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23.呼び出しと牽制

ー/ー



 本格的に始まった授業へ楽しみながら参加し、放課後は読書サークルの活動をするという、充実した日々が始まってすぐ。

 わたくしは、とある方からお呼び出しを受けたのでございます。ええ、嫌な予感しかしませんわよね、なんていっても相手はガウスさまですもの。

 突然クラス室にいらっしゃったと思えば、彼女が声をかけて来たのはわたくし、そしてその瞳に敵意を隠しもせず、放課後校内にあるガゼボへと来るようにと仰ったのです。

 それに対してレーヴェさまやフロレンツィアさまがガウスさまを窘められておりましたけれど、彼女には一切の効果がないご様子。寧ろより大きな声で「来なかったら承知しないわ!」と言い捨てて走って行ってしまいました。

 わたくし、向かうとも返答をしていないのですけれど。それに、他国の王族に対してあのような物言いは一体……どんな教育の元で育ったのか、少々気になりますわ。

「フェリ、行かなくて良い。どうせ俺に関わる文句だろう」
「わたしもレオンハルトさまに同意します。何よりフェリシア姫に対してあのような態度、あまりにも無礼ですわ」

 呆れたと溜息を吐くレーヴェさまと、憤慨なさるフロレンツィアさま。わたくしも自国の貴族子女が他国の王族に対してあのような態度を取れば、同じような気持ちになりましてよ。

 溜息を八個ほど吐いてしまいたいのをぐっと堪え、微笑みを浮かべます。わたくし、あの程度敵意に負けるほど弱くはありませんの。

「何かご用があるというのなら、この一度だけ応じます。侍女たちと共に参りますから、ご心配なさらず」
「だが……」
「レーヴェさま。あのご様子では、今回の呼び出しに応じなければ、この先より大変なことが起こる可能性もありましょう? でしたら、わたくしは今を選びます」

 要するに更に暴走をするかもしれないので、それがマシなうちに話だけは聞きましたという態度を見せたいのですよ。でなければ、ゆっくりと本と戯れることが出来る時間を割いたり致しません。

 それに彼女からの呼び出し理由、ある程度は推察出来ておりますから。十中八九、レーヴェさまに関すること。わたくしがレーヴェさまを誑かしている、距離が近い、などと言われるのではないでしょうか。

「もし何かありましたら、レーヴェさまを頼らせて頂きますから」

 そう付け加えれば、レーヴェさまも頷いてくださいました。それにしてもガゼボへの呼び出しは構いませんが、何時にどこのガゼボかということが分かりませんわね。

 そう思っておりましたら、言い忘れに気づいたのでしょうか。ガウスさまが戻って来て「午後五時半に、文化棟東の白百合ガゼボよ!」と言い捨て、また走り去りました。

「本当に元気なお方ですわね……」

 吸血種に対して、大きな声で叫ぶのはお止めくださいともお伝えしなければなりません。声が通るのはよろしいことですけれど、わたくしたち吸血種には些か強過ぎます。

 とにかく、午後五時半に白百合ガゼボ。昼休憩のうちに侍女へ二名着いて来るように告げて、午後の授業に出席致しました。わたくしは本日四限目以降は授業を入れておりませんので、先に白百合ガゼボへ足を向けます。

 白百合ガゼボは西日もあまり当たらない場所に設置してありますので、わたくしでも三十分外で待つことは可能でしてよ。椅子に腰を下ろし、侍女の手から本を受け取って約束の時間になるまで文字を目で追って行きます。

 木の葉が擦れる音と、それを通り抜ける風の音、時折鳥の声が混じるばかりのここは、読書をするのにも良いですわね。

 そうしていましたら、時間が経つのは早い者。侍女に「お姫さま」と声がかけられたので、栞を挟んだ本を彼女へと預けました。

 椅子に座ったまま一人でやって来たガウスさまに「ごきげんよう」と微笑みを向けても、彼女はただ険しい顔をしたまま向かい側にある椅子へと座ります。

「……逃げずに来たのね」
「逃げる必要などありませんから。世間話をしたいというお顔ではありませんわね、早速本題へと入りましょうか。お呼び出しの理由はなんてしょう?」
「分かってる癖に。レオンのことよ! あんた、他国の王女だからってレオンにくっつき過ぎ! 迷惑しているに決まっているんだから、止めなさいよ!」
「そう大きな声を出さずとも、聞こえております」

