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第百二十話

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 皆が礼安の感情の暴走を止めるべく、敢えて明かしてこなかった、待田のヘドロ。
 両腕を仰々しく広げ、礼安の眼前に見下すべく立つ待田。しかし、礼安は待田に対して殴り掛かるでもなく、ただ俯くのみ。しかしそれは、自分の向き合うべき外道から視線を外しているようにも思えた。
「だがよ、これだけは間違っちゃあならねえ、そう俺は考えるからこそ先に言っておく。俺は『正しい』と思って殺してきている。犯罪者なんぞ、この世に放っておいても一利もねえ。お前さんの生温ィ解決法だけじゃあ、人は救えねェんだ」
 罪人の心を解放し、罪の意識を芽生えさせ牢獄に入れる。英雄として、実に理想的な流れだろう。一切の血が流れないのであれば、多くの人は喜ぶだろう。あくまで、多くの人は。
 しかし、仮に犯罪に手を染めた者が、不当な判決を受け軽い罪状となったら。仮にその事件で、大切な人を一人や二人失っていたとしたら。遺族はとてもではないがいたたまれない。
 実際、待田が殺してきた英雄科、武器科の生徒は全て酷い行いやいじめを行う、人でなしばかり。いじめは立派な傷害罪であるため、皆罪人として裁いたのだ。
 英雄の生温い解決法を望むより、そういった遺族は犯人への『然るべき報い』を与えたいと願う。だが、自分は非力な一般人。なら、願う先も縋る先も一つ。『教会』である。
「――いいか? 結局は、『残された奴』の意志を真の意味で汲み取れんのは、俺らだ。俺らこそが正義なんだよ! ただの善意の押し付けで、ただのお節介で!! 手前が気持ちよくなりてェんだか知らねェが、それで救われない人間のことを考えたことがあんのかよ!?」
 死刑制度を廃止したがる声の言い分は、十分理解できる。犯罪者には、刑期を全うして牢獄内で反省してもらうために、その人の善性に訴えかけるにはうってつけだろう。
 しかし。死の痛みによる理解も必要であると考える者は、少なくとも存在する。大勢の命を奪っておきながら、自分は懲役〇〇年――逆に言い換えてしまえば、その〇〇年を耐えてしまえば、その者への罪は一般的に清算されてしまう。それを、多くを失った遺族が望むかどうか。
「……でも、生きて罪を償うことで見える道もあるよ。更生のチャンスが無いなんて、バカげてる! お節介だろうとなんだろうと、私はその人に罪を償いながら生きていってほしい!!」
「じゃあそれは、お前自身をただ己が快感を得るためだけに暴力行為を重ねて、あまつさえお前の母親を殺し、隠蔽しようとした屑に対しても言えんのか!?」
 その一言に、礼安は嘔気がぶり返す。どれほど聖人であろうと、礼安にとって思い返したくもない過去は存在するし、思い返したくない犯人も存在する。
「……甘ェ、甘ェ甘ェ甘ェ!! 脆弱な見栄で手前(テメェ)の負の感情を隠そうとするなよ!!」
 礼安の顔面を蹴り飛ばし、壁に激突させる。顔面だけは装甲のサポートがかかっていない今、待田にとって最も狙うべき弱点(ウィーク・ポイント)
 口の端を切るのみであったが、礼安にとって心の痛みは深刻であった。
「お前の『正義』を否定なんぞしねェ、だがそのくどすぎる甘さが気に食わねェ!! お人よしなんぞ関係ねえ、俺たちの犯罪者を世間への見せしめとして殺していく、その考えこそ『正義』だろ!!」
 この世に、『正義』と『悪』という概念が存在するものだが。それは一方を『悪』と決めつける、宗教の傲慢さが入り交じった結果。良し悪しなど、たった一人の物差しで測ってはならない、それほどに強大な存在であり、有力な存在なのだ。
 地球が生まれてから、多くの争いが勃発した。しかしそれらはいつだって互いの『正義』のぶつかり合い。互いの信じるもののために、幾度も戦ってきた。
 決して、戦いは無益なものではない。武力衝突以外にも言論衝突も有り得る。人類の発展のためには『争い』の概念は不可欠である。
 死なせたくない。
 殺したい。
 互いの主張ぶつかり合う、『正義』同士の闘争こそ、この英雄と『教会』の在り方なのだ。
「お前さんが、礼安が信ずるもののために戦うんだろ!? お前さんの物差しで測った、外道に打ち勝つためによ!!」
 血だまりの幻覚を撥ね退け、何とか立ち上がる礼安。その瞳には、英雄としての純白さの中に外道への憎しみが宿っていた。ほんの少しの濁り、それが彼女をより高次元へ昇華させるための起爆剤であることを、待田は見抜いていたのだ。
「……私は、それでも貴方を殺さない。そう考えるのは私のエゴだろうけど、ただ『気分が悪い』から」
 手にしていたのは、『トリスタン』のライセンス。速攻認証し、ドライバーに装填。左側を押し込み、新たな装甲を高速生成。
