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第51話 「堕落」

ー/ー



連は言葉を失った。

ユイは、“見るに堪えない姿”になっていた。

その他にも、支援物資、そして自分たち用の物資全てが奪われており、その跡として、鞄などが乱雑に置かれていた。

そして、“彼女だったもの”の横には、ボロボロに踏み荒らされていたミモザの姿があった。




連がテントから出てきたその時だった。

「おい!連!ユイは!?」

ヤスが駆け寄ってきた。

「......」

「こん中にいるのか?」

「......」

「何とか言えよ!とりあえず中に─」

「ダメだ」

入り口の前に連が立つ。

「......は?」

「ユイは、死んだんだ」

「何...言ってんだよ」

「ユイは、殺されたんだ」

「どうやって殺されたんだ」

「言わない」

「じゃあ見せろよ!」

「見せない」

「ふざけてんのか!!連!!」

ヤスは連の胸倉をつかむ。

しかし、いつもなら青ざめるはずの連が、全く動じない。

連は、子どもながらに感じたのだ。

今の彼女は、“さらしてはいけない”、と。

「話さない...!言わない...!絶対に...!死んでも...!!」

「...!!」

ヤスはそのときの連の剣幕に圧倒された。

そして、ついに連から手を離した。

「...死んだんだな?」

「死んだ」

「...殺された?」

「殺された」

連は淡々と答える。

このとき彼の心は、空っぽになっていた。

その目からは、完全に光が消えていた。

「...誰が、こんな...!」

ヤスの肩は、怒りで震えている。

サラはその場で泣き崩れてしまった。

エミは衝撃で逆に何の反応もできない。

それは、その他の皆も同じようだった。

そしてついに、彼らの迎えが来ることはなかった。




気づけば、集落には、彼ら以外誰もいなくなっていた。

と、そのときだった。                                                                                                                                                                                                                                                        

突然サイレンの音が集落中に響き渡った。

空襲警報だ。

だから集落の住民たちがどこにもいなかったのだ。

しかし、皆、その場から一歩も動くことはなかった。




数分後、警報通り、何機もの爆撃機が上空を通過し、いくつかの爆弾を集落に投下させた。

集落中に爆弾が着弾し、爆発を起こす。

爆煙が止んだころ、サラがある場所を指さした。

そこには、彼らの拠点であり、ユイの死に場所であるテントが炎上する様子があった。

彼らには、ユイを弔うことですら、許されてはいなかった。




この時点で彼らは思った。

生き残ってしまった、と。




“生き残ってしまった”一行は、集落にあった財産をかきあつめ、路銀を手に入れた。

このとき、初めて彼らは“盗み”を働いた。

ヒロは最初、躊躇していたが、それ以外に方法がないことを悟ると、皆に続いた。

中東はすでに戦場。
そこで彼らは、まだ戦場になっていない欧州に入ることにした。

このとき、連は独り、強く思った。

必ず戻る、と。




その後、一行は東欧のある街に入った。

しかし...

「......なによ、これ」

東欧のある町に入り、何とか故郷に帰るためのつてを探そうとしたが、その町の光景は『地獄』そのものだった。

「まだ戦場じゃないはずだろ...」

ヒロは動揺を隠せない。

皆、その凄惨な光景に衝撃を受けた。

老若男女、全てが死体となっていた。

そして、そのどれもが、胴体に風穴が形成されていた。




そして、町の中心部に入ったその時、連はついに口を開いた。

「やっぱり...平和のためには恐怖が必要なんだね...」

皆はそんな連に対して、何の言葉もかけてやれなかった。

「......皆はどう思う?」

連は皆のほうに目を向ける。

その目はどこまでも濁っていた。

怒り、憎しみ、悲しみ、失望......様々な感情が彼の真っ黒な瞳の中で渦巻いていた。

「......俺たちは、連についていくぜ」

ヤスはそう答える。

「...そっか、ありがとう」

連はそれだけ言うと、ある家に入り、無言で中を漁り始めた。

こうして彼らは、故郷へ帰るための資金を集め、町を後にするのだった。




「......着いたな」

“事件”から約1週間後、一行はやっとの思いで帰郷した。

戦争の影響でなかなか帰ることができなかったが、戦局が極東公国・米国側有利に傾いたことで、“人道経路”が形成され、非営利組織などに所属する極東人やアメリカ人の帰国が一時的に可能になった。

