よく遊んだ長い休暇が終わっても、郁は相変わらず学校帰りや週末に大雅と二人で出掛けている。
電話やメッセージも、すっかり日常の習慣として定着した。
最初は正直なところ、気を紛らわせるためでしかなかった。
一人で暇を持て余していると、嫌でも八木のことを考えて
鬱々としてしまう。落ち込む気分をなんとか晴らしたかった。
利用しているようで大雅に申し訳ない気持ちがなかったわけではないが、すぐに後ろめたさは消えてしまう。
彼と過ごすのは、素直に楽しかったからだ。自然に笑顔が増え、会話も弾むようになって行った。
もともと気を遣う話題が多く、話しようがなかっただけで、郁は決して気難しくも無口でもないのだ。
暗黒になりかねない日々から引き摺り出してくれた、トモダチ。
いま普通に笑って過ごせる時間を持てるのは、間違いなく大雅のおかげだから。
『理解者』を求める気持ちが常に心のどこかにあったのは確かだけれど、そんなものは
虚構の世界だけの絵空事だと諦めていた。
ようやく見つけた、仲間。
もう大雅のいない毎日など、考えられない気さえした。
学校は休日となる土曜日、いつもの如く約束して二人で過ごす。
「……初めて見たときはさ、すげー可愛い顔してんな、コイツと思ったんだ。ゴメン」
ふと会話が途切れた合間に大雅が唐突に口にした台詞に、郁は首を
傾げた。
「なんで謝んの? まー、確かに可愛いって言われて喜ぶわけじゃないけど、イヤミじゃなきゃ褒め言葉としてフツーに聞くよ?」
郁は身長は平均あるかないかで、顔立ちも「格好いい」より「可愛い」と言われることが圧倒的に多い。
クラスでも目立つほど大柄で、いかにも硬派な風貌の大雅から見ればなおさらだろう。
「郁って自分に自信あるんだろうな。だから他人の評価とか気にならないのか」
感心したような大雅の声に、郁は苦笑した。
「まさか。自信なんかじゃなくて、俺は自分を知ってるだけ。背が低いのも男らしい顔つきじゃないのも、考えたってどうにもなんねーし。だったらグズグズ悩むより開き直った方が勝ちじゃん?」
「でも、そういうとこが……」
何やら口の中で呟いていた彼が、すっと顔を上げて郁の目を見つめた。
「『可愛いな』って、それが切っ掛けではあったんだけどさ。なんか気になって見るようになって。そしたら郁、顔のイメージと違って結構きっぱりしてて、なんでもみんなに合わせるわけじゃないんだよなって。昼休みもひとりで、あーっ、と……」
さすがにここで八木の名を出す気はないらしく、大雅は曖昧に語尾を濁した。
つまり昼休みの準備室でのあの時間も、大雅は知っていたのだ、と郁は今更のように思い至る。