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第二部 22話 おかわりティータイム

ー/ー



 団長の部屋を出ると、声を掛けられた。
 見れば、前の『ハーフエルフの森』で魔物討伐の御者をやってくれた団員だった。

「どうしたんだ?」
「アッシュさんに来客です。魔術師団の人みたいですが……」

 目を向けると、セシリーがこちらへと手を振っていた。
 俺は苦い顔をして頷いた。そろそろだろうと思っていたのだ。

「わかった」
「?」
 
 俺の表情が曇った理由を理解できない団員が首を傾げる。
 これから魔術師団の副団長とお茶してくるんだよ。


 前回と同じ店の同じ席に着く。
 俺が座ると、すぐに前回と同じ紅茶が運ばれてきた。

「まずはお礼を言わせてください」
「……いえ、そんな」

 年配のハーフエルフは、そう口を開いた。
 さらに深く頭を下げる。

「貴方のおかげでソフィアは命を取り留めました」
「……」
「私はソフィアと血は繋がっておりません」
「そうなのですか?」
「ええ。私は先代公爵の後妻なのです」
「……なるほど」
「ですが、孫は可愛いのですよ。本当にありがとうございます」

 シェリーが懐かしむように微笑んだ。
 俺は上手く表情を作れた自信がなかった。

「ソフィアは酷く落ち込んでいます」
 微笑みはそのままで、視線だけ遠くに移してシェリーが続けた。

「このような形で自分の内面を直視することになるなん、て」
「……はい」

 表情は変えないまま、最後だけ声を震わせた。
 俺は気の利いた台詞も言えずに答える。

「私はこのままソフィアを引き取るつもりです」
「お嬢様にとってもそれが一番良いと思います」

 シェリーが一度目を閉じる。
 数秒後、俺を真っ直ぐに見据えた。

「では、教育係もここまでですね?」

 思わずシェリーをまじまじと見返してしまった。言われてみれば、その通りだ。
 元々は公爵令嬢の教育係として依頼を受けた。ソフィアが剣に興味を持ったからだ。
 
 では、今はどうか?
 依頼自体は残るだろうが、剣を習っている場合ではないだろう。
 言っては何だが、興味本位で遊んでいる暇はないはずだ。

 お嬢様の教育係を止める……。
 兄さんの魂を監視するという目的は達成し辛くなるが、大した問題ではない。
 教育係でなくても良いし、別の人に依頼しても良い。

 問題があるとすれば俺の方だ。
 あのままで良いのか、ということだけだ。

 燃える屋敷の中庭で、命の重さが分からずに崩れた少女。
 あのままで良いのだろうか……?

「もし迷惑でなかったなら」

 俺はゆっくりと口を開いた。
 思い出したのは兄さんの最期の言葉だった。

 ――次は。
 ――次は、ちゃんと。

「続けても、良いですか?」
 その手伝いをしたかった。

 シェリーは呆然とこちらを見て、やがて穏やかに微笑んだ。

「道理で……」
「?」

 シェリーが納得したように何度も頷く。
 理解できない俺に続ける。

「道理で、あの『ブラウン・バケット』が一目置くわけね」
「いや、そんな」
「いいえ。誰かの為に筋を通そうとする姿が、恐らく似ているのよ」
「……」

 あまり考えたことのない内容だった。
 咄嗟に俺が返せずにいると、シェリーは深く頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 それから、公爵家の顛末も教えてもらった。
 まずは領地だが、しばらくは当主不在でも問題はないとのことだった。
 運営に十分な人材がいるのだろう。いずれはソフィアが継ぐのかもしれないが。
 