 ああ、真正面からこの煩さ、いえ、元気の良さを耳で感じるのは、中々に大変でございますね。

 しかし、彼女は何と申しますか……現実というものを直視していないのでしょうか? 見たものを捻じ曲げて解釈し、わたくしへぶつけて来ているようにしか感じられませんわ。

「どうして決まっていると、あなたがお分かりになるのですか? レーヴェさまは、確かにわたくしへ良くしてくださいます。そこには理由があるからですの」
「理由?」
「ええ。ですが、それについてはまだ口外することは致しません。そして、これは親切心からの忠告なのですが——レーヴェさまは、あなたのような礼儀を持たない、自身の妄想を信じ込んでしまうような方は好まれないかと思います」
「な……っ!?」

 目を大きく見開いて、正に絶句を体現しているガウスさま。今まで他の方にそういった注意をされなかったのでしょうか。少なくともレーヴェさまは何度も注意をしたけれど、何の改善もされなかった、と見えるような態度でしたが。

「失礼な女! なんであんたがレオンに大切にされて、あたしは……!」

 今すぐにでも襲いかかって来そうな形相で、わたくしを見るガウスさま。その瞳には煮え滾るような敵意が溢れております。

 それをヴェール越しに真っ直ぐ受け止め、扇で口許を隠しながら溜息を吐いてしまいました。大切にされない、その理由も理解していないだなんて。

「まずはその思い込みを正し、周囲の言葉に耳を傾けるのがよろしいかと。レーヴェさまは、何度もレオンと呼ぶなと仰っておりますよね? そこから改善なされては如何でしょう」
「うるさいっ! とにかく、これ以上レオンに近づかないで!」

