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第一部 5話 最硬のモンスター

ー/ー



「俺はアッシュ。アッシュ・クレフ。君は?」
 話せるみたいだから、とりあえずコミュニケーションを取ってみよう。

 儀式は無事に終わった。
 自分の家で、俺は召喚した使い魔と向き合っていた。

「僕はリック。メタルスライムだよ」
「へえ。珍しいねぇ」

 セシリーが興味深そうな声を上げる。
 ナタリーはというと、リックをつついては遊んでいた。

 肝心のリックは得意気だった。
 少なくとも、この状況を悪く思ってはいないらしい。

「その、良く分かってないんだが、メタルスライムってどんな生き物なんだ?」
 記憶のない俺が訊いた。

「そうねぇ、神話が有名かしら。
 二本の神剣がぶつかった時、刃こぼれしたのがメタルスライムになった……」

 母さんが頬に手を当てる。
 思い出すようにしながら、逸話を話してくれた。

「その話が事実だとすれば、この子の体は神鋼(オリハルコン)製ということになるね」
 セシリーが付け加えると、リックはますます機嫌良さそうに笑みを深めた。

「神鋼?」
「うん。間違いなく世界最硬の金属。神様が鍛えた鋼。人間ごときでは傷一つ付けられないだろうね」

「おお! すごいじゃないか!」
「そうだろう、そうだろう」

「んー、どれくらい硬いの?」
 ナタリーがぼそりと呟き、皆が動きを止めた。

 ――気になる、よなぁ。

「あのさ、リック。悪いんだけど……」
 無礼を覚悟して、切り出してみる。

「いいよ。試してみて」
 リックの返事はあっさりとしたものだった。

 ダメージがないのであれば、無礼でもないのかもしれない。



 全員で家の外へ出る。
 庭の端に樽が転がっているのを見つけて、持ってくる。

「じゃあ、この樽の上に乗ってくれ」
「分かった」

 言ってからどうやって上るんだろうと気が付いた。
 しかしリックは気にした素振りもなく、樽の表面をぬるぬるとなぞって樽に乗った。

「アッシュ! これ使って」
「…………」

 声がしたので振り向くと、母さんが大槌を抱えてやってきた。
 なんで家にこんなものが? と思わなくもないが、気にせず受け取る。

 一度軽く素振りをして――

「じゃあ、行くぞ?」
「うん」

 ――全力で樽を叩きつけた。

「わ」
 ナタリーの小さな悲鳴と一緒に樽が粉々に砕け散った。

「……すごいな」
 叩きつけた大槌の下からぬるぬると無傷のリックが出てくる。

「無傷なんだ。少なくとも、神話になるだけはあるね」
「大丈夫?」

 セシリーが感心する声を漏らす。
 ナタリーの方は心配そうにリックを撫でていた。

「それだけじゃない」
 手ごたえを感じていた俺は大槌を持ち上げて見せた。

 ちょうどリックがぶつかった場所に窪みができていた。
 さらに全体がひび割れている。

「……リック。硬いのは良く分かった。自信があるわけだ。防御は完璧だな」
「ありがとう」
「せっかくだ。戦闘を想定して、攻撃の方も見せてくれ」
「? 攻撃?」

 樽をもう一つ持ってきて、リックの前にどんと置いた。

「攻撃???」
 リックが何故か不思議そうな表情を浮かべている。

 しばらく経って、リックが樽に体当たりした。
 樽はピクリとも動かない。

「リック?」

 何度か体当たりするが、樽は動かない。
 ナタリーの体当たりの方がずっと強い。

「おい、まさか」
「攻撃なんて、したことないんだが……」

 ――どうやら俺の使い魔は動くレアメタルということらしい……経験値になったりしねーかな。



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前のエピソード 第一部 4話 使い魔『メタルスライム』

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「俺はアッシュ。アッシュ・クレフ。君は?」
 話せるみたいだから、とりあえずコミュニケーションを取ってみよう。

 儀式は無事に終わった。
 自分の家で、俺は召喚した使い魔と向き合っていた。

「僕はリック。メタルスライムだよ」
「へえ。珍しいねぇ」

 セシリーが興味深そうな声を上げる。
 ナタリーはというと、リックをつついては遊んでいた。

 肝心のリックは得意気だった。
 少なくとも、この状況を悪く思ってはいないらしい。

「その、良く分かってないんだが、メタルスライムってどんな生き物なんだ?」
 記憶のない俺が訊いた。

「そうねぇ、神話が有名かしら。
 二本の神剣がぶつかった時、刃こぼれしたのがメタルスライムになった……」

 母さんが頬に手を当てる。
 思い出すようにしながら、逸話を話してくれた。

「その話が事実だとすれば、この子の体は神鋼(オリハルコン)製ということになるね」
 セシリーが付け加えると、リックはますます機嫌良さそうに笑みを深めた。

「神鋼?」
「うん。間違いなく世界最硬の金属。神様が鍛えた鋼。人間ごときでは傷一つ付けられないだろうね」

「おお! すごいじゃないか!」
「そうだろう、そうだろう」

「んー、どれくらい硬いの?」
 ナタリーがぼそりと呟き、皆が動きを止めた。

 ――気になる、よなぁ。

「あのさ、リック。悪いんだけど……」
 無礼を覚悟して、切り出してみる。

「いいよ。試してみて」
 リックの返事はあっさりとしたものだった。

 ダメージがないのであれば、無礼でもないのかもしれない。



 全員で家の外へ出る。
 庭の端に樽が転がっているのを見つけて、持ってくる。

「じゃあ、この樽の上に乗ってくれ」
「分かった」

 言ってからどうやって上るんだろうと気が付いた。
 しかしリックは気にした素振りもなく、樽の表面をぬるぬるとなぞって樽に乗った。

「アッシュ! これ使って」
「…………」

 声がしたので振り向くと、母さんが大槌を抱えてやってきた。
 なんで家にこんなものが? と思わなくもないが、気にせず受け取る。

 一度軽く素振りをして――

「じゃあ、行くぞ?」
「うん」

 ――全力で樽を叩きつけた。

「わ」
 ナタリーの小さな悲鳴と一緒に樽が粉々に砕け散った。

「……すごいな」
 叩きつけた大槌の下からぬるぬると無傷のリックが出てくる。

「無傷なんだ。少なくとも、神話になるだけはあるね」
「大丈夫?」

 セシリーが感心する声を漏らす。
 ナタリーの方は心配そうにリックを撫でていた。

「それだけじゃない」
 手ごたえを感じていた俺は大槌を持ち上げて見せた。

 ちょうどリックがぶつかった場所に窪みができていた。
 さらに全体がひび割れている。

「……リック。硬いのは良く分かった。自信があるわけだ。防御は完璧だな」
「ありがとう」
「せっかくだ。戦闘を想定して、攻撃の方も見せてくれ」
「? 攻撃?」

 樽をもう一つ持ってきて、リックの前にどんと置いた。

「攻撃???」
 リックが何故か不思議そうな表情を浮かべている。

 しばらく経って、リックが樽に体当たりした。
 樽はピクリとも動かない。

「リック?」

 何度か体当たりするが、樽は動かない。
 ナタリーの体当たりの方がずっと強い。

「おい、まさか」
「攻撃なんて、したことないんだが……」

 ――どうやら俺の使い魔は動くレアメタルということらしい……経験値になったりしねーかな。



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