【Chapter3】①
ー/ー夏休みが終わって八木と顔を合わせた時にはまだ、彼を想うと少しだけ胸が痛かった。
大雅には、一切悟らせる気もないけれど。
「終業式の日にも言いましたけど。僕、結婚しましたので」
二学期の始業式の後、クラスでのホームルームの最後に八木が何でもないように淡々と告げる。
郁は彼の言葉を、自分でも理由の見つけられない複雑な気分で聞いていた。
おそらく終業式の日に前川に訊かれなければ、こうして事後報告だけで済ませるつもりだったのだろう。
相手が同じ学校の教師でもない限り、それが普通なのかもしれない。郁は担当の教師が結婚するケースは初めてなので、判断できなかった。
「先生、おめでとー」
「相手はどーいう人ですかぁ?」
「新婚旅行どこ行ったのー?」
教室のあちこちから上がる声に、八木は笑顔でひとつひとつ返して行く。
「ありがとう、みなさん。相手は大学の同級生です。他の学校で先生をしています。二人とも忙しいので、旅行は行っていません」
「え~! 旅行なしとかあるんだ!?」
無邪気な喧騒の中、郁には彼を心から祝福することはまだできなかった。
しかし、虚勢ではなく八木を恨む気持ちもまったくないのだ。
──言うまでもなく、彼には郁に恨まれる要素など皆無だと理解はしている。
勝手に期待して、勝手に裏切られた気分になって、ひとり相撲もいいところだ。
「郁、……昼どうする?」
翌日から授業が始まり、四限が終わって席に座ったままだった郁の元にやって来た大雅が何故か躊躇いがちに尋ねる。
「え? 一緒に食わねーの? 俺はそのつもりだったけど」
率直な郁の言葉に、大雅は安心したように息を吐いた。
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