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第二部 23話 いつも通り

ー/ー



 次の日。
 俺はシェリーの屋敷へと向かった。
 公爵邸とは違うので、流石に馬車の迎えはない。
 ……いや、これが普通なのだが。

 シェリーは先代公爵の夫人であり、魔術師団の副団長でもある。
 そのため、一番街と三番街の両方に屋敷を持っていた。

 一番街の情勢が不安定であることも考えて、三番街でソフィアと暮らしている。
 俺も三番街の方へと歩いて行く。

 ……ソフィアと顔を合わせることを、少しだけ不安に思いながら。

「分かっていたけどさ……やっぱり大きい屋敷だなぁ」
「おのぼりさんかな?」
「うるさいっ」
 
 リックの軽口に言い返すと、屋敷の扉が開いた。
 使用人が扉を開くと、シェリーが笑い掛けてくれた。

「今までとは勝手が違うとは思いますが、どうか気にせずに続けてください」
「はい」

 案内に従って屋敷を歩き始める。
 ソフィアは二階のようだ。

「あの子も、先生が教育係を続けると聞いて喜んでいます」
「はは、それは嬉しいですね」

 扉の前までやってくると、使用人とシェリーは背中を向けた。

「この屋敷の中庭は外からは見えない造りになっています。
 元々は人目に付かず研究をするためだったのですが、都合が良かったですね。
 自由に使ってください。前の訓練場ほど広くはないですが」

 トントンと軽くノックをすると「はい」と少し緊張した声が返って来た。
 俺は「失礼します」と声を掛けて、扉を開いた。

 ソフィアは少し緊張した様子で椅子に腰掛けていた。
 俺と目が合うと、ぎこちなく頭を下げた。

「引き続きお願いしますね。先生」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 一見では落ち込んだ様子は見えない。
 こうして、表面上は『いつも通り』の訓練が始まった。

 軽く会話を繰り返していると、実際に体を動かした方が良いと判断する。
 そのままシェリーから聞いた中庭へと移動した。

「さて、おさらいです。まずは錬金をしてみましょう」
「はい」

 リックを手渡す。
 ソフィアがリックを錬金してゆく。
 前回よりも明らかに技量が増していた。

「そう言えば」
「?」
「A級冒険者のミア・クラークと会いましたよ」
「わあ、すごいわ。お話したの?」
「いや、俺の顔を見るなり逃げ出したんです」
「あはは。例のインタビューね」
「当然、俺は追い掛けたんですよ」
 リックを錬金しながら、ソフィアは楽しそうに俺の話を聞いている。

「で、鎖を錬金して追い詰めたんです。
 いざ捕まえる段階になって……アイツは酔いが回って寝ました」

 ソフィアが楽しそうに笑っている。
 その姿は俺の知っているソフィアお嬢様だった。
 
 一通り笑って、ソフィアは口を開いた。

「先生はリックで鎖を錬金できるのね。難しいわ」
 むむむ、とリックを見つめているが綺麗に鎖の形にはならない。

「すぐにできるようになりますよ」
「そうかしら?」
「ええ、短剣もすぐに錬金できたじゃないですか。
 正直に言えば――上達速度は俺よりずっと早いですよ」
「本当!?」
 ソフィアが表情を輝かせる。

「嬉しい。お父様からも錬金術を褒められたのよ……ぁ……」
 ソフィアが自分の失言に目を彷徨わせる。

「ははは。ならすぐに俺なんか追い抜きますよ」
 俺が取り繕った。表面上だけ。

 今日の訓練はどこかぎこちないが、それでもいつも通りを装って続いた。

 今はこれで良いと思う。
 当面は傷を塞ぐことだ。根本的な問題はその後。

 ソフィアの質問への答えを、俺は持たない。
 だからいつの日か傷が塞がったなら、一つの話をしようと思う。

 レン・クーガーの話だ。
 あの殺人鬼の人生は、ソフィアの助けになるのではないだろうか?



