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#2

ー/ー



 マイクは住まいの中へ入ると母親へニュースの件を報告しようとした。
 しかし母親は死んだような目で父が元気だった頃の写真を見つめている。
 その様子に胸を痛めたマイクは声を掛けるのを一瞬躊躇ってしまった。

「か、母さん。カオス・レクス逮捕されたってさ……」

 少し緊張しながら声を掛けるマイク。
 母親はゆっくりと顔を上げ息子の方を見た。

「そう……」

 仇が捕まり安心したのか夫の死でそれどころではないのか、どのような感情を抱いているのか読み取れない。

「これで汚染の被害も収まるだろうし、もう心配しなくて良いよな……!」

 何とか母親の気持ちを読み取ろうと話題を広げてみるが彼女の反応は薄い。

「…………」

 マイクもこれ以上話すのをやめた。
 住まいに居るのが気まずくなってしまう。

「じゃ、じゃあまだ早いけどバイト行ってくるよ……」

 母親との居心地が最悪だ、そのためまだ時間は早いがアルバイトに向かう事にしたのだ。
 仮説住宅の扉を開けて外へ出る。

 ***

 仮説住宅地から街に出ようとしたタイミングで声を掛けられる。
 声のする方、視線の先にはアレックスの姿が。

「おーいマイク! ニュース見て……聞いてくれたか⁈」

 嬉しそうに駆け寄って来るアレックスの姿は傷だらけで至る所に包帯が巻かれており湿布も貼られている。
 それだけで彼が何を言いたいのかマイクは理解した。

「聞いたよ。てかその傷、お前も戦ってたんだな」

「あぁ、今までで一番ヤバかった」

 マイクは気分が落ちていたがそれを隠そうと無理に普段通りに接してみた。

「でも何とか仇は捕まえた、父さんも頑張ってくれたんだよ」

 父であるリチャードの活躍も伝えるアレックス。
 彼なりの元気付け方なのだろう、確かにマイクの父の友人でもあったから。

「ありがとな、伝えといてくれ」

 それだけ言ってその場から去ろうとするマイク。
 正直アレックスとの間にも気まずさを感じていたのだ。

「あれ、もうバイト?」

「早く出るに越した事ないだろ? チェックで並ばなくて済む」

「そっか……」

 アレックスは事情を察した。
 マイクは母親と上手く行っていないのだ。

「色々大変だろうけどさ、無理はするなよ?」

 逃げるようにこの場から去ろうとするマイクの背中に心配の声を掛ける。

「お母さんを支えなきゃいけない事とかあると思う、でもマイクはマイクだ。どんな時も自分を大切にな?」

 それを聞いたマイクは少し拳を強く握るがすぐにその力を抜く。
 そしてアレックスの方に振り返り少し本音を交えて伝えた。

「ご親切にどうも。でも決めたんだ、俺は母さんのためにアストラルシティでの市民権を得るって」

「マイク……」

「何年かかるか分からないけど……そしたら父さんに出来なかった事、家を買ってやるんだ」

 そして母親への印象と想いも正直に伝えた。

「正直母さんは苦手だけど……父さんが愛した人だから、父さんの意思を尊重したいんだ」

 そう最後に告げて去っていくマイク。
 そんな彼の背中を見てアレックスは思っていた。

「……結局、君の意思じゃないだろ」





 汚染難民の暮らす仮説住宅から北にビヨンド達の暮らす壁に囲まれた汚染区域がある。
 仮説住宅とはかろうじて汚染を逃れたサテライトシティの残骸なのだ。
 マイクはアレックスと別れた後、南にある大都市アストラルシティへと向かった。

「はい、ID確認しました。タクシー運転手のマイク・ディケンズさんですね」

 IDカードを街の受付に見せたマイクはポケットに手を突っ込みながら歩き出す。
 不法な汚染難民の滞在を防ぐため働きに来る者たちの管理も徹底しているのだ。

「はぁ……」

 アストラルシティを歩くマイク。
 辺りの景色は先程までのものと大きく変わっていた。
 発展した都市、大きなビル。
 道行く人々も綺麗にしておりどこか余裕を感じさせるような雰囲気を出している。

