたのだという。
「契約って?」
「勇者に終生《しゅうせい》身を捧《ささ》ぐ事」
「ハイエルフが!?」
ツグミが信じられないという声を上げる。
「そうだ。風の精霊王は言った。世界の破滅を救えるのは、その勇者だけだと。であれば、世界を救える勇者を助けるのが、エルフの役割。古エルフの村の長老、アヤモズが五百八十年前に勇者オジロに従ったように」
「アヤモズはまだ生きてるのか?」
ノスリはらんらんと瞳を輝かせてアイリスに尋ねる。アイリスは優しく微笑み、左手の中指に輝く白金の指輪を見せてくれた。
「ああ、ノスリに会えたらよろしくと、そう言ってこれを渡してくれた」
友情の指輪である。
それを聞いてノスリが泣き出しそうになった時だ、すさまじい衝撃を伴って雷が落ちた。衝撃が収まり全員が落雷の後を見ると、そこには額の中央に一本の角を生やした男と、二本の角がある女が立っていた。