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 次の日。
 俺はシェリーの屋敷へと向かった。
 公爵邸とは違うので、流石に馬車の迎えはない。
 ……いや、これが普通なのだが。
 シェリーは先代公爵の夫人であり、魔術師団の副団長でもある。
 そのため、一番街と三番街の両方に屋敷を持っていた。
 一番街の情勢が不安定であることも考えて、三番街でソフィアと暮らしている。
 俺も三番街の方へと歩いて行く。
 ……ソフィアと顔を合わせることを、少しだけ不安に思いながら。
「分かっていたけどさ……やっぱり大きい屋敷だなぁ」
「おのぼりさんかな?」
「うるさいっ」
 リックの軽口に言い返すと、屋敷の扉が開いた。
 使用人が扉を開くと、シェリーが笑い掛けてくれた。
「今までとは勝手が違うとは思いますが、どうか気にせずに続けてください」
「はい」
 案内に従って屋敷を歩き始める。
 ソフィアは二階のようだ。
「あの子も、先生が教育係を続けると聞いて喜んでいます」
「はは、それは嬉しいですね」
 扉の前までやってくると、使用人とシェリーは背中を向けた。
「この屋敷の中庭は外からは見えない造りになっています。
 元々は人目に付かず研究をするためだったのですが、都合が良かったですね。
 自由に使ってください。前の訓練場ほど広くはないですが」
 トントンと軽くノックをすると「はい」と少し緊張した声が返って来た。
 俺は「失礼します」と声を掛けて、扉を開いた。
 ソフィアは少し緊張した様子で椅子に腰掛けていた。
 俺と目が合うと、ぎこちなく頭を下げた。
「引き続きお願いしますね。先生」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 一見では落ち込んだ様子は見えない。
 こうして、表面上は『いつも通り』の訓練が始まった。
 軽く会話を繰り返していると、実際に体を動かした方が良いと判断する。
 そのままシェリーから聞いた中庭へと移動した。
「さて、おさらいです。まずは錬金をしてみましょう」
「はい」
 リックを手渡す。
 ソフィアがリックを錬金してゆく。
 前回よりも明らかに技量が増していた。
「そう言えば」
「?」
「A級冒険者のミア・クラークと会いましたよ」
「わあ、すごいわ。お話したの?」
「いや、俺の顔を見るなり逃げ出したんです」
「あはは。例のインタビューね」
「当然、俺は追い掛けたんですよ」
 リックを錬金しながら、ソフィアは楽しそうに俺の話を聞いている。
「で、鎖を錬金して追い詰めたんです。
 いざ捕まえる段階になって……アイツは酔いが回って寝ました」
 ソフィアが楽しそうに笑っている。
 その姿は俺の知っているソフィアお嬢様だった。
 一通り笑って、ソフィアは口を開いた。
「先生はリックで鎖を錬金できるのね。難しいわ」
 むむむ、とリックを見つめているが綺麗に鎖の形にはならない。
「すぐにできるようになりますよ」
「そうかしら?」
「ええ、短剣もすぐに錬金できたじゃないですか。
 正直に言えば――上達速度は俺よりずっと早いですよ」
「本当!?」
 ソフィアが表情を輝かせる。
「嬉しい。お父様からも錬金術を褒められたのよ……ぁ……」
 ソフィアが自分の失言に目を彷徨わせる。
「ははは。ならすぐに俺なんか追い抜きますよ」
 俺が取り繕った。表面上だけ。
 今日の訓練はどこかぎこちないが、それでもいつも通りを装って続いた。
 今はこれで良いと思う。
 当面は傷を塞ぐことだ。根本的な問題はその後。
 ソフィアの質問への答えを、俺は持たない。
 だからいつの日か傷が塞がったなら、一つの話をしようと思う。
 レン・クーガーの話だ。
 あの殺人鬼の人生は、ソフィアの助けになるのではないだろうか?