表示設定
表示設定
目次 目次




【2】

ー/ー



「ねー、パパ。きょうとってどこ? ここはとうきょうだよね? 名前にてるから近いの?」
「いや、うちからはずーっと西、……えっと凄く遠くにある、古い街だよ。日本の昔の都なんだけど、──乃愛にはまだ難しいか。学校で習うよ、きっと」
「がっこう! のあ、すっごくたのしみ!」
 来月には入学式で、乃愛は小学生になる。

「そうだな、パパも入学式はお休み取ったから。三人で一緒に行こうな」
 保育園の卒園式はどうしても休めそうになかった。
 年度末で、職場は普段にも増して忙しい。この京都出張も向こうで取られる時間は長いにも拘らず、当然のように日帰りだった。

 それは仕方ないと卓哉も納得していたし、志乃が一人で行ってくれる予定になっている。
 しかし、その分課長が「小学校の入学式は一生に一回しかないんだぞ! 和久井(わくい)のところはお嬢さん一人だし、何があっても休ませてやる!」と調整してくれたのだ。

 ……課長自身には、成人した娘が二人いる。
 もう二十年近くは経つだろう上の娘の入学式の際に、軽い気持ちで仕事を優先してしまったことを今も後悔している、と彼がぽつり呟いた声の重さが忘れられない。

「どういうあじ? あまいの? ねえ、ママ食べようよ~」
「お砂糖だから甘いよ。じゃあ今は一個だけね。ごはんのあとだし。それに、パパのお土産だから大事に食べなきゃ。こういうのはちょっとずつ味わうものなのよ、きっと」
 金平糖を前に、笑顔で嬉しそうに言葉を交わす二人を見ると疲れも軽減する気がした。

「パパ、お茶入れてくれる~? 金平糖って何茶?」
「おー、了解。煎茶でいいんじゃないか? ってか、紅茶と煎茶しかないだろ?」
 妻の言葉に、卓哉は即座に承諾を返した。
 出張から帰ったばかりの自分を使うのか、という不満などはない。志乃も仕事を終え保育園に乃愛を迎えに行って戻って夕食を作って食べて、と座る暇もなかったのだろうことはわかるからだ。

 共働きで、家事も育児もどうしても彼女に負担が偏りがちなのが申し訳ないと思っている。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 【3】


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「ねー、パパ。きょうとってどこ? ここはとうきょうだよね? 名前にてるから近いの?」
「いや、うちからはずーっと西、……えっと凄く遠くにある、古い街だよ。日本の昔の都なんだけど、──乃愛にはまだ難しいか。学校で習うよ、きっと」
「がっこう! のあ、すっごくたのしみ!」
 来月には入学式で、乃愛は小学生になる。
「そうだな、パパも入学式はお休み取ったから。三人で一緒に行こうな」
 保育園の卒園式はどうしても休めそうになかった。
 年度末で、職場は普段にも増して忙しい。この京都出張も向こうで取られる時間は長いにも拘らず、当然のように日帰りだった。
 それは仕方ないと卓哉も納得していたし、志乃が一人で行ってくれる予定になっている。
 しかし、その分課長が「小学校の入学式は一生に一回しかないんだぞ! |和久井《わくい》のところはお嬢さん一人だし、何があっても休ませてやる!」と調整してくれたのだ。
 ……課長自身には、成人した娘が二人いる。
 もう二十年近くは経つだろう上の娘の入学式の際に、軽い気持ちで仕事を優先してしまったことを今も後悔している、と彼がぽつり呟いた声の重さが忘れられない。
「どういうあじ? あまいの? ねえ、ママ食べようよ~」
「お砂糖だから甘いよ。じゃあ今は一個だけね。ごはんのあとだし。それに、パパのお土産だから大事に食べなきゃ。こういうのはちょっとずつ味わうものなのよ、きっと」
 金平糖を前に、笑顔で嬉しそうに言葉を交わす二人を見ると疲れも軽減する気がした。
「パパ、お茶入れてくれる~? 金平糖って何茶?」
「おー、了解。煎茶でいいんじゃないか? ってか、紅茶と煎茶しかないだろ?」
 妻の言葉に、卓哉は即座に承諾を返した。
 出張から帰ったばかりの自分を使うのか、という不満などはない。志乃も仕事を終え保育園に乃愛を迎えに行って戻って夕食を作って食べて、と座る暇もなかったのだろうことはわかるからだ。
 共働きで、家事も育児もどうしても彼女に負担が偏りがちなのが申し訳ないと思っている。