『このアストラルシティは何故住む者たちを優先しないのか!』

 すると政府に対しデモを行う団体を見つける。
 言っている事は傷付くがいつもの事なのでマイクはもう慣れていた。

『難民やビヨンドばかり支援した結果我々の所得は例年より遥かに下がった! 更にその支援はどこから来ているか知っているか、我々の税金だ!』

 所得が下がったと言っているが難民たちに比べたら遥かに高い。
 それでも外の問題を持ち込み巻き込まれるとなると腹が立つのも仕方ない事なのだろう。

『上がり続ける税金、下がり続ける所得。このままでは未来がありません!』

 それでもこのデモはかなり注目されておりかなりの人が集まっていた。

『難民反対、ビヨンドなんてもってのほか! 自分の力で生きる独立した社会を築いて行きましょう!』

 そのまま守はデモ隊がいる辺りを通り過ぎバイト先へ向かった。

 ***

 マイクのバイト先はタクシー会社である。
 何とか免許を取ったため選んだ職種だったが本日、職場に着いた瞬間にある事を告げられてしまう。

「ごめん、今日で君は解雇だ」

「え……」

 突然クビを宣告されてしまったのだ。
 当然マイクは納得が行かない。

「せっかく来てくれたけど……もう帰って良いよ」

「待って下さい、納得行きません! せっかく免許も取ったのに、まだその元も取れてないんですよ⁈」

 クビを取り消す方法はないかと思いながら上司に擦り寄って行く。

「新しい正社員が二人入るんだ、それに君はホラ……難民だろ?」

「だから何なんです……?」

「クレームがあったんだよ、難民に職場まで運ばせたのかって……」

 その事実はマイクにとってあまりにも残酷だった。
 自分の問題ではない、難民だからというどうしようもない理由。

「そう、ですか……」

 それを聞いた途端一気に気力が失せてしまう。

「じゃあ、お世話になりました……」

 そのまま荷物を手に取り職場だった所を後にするのだった。





 朝まで早くから予定が崩れてしまったマイクはアストラルシティ内の広場にあるベンチに座ってボーッとしていた。
 心だけは現実逃避したい気分なのだ。

「…………」

 視線の先には急ぐサラリーマンや楽しそうに登校する学生などの姿が。
 彼らは仕事や学校を面倒に思っているだろうが今のマイクから見れば羨ましくて仕方がない。
 しかしこのまま帰るのは母と顔を合わせる事になってしまうので気まずい、そこから動けずにいた。

「マイク・ディケンズさんでよろしいですか?」

 するとスーツを着た二人組の男性に声を掛けられる。
 彼らの正体はすぐに分かった。

「はい……」

「先ほど解雇されたという事でIDが無効になっています、速やかに街から退出されるようお願いします」

「……わかりました」

 マイクはそのまま男性二人の見送りという名目の監視を受けてアストラルシティの外まで事実上の追い出しを食らうのだった。

 ***

 元サテライトシティの南部、現在の難民たちが暮らす仮説住宅エリアの広場でマイクは座っていた。
 同じ広場と言っても先程の都会のとは明らかに違う、古ぼけた小さな建物が少しだけあり地面には雑草が生えている。
 荒廃した風景で小汚い子供たちが使い古したボールで遊んでいる。

「ん……?」

 すると未だに使っている何世代も前のスマホにメッセージが届く。
 確認すると相手はアレックスだった。

『次休みいつ? 良かったら飯でも行かないか、俺が奢るよ』

 彼なりに父の事を慰めてくれようとしているのだろう。
 しかし今のマイクに居場所はもうない。

『もう毎日が休みだよ』

『え、まさか……』

 そして次の瞬間アレックスから直接電話が来た。
 あまり乗り気になれなかったが仕方なく応答する。

「もしもし?」

『マイクっ、まさかクビに……⁈』

「あぁ、正社員が増えるからだってさ」

『マジかよ……じゃあ俺がそっち行く、店予約してたけどキャンセルするからっ』

 その言葉を最後に電話は切れる。
 マイクはその場でアレックスを待ち共に元サテライトシティエリアで話す事にするのだった。





 仮説住宅、サテライトエリアと呼ばれる場所もアストラル政府からの援助で少しは社会として成り立っている。
 少ないが何とか営業できている酒場でマイクとアレックスは語り合っていた。