こうして、彼らは今極東公国に立っている。

「帰ろう、家に」

連のその言葉に皆はうなずく。

「でも...」

「サラ?」

「......ユイのこと、どう言えばいいの?」

「.........」

そのとき、連は“あの光景”を思い出し、吐き気を一瞬感じながら返答する。

「まずは、家に帰らなきゃ」

今は、そのときじゃない。悲しみに暮れるのは、家に帰った後だ。

「......そうね。そうよね」

こうして、皆はそれぞれの家に帰ることにした。

レイは途中で実家の神社へと帰った。

マンションに向かっているとき、一行はある“貼り紙”を見た。

『捜索をお願いします!』

と書かれており、その下に何人もの子どもたちの写真。

「これって......」

エミがそう呟く。

その写真の子どもたちは、連たちのものだったのだ。

ここで皆は悟った。

自分たちは、社会ではもう既に死んでいるはずの人間なのだ、と。

もしかしたら、この貼り紙は自分たちの家族が作ったものなのかもしれない。

そう思うと、一行は早く帰らなければと思った。

そして、一行はマンションに入り、それぞれの家へと向かうのだった。




連は家の前でインターホンを鳴らす。

出たのは、連の父だ。

母親は連が物心つく前に、既に故人となっている。

「...はい、.........連?連なのか?」

次の瞬間、勢いよく扉が開かれる。

そして、連の父は、連を力いっぱいに抱きしめる。

「よかった...!本当に良かった...!これが夢じゃないなんて...!」

連の父は心の底から連の無事を喜んでいた。




その日の夜、連はどっと来た疲れを感じながら眠りにつこうとしていた。

父は何者かと連絡を取っていた。

連はそれを覗きながら聞くことにした。

会話を聞く中で分かったが、なんと、その相手は内閣総理大臣だった。

「生きていました。はい。息子です。他の子たちも生きています」

父の声は喜びで上ずんでいる。

その後は、事務的な会話となっていく。

「はい。ですので、どうか戸籍の再登録を─。......え?」

父は何か驚いた表情をしている。

「......しかし!...............はい。分かりました。はい。そうです...私は─」

連は耳を傾ける。

「私は、『八咫烏陰陽道』の当主ですから」

そう言うと、引き出しを開け、あるものを取り出した。

拳銃だ。

「はい。もちろんです。“国家の敵”は、“我々”が消します」

その後、連の父は電話を切り、大きなため息をついた。

そして...

「......すまない......すまない」

父は泣いていた。

しかし、その顔もたちまち覚悟に染まっていく。




『八咫烏陰陽道』

自分の家系はそんな名前の陰陽師であるということは、連も知っていた。

実際、陰陽師としての修行も父から受けていた。

しかし、それがどのような組織かまでは、このときまで知らなかった。

その後、連は即座にスマホのメールアプリを開くのだった。




翌日...日曜日の早朝...皆は連の家のベランダに飛び移り、集結した。

このとき、連の父は既に家から出ていた。

「...なあ、この後どうすんだよ...!?」

ヤスは小声で連に聞く。

「どうして私まで...?」

レイも困惑している。

連は家の中にある引き出しからいくつかある拳銃の中の一つをとり、皆に見せた。
皆は連の家に拳銃があることに驚愕した。

こうして、連は皆を自分の部屋にいくつかあるクローゼットに隠すことにした。

連は壁に耳をつけ、隣の家、サラの家の様子を確認する。

すると...