 煩いのはどちらでしょう。ああ、それだけ言い捨てて走り去ってしまいました。本当に、レーヴェさまも苦労されておりますのね。

 何だかどっと疲れました。早くサークル室に向かって、読書の続きを致しましょう。


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次のエピソードへ進む 24.吸血種と人間種の違い


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 本格的に始まった授業へ楽しみながら参加し、放課後は読書サークルの活動をするという、充実した日々が始まってすぐ。
 わたくしは、とある方からお呼び出しを受けたのでございます。ええ、嫌な予感しかしませんわよね、なんていっても相手はガウスさまですもの。
 突然クラス室にいらっしゃったと思えば、彼女が声をかけて来たのはわたくし、そしてその瞳に敵意を隠しもせず、放課後校内にあるガゼボへと来るようにと仰ったのです。
 それに対してレーヴェさまやフロレンツィアさまがガウスさまを窘められておりましたけれど、彼女には一切の効果がないご様子。寧ろより大きな声で「来なかったら承知しないわ!」と言い捨てて走って行ってしまいました。
 わたくし、向かうとも返答をしていないのですけれど。それに、他国の王族に対してあのような物言いは一体……どんな教育の元で育ったのか、少々気になりますわ。
「フェリ、行かなくて良い。どうせ俺に関わる文句だろう」
「わたしもレオンハルトさまに同意します。何よりフェリシア姫に対してあのような態度、あまりにも無礼ですわ」
 呆れたと溜息を吐くレーヴェさまと、憤慨なさるフロレンツィアさま。わたくしも自国の貴族子女が他国の王族に対してあのような態度を取れば、同じような気持ちになりましてよ。
 溜息を八個ほど吐いてしまいたいのをぐっと堪え、微笑みを浮かべます。わたくし、あの程度敵意に負けるほど弱くはありませんの。
「何かご用があるというのなら、この一度だけ応じます。侍女たちと共に参りますから、ご心配なさらず」
「だが……」
「レーヴェさま。あのご様子では、今回の呼び出しに応じなければ、この先より大変なことが起こる可能性もありましょう? でしたら、わたくしは今を選びます」
 要するに更に暴走をするかもしれないので、それがマシなうちに話だけは聞きましたという態度を見せたいのですよ。でなければ、ゆっくりと本と戯れることが出来る時間を割いたり致しません。
 それに彼女からの呼び出し理由、ある程度は推察出来ておりますから。十中八九、レーヴェさまに関すること。わたくしがレーヴェさまを誑かしている、距離が近い、などと言われるのではないでしょうか。
「もし何かありましたら、レーヴェさまを頼らせて頂きますから」
 そう付け加えれば、レーヴェさまも頷いてくださいました。それにしてもガゼボへの呼び出しは構いませんが、何時にどこのガゼボかということが分かりませんわね。
 そう思っておりましたら、言い忘れに気づいたのでしょうか。ガウスさまが戻って来て「午後五時半に、文化棟東の白百合ガゼボよ!」と言い捨て、また走り去りました。
「本当に元気なお方ですわね……」
 吸血種に対して、大きな声で叫ぶのはお止めくださいともお伝えしなければなりません。声が通るのはよろしいことですけれど、わたくしたち吸血種には些か強過ぎます。
 とにかく、午後五時半に白百合ガゼボ。昼休憩のうちに侍女へ二名着いて来るように告げて、午後の授業に出席致しました。わたくしは本日四限目以降は授業を入れておりませんので、先に白百合ガゼボへ足を向けます。
 白百合ガゼボは西日もあまり当たらない場所に設置してありますので、わたくしでも三十分外で待つことは可能でしてよ。椅子に腰を下ろし、侍女の手から本を受け取って約束の時間になるまで文字を目で追って行きます。
 木の葉が擦れる音と、それを通り抜ける風の音、時折鳥の声が混じるばかりのここは、読書をするのにも良いですわね。
 そうしていましたら、時間が経つのは早い者。侍女に「お姫さま」と声がかけられたので、栞を挟んだ本を彼女へと預けました。
 椅子に座ったまま一人でやって来たガウスさまに「ごきげんよう」と微笑みを向けても、彼女はただ険しい顔をしたまま向かい側にある椅子へと座ります。
「……逃げずに来たのね」
「逃げる必要などありませんから。世間話をしたいというお顔ではありませんわね、早速本題へと入りましょうか。お呼び出しの理由はなんてしょう?」
「分かってる癖に。レオンのことよ! あんた、他国の王女だからってレオンにくっつき過ぎ! 迷惑しているに決まっているんだから、止めなさいよ!」
「そう大きな声を出さずとも、聞こえております」
 ああ、真正面からこの煩さ、いえ、元気の良さを耳で感じるのは、中々に大変でございますね。
 しかし、彼女は何と申しますか……現実というものを直視していないのでしょうか? 見たものを捻じ曲げて解釈し、わたくしへぶつけて来ているようにしか感じられませんわ。
「どうして決まっていると、あなたがお分かりになるのですか? レーヴェさまは、確かにわたくしへ良くしてくださいます。そこには理由があるからですの」
「理由?」
「ええ。ですが、それについてはまだ口外することは致しません。そして、これは親切心からの忠告なのですが——レーヴェさまは、あなたのような礼儀を持たない、自身の妄想を信じ込んでしまうような方は好まれないかと思います」
「な……っ!?」
 目を大きく見開いて、正に絶句を体現しているガウスさま。今まで他の方にそういった注意をされなかったのでしょうか。少なくともレーヴェさまは何度も注意をしたけれど、何の改善もされなかった、と見えるような態度でしたが。
「失礼な女! なんであんたがレオンに大切にされて、あたしは……!」
 今すぐにでも襲いかかって来そうな形相で、わたくしを見るガウスさま。その瞳には煮え滾るような敵意が溢れております。
 それをヴェール越しに真っ直ぐ受け止め、扇で口許を隠しながら溜息を吐いてしまいました。大切にされない、その理由も理解していないだなんて。
「まずはその思い込みを正し、周囲の言葉に耳を傾けるのがよろしいかと。レーヴェさまは、何度もレオンと呼ぶなと仰っておりますよね? そこから改善なされては如何でしょう」
「うるさいっ! とにかく、これ以上レオンに近づかないで!」
 煩いのはどちらでしょう。ああ、それだけ言い捨てて走り去ってしまいました。本当に、レーヴェさまも苦労されておりますのね。
 何だかどっと疲れました。早くサークル室に向かって、読書の続きを致しましょう。