『アーサー×トリスタン、マッシュアップ!! アースタンフォーム!!』
「――これが今の私のありったけ。このありったけで……貴方を倒す!!」
 握りしめるエクスカリバー。しかしその力は、いつも以上であった。待田の叱咤が伝わったのか、ほんの少しの非情さを兼ね備えていたのだ。
「……まただ、お前さんの魔力が濃くなった。人間じゃあねえほどにイカれたお前さんが、人間に近づくほど。本当に……本当に面白れェ」
 手にしていたのは、チーティングドライバー。今まで変身せず戦っていたのは、己にやり過ぎないよう枷を課していたようなものであった。待田がドライバーを誰かに見せた時は、実に数少ない。それほど力をかける存在に、本人が接敵しなかったから、というのは少なからずあった。
「光栄に思えよ、瀧本礼安。俺が変身すんのなんて、滅多にねェんだ」
『気代の大犯罪者、モリアーティ――多くの犯罪の根幹に在り続けた数学教授は、職を追われてもなお犯罪界のネットワークを牛耳り、多くの犯罪者の卵へ教鞭を取る』
 下腹部に装着し、握り拳を振り下ろす形でドライバーを起動させる。辺りの景色が次第に歪み始め、待田と外界を完全に隔絶する。
「――変身」
 まるで脆い硝子のように砕けた空間から出でたのは、待田本来の高身長はより長身に、より痩躯になった姿。人間体から脆くなる状態変化が起こったのか、否。漆黒のスーツがデザインそのまま形状変化し、ダマスカス鋼の硬度を鼻で笑うほどの超硬質な肌へ変質。腕も足も胴体も尋常でない。四キロメートルほどの長さを担保しているため、どれほどのリーチであっても対応できる。
 腰の曲がる高齢者の友である杖は、より長大に、そしてより歪に。触れるもの全てを傷つける茨が幾重にも重なった、凶悪なものと変質した。
 待田がそこに存在する限り無限に空間が歪み続け、多くの無関係な建物、『教会』の端役など、多くを巻き込みながら破壊を続ける、まさに『災厄』そのもの。信之を見限り、新たに頂点へと立った男は、常人とは異なり魔力のストッパーが存在しないのだ。常に辺りを破壊し続けるため、安全な場所など存在しない。
『元々はよ、そこまで強かあねェんだ、モリアーティ教授は。それを、俺の念能力による強化作用に、手術で適合しきれなかった英雄の残り香である、土の魔力性質を操る因子……それを合体したんだよ。結果生まれたのは、化け物みたいな破壊力を持つ、化け物たった一人。それが、俺だ』



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 皆が礼安の感情の暴走を止めるべく、敢えて明かしてこなかった、待田のヘドロ。
 両腕を仰々しく広げ、礼安の眼前に見下すべく立つ待田。しかし、礼安は待田に対して殴り掛かるでもなく、ただ俯くのみ。しかしそれは、自分の向き合うべき外道から視線を外しているようにも思えた。
「だがよ、これだけは間違っちゃあならねえ、そう俺は考えるからこそ先に言っておく。俺は『正しい』と思って殺してきている。犯罪者なんぞ、この世に放っておいても一利もねえ。お前さんの生温ィ解決法だけじゃあ、人は救えねェんだ」
 罪人の心を解放し、罪の意識を芽生えさせ牢獄に入れる。英雄として、実に理想的な流れだろう。一切の血が流れないのであれば、多くの人は喜ぶだろう。あくまで、多くの人は。
 しかし、仮に犯罪に手を染めた者が、不当な判決を受け軽い罪状となったら。仮にその事件で、大切な人を一人や二人失っていたとしたら。遺族はとてもではないがいたたまれない。
 実際、待田が殺してきた英雄科、武器科の生徒は全て酷い行いやいじめを行う、人でなしばかり。いじめは立派な傷害罪であるため、皆罪人として裁いたのだ。
 英雄の生温い解決法を望むより、そういった遺族は犯人への『然るべき報い』を与えたいと願う。だが、自分は非力な一般人。なら、願う先も縋る先も一つ。『教会』である。
「――いいか? 結局は、『残された奴』の意志を真の意味で汲み取れんのは、俺らだ。俺らこそが正義なんだよ! ただの善意の押し付けで、ただのお節介で!! 手前が気持ちよくなりてェんだか知らねェが、それで救われない人間のことを考えたことがあんのかよ!?」
 死刑制度を廃止したがる声の言い分は、十分理解できる。犯罪者には、刑期を全うして牢獄内で反省してもらうために、その人の善性に訴えかけるにはうってつけだろう。
 しかし。死の痛みによる理解も必要であると考える者は、少なくとも存在する。大勢の命を奪っておきながら、自分は懲役〇〇年――逆に言い換えてしまえば、その〇〇年を耐えてしまえば、その者への罪は一般的に清算されてしまう。それを、多くを失った遺族が望むかどうか。
