ユーステッド、憔悴す
ー/ー 海鳥の鳴き声が忌々しい。
「おはようございますユース……とりあえずこの状況を説明してもらってもいいですか?」
「うっ……うっ……」
朝一でお見舞いに来てくれたカイをベッドに引っ張り込み、抱きしめて……涙を流す僕。状況もなにも……カイならもうわかっているだろう。
「まぁ一応聞きますけど……なにをやらかしたんです?」
気持ちが昂っていたのは確かだ……けど、うっかりしていたというのは言い訳になる。
バチンッ!と静かな部屋に響かせた……僕の頬を打つ音。
「……不潔ですっ!私は……私はティア様の侍女ですよ?何を考えていらっしゃるんですか!」
「あ……いや、つい……ち、ちがうんだ!そんなつもりじゃないわけじゃなくて……ロベリア!君はティ……いっだああぃ!!!」
「……ティア様は……自分が誤って踏んでしまったせいだと……とても心配しておられました。なのに……!」
乱暴に包帯を巻き、乱暴に扉を閉めて出て行ったロベリア。
昨晩の出来事をカイに泣きながら話した……もっと泣いた。
「それで悔しくて僕に抱きついたと?」
「カイぃぃ……ティアは……ロベリアは色々勘違いしてるんだよぉ……どうしたらいいんだぁぁ……」
「はぁ……落ち着くまでこのままでいいですから。早くその鼻水と涙を止めてください……」
優しい子だカイは……本当にいい子だ。
情けなくて出た涙をどうにか止めて、カイを解放した。
昨晩から置いてあるベッド脇の椅子にカイは座り、乱れた服を直しながら、
「それで?」
「まず……確かに『収穫祭』で踊っている時にティアが僕の足を踏んでしまったんだけど……その結果がこの足の状態だと思ってる……けどそれは違うんだ。僕の不注意で負ってしまった怪我なんだ。」
「ティアは怪我人に対してとても敏感で過剰に反応してしまいますからね。ましてや自分のせいだとおもっているのなら……とても悲しんでいるでしょう……で?なにしたんですか?」
カイの視線が痛い……もっとひどくなることしたんだろう?っていう目だ……
「その……僕を心配そうに見てるロベリアの顔がティアと重なっちゃって……大丈夫だよって言ったんだけど……その口づけをしようと……してしまい……」
「……その頬にある手形はそういうことでしたか……納得です」
せっかくいい雰囲気で過ごせた『収穫祭』の終わりがこれでは……最悪としか言いようがない。
「……まぁしばらくティアもロベリアも会いにこないし会ってくれないでしょうね」
「そう……だよね……あんなにいっぱい心配してもらえたのが初めてだったから……今一番大事な愛しいと思える人だったから……ははは……こんなの言い訳だな……」
情けない。
あれだけ『心が落ち着くまで待つ』と言っておきながら軽率な行動をとった僕は本当に……大馬鹿者だ。
「ボクがティアと話をしても無駄かと思います。ですので……潔く諦めましょう」
「諦める?!だめだ!そんなこと絶対しない!!」
勝ち誇った顔で僕に「諦めろ」と言うカイ。
でも、そう簡単に諦めるなんてことは僕は出来ない……しない。
どうにかしてティアの勘違いだと誤解を解かないといけない!本当に諦めるかどうかは……そのあとに考えることだ。
「と、言うと思いました。ので……確実にティアと会える日をお教えします」
今度は得意げな顔をしている。
藁にもすがる勢いでカイの手を取り懇願する。
「いつ!!いつなんだ!」
「明後日です。その日は……父の命日です。」
ドクンと心臓が音を立てた。
都合よくティアと確実に会って話ができる日があることが奇跡的なことだ。
それが、シエル辺境伯の命日であるということは……。
「そんな特別な日に……邪魔にならないかな?」
「特別だからこそ……ですよユース。」
シエル辺境伯の墓があるのは灯台のある島の手前の花畑の島にあるとのことだ……前妻と並んで建立され、夫婦のお気に入りの砂浜が見える高台。
続けてカイは、墓参りの時のティアの様子を話してくれた。
毎年詫びるような表情で祈り、花を捧げている。
シエル辺境伯が亡くなった原因は自分にあり、カイをひとりにしてしまったと……ずっと悔やんでいるようだと。
「怪我を隠していたのは父です。本当は父が悪いんです。でも……父は父なりにティアに心配はかけたくないと思ってたんだと思います。「心から愛することができないのならせめて」と。亡くなった後ティアのトラウマになってしまったのは誤算だったとは思いますけど」
「でも日記には「愛していた」って書いていたよね?なんでわざわざあんな風に書いて……?」
「男と女は複雑なのですよユース。父の愛してるは異性としてティアを愛しているということではなく……えっと……上手に言葉で表現するのはボクでも難しいのですが……『人として愛している』ということに当たるのでは……と思っています」
こんな小さな子が男女関係を語っていることの方が僕は気になってしまったんだけど……もしそういうことなら、シエル辺境伯は中々洒落を効かせた日記を残してくれたものだ。
僕もだったけど、普通にあの日記の内容を読み取るだけならば……『愛するの意味』は『単純』だ。
いつか現れるかもしれないティアを本当に愛そうとしてくれている男なら、彼女を見守っている男ならわかるだろ?という……天から腕を組んで睨みをきかせてこちらを見下ろして様子を伺っているんだろうな……。
「カイ……君のお父さんは中々の曲者みたいだね……」
「ボクもそう思います。ティアが僕に母と呼ばせない理由と違和感も……そう考えると納得できますし。まったく本当に……良き父を持ったと思いますよ」
皮肉まで言うとは……この父にしてこの子ありです、シエル辺境伯。
「どちらにせよ僕は……ティアのトラウマをえぐり倒したということになるんだよね……」
「それはほんと馬鹿野郎としか言えないですけど。でもユースなら大丈夫だと思います」
「ば、ばかやろう……どこがどう大丈夫なんだ……」
「行けばわかりますよきっと……」
行けばわかる……なんて、簡単に言ってくれるな。
僕は馬鹿野郎なんだろう?そんな簡単にわかると思われてるのはおかしいんじゃないか?まぁ……でも……誤解が解けないまま笑顔のない婚礼なんて……誰も望んでいないことはわかっている。
僕も……きっとティアだって……だからまだ……諦めない。
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