「おはよう、清水さん。もしよかったら、今日仕事の後少し時間もらえない?」
翌朝オフィスで真寿美を目に留めた千恵理が気まずさを感じる間もなく、彼女が朗らかに問い掛けて来る。
「はい。わかりました」
「お茶でも付き合ってね」
何事もなかったかのように振る舞ってくれる先輩に、千恵理は昨日のことを水に流すためなのか程度にしか感じていなかった。
退勤後。
最寄り駅を通り過ぎた、勤務先の社員はあまり来ないカフェに誘われる。
二人で通された席に腰を落ち着け、頼んだ飲み物が運ばれて来たのが合図のように真寿美が口を開いた。
「勝手だってわかってるけど、──これから私が言うことはできたらあまり人には話さないでほしいの」
「はい」
薄く微笑んではいても、硬く深刻さを含んだ先輩女性の願いに千恵理は承諾を返す。
「貴女が気にしてたこれ、オニキスじゃないのよ。『ジェット』ってわかるかしら」
「……いいえ。すみません、不勉強で」
外して手にしたペンダントを示しながら、彼女が静かに尋ねるのに素直に答えた。
ここで無意味な見栄を張るほど考えなしのコドモではない、つもりだ。
「ううん、知らなくて当然よ。知らない方がいいかもしれない。──これ鉱物じゃなくて木の化石なのよ」
「え!? あ、……でもそういえば琥珀も化石ですよね。確か樹液? でしたっけ。化石ってもっとゴツゴツしたイメージでしたけど」
こんな滑らかな化石があるのか、と驚いたものの、すぐに他の例が思い至った。
「そうね。もとはこんな風じゃなくて加工段階で研磨してるんでしょうけど。ジェットは『葬送用の宝石』なの。つまり亡くなった人を偲ぶためのものよ。──私の子の」
「あの、あ、あたし……」
想定外の内容に、千恵理は動揺して真寿美に返すべき言葉など頭に浮かびもしなかった。
「こんな事聞かされたほうが困るでしょ? 『知られたくない』よりそちらの理由が大きいの。まあ当時の上司の方たちは当然ご存知だったけど、もう退職なさったりしてるから」
「そ、れは……」
わかると肯定していいことなのかも千恵理には判断できない。曖昧に言葉を濁すのが精一杯だった。
「結婚して二年目だったわ。初めての妊娠と出産で、……それが最後。そのとき、私はもう子どもは無理になったの」
「内藤さ、──」
咄嗟に漏れた呼び掛けが途切れる。いったいこの状況で、己がどんな言葉を紡げるというのか。