「就労IDがなきゃ街にすら入れないからなぁ、キツいもんだよ」

「不法滞在する難民がいたからだろ、まず自分たちを優先しろってデモの人達も言ってたし」

「でもここのお酒だって十分美味いぞ、いい感じに酔えそうだよ」

「わざわざ口に出すなよそういう事は……」

 気を遣ったつもりで酒が美味いと言ったアレックスだが店主からすれば嫌味に聞こえなくもない。

「あ、ごめんなさい……」

 過ちに気付き店主に謝罪をした後、アレックスは話を戻した。

「それでどうするんだよ次の仕事。あ、ここにも張り紙あるぞ! 従業員募集だってさ」

 マイクの次の仕事について相談を始める。
 この酒場にも募集の張り紙があった。

「サテライトエリアの収入じゃダメだ、母さんと俺の生活で手一杯になる……金が貯めれない」

 やはり母と共にアストラルシティの住人になる事を望んでいるのだ。

「アストラルシティで仕事して出世してそこの住人にならないと、マトモな家も買ってやれないだろ……?」

「マイク……」

「このままじゃ帰りづらいし……アレックス、そっちに何かコネでもないか?」

 母の事ばかり考え続けるマイクに思わずアレックスは提案をしてしまう。

「俺まだ新人だしそーゆーのはね……てゆーか本当にしんどそうだぞお前」

「え……?」

「お母さんの事で無理しすぎじゃない? まずは自分を大事にしなよ、その言葉だけはデモ隊の人達の言う通りだ」

 他人の事ばかり優先するマイクを心配して彼を労るような発言をした。

「多分お母さんもお前が無理するより安定した生活できる方が安心だと思うんだ、本当に彼女のためを想うなら……」

 アレックスがそこまで言ったタイミングでマイクが遮る。

「違うんだ、自分を優先とかじゃないんだよ……!」

「え……?」

「父さんの願いを叶えてやりたい……っ! あんな優しかった父さんがガリガリになって何も果たせずに死んだんだ、俺は父さんの意思は間違ってなかったって証明したい……!」

 その気持ちは大好きだった父親へ向けたものだったのだ。

「それに皆んなが自分を優先してたら助けが必要な人達が傷付くだろ、まさに父さんがそうだったみたいに」

 そう言って立ち上がるマイク。
 アレックスを置いて一人で帰ろうとしたのだ。

「ごめん、やっぱ帰るわ」

「マイクっ……」

 悲壮感漂うマイクの背中を見てアレックスもこれ以上酒が喉を通らなかった。

「すみません、チップもよければ」

 そして酒場の店主に代金と少し多めのチップを支払いアレックスも店を出た。
 しかしマイクを追う事はしなかった、今の自分がこれ以上話したところで意味がないと悟ったから。