扉が開けられる音が聴こえてきた。

その後、子どもの安否を聞く声。連の父の声だ。

それに返答する声が聞こえる。サラの母の声だ。

「ぜひ会わせてほしいのですが」

「どうしてですか?」

「私たちの仲ではないですか」

「......本当だったんですね」

「?」

すると、サラの母はあるものを突き出す。

それは手紙だった。

そこには、自分が家を出ることと、その理由について書かれていた。

そこには、連の父が明日自分を消しに来るから、と書かれていた。

「......そうですか。残念です」

突然連の父の声のトーンが下がった。

次の瞬間、大きな物音が何度か聴こえ、その後、連の父がサラの家を離れていく音が聴こえた。

その後、連の父は次々と家を回っていくと、今度はマンションの階段を下りていく音が聴こえる。

レイの神社へと赴いたのだ。

レイの表情は絶望で塗りつぶされた。

そして十分ほど過ぎたころ、連の父はついに自宅へと帰ってきた。

鍵が開く音が聴こえる。

クローゼットの中で、サラは泣いていた。

扉が開いた。

「......連、お前だな?」

連の父は、扉の前に立ち、拳銃を構える連にそういった。

連の父は、漆黒のコートに漆黒のスーツを身に着けていた。

そこには、連の知らない父の姿があった。

「......父さん、平和ってそうやって作るものなの?」

「......ああ。そうだ」

「...そうか。それなら...」

連は引き金を引く。

「僕たちの平和は...!僕たちで作る!!」

連はついに発砲した。

しかし、銃弾は連の父の腕によって防がれてしまった。

連の父の腕は、赤いオーラを発している。

陰陽道の力だ。

連の父は、連の手から拳銃を払い落とし、連をつかみ上げた。

「あの子たちはどこにいる」

「...言わない!」

「...言うんだ、連」

「......」

「......頼む。お前まで殺したくない...」

「......」

次の瞬間だった。

突然扉が開いた。

扉を開けたのはサラだった。

サラは拳銃を拾い上げると、連の父に銃口を向ける。

その目は悲しみと怒りの涙で濡れている。

「...そこにいたのか。今、楽にしてやる...」

連の父はサラに目を向ける。

次の瞬間だった。

「あああああああっ!」

そんな叫びとともに、ヤスが連の父に突撃した。

ヤスの『増幅』によって倍増された脚力による突撃は、連の父でさえ吹っ飛ばされるほどのレベルだった。

連の父は扉を破壊しながら吹っ飛んで、マンションの通路に倒れる。

「サラ!!やれ!!」

「......!私は...私は...」

サラの手は震えていた。

それもそのはず。

彼女は生まれて一度も、人を殺したことが無い。

「早く!!」

連も叫ぶ。

しかし...

「あと数秒...遅かったな...」

連の父はヤスを投げ飛ばし、連を蹴っ飛ばした。

「がはっ!ごほっごほっ!!」

連は壁にたたきつけられ、せき込む。

そしてサラの銃を取り上げ、その銃口を─




「......?な......」

突然背中に激痛が走る。

背中には、包丁が刺さっていた。

包丁を持っていたのは、エミ。

次の瞬間、ヒロ、タカ、ジュンの3人が続々と刃物を持って連の父に真正面から突撃した。

「うっ...がっ...」

連の父は拳銃を落とし、跪く。

そして...

