「たぶん俺。『はすみ』だけど。『羽』に『住む』だよな?」
どこだろう、と教室を見渡す大雅に、少し離れた場所から手を上げているクラスメイト。どうやら、姓を読み間違えてしまったらしい。
「あ! ゴメン、は、すみ」
「いや。慣れてるし気にすんな」
言葉通り気を悪くした風でもない彼は、どちらかというと小柄で、──驚くほど整った顔立ちをしていた。綺麗というよりは可愛らしい系統で、少し幼くも見える。
男相手に何故……?
今まで、美人・可愛いと褒めそやされている女子も、イケメン・美形と評判の男子も周りには居たが、大雅は特に何も感じたことはなかったのだ。
「ありがと。えっと、石和、だっけ?」
呆然と突っ立ったままの大雅の元に、郁がつかつかと歩み寄って来て手を出す。
「あ、あ。そう、石和。はい、こ、これ」
しどろもどろの大雅に、郁は少し不思議そうな表情で封筒を受け取って席に戻って行った。
それ以来、大雅は無意識のうちにも郁の姿を目で追うようになった。
「可愛い」という以外に特筆すべき感情はなかったのだが、どうしても見るのを止められない。
自分と比べれば小さくて可愛らしい第一印象から、なんとなく「内気でおとなしい」イメージを抱いていたのだが、さほど経たないうちにそれは気のせいだとわかった。
郁は意外とはっきりした性格らしい。休み時間なども、ごく普通に周りと楽しそうに過ごしてはいるが、大雅が見る限り自己主張はきちんとしている。
昼休みは教室のあちこちで、席の近い者同士で机を合わせて弁当を食べていたが、郁はよく女子の話を振られていた。あれだけ見た目が良ければ、過去の話も気になるのだろう。
しかし郁自身はあまりお喋り好きではないのか、聞き手に回っていることが多いようだった。
大雅は体格も顔も厳つい上、初めの頃に訊かれて「そういうのは興味ない」と素っ気なく答えてしまって以来、恋愛には無縁だと見做されているらしい。
硬派だと言われるたびに、自分のどこが、とまったく理解できない気分にはなるのだが。
ちなみに、クラス委員にはそのまま大雅が選ばれた。「しっかりしてるし石和でいいじゃん」と上がった声にクラスの皆が納得し、大雅も難色を示さなかったためすんなり決まったのだ。