TO BE CONTINUED……


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 しかし母親は死んだような目で父が元気だった頃の写真を見つめている。
 その様子に胸を痛めたマイクは声を掛けるのを一瞬躊躇ってしまった。
「か、母さん。カオス・レクス逮捕されたってさ……」
 少し緊張しながら声を掛けるマイク。
 母親はゆっくりと顔を上げ息子の方を見た。
「そう……」
 仇が捕まり安心したのか夫の死でそれどころではないのか、どのような感情を抱いているのか読み取れない。
「これで汚染の被害も収まるだろうし、もう心配しなくて良いよな……!」
 何とか母親の気持ちを読み取ろうと話題を広げてみるが彼女の反応は薄い。
「…………」
 マイクもこれ以上話すのをやめた。
 住まいに居るのが気まずくなってしまう。
「じゃ、じゃあまだ早いけどバイト行ってくるよ……」
 母親との居心地が最悪だ、そのためまだ時間は早いがアルバイトに向かう事にしたのだ。
 仮説住宅の扉を開けて外へ出る。
 ***
 仮説住宅地から街に出ようとしたタイミングで声を掛けられる。
 声のする方、視線の先にはアレックスの姿が。
「おーいマイク! ニュース見て……聞いてくれたか⁈」
 嬉しそうに駆け寄って来るアレックスの姿は傷だらけで至る所に包帯が巻かれており湿布も貼られている。
 それだけで彼が何を言いたいのかマイクは理解した。
「聞いたよ。てかその傷、お前も戦ってたんだな」
「あぁ、今までで一番ヤバかった」
 マイクは気分が落ちていたがそれを隠そうと無理に普段通りに接してみた。
「でも何とか仇は捕まえた、父さんも頑張ってくれたんだよ」
 父であるリチャードの活躍も伝えるアレックス。
 彼なりの元気付け方なのだろう、確かにマイクの父の友人でもあったから。
「ありがとな、伝えといてくれ」
 それだけ言ってその場から去ろうとするマイク。
 正直アレックスとの間にも気まずさを感じていたのだ。
「あれ、もうバイト?」
「早く出るに越した事ないだろ? チェックで並ばなくて済む」
「そっか……」
 アレックスは事情を察した。
 マイクは母親と上手く行っていないのだ。
「色々大変だろうけどさ、無理はするなよ?」
 逃げるようにこの場から去ろうとするマイクの背中に心配の声を掛ける。
「お母さんを支えなきゃいけない事とかあると思う、でもマイクはマイクだ。どんな時も自分を大切にな?」
 それを聞いたマイクは少し拳を強く握るがすぐにその力を抜く。
 そしてアレックスの方に振り返り少し本音を交えて伝えた。
「ご親切にどうも。でも決めたんだ、俺は母さんのためにアストラルシティでの市民権を得るって」
「マイク……」
「何年かかるか分からないけど……そしたら父さんに出来なかった事、家を買ってやるんだ」
 そして母親への印象と想いも正直に伝えた。
「正直母さんは苦手だけど……父さんが愛した人だから、父さんの意思を尊重したいんだ」
 そう最後に告げて去っていくマイク。
 そんな彼の背中を見てアレックスは思っていた。
「……結局、君の意思じゃないだろ」
 汚染難民の暮らす仮説住宅から北にビヨンド達の暮らす壁に囲まれた汚染区域がある。
 仮説住宅とはかろうじて汚染を逃れたサテライトシティの残骸なのだ。
 マイクはアレックスと別れた後、南にある大都市アストラルシティへと向かった。
「はい、ID確認しました。タクシー運転手のマイク・ディケンズさんですね」
 IDカードを街の受付に見せたマイクはポケットに手を突っ込みながら歩き出す。
 不法な汚染難民の滞在を防ぐため働きに来る者たちの管理も徹底しているのだ。
「はぁ……」
 アストラルシティを歩くマイク。
 辺りの景色は先程までのものと大きく変わっていた。
 発展した都市、大きなビル。
 道行く人々も綺麗にしておりどこか余裕を感じさせるような雰囲気を出している。
『このアストラルシティは何故住む者たちを優先しないのか!』
 すると政府に対しデモを行う団体を見つける。
 言っている事は傷付くがいつもの事なのでマイクはもう慣れていた。
『難民やビヨンドばかり支援した結果我々の所得は例年より遥かに下がった! 更にその支援はどこから来ているか知っているか、我々の税金だ!』
 所得が下がったと言っているが難民たちに比べたら遥かに高い。
 それでも外の問題を持ち込み巻き込まれるとなると腹が立つのも仕方ない事なのだろう。
『上がり続ける税金、下がり続ける所得。このままでは未来がありません!』
 それでもこのデモはかなり注目されておりかなりの人が集まっていた。
『難民反対、ビヨンドなんてもってのほか! 自分の力で生きる独立した社会を築いて行きましょう!』
 そのまま守はデモ隊がいる辺りを通り過ぎバイト先へ向かった。
 ***
 マイクのバイト先はタクシー会社である。
 何とか免許を取ったため選んだ職種だったが本日、職場に着いた瞬間にある事を告げられてしまう。
「ごめん、今日で君は解雇だ」
「え……」
 突然クビを宣告されてしまったのだ。
 当然マイクは納得が行かない。
「せっかく来てくれたけど……もう帰って良いよ」
「待って下さい、納得行きません! せっかく免許も取ったのに、まだその元も取れてないんですよ⁈」
 クビを取り消す方法はないかと思いながら上司に擦り寄って行く。