 シェリーが気にしていたのは、むしろ王都の方だった。
 多くの従者が主人を亡くしたことになる。能力も高く信頼も置けるから露頭に迷う心配はない。

「むしろ忠誠心が高いことが気がかりなのです」
「と言うと?」
「今の彼らは……何をやるか分からない怖さがあります」



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 団長の部屋を出ると、声を掛けられた。
 見れば、前の『ハーフエルフの森』で魔物討伐の御者をやってくれた団員だった。
「どうしたんだ?」
「アッシュさんに来客です。魔術師団の人みたいですが……」
 目を向けると、セシリーがこちらへと手を振っていた。
 俺は苦い顔をして頷いた。そろそろだろうと思っていたのだ。
「わかった」
「?」
 俺の表情が曇った理由を理解できない団員が首を傾げる。
 これから魔術師団の副団長とお茶してくるんだよ。
 前回と同じ店の同じ席に着く。
 俺が座ると、すぐに前回と同じ紅茶が運ばれてきた。
「まずはお礼を言わせてください」
「……いえ、そんな」
 年配のハーフエルフは、そう口を開いた。
 さらに深く頭を下げる。
「貴方のおかげでソフィアは命を取り留めました」
「……」
「私はソフィアと血は繋がっておりません」
「そうなのですか?」
「ええ。私は先代公爵の後妻なのです」
「……なるほど」
「ですが、孫は可愛いのですよ。本当にありがとうございます」
 シェリーが懐かしむように微笑んだ。
 俺は上手く表情を作れた自信がなかった。
「ソフィアは酷く落ち込んでいます」
 微笑みはそのままで、視線だけ遠くに移してシェリーが続けた。
「このような形で自分の内面を直視することになるなん、て」
「……はい」
 表情は変えないまま、最後だけ声を震わせた。
 俺は気の利いた台詞も言えずに答える。
「私はこのままソフィアを引き取るつもりです」
「お嬢様にとってもそれが一番良いと思います」
 シェリーが一度目を閉じる。
 数秒後、俺を真っ直ぐに見据えた。
「では、教育係もここまでですね?」
 思わずシェリーをまじまじと見返してしまった。言われてみれば、その通りだ。
 元々は公爵令嬢の教育係として依頼を受けた。ソフィアが剣に興味を持ったからだ。
 では、今はどうか?
 依頼自体は残るだろうが、剣を習っている場合ではないだろう。
 言っては何だが、興味本位で遊んでいる暇はないはずだ。
 お嬢様の教育係を止める……。
 兄さんの魂を監視するという目的は達成し辛くなるが、大した問題ではない。
 教育係でなくても良いし、別の人に依頼しても良い。
 問題があるとすれば俺の方だ。
 あのままで良いのか、ということだけだ。
 燃える屋敷の中庭で、命の重さが分からずに崩れた少女。
 あのままで良いのだろうか……?
「もし迷惑でなかったなら」
 俺はゆっくりと口を開いた。
 思い出したのは兄さんの最期の言葉だった。
 ――次は。
 ――次は、ちゃんと。
「続けても、良いですか?」
 その手伝いをしたかった。
 シェリーは呆然とこちらを見て、やがて穏やかに微笑んだ。
「道理で……」
「?」
 シェリーが納得したように何度も頷く。
 理解できない俺に続ける。
「道理で、あの『ブラウン・バケット』が一目置くわけね」
「いや、そんな」
「いいえ。誰かの為に筋を通そうとする姿が、恐らく似ているのよ」
「……」
 あまり考えたことのない内容だった。
 咄嗟に俺が返せずにいると、シェリーは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
 それから、公爵家の顛末も教えてもらった。
 まずは領地だが、しばらくは当主不在でも問題はないとのことだった。
 運営に十分な人材がいるのだろう。いずれはソフィアが継ぐのかもしれないが。
 シェリーが気にしていたのは、むしろ王都の方だった。
 多くの従者が主人を亡くしたことになる。能力も高く信頼も置けるから露頭に迷う心配はない。
「むしろ忠誠心が高いことが気がかりなのです」
「と言うと?」
「今の彼らは……何をやるか分からない怖さがあります」