ユーステッド、困惑す

ー/ー



リリーが出してくれたカップから溢れるハーブティの香りと湯気を頭に浴びながら、本邸の庭に設けられたテーブルにいる僕。心配そうに声をかけるリリーには申し訳なかったけど、どうしたらいいかわからなくなったんだ。
だから、よくわからないままここまで来て、椅子に座ってゴンっと勢いよくテーブルに頭を付けたまま涙を流している。

「外を見たら貴方がいるから驚きましたよユーステッド……で、どうしたんですか?昨日の夕方まで元気いっぱいだったじゃないですか。」
「……。」
「息してますかねユーステッド様……。」



昨晩――ティアが部屋に来てくれた。話をしてくれた。しっかりと向き合っていた……はずだ……。

「私はあなたが思っているような人間ではありません……」

開口一番が……これだった。ただこれは仕方ない……僕は彼女の姿を見ただけで、日記を見ただけの僕が思った印象ではあるのだから。

「そんなことないはずだよ……確かにこうやって直接話をするのは初めてだけど……屋敷で働いてるみんなも街の領民たちも……ティアのこと()めてるし尊敬(そんけい)しているよ。だからそんな風に言わないで。」

僕が散歩をしてながら交流したことで得たもので、みんなティアのことを好きだっていうことは事実だから。

「……それは私がそうしなければと……みなの前で仮面をかぶっている私です。実際の私は……貴方のことを(うたが)って監視して……まともに顔も合わせようともしなかった……陰湿(いんしつ)な女なのです。」
「『そうあらなければならない』か……僕もティアと似たような気持で過ごしていたから……わかるよ。罪を犯した元王太子……遠い国から婿入りの為に来るなんて怪しく信じられないのも……わかる。僕がティアの立場でもきっと疑っちゃうから……そんなこと気にしないでいいよ。」

なんだろう……立場や環境は違うのに僕とティアはなんだか似ているんじゃないかって思ったんだ。だからかな……?ちょっと調子のいいこと言ってしまった。

「でも……でも私は貴方を……」
「無理に切り替えないでいいよ……少しづつ歩み寄って夫婦として――」
「無理です!」
「をっ?!むり?!なんで?!」

急な大声にびっくりしてしまって、僕もティアもそのままの勢いで……

「受け入れる気持ちは十分ありますしそのつもりで一緒にいようと努力しています!けれど……ユーステッド様を見ているとどうしても……」
「ど、どうしても……?」

(ひざ)の上に置いた両手を震わせて……少しの()の後、スッと立ち上がって叫ぶティア。

「どうしても……!可愛らしい5歳の男の子と同じ様にしか見れないのです!!ごめんなさい!!」
「……えぇ?」

そのまま速足で部屋を出ていくティア。僕も立ち上がって追いかけようとしたのだけど、残り香を嗅いでしまったせいで動きを止めてしまったんだ。



「――が……昨日の夜の出来事なんだ。思ってた感じと違うよ……ううぅ……。」
「……女性の残り香を嗅ぐような人はボクだっていやですよ。」
「嗅いだのはいなくなったあとだよ!その前の話だって!僕は……そんなに子供っぽいかな?」
「……。」

リリーもカイも苦笑いしたまま黙ってるなんて……そんな風にされたら本当に僕が子供っぽいってことになるじゃないか……。

「わ、私は少しくらい子供っぽいくらいならいいと思いますけど……あはは……」
「……確かにしっかりとした男性でもたまに見える子供っぽさっていうのはギャップがあっていい時もあると思うけど……ユーステッドの場合は……」
「僕の場合は……?」
「……。」
「だからなんで黙るんだよ!言ってくれよ!」

リリーは新しいお茶を入れるって言っていなくなった。ここに居るのがつらくなったのだろう……わかるよ……ごめんねリリー。一方のカイはちょっと難しい顔をしている……気を使った返答でも考えている風にも見える。

「僕だって少しくらい……そうかもなって思ったけど――」
「あの日の出来事と……ボクのせいかもしれないです。」
「え?」
「確かにユーステッドは年の割に落ち着きがないとは思います。けど……ティアがそこまで貴方のことを幼くとらえてしまったのは……」

