表示設定
表示設定
目次 目次




メイプル・エストレージャ

ー/ー



 フィスティシアたち共犯者たちが連れてこられたのはメインストリートにあるとある店。

『メイプル・エストレージャ』

 寂れたメインストリートの隅の隅。路地裏という人気のない場所でひっそりと営業しているスイーツ屋である。


「『メイプル・エストレージャ』……どこかで聞いたことがあるような……」

「ここはメインストリートの知る人ぞ知る名店なんですよ! 噂くらいは先輩も聞いたことがあるかもしれません」


 メイプル・エストレージャはスイーツ好きなレビュアーから密かな人気を博している隠れた名店と呼ぶべき店だ。分かりづらい立地に、小さな看板だけが立てられて営業されているからか、この店に足を運ぶ客は非常に少ない。そもそも、営業していることすら稀なのだ。ではなぜ、そんな隠れた名店をモニカが知っているのかと言えば――


「こんにちは」

「あら、おかえりなさい。モニカ」


 モニカが店の扉を開け、活気のある大きな声で挨拶をすると、店の奥から人影が現れた。長い黒髪に、温和な表情。『メイプル・エストレージャ』の制服に身を包んだ、モニカ似の女性。


「またお友達? 今度は大勢なのね。久しぶり、初めましての子もいるわね」

「……これは、一体」

「どういうことですか?」


 まだ事態を把握しきれていないフィスティシアとアリシアがポカンとした顔でそう言った。瓜二つとまでは言わずとも、姉妹のように似通った顔つきと仕草、口調。血縁関係があるのは明らかだったが、それでもフィスティシアは戸惑った。


「ええと……お姉様、でしょうか?」

「母です」


 そこにいたのは、モニカの母、アンヘル・エストレイラだった。アンヘルの言葉を聞いて余計に困惑したフィスティシアは、絞り出すように一言だけ言う。


「……お若いですね」

「ふふ、褒めるのが上手ね。みんな座って。今、メニュー表を出すからゆっくりしていってね。モニカも手伝いなさい」


 あまりの若さにフィスティシアは勘違いをしてしまった。理解しきれない現実をどうにか受け入れようと、フィスティシアは先程の会話を何度も繰り返す。実は育ての親で実母ではない可能性も、などと考えていたが、それでは顔が似ている理由がない。


「クラウディア、お前はエストレイラの幼なじみなんだろう。代わりに説明してくれ」


 パーシーはデーブル席に座るフィスティシアたちと少し離れたカウンター席に座っていた。回転椅子をくるりと回し、フィスティシアに体を向けてパーシーは言う。


「ここは、モニカのお母さんが経営してるお店なんです。元々料理が好きだったらしくて、何年か前にカフェを開いたらしいんですよね。まぁ、人気なのはスイーツなんですけど」

「あ〜……その、非常に聞きにくいんだが……年齢、とかは……」

「えーっと、確か……」

「はい、お水とメニュー! ゆっくりじっくり選んでくれていいからね!」


 パーシーの言葉を遮るように、アンヘルが人数分の冷えた水とメニュー表を持ってきた。身長はモニカよりも高く、しかし体つきはスラッとしている女性らしい体型だった。


「私はいつもので」

「ええ、ちょっと待っててね」


 自然にそう会話をするパーシーに視線が集まる。


「な、何?」

「いえ、何となく。覚えられているんだなと」

「何回も来てるからね」

「また幼なじみアピールですか」

「違うってば!」


 パーシーとヨナがそんな問答をする中、エモールはメニュー表を見て目を輝かせていた。小さな4ページほどのメニュー表。丁寧に写真も載せられており、エモールは食い入るようにメニュー表を見ていた。


「やっばいよフィスっち。全部美味しそうだよ」

「全部食べたらどうだ」

「それはちょっと乙女的にえぬじー……あ〜もっと早くに知れてたらお昼抜いたのに〜」

「私は決めた」

「私も決めました」


 悩みに悩んでいるエモールをよそにして、フィスティシアとアリシアは注文を決めた。エモールは同じページを行ったり来たりさせて唸っている。意外なことにヨナもエモールと同様に注文を決めかねているようで、メニュー表とにらめっこをしている状態だった。


「スイーツがオススメなんですよね」

「うん。特にメイプルプリンは絶品だよ」

「……では、私はそのメイプルプリンを」


 エモールとヨナ。先に注文を決めたのはヨナだった。無難にオススメを選んだヨナの脇腹を隣に座るアリシアが密かにつついた。


「なんですか」

「カウンター、行かなくていいの? ここからじゃエストレイラは見えないよ」

「……っ! まさか!」


 ヨナはその言葉の真意にすぐに気がついた。即座に席を移動し、既にカウンター席に座っているパーシーの隣に腰を下ろした。露骨に嫌そうな顔をするパーシーを見て、ヨナは少し怒ったような表情を見せる。


