ユーステッド、不本意ながら婿入りす
ー/ー 一歩引いてしまったティアの手を引いて、僕の胸に無理やり引き寄せる。
「ごめん……違うんだ。変な言い方しちゃった……僕の言う不本意っていうのはね『婿入り』するっていうこと。」
「え……でも……それは……」
「うん。仕方ないこと。僕には姓も家もないから君を正式に迎えることは出来ない。けど……書面上や体面はそうだとしても……僕は君を迎えたいんだ。だから……」
「ユース……」
抱きしめていた腕を離し、僕はティアの前に膝をついて……そっと手を取りキスをする。
「愛してるよティア。僕の……お嫁さんになってくれる?」
ボロボロと大粒の涙を流すティア。
「私も……愛しているわユース……素敵なお嫁さんにしてね……?」
「うん!!もちろん!!」
「きゃぁっ!!」
ティアを抱き上げて、くるくるっとまわって……転んでしまった。
ちょっと無理して格好をつけすぎたかな?ティアが怪我をしないように僕が下になるように受け身がとれてよかった……と、安心して気が付いた。
「あ……」
「どうしたのユース?どこか怪我でもしてしまったの?」
「いや違うんだ……指輪を用意していなくて……あぁ……またやってしまった……」
「ふふふ……大丈夫。ねぇユース?これを私に付けてくれる?」
そう言ってティアは……僕が贈ったイヤリングを取り出した。
「なんで……持ってきているの?」
「え、えっと……実は私も……その……貴方に伝えたくて……」
顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになりながら……どうやらティアも、僕と同じことを考えていたみたいだ。
「そっか……そっか!!あははは……!」
「わ、笑うなんてひどいわっ」
「ごめんごめん!うれしくてつい……ティア……ちょっとこっちに……」
寝ころんだままの体勢でイヤリングをつけるのは苦労したし、髪飾り同様、女性にイヤリングなんてつけたことなかったから少し手間取ってしまった。
「い、痛くない?大丈夫?」
「うふふ……大丈夫。ありがとうユース……ね?どう?似合うかしら?」
「うん……とてもきれいだよ」
笑顔の端からこぼれたティアの涙の後を拭い、まだ少し火照っている頬に手を添え優しく撫でる。
応えるようにティアも手を重ね、頬を擦りよせてくれて……シャラリとイヤングを揺らしながらそっと……唇を重ねた。
*
*
*
天気は快晴、僕の心も晴れ模様……入国した日とは真逆の心情だ。
心残りなく晴れの日を迎えることができたことに僕の心は高揚し、興奮している。
ここへ来て色々なことを学べた。
カイを含めた色々な人と会話したり、シエル辺境伯の残した日記の想いを受け取り、自分がどうありたいかを見つけられた。美味しいものもたくさん……お酒はやっぱりダメみたいだけど、少しづつ慣れていきたいと思ってる。
僕の話し相手兼、相談役でもあるマスターとホセも、進展しているみたい。
さっき、ふたりが手を繋いで僕に挨拶をしにきてくれたんだ。
ティアもふたりのことには驚いていたみたいだけど、シエル辺境伯の親友で恩人でもあるマスターが幸せそうに笑っていてくれることがとてもうれしいみたい。
少し困惑してしまったりもしたけど、僕の助力と、ホセの行動力……おそらく、最終的にホセの猛攻撃にマスターが折れたのだと思うけど……なんにせよ、ふたりも前に進めていることが僕もうれしく思う。
前に進んでいると言えば……いつも飾り屋根を監修している建築家が老体に鞭打ってお祝いに来てくれたんだけど、僕の飾り屋根を見て一緒になにか作ろう!って言ってくれた。
思わぬ申し出に僕もうれしくなったので、少しだけ考えていた新施設のことを伝えたら来春から取り掛かることになったんだ。
土木工事も必要になるから簡単にできないと思っていたけど……職人の手が入るなら行動しない理由はない。
大衆浴場を作って、皆も温泉を満喫してもらえるようにと……新しく事業が始められることになったんだ!
『収穫祭』でも露店を出していたあの店主も、今回の『大漁祭』にも出店してくれていた。
しかも、僕たちの結婚指輪を作って持ってきてくれたんだ!ティアも僕も用意するのを忘れていたことを伝えると「似たもの夫婦だな」と、笑われた……一応、祝いの言葉として受け取っておいた。
「ユーステッド様~?そろそろ時間なので移動してほしいみたいっすよ~?」
「あぁわかった!今行くよ」
「おー……これなんていうんですっけ?馬子にも衣裳?」
「いい加減不敬なことを言ってる自覚をもってくれジュリー……ここでしか通用しないから気をつけるんだよ……?」
主従関係なんてどこへやら……変わらぬ無礼な言葉遣いに未だ楽観的なジュリー。
なんだかんだパンツの隠蔽作業も手伝ってもらった……今日だって洗い立ての、母の想いのこもったパンツを身に付けられているから冗談だと受け取って……怒るなんてことはしないけどね。
教会のある島へ移動する途中……憔悴しきったベンとすれ違った。
話を聞くと気合を入れて巨大なケーキを作っていて徹夜をしてしまったんだそうだ。
残さず食べることを約束して……教会の扉を開く。
聖壇の前まで移動し、彼女が来るのを待つ。
パイプオルガンから入場曲が流れ始め、扉が開き、カイと一緒にティアがゆっくりと僕の元に歩んでくる。
試着の時に見たティアも綺麗だったけど……ステンドグラスの光を受けながら歩く姿はもっともっと綺麗だった。
よくみると……ロベリアに贈った髪飾りと、ティアに贈ったイヤリング両方を身に着けていてくれていて……愛おしさが爆発しそうになった。
神父が結婚の誓いを口上し、僕とティアは誓いを立て、そっとベールを上げる。
カイから指輪を受け取り、お互いの左手の薬指にはめる。
そして……
「誓いのキスを……」
ティアと僕の唇が重なると参列者から大きな拍手が飛び、歓声も上がった。
祝福を受けながらバージンロードを歩き外へ出ると、中に入れなかった領民と、リリーやジュリー、そして少女たちも一緒になって僕たちに向かって花びらを浴びせる。
「おめでとうございます!!」
「ユー!ティア様ー!おめでとーー」
「ティア様きれーーい!」
「ユーへんなかおーー!」
表情が緩むのは許してほしいものだ。
「こんなにも祝福されるなんて思ってなかったな……」
「……ユース。貴方がみんなを愛して受け入れてくれたから……みんなもそれに応えてくれたのよ?そんな風に思わないで?」
「受け入れてくれたのはみんなとティアだよ。でも……そうだね。そうだとしたら……もっともっと愛さなきゃね。もちろん!ティアを一番に……ねっ!」
ティアをお姫様抱っこして、港に向かって続く道を走っていく。
「もしかしてユース……お腹すいてるから急いでるの?」
「バレちゃった……?だってここまでいい匂いがしてるんだ!急いでいかないと……!ベンの作ったケーキも待ってるしね!」
「……変な人」
「それに付き合ってくれるティアも……ちょっと変だからね?」
「そ、そんなことないわっ……!!」
出会いは最悪。
向き合うまでの道のりは困難で複雑になってしまった、ちょっと変な僕とティア。
故郷で行った僕の悪行は許されてはいないのはわかっている……それは絶対に忘れてはいけないし、戒めていかなければならない。
だからこそ……愛を見つけ、愛を与えられる人間に成長できたことに感謝を――。
「愛してるよっ!」
~fin~
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