サラッと僕にひどいこと言った気がするけど、それよりも気になるのは『あの日の出来事』だ。

「リリーがいなくて良かったです。あまりいい話ではないですから……お聞きになりますか?」

僕は静かにうなずいて、カイの話を聞く。

「2年前……婚約者として隣国のとある男がここへ来ました。ティアはボクの為と言っていました。あの男を屋敷に招き食事をし……ふたりきりで話をしたいなどと言ったのでしょう。隣の部屋から聞こえてきた不自然な物音でボクは目を覚まし……扉を開けたら……押し倒され涙を流すティアがいました。」
「……は?」
「ボクはまだ3歳です。大人の男に力ではかないっこありません。なので力いっぱい泣きました、そりゃもう大声で。それに気が付いてくれたベンとジュリアンがきてくれ事なきを得ました。結構爽快(そうかい)でしたよ?そりゃもうボコボコにされてましたからね。この件で婚約も破棄(はき)になり安心しました……でもああいった嫌な記憶はなぜずっと頭に……心に焼き付いてしまうものなので――」

思わずカイを抱きしめていた。

「苦しいです……」
「……ごめん、嫌なことを話させた。」
「いえ……ボクが言い出したことですから……でもほんとくるし……」

2年前なぜ僕はここにいなかったのかと……さらに強くカイを抱きしめる。
2年前……僕は母を亡くして泣いていた。ティアもカイも泣いていて……深く傷ついていた。

たぶんカイはそこからがんばってはやく大人になろうとしている。変に大人びているのはそのせいなんだと思う。ティアを守りたいから。

そしてティアは……そこから男性をよく思っていない……怖いから。僕を受け入れたのは自分より年下であったことと、カイの為に父親が必要だと思って自分の気持ちを押し殺して決意した。それでも怖いから……いつからあの格好で街にでたり、屋敷で働いていたのかはわからないけど……そうすることで自分を守っている。