「ちぇ、バレちゃった」

「独り占めはずるいですよ」


 そこから見えるのは、店の制服を着て、厨房でアンヘルと一緒に作業をするモニカの姿だった。パーシーは1人カウンター席に座ってこの光景を独り占めしようとしていたというわけだ。


「うわぁーん! 決められないよ〜!」

「また今度来ればいいだろう。今日は私と同じのにしておけ」

「……うん」


 ようやく全員の注文が決まったというところで、ちょうどよくアンヘルが注文を聞きにやってきた。まるでモニカが2人いるような感覚に陥るほど似ている2人の顔。判断材料は、僅かに違う声と、アンヘルの涙ボクロくらいだった。


「ティラミスとブラックコーヒーを2つずつ。砂糖を1つください」

「え、コーヒーやだ。私は紅茶で」


 フィスティシアとエモールの間に火花が散っているように見えるのは、2人の好みがコーヒー派と紅茶派で割れているからだろう。ちなみに、メモリアはカフェラテ派らしい。


「私はストロベリージェラートと、ミルクティーのアイスを」

「冷たくない?」

「そういう体質なのよ」


 隣にするソフィアが思わずツッコむ。雪の魔法を扱うアリシアは、どうやら熱いものが苦手らしく、冷たいものばかり注文していた。ソフィアは素朴な疑問を心に留めておくことができず、口から漏れてしまった。


「……お風呂は?」

「冷水よ。何か問題でも?」

「いや、そんなんじゃないけど……」


 くどかったのか、アリシアは少し怒ったような口調でソフィアに言った。ふと、ソフィアがアリシアの肌にそっと触れると、雪に触れたみたいに冷たくてひんやりとしていた。心地よい肌触りと温度感にソフィアは思わずアリシアの身体をぎゅっと抱きしめる。


「ちょっ、やめなさい!」

「おぉ〜、ひんやりだ〜」

「こら、怒るわよ!」

「もう怒ってる〜」


 わちゃわちゃと盛り上がるアリシアとソフィアを気にもとめず、ヨナは注文を続ける。


「メイプルプリンを2つ。1つは持ち帰りたいです」

「そっちの可愛い子は?」

「……あ、私まだだったか」


 言われて始めて気がついたのか、ソフィアは慌ててメニューに目を通して予め決ていたメニューに指を指して注文をする。


「私はアップルパイで。ブレンドモカも」

「はぁい。じゃあちょっと待っててね」


 そうして、アンヘルはまた厨房に戻っていく。女子会は、まだまだ始まったばかりだ。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む メイプル・エストレージャ ―2―