「新しい正社員が二人入るんだ、それに君はホラ……難民だろ?」
「だから何なんです……?」
「クレームがあったんだよ、難民に職場まで運ばせたのかって……」
 その事実はマイクにとってあまりにも残酷だった。
 自分の問題ではない、難民だからというどうしようもない理由。
「そう、ですか……」
 それを聞いた途端一気に気力が失せてしまう。
「じゃあ、お世話になりました……」
 そのまま荷物を手に取り職場だった所を後にするのだった。
 朝まで早くから予定が崩れてしまったマイクはアストラルシティ内の広場にあるベンチに座ってボーッとしていた。
 心だけは現実逃避したい気分なのだ。
「…………」
 視線の先には急ぐサラリーマンや楽しそうに登校する学生などの姿が。
 彼らは仕事や学校を面倒に思っているだろうが今のマイクから見れば羨ましくて仕方がない。
 しかしこのまま帰るのは母と顔を合わせる事になってしまうので気まずい、そこから動けずにいた。
「マイク・ディケンズさんでよろしいですか?」
 するとスーツを着た二人組の男性に声を掛けられる。
 彼らの正体はすぐに分かった。
「はい……」
「先ほど解雇されたという事でIDが無効になっています、速やかに街から退出されるようお願いします」
「……わかりました」
 マイクはそのまま男性二人の見送りという名目の監視を受けてアストラルシティの外まで事実上の追い出しを食らうのだった。
 ***
 元サテライトシティの南部、現在の難民たちが暮らす仮説住宅エリアの広場でマイクは座っていた。
 同じ広場と言っても先程の都会のとは明らかに違う、古ぼけた小さな建物が少しだけあり地面には雑草が生えている。
 荒廃した風景で小汚い子供たちが使い古したボールで遊んでいる。
「ん……?」
 すると未だに使っている何世代も前のスマホにメッセージが届く。
 確認すると相手はアレックスだった。
『次休みいつ? 良かったら飯でも行かないか、俺が奢るよ』
 彼なりに父の事を慰めてくれようとしているのだろう。
 しかし今のマイクに居場所はもうない。
『もう毎日が休みだよ』
『え、まさか……』
 そして次の瞬間アレックスから直接電話が来た。
 あまり乗り気になれなかったが仕方なく応答する。
「もしもし?」
『マイクっ、まさかクビに……⁈』
「あぁ、正社員が増えるからだってさ」
『マジかよ……じゃあ俺がそっち行く、店予約してたけどキャンセルするからっ』
 その言葉を最後に電話は切れる。
 マイクはその場でアレックスを待ち共に元サテライトシティエリアで話す事にするのだった。
 仮説住宅、サテライトエリアと呼ばれる場所もアストラル政府からの援助で少しは社会として成り立っている。
 少ないが何とか営業できている酒場でマイクとアレックスは語り合っていた。
「就労IDがなきゃ街にすら入れないからなぁ、キツいもんだよ」
「不法滞在する難民がいたからだろ、まず自分たちを優先しろってデモの人達も言ってたし」
「でもここのお酒だって十分美味いぞ、いい感じに酔えそうだよ」
「わざわざ口に出すなよそういう事は……」
 気を遣ったつもりで酒が美味いと言ったアレックスだが店主からすれば嫌味に聞こえなくもない。
「あ、ごめんなさい……」
 過ちに気付き店主に謝罪をした後、アレックスは話を戻した。
「それでどうするんだよ次の仕事。あ、ここにも張り紙あるぞ! 従業員募集だってさ」
 マイクの次の仕事について相談を始める。
 この酒場にも募集の張り紙があった。
「サテライトエリアの収入じゃダメだ、母さんと俺の生活で手一杯になる……金が貯めれない」
 やはり母と共にアストラルシティの住人になる事を望んでいるのだ。
「アストラルシティで仕事して出世してそこの住人にならないと、マトモな家も買ってやれないだろ……?」
「マイク……」
「このままじゃ帰りづらいし……アレックス、そっちに何かコネでもないか?」
 母の事ばかり考え続けるマイクに思わずアレックスは提案をしてしまう。
「俺まだ新人だしそーゆーのはね……てゆーか本当にしんどそうだぞお前」
「え……?」
「お母さんの事で無理しすぎじゃない? まずは自分を大事にしなよ、その言葉だけはデモ隊の人達の言う通りだ」
 他人の事ばかり優先するマイクを心配して彼を労るような発言をした。
「多分お母さんもお前が無理するより安定した生活できる方が安心だと思うんだ、本当に彼女のためを想うなら……」
 アレックスがそこまで言ったタイミングでマイクが遮る。
「違うんだ、自分を優先とかじゃないんだよ……!」
「え……?」
「父さんの願いを叶えてやりたい……っ! あんな優しかった父さんがガリガリになって何も果たせずに死んだんだ、俺は父さんの意思は間違ってなかったって証明したい……!」
 その気持ちは大好きだった父親へ向けたものだったのだ。
「それに皆んなが自分を優先してたら助けが必要な人達が傷付くだろ、まさに父さんがそうだったみたいに」
 そう言って立ち上がるマイク。
 アレックスを置いて一人で帰ろうとしたのだ。
「ごめん、やっぱ帰るわ」
「マイクっ……」
 悲壮感漂うマイクの背中を見てアレックスもこれ以上酒が喉を通らなかった。
「すみません、チップもよければ」
 そして酒場の店主に代金と少し多めのチップを支払いアレックスも店を出た。
 しかしマイクを追う事はしなかった、今の自分がこれ以上話したところで意味がないと悟ったから。
TO BE CONTINUED……