ユーステッド、高揚す
ー/ー すでに広場には領民が集まっており、なかなか前に進めないほどごった返していた。
「すごいな……みんな楽しみなんだな」
「それだけじゃないです。ティアを守ったユースが手掛けた飾り屋根を見に来てるんです。そりゃみんな浮足立ちます」
「え?!ひ、広まるのがはやいな……」
朝の出来事も後押ししたのだろうか、その場に居合わせていなかった領民たちにも口伝えで僕のことがあっという間に噂になったみたいだ。
悪評で広がったわけじゃないのは喜ばしいことなんだけど、こんな急に僕のことを知られていくのは恥ずかしいという気持ちと、嬉しい気持ちが合わさって……不思議な気分だ。
「……あんたか」
「あ……腕はどうだ?すぐに治るものじゃないだろうけど……動けているようで、よかった」
大桶と屋根のある場所までなんとかたどり着くと、ジッと屋根を見つめる大男と目が合い話しかけられた。
普通ならもう少し安静にしていなければダメなんだろうけど、タフさ加減の基準が違うのだろうか?腕は動かせないがいつもと変わることなくここに立てているようだ。
「悪かったな……俺のせいで余計な仕事させちまったようだ」
「気にしないでくれ。みんなの為に働けて僕は嬉しかったんだ。それより……大事にならなくてよかった。しばらく働くのは難しいかもしれないが……無理せず過ごしてくれ」
「そうよあなた。ユーステッド様の言う通り……久しぶりにゆっくり……しましょう?ね?」
「お、おう、そうだな……ありがとうなユーステッドさんよ……」
奥さんだろうか?とんでもない色気を放つ美人が顔を出して親方に寄り添って礼を言ってくれた。
恥ずかしそうな親方……ゆっくりできるかどうかはわからないけど幸せそうでなによりだ。
「ユース……なに考えてるんですか」
「…………ユーステッド様?」
「はっ?!別になにも……あ!ほら!そんなことより飾り屋根の仕上げをするぞ!」
ふたりの視線を屋根に移させ、仕上げを担当してくれる男の元へ行く。
「シーナさんと女性たちが作り上げてくれた素晴らしい飾りだ。さ!みんなにお披露目してくれ!」
「任せてください!そぉーーーっれ!!」
大きく振りかぶって、ブワっと風を起こしながら屋根に向かって網を広げる。
網に取り付けられた飾りの色とりどりの花たちから花びらが飛び、風に乗って広場を舞い踊り落ちる……思った以上に綺麗な光景が広がっていった。
見ていた領民や来客たちからもため息が漏れるほどに。
ボスっと見事に屋根の上に網がかぶさって飾り屋根が完成し、一瞬の沈黙のあと歓声が上がった。
「僕がいうのもなんだけど……デルフィヌスらしいお披露目になったかなと思うんだ……どうだったかな?」
「ユース……意外とやりますね?素敵でした!」
「意外とは余計だろ?……ティアはどう?即興ではあったけど……盛り上がったと思うんだ」
「えぇ!素敵です。いつもと違った美しさと楽しさ……領民たちの笑顔がみれたこと……嬉しく思います」
よかった……思い付きではあったけど、みんなを笑顔にできて……よかった。
「ユー!ブドウふみふみするよー」
「はやくはやくー」
「もたもたする男はモテないよー」
いつの間にか少女たちに囲まれて、ズボンを引っ張られていた。
「ピアニー!デイジー!ローズ!ユーステッド様を困らせちゃいけません!」
先に広場で面倒を見ていたんだろう、リリーが僕の足に絡みつく少女たちを叱りつけていたが、少女たちはそんなこはなにも気にせず僕のズボンを掴んだままリリーに文句を言っていた。
「あはは……大丈夫だよリリー。そっちにいくつもりだったから……カイはどうするんだ?」
「ボクは観客として見守らせていただきます。いってらっしゃい!ティア!ユース!」
「いってきますカイ……いい子にしてるのよ?」
「ティア!ボクはいつでもいいこですよ?わ!そ……そんなに撫でないで……」
カイが照れてる。
こうやって見てるとまだまだ子供だなと、微笑ましくなる。
大桶の中にブドウがドサドサと放り込まれていく。
その間、僕とティア、リリーと少女たちは準備をする。素足で踏むのだから、よく足を洗浄しなければならない。
「あ……嘘だろ……」
靴を脱ぎ、自分の素足をみて驚く。
さっき……足の甲に木箱を落としたところが赤く腫れていた。
視認したせいか……さっきまで感じていなかったズクズクという鈍い痛みを感じてきた。
チラッと、隣で同じように素足を洗っているティアたちを見る。
少女たちがバシャバシャと水の中ではしゃいでいて、始まる前なのに楽しそうにしている。
「(バレてない……大桶の中に入ればブドウで見えなくなるし……果汁が絞り出されたら色で見えなくなるよな……?)」
大丈夫……少しの間、耐えればいい。
こんなに楽しそうにしているのに、水を差すわけにはいかない。
「さぁ!準備できましたよ」
「ユーステッド様も綺麗に洗えました?」
「あ、あぁ大丈夫!いこういこう!」
キャッキャと笑い声を上げながら少女たちが大桶に入り、続いてティアとリリー、そして僕。輪になって手をつなぐように言われて……左手に少女、右手の先にはティアがいた……けど、僕は出来る限り自然に……ローズの手を取って間に挟んだ。
「んんー足の裏になんとも言えない感覚が……くすぐったい気もする……おもしろい……」
「いっぱいふむとねーもっともちゃっとするのー」
「いっぱいふむとねー海であそんでるみたいになるのー」
「おようふくよごさないようにやるのがプロなのー」
合図も無いのに踏み始める少女たち……思いっきり僕のズボンに果汁が飛んでくる……僕はもうプロにはなれないようだ。
「……始めますよ?せーーーーの!」
ワァっと大きな歓声と共に手拍子と、どこからともなく楽器の演奏が聞こえてきた。
軽快な音楽に乗って勝手に足が踊るように動いていく……くるくる回りながらブドウを踏みつけ果汁を絞り出す。
「わっ……!こ、転ぶって!」
「まだまだいきますよ!ユーステッド様!ついてきてくださいね~?」
「り、リリーが悪い顔……?そうか……なら、僕も負けないぞ?」
「なにをなさるのですか?」
「ティア、リリー、いいかい?せーので両手をあげるよ?……せーーのっ!」
僕の合図に慌てながら両手をあげると、フワッと少女たちが宙に浮かぶ。
驚いた顔をしていたけど、すぐにキラキラと目を輝かせて、
「「「もう一回やってー!」」」
と、口を揃えてお願いしてきた。
そういうことなら……と、ティアとリリーと協力して何度も何度も……音楽に合わせて少女たちが宙を舞う。
服を汚さない、なんていうのはどこへやら……笑い声と歓声を全身に浴びながら大桶の中で舞い踊り、『収穫祭』は一番の盛り上がりを見せた。
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