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 フィスティシアたち共犯者たちが連れてこられたのはメインストリートにあるとある店。
『メイプル・エストレージャ』
 寂れたメインストリートの隅の隅。路地裏という人気のない場所でひっそりと営業しているスイーツ屋である。
「『メイプル・エストレージャ』……どこかで聞いたことがあるような……」
「ここはメインストリートの知る人ぞ知る名店なんですよ! 噂くらいは先輩も聞いたことがあるかもしれません」
 メイプル・エストレージャはスイーツ好きなレビュアーから密かな人気を博している隠れた名店と呼ぶべき店だ。分かりづらい立地に、小さな看板だけが立てられて営業されているからか、この店に足を運ぶ客は非常に少ない。そもそも、営業していることすら稀なのだ。ではなぜ、そんな隠れた名店をモニカが知っているのかと言えば――
「こんにちは」
「あら、おかえりなさい。モニカ」
 モニカが店の扉を開け、活気のある大きな声で挨拶をすると、店の奥から人影が現れた。長い黒髪に、温和な表情。『メイプル・エストレージャ』の制服に身を包んだ、モニカ似の女性。
「またお友達? 今度は大勢なのね。久しぶり、初めましての子もいるわね」
「……これは、一体」
「どういうことですか?」
 まだ事態を把握しきれていないフィスティシアとアリシアがポカンとした顔でそう言った。瓜二つとまでは言わずとも、姉妹のように似通った顔つきと仕草、口調。血縁関係があるのは明らかだったが、それでもフィスティシアは戸惑った。
「ええと……お姉様、でしょうか?」
「母です」
 そこにいたのは、モニカの母、アンヘル・エストレイラだった。アンヘルの言葉を聞いて余計に困惑したフィスティシアは、絞り出すように一言だけ言う。
「……お若いですね」
「ふふ、褒めるのが上手ね。みんな座って。今、メニュー表を出すからゆっくりしていってね。モニカも手伝いなさい」
 あまりの若さにフィスティシアは勘違いをしてしまった。理解しきれない現実をどうにか受け入れようと、フィスティシアは先程の会話を何度も繰り返す。実は育ての親で実母ではない可能性も、などと考えていたが、それでは顔が似ている理由がない。
「クラウディア、お前はエストレイラの幼なじみなんだろう。代わりに説明してくれ」
 パーシーはデーブル席に座るフィスティシアたちと少し離れたカウンター席に座っていた。回転椅子をくるりと回し、フィスティシアに体を向けてパーシーは言う。
「ここは、モニカのお母さんが経営してるお店なんです。元々料理が好きだったらしくて、何年か前にカフェを開いたらしいんですよね。まぁ、人気なのはスイーツなんですけど」
「あ〜……その、非常に聞きにくいんだが……年齢、とかは……」
「えーっと、確か……」
「はい、お水とメニュー! ゆっくりじっくり選んでくれていいからね!」
 パーシーの言葉を遮るように、アンヘルが人数分の冷えた水とメニュー表を持ってきた。身長はモニカよりも高く、しかし体つきはスラッとしている女性らしい体型だった。
「私はいつもので」
「ええ、ちょっと待っててね」
 自然にそう会話をするパーシーに視線が集まる。
「な、何?」
「いえ、何となく。覚えられているんだなと」
「何回も来てるからね」
「また幼なじみアピールですか」
「違うってば!」
 パーシーとヨナがそんな問答をする中、エモールはメニュー表を見て目を輝かせていた。小さな4ページほどのメニュー表。丁寧に写真も載せられており、エモールは食い入るようにメニュー表を見ていた。
「やっばいよフィスっち。全部美味しそうだよ」
「全部食べたらどうだ」
「それはちょっと乙女的にえぬじー……あ〜もっと早くに知れてたらお昼抜いたのに〜」
「私は決めた」
「私も決めました」
 悩みに悩んでいるエモールをよそにして、フィスティシアとアリシアは注文を決めた。エモールは同じページを行ったり来たりさせて唸っている。意外なことにヨナもエモールと同様に注文を決めかねているようで、メニュー表とにらめっこをしている状態だった。
「スイーツがオススメなんですよね」
「うん。特にメイプルプリンは絶品だよ」
「……では、私はそのメイプルプリンを」
 エモールとヨナ。先に注文を決めたのはヨナだった。無難にオススメを選んだヨナの脇腹を隣に座るアリシアが密かにつついた。
「なんですか」
「カウンター、行かなくていいの? ここからじゃエストレイラは見えないよ」
「……っ! まさか!」
 ヨナはその言葉の真意にすぐに気がついた。即座に席を移動し、既にカウンター席に座っているパーシーの隣に腰を下ろした。露骨に嫌そうな顔をするパーシーを見て、ヨナは少し怒ったような表情を見せる。
「ちぇ、バレちゃった」
「独り占めはずるいですよ」
 そこから見えるのは、店の制服を着て、厨房でアンヘルと一緒に作業をするモニカの姿だった。パーシーは1人カウンター席に座ってこの光景を独り占めしようとしていたというわけだ。
「うわぁーん! 決められないよ〜!」
「また今度来ればいいだろう。今日は私と同じのにしておけ」
「……うん」
 ようやく全員の注文が決まったというところで、ちょうどよくアンヘルが注文を聞きにやってきた。まるでモニカが2人いるような感覚に陥るほど似ている2人の顔。判断材料は、僅かに違う声と、アンヘルの涙ボクロくらいだった。
「ティラミスとブラックコーヒーを2つずつ。砂糖を1つください」
「え、コーヒーやだ。私は紅茶で」
 フィスティシアとエモールの間に火花が散っているように見えるのは、2人の好みがコーヒー派と紅茶派で割れているからだろう。ちなみに、メモリアはカフェラテ派らしい。
「私はストロベリージェラートと、ミルクティーのアイスを」
「冷たくない?」
「そういう体質なのよ」
 隣にするソフィアが思わずツッコむ。雪の魔法を扱うアリシアは、どうやら熱いものが苦手らしく、冷たいものばかり注文していた。ソフィアは素朴な疑問を心に留めておくことができず、口から漏れてしまった。
「……お風呂は?」
「冷水よ。何か問題でも?」
「いや、そんなんじゃないけど……」
 くどかったのか、アリシアは少し怒ったような口調でソフィアに言った。ふと、ソフィアがアリシアの肌にそっと触れると、雪に触れたみたいに冷たくてひんやりとしていた。心地よい肌触りと温度感にソフィアは思わずアリシアの身体をぎゅっと抱きしめる。
「ちょっ、やめなさい!」
「おぉ〜、ひんやりだ〜」
「こら、怒るわよ!」
「もう怒ってる〜」
 わちゃわちゃと盛り上がるアリシアとソフィアを気にもとめず、ヨナは注文を続ける。
「メイプルプリンを2つ。1つは持ち帰りたいです」
「そっちの可愛い子は?」
「……あ、私まだだったか」
 言われて始めて気がついたのか、ソフィアは慌ててメニューに目を通して予め決ていたメニューに指を指して注文をする。
「私はアップルパイで。ブレンドモカも」
「はぁい。じゃあちょっと待っててね」
 そうして、アンヘルはまた厨房に戻っていく。女子会は、まだまだ始まったばかりだ。