「でもティア……ロベリアの時だと距離感(きょりかん)おかしくなるんだけど本当に僕のこと子供だと思ってるのかな?」
「ぷはっ……!それは、ほんとう、ですか?」

僕の腕から解放されたカイが、少し嬉しそうに声を上げた。


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だから、よくわからないままここまで来て、椅子に座ってゴンっと勢いよくテーブルに頭を付けたまま涙を流している。
「外を見たら貴方がいるから驚きましたよユーステッド……で、どうしたんですか?昨日の夕方まで元気いっぱいだったじゃないですか。」
「……。」
「息してますかねユーステッド様……。」
昨晩――ティアが部屋に来てくれた。話をしてくれた。しっかりと向き合っていた……はずだ……。
「私はあなたが思っているような人間ではありません……」
開口一番が……これだった。ただこれは仕方ない……僕は彼女の姿を見ただけで、日記を見ただけの僕が思った印象ではあるのだから。
「そんなことないはずだよ……確かにこうやって直接話をするのは初めてだけど……屋敷で働いてるみんなも街の領民たちも……ティアのこと|褒《ほ》めてるし|尊敬《そんけい》しているよ。だからそんな風に言わないで。」
僕が散歩をしてながら交流したことで得たもので、みんなティアのことを好きだっていうことは事実だから。
「……それは私がそうしなければと……みなの前で仮面をかぶっている私です。実際の私は……貴方のことを|疑《うたが》って監視して……まともに顔も合わせようともしなかった……|陰湿《いんしつ》な女なのです。」
「『そうあらなければならない』か……僕もティアと似たような気持で過ごしていたから……わかるよ。罪を犯した元王太子……遠い国から婿入りの為に来るなんて怪しく信じられないのも……わかる。僕がティアの立場でもきっと疑っちゃうから……そんなこと気にしないでいいよ。」
なんだろう……立場や環境は違うのに僕とティアはなんだか似ているんじゃないかって思ったんだ。だからかな……?ちょっと調子のいいこと言ってしまった。
「でも……でも私は貴方を……」
「無理に切り替えないでいいよ……少しづつ歩み寄って夫婦として――」
「無理です!」
「をっ?!むり?!なんで?!」
急な大声にびっくりしてしまって、僕もティアもそのままの勢いで……
「受け入れる気持ちは十分ありますしそのつもりで一緒にいようと努力しています!けれど……ユーステッド様を見ているとどうしても……」
「ど、どうしても……?」
|膝《ひざ》の上に置いた両手を震わせて……少しの|間《ま》の後、スッと立ち上がって叫ぶティア。
「どうしても……!可愛らしい5歳の男の子と同じ様にしか見れないのです!!ごめんなさい!!」
「……えぇ?」
そのまま速足で部屋を出ていくティア。僕も立ち上がって追いかけようとしたのだけど、残り香を嗅いでしまったせいで動きを止めてしまったんだ。
「――が……昨日の夜の出来事なんだ。思ってた感じと違うよ……ううぅ……。」
「……女性の残り香を嗅ぐような人はボクだっていやですよ。」
「嗅いだのはいなくなったあとだよ!その前の話だって!僕は……そんなに子供っぽいかな?」
「……。」
リリーもカイも苦笑いしたまま黙ってるなんて……そんな風にされたら本当に僕が子供っぽいってことになるじゃないか……。
「わ、私は少しくらい子供っぽいくらいならいいと思いますけど……あはは……」
「……確かにしっかりとした男性でもたまに見える子供っぽさっていうのはギャップがあっていい時もあると思うけど……ユーステッドの場合は……」
「僕の場合は……?」
「……。」
「だからなんで黙るんだよ!言ってくれよ!」
リリーは新しいお茶を入れるって言っていなくなった。ここに居るのがつらくなったのだろう……わかるよ……ごめんねリリー。一方のカイはちょっと難しい顔をしている……気を使った返答でも考えている風にも見える。
「僕だって少しくらい……そうかもなって思ったけど――」
「あの日の出来事と……ボクのせいかもしれないです。」
「え?」
「確かにユーステッドは年の割に落ち着きがないとは思います。けど……ティアがそこまで貴方のことを幼くとらえてしまったのは……」
サラッと僕にひどいこと言った気がするけど、それよりも気になるのは『あの日の出来事』だ。
「リリーがいなくて良かったです。あまりいい話ではないですから……お聞きになりますか?」
僕は静かにうなずいて、カイの話を聞く。
「2年前……婚約者として隣国のとある男がここへ来ました。ティアはボクの為と言っていました。あの男を屋敷に招き食事をし……ふたりきりで話をしたいなどと言ったのでしょう。隣の部屋から聞こえてきた不自然な物音でボクは目を覚まし……扉を開けたら……押し倒され涙を流すティアがいました。」
「……は?」
「ボクはまだ3歳です。大人の男に力ではかないっこありません。なので力いっぱい泣きました、そりゃもう大声で。それに気が付いてくれたベンとジュリアンがきてくれ事なきを得ました。結構|爽快《そうかい》でしたよ?そりゃもうボコボコにされてましたからね。この件で婚約も|破棄《はき》になり安心しました……でもああいった嫌な記憶はなぜずっと頭に……心に焼き付いてしまうものなので――」
思わずカイを抱きしめていた。
「苦しいです……」
「……ごめん、嫌なことを話させた。」
「いえ……ボクが言い出したことですから……でもほんとくるし……」
2年前なぜ僕はここにいなかったのかと……さらに強くカイを抱きしめる。
2年前……僕は母を亡くして泣いていた。ティアもカイも泣いていて……深く傷ついていた。
たぶんカイはそこからがんばってはやく大人になろうとしている。変に大人びているのはそのせいなんだと思う。ティアを守りたいから。
そしてティアは……そこから男性をよく思っていない……怖いから。僕を受け入れたのは自分より年下であったことと、カイの為に父親が必要だと思って自分の気持ちを押し殺して決意した。それでも怖いから……いつからあの格好で街にでたり、屋敷で働いていたのかはわからないけど……そうすることで自分を守っている。
「でもティア……ロベリアの時だと|距離感《きょりかん》おかしくなるんだけど本当に僕のこと子供だと思ってるのかな?」
「ぷはっ……!それは、ほんとう、ですか?」
僕の腕から解放されたカイが、少し嬉しそうに声を上げた。