ユーステッド、会話す

ー/ー



左手を胸に片足を後ろへ……まるでお手本のような挨拶をしてくれた。

「初めまして、ボクは、カイ・デルフィヌスと申します。」
「は、はじめまして、ユーステッドふぉ……ユーステッドだ。」
「?同じお名前がふたつあるのですか?」
「あ、いや、そうじゃなくてちょっと事情があってユーステッドとだけ名乗らないといけなくて…」
「なんだかおかしいですね、ふふふ。」

……初日から思っていたんだけど、僕、初対面の相手にとんでもないマヌケなところを見せているんではなかろうか?しかも、この子は……シエル辺境伯(へんきょうはく)の……。

「ははは……すまない、邪魔してしまったみたいだ……すぐ行くから……」
「邪魔だなんてとんでもないです!!……あの、お時間はありますか?」
「とくにすることもなくて……散歩でもと思っていたところだよ。」
「よかった!リリー!お茶の用意を!」

時間なんて有り余るほどある。読書以外でなにをしたらいいのかとこまねいていたくらいだ。どうやらお茶に誘ってくれているようだし、こんな小さな子の申し出を断る理由はない。

「リリー!ちょうどさっき届けてもらったケーキも持参しているんだ、皿の用意も頼むよ。」
「は、はい!只今ッ!」
「ケーキですか?」
「どうやら僕は食いしん坊だと思われているらしくてね?沢山用意してもらっているんだ……ほら、これだよ」

カゴにかけられていた布をめくり、チラッと中をカイに見せると、目が輝く。急に子供の表情になったから、僕もつられて顔がほころんだ。

「一緒に食べよう、カイ。」
「はいっ」

ふたりで向かい合うように椅子に座り、白いテーブルに用意されていくティーセット。今日はまた違うハーブティなんだろうな、カップから(あふ)れる香りが心地よい。

「準備できました!お熱いですから気を付けてくださいね?」
「うん!ありがとうリリー!いただきます!」
「ふっ……いただきます。」

僕が持ってきたシフォンケーキをパクリと。とてもおいしそうに食べるカイの表情になんだか癒される。

「美味しいです!ボクもベンに頼んでお菓子いっぱい作ってもらおうかな……でも……」
「あまりこういうものは食べないのか?」
「そうですね、いつもは野菜と魚をよくお願いしています。甘いものはたまにで……ティアに『食べすぎると坂から転がって海に落ちて魚に食べられちゃうぞ』って言われてるので。」
「ぐっ……確かにそうなるかもしれないな……僕も気をつけるよ……」

僕の方が先に魚のエサになりそうだ。散策(さんさく)とか言って出てきたのに……結局数十歩進んだ先でお茶してるんだから。

「……こっちはティアの仕事場なんだろう?君はこっちで暮らしているのかい?」
「えっと……」

リリーとカイが見つめ合って、リリーが首をブンブンと横に振る。

「うーん……でも、もう意味ないと思うよリリー。」
「……で、ですよね」
「ティアの仕事場なのは本当です。でも……ボクの家でもあります。驚かしてしまってごめんなさい。」
「いや、大丈夫だよ。謝らないでカイ。」

日記を読んだ後だから冷静だったものの……『事前情報(じぜんじょうほう)』なしだったらこんな風にお茶なんてしていなかったと思う。普通なら……自分の婚約相手に子供がいたとなれば大事(おおごと)だ。でも、僕は知ってしまったから……

「ティアもなんだか忙しいみたいだし焦ってなんでもかんでも詮索(せんさく)しようとはしないよ。それに……僕みたいな男を受け入れてくれただけでもありがたいからね」

そう……僕なんかより大変な思いをしているんだ。なにか隠しごとのひとつやふたつあったとて……小さい事だ。

「……ユーステッド様は優しいのはもちろんだと思いますが……どうしてそんなに自分を下げた言い方をするのですか?」
「え……?」
「すべてではないですけど、ティアから貴方のことを聞いています。だからさっきすぐに……ユーステッド様だとわかったんです。」

無意識(むいしき)だったんだと思う。そんな風に思いながら言葉にしていたつもりはなかった。こんなにはっきり言ってしまうのは子供ならではなのかな。

「元気があって王太子ならではの自信をもった頼もしい方だと……失礼かもしれないですが……なにかあったのですか?」
「鋭いなカイは。とても……人を見る目があるみたいだ。」
「え、あ、ありがとうございます……?」
「そうだな……なにから話せばいいだろう……僕は――」

僕はカイの思っているような人物じゃない。
婚約者にひどいことをして国を追い出された、愚かな人間だ。

デルフィヌスに来るまでの道のりで、なんとなくわかり始めてはいたんだ。

小さい頃から非力で、周りの意見を鵜吞みにしやすくて…よく言えば素直かな?
だから、友人という名の取り巻きに言葉巧みに物をねだられたり、勘違いで色々とあり得ない命令を出したりもした。ただそれは、愛想を振りまいて、僕を見てもらえるように必死だったから。

…なぜそうなったのか?それは、僕には弟がいたから。『王太子であらねばいけない』ということを、僕は間違えてしまった…そうであろうとして、自分を見失っていった。

僕より勉強熱心で優秀な弟がいるんだから、彼に第一継承権を持たせることができた今回の出来事は父上にとっては都合がよかっただろう。

弟を妬ましく思っていなかった、と言えば嘘になる。父からの期待も愛も、すべて弟に向いていたから。それでも母だけは僕のことを大事にしてくれて、いたけど…ギリギリで保っていた、けど…2年前に母が亡くなったことが僕の最後の愚行の始まりだったんだと思う。

でもね、僕も本当はそんな暮らしを続けているのが、窮屈だったんだと…思う。

それでも長くそうしてきていたから、考え方とか思い違いをしてしまうのはなかなか抜けないけど。
ここに来たことで、引っかかりが取れたみたいに、自分の感情や思っていることを言えるようになってきた…悪いことをしたっていうのは事実だから、そのせいで自分はダメな人間であったと、反省すべきであると、だから僕のことを見てもらうことが無くなったと、悲しくて…無意識に卑下して、その思いがそのまま発言にでてしまっていた。

なんて語ってしまったけど…僕自身もまだ、自分がどうあるべきとか、どうありたいかはまとまっていないんだ。


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左手を胸に片足を後ろへ……まるでお手本のような挨拶をしてくれた。
「初めまして、ボクは、カイ・デルフィヌスと申します。」
「は、はじめまして、ユーステッドふぉ……ユーステッドだ。」
「?同じお名前がふたつあるのですか?」
「あ、いや、そうじゃなくてちょっと事情があってユーステッドとだけ名乗らないといけなくて…」
「なんだかおかしいですね、ふふふ。」
……初日から思っていたんだけど、僕、初対面の相手にとんでもないマヌケなところを見せているんではなかろうか?しかも、この子は……シエル|辺境伯《へんきょうはく》の……。
「ははは……すまない、邪魔してしまったみたいだ……すぐ行くから……」
「邪魔だなんてとんでもないです!!……あの、お時間はありますか?」
「とくにすることもなくて……散歩でもと思っていたところだよ。」
「よかった!リリー!お茶の用意を!」
時間なんて有り余るほどある。読書以外でなにをしたらいいのかとこまねいていたくらいだ。どうやらお茶に誘ってくれているようだし、こんな小さな子の申し出を断る理由はない。
「リリー!ちょうどさっき届けてもらったケーキも持参しているんだ、皿の用意も頼むよ。」
「は、はい!只今ッ!」
「ケーキですか?」
「どうやら僕は食いしん坊だと思われているらしくてね?沢山用意してもらっているんだ……ほら、これだよ」
カゴにかけられていた布をめくり、チラッと中をカイに見せると、目が輝く。急に子供の表情になったから、僕もつられて顔がほころんだ。
「一緒に食べよう、カイ。」
「はいっ」
ふたりで向かい合うように椅子に座り、白いテーブルに用意されていくティーセット。今日はまた違うハーブティなんだろうな、カップから|溢《あふ》れる香りが心地よい。
「準備できました!お熱いですから気を付けてくださいね?」
「うん!ありがとうリリー!いただきます!」
「ふっ……いただきます。」
僕が持ってきたシフォンケーキをパクリと。とてもおいしそうに食べるカイの表情になんだか癒される。
「美味しいです!ボクもベンに頼んでお菓子いっぱい作ってもらおうかな……でも……」
「あまりこういうものは食べないのか?」
「そうですね、いつもは野菜と魚をよくお願いしています。甘いものはたまにで……ティアに『食べすぎると坂から転がって海に落ちて魚に食べられちゃうぞ』って言われてるので。」
「ぐっ……確かにそうなるかもしれないな……僕も気をつけるよ……」
僕の方が先に魚のエサになりそうだ。|散策《さんさく》とか言って出てきたのに……結局数十歩進んだ先でお茶してるんだから。
「……こっちはティアの仕事場なんだろう?君はこっちで暮らしているのかい?」
「えっと……」
リリーとカイが見つめ合って、リリーが首をブンブンと横に振る。
「うーん……でも、もう意味ないと思うよリリー。」
「……で、ですよね」
「ティアの仕事場なのは本当です。でも……ボクの家でもあります。驚かしてしまってごめんなさい。」
「いや、大丈夫だよ。謝らないでカイ。」
日記を読んだ後だから冷静だったものの……『|事前情報《じぜんじょうほう》』なしだったらこんな風にお茶なんてしていなかったと思う。普通なら……自分の婚約相手に子供がいたとなれば|大事《おおごと》だ。でも、僕は知ってしまったから……
「ティアもなんだか忙しいみたいだし焦ってなんでもかんでも|詮索《せんさく》しようとはしないよ。それに……僕みたいな男を受け入れてくれただけでもありがたいからね」
そう……僕なんかより大変な思いをしているんだ。なにか隠しごとのひとつやふたつあったとて……小さい事だ。
「……ユーステッド様は優しいのはもちろんだと思いますが……どうしてそんなに自分を下げた言い方をするのですか?」
「え……?」
「すべてではないですけど、ティアから貴方のことを聞いています。だからさっきすぐに……ユーステッド様だとわかったんです。」
|無意識《むいしき》だったんだと思う。そんな風に思いながら言葉にしていたつもりはなかった。こんなにはっきり言ってしまうのは子供ならではなのかな。
「元気があって王太子ならではの自信をもった頼もしい方だと……失礼かもしれないですが……なにかあったのですか?」
「鋭いなカイは。とても……人を見る目があるみたいだ。」
「え、あ、ありがとうございます……?」
「そうだな……なにから話せばいいだろう……僕は――」
僕はカイの思っているような人物じゃない。
婚約者にひどいことをして国を追い出された、愚かな人間だ。
デルフィヌスに来るまでの道のりで、なんとなくわかり始めてはいたんだ。
小さい頃から非力で、周りの意見を鵜吞みにしやすくて…よく言えば素直かな?
だから、友人という名の取り巻きに言葉巧みに物をねだられたり、勘違いで色々とあり得ない命令を出したりもした。ただそれは、愛想を振りまいて、僕を見てもらえるように必死だったから。
…なぜそうなったのか?それは、僕には弟がいたから。『王太子であらねばいけない』ということを、僕は間違えてしまった…そうであろうとして、自分を見失っていった。
僕より勉強熱心で優秀な弟がいるんだから、彼に第一継承権を持たせることができた今回の出来事は父上にとっては都合がよかっただろう。
弟を妬ましく思っていなかった、と言えば嘘になる。父からの期待も愛も、すべて弟に向いていたから。それでも母だけは僕のことを大事にしてくれて、いたけど…ギリギリで保っていた、けど…2年前に母が亡くなったことが僕の最後の愚行の始まりだったんだと思う。
でもね、僕も本当はそんな暮らしを続けているのが、窮屈だったんだと…思う。
それでも長くそうしてきていたから、考え方とか思い違いをしてしまうのはなかなか抜けないけど。
ここに来たことで、引っかかりが取れたみたいに、自分の感情や思っていることを言えるようになってきた…悪いことをしたっていうのは事実だから、そのせいで自分はダメな人間であったと、反省すべきであると、だから僕のことを見てもらうことが無くなったと、悲しくて…無意識に卑下して、その思いがそのまま発言にでてしまっていた。
なんて語ってしまったけど…僕自身もまだ、自分がどうあるべきとか、どうありたいかはまとまっていないんだ。