「終わりだ。父さん」

父に似た冷酷な目で、連は自分の父の頭を撃ち抜いた。

「はあっ...はあっ...」

連は息を荒げながら銃を下げる。

と、そのときだった。

連の父が手を伸ばしてきた。

「......っ!?まだ...!」

すると、そのまま連の父の手は、連の頭の上に置かれた。

「......ご...めん、な...連」

そう言いながら、連の父は連の頭を優しくなでた。

その様子は、今までともに人生を過ごした、父そのものだった。

その後、一気にその手から力が抜け、地面にその手はついた。

そして、連の父は、動かなくなった。




「ちょっと!何の音!?」

『!!』

あまりにも騒がしくしすぎたからか、隣人が飛び出してきた。

「い、いえ、なんでも...」

連がそう言うと、隣人は眉をひそめながら自分の家へと戻っていった。

連の父の死体は、ヤスの怪力でなんとか家の中に隠されていた。




皆、連の家の中に集まった。

サラ、ヤス、レイの3人が包丁を持ってきた。

そして

「俺たちにも、やらせてくれ」

「これからは皆、ずっといっしょだから。私たちにも、その“汚れ”分けさせて」

「お願いです...」

3人がそれぞれそう言った。

連はそれを承諾した。

すると、3人はそれぞれ連の父の死体に包丁を思い切り突き立てた。

こうして、皆の手は、平等に“汚れた”。

そう、皆はこれから“ずっといっしょ”だ。




もう、彼らには帰る場所がないのだから。


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連は言葉を失った。
ユイは、“見るに堪えない姿”になっていた。
その他にも、支援物資、そして自分たち用の物資全てが奪われており、その跡として、鞄などが乱雑に置かれていた。
そして、“彼女だったもの”の横には、ボロボロに踏み荒らされていたミモザの姿があった。
連がテントから出てきたその時だった。
「おい!連!ユイは!?」
ヤスが駆け寄ってきた。
「......」
「こん中にいるのか?」
「......」
「何とか言えよ!とりあえず中に─」
「ダメだ」
入り口の前に連が立つ。
「......は?」
「ユイは、死んだんだ」
「何...言ってんだよ」
「ユイは、殺されたんだ」
「どうやって殺されたんだ」
「言わない」
「じゃあ見せろよ!」
「見せない」
「ふざけてんのか!!連!!」
ヤスは連の胸倉をつかむ。
しかし、いつもなら青ざめるはずの連が、全く動じない。
連は、子どもながらに感じたのだ。
今の彼女は、“さらしてはいけない”、と。
「話さない...!言わない...!絶対に...!死んでも...!!」
「...!!」
ヤスはそのときの連の剣幕に圧倒された。
そして、ついに連から手を離した。
「...死んだんだな?」
「死んだ」
「...殺された?」
「殺された」
連は淡々と答える。
このとき彼の心は、空っぽになっていた。
その目からは、完全に光が消えていた。
「...誰が、こんな...!」
ヤスの肩は、怒りで震えている。
サラはその場で泣き崩れてしまった。
エミは衝撃で逆に何の反応もできない。
それは、その他の皆も同じようだった。
そしてついに、彼らの迎えが来ることはなかった。
気づけば、集落には、彼ら以外誰もいなくなっていた。
と、そのときだった。                                                                                                                                                                                                                                                        
突然サイレンの音が集落中に響き渡った。
空襲警報だ。
だから集落の住民たちがどこにもいなかったのだ。
しかし、皆、その場から一歩も動くことはなかった。
数分後、警報通り、何機もの爆撃機が上空を通過し、いくつかの爆弾を集落に投下させた。
集落中に爆弾が着弾し、爆発を起こす。
爆煙が止んだころ、サラがある場所を指さした。
そこには、彼らの拠点であり、ユイの死に場所であるテントが炎上する様子があった。
彼らには、ユイを弔うことですら、許されてはいなかった。
この時点で彼らは思った。
生き残ってしまった、と。
“生き残ってしまった”一行は、集落にあった財産をかきあつめ、路銀を手に入れた。
このとき、初めて彼らは“盗み”を働いた。
ヒロは最初、躊躇していたが、それ以外に方法がないことを悟ると、皆に続いた。
中東はすでに戦場。
そこで彼らは、まだ戦場になっていない欧州に入ることにした。
このとき、連は独り、強く思った。
必ず戻る、と。
その後、一行は東欧のある街に入った。
しかし...
「......なによ、これ」
東欧のある町に入り、何とか故郷に帰るためのつてを探そうとしたが、その町の光景は『地獄