「……でも、生きて罪を償うことで見える道もあるよ。更生のチャンスが無いなんて、バカげてる! お節介だろうとなんだろうと、私はその人に罪を償いながら生きていってほしい!!」
「じゃあそれは、お前自身をただ己が快感を得るためだけに暴力行為を重ねて、あまつさえお前の母親を殺し、隠蔽しようとした屑に対しても言えんのか!?」
 その一言に、礼安は嘔気がぶり返す。どれほど聖人であろうと、礼安にとって思い返したくもない過去は存在するし、思い返したくない犯人も存在する。
「……甘ェ、甘ェ甘ェ甘ェ!! 脆弱な見栄で|手前《テメェ》の負の感情を隠そうとするなよ!!」
 礼安の顔面を蹴り飛ばし、壁に激突させる。顔面だけは装甲のサポートがかかっていない今、待田にとって最も狙うべき|弱点《ウィーク・ポイント》。
 口の端を切るのみであったが、礼安にとって心の痛みは深刻であった。
「お前の『正義』を否定なんぞしねェ、だがそのくどすぎる甘さが気に食わねェ!! お人よしなんぞ関係ねえ、俺たちの犯罪者を世間への見せしめとして殺していく、その考えこそ『正義』だろ!!」
 この世に、『正義』と『悪』という概念が存在するものだが。それは一方を『悪』と決めつける、宗教の傲慢さが入り交じった結果。良し悪しなど、たった一人の物差しで測ってはならない、それほどに強大な存在であり、有力な存在なのだ。
 地球が生まれてから、多くの争いが勃発した。しかしそれらはいつだって互いの『正義』のぶつかり合い。互いの信じるもののために、幾度も戦ってきた。
 決して、戦いは無益なものではない。武力衝突以外にも言論衝突も有り得る。人類の発展のためには『争い』の概念は不可欠である。
 死なせたくない。
 殺したい。
 互いの主張ぶつかり合う、『正義』同士の闘争こそ、この英雄と『教会』の在り方なのだ。
「お前さんが、礼安が信ずるもののために戦うんだろ!? お前さんの物差しで測った、外道に打ち勝つためによ!!」
 血だまりの幻覚を撥ね退け、何とか立ち上がる礼安。その瞳には、英雄としての純白さの中に外道への憎しみが宿っていた。ほんの少しの濁り、それが彼女をより高次元へ昇華させるための起爆剤であることを、待田は見抜いていたのだ。
「……私は、それでも貴方を殺さない。そう考えるのは私のエゴだろうけど、ただ『気分が悪い』から」
 手にしていたのは、『トリスタン』のライセンス。速攻認証し、ドライバーに装填。左側を押し込み、新たな装甲を高速生成。
『アーサー×トリスタン、マッシュアップ!! アースタンフォーム!!』
「――これが今の私のありったけ。このありったけで……貴方を倒す!!」
 握りしめるエクスカリバー。しかしその力は、いつも以上であった。待田の叱咤が伝わったのか、ほんの少しの非情さを兼ね備えていたのだ。
「……まただ、お前さんの魔力が濃くなった。人間じゃあねえほどにイカれたお前さんが、人間に近づくほど。本当に……本当に面白れェ」
 手にしていたのは、チーティングドライバー。今まで変身せず戦っていたのは、己にやり過ぎないよう枷を課していたようなものであった。待田がドライバーを誰かに見せた時は、実に数少ない。それほど力をかける存在に、本人が接敵しなかったから、というのは少なからずあった。
「光栄に思えよ、瀧本礼安。俺が変身すんのなんて、滅多にねェんだ」
『気代の大犯罪者、モリアーティ――多くの犯罪の根幹に在り続けた数学教授は、職を追われてもなお犯罪界のネットワークを牛耳り、多くの犯罪者の卵へ教鞭を取る』
 下腹部に装着し、握り拳を振り下ろす形でドライバーを起動させる。辺りの景色が次第に歪み始め、待田と外界を完全に隔絶する。
「――変身」
 まるで脆い硝子のように砕けた空間から出でたのは、待田本来の高身長はより長身に、より痩躯になった姿。人間体から脆くなる状態変化が起こったのか、否。漆黒のスーツがデザインそのまま形状変化し、ダマスカス鋼の硬度を鼻で笑うほどの超硬質な肌へ変質。腕も足も胴体も尋常でない。四キロメートルほどの長さを担保しているため、どれほどのリーチであっても対応できる。
 腰の曲がる高齢者の友である杖は、より長大に、そしてより歪に。触れるもの全てを傷つける茨が幾重にも重なった、凶悪なものと変質した。
 待田がそこに存在する限り無限に空間が歪み続け、多くの無関係な建物、『教会』の端役など、多くを巻き込みながら破壊を続ける、まさに『災厄』そのもの。信之を見限り、新たに頂点へと立った男は、常人とは異なり魔力のストッパーが存在しないのだ。常に辺りを破壊し続けるため、安全な場所など存在しない。
『元々はよ、そこまで強かあねェんだ、モリアーティ教授は。それを、俺の念能力による強化作用に、手術で適合しきれなかった英雄の残り香である、土の魔力性質を操る因子……それを合体したんだよ。結果生まれたのは、化け物みたいな破壊力を持つ、化け物たった一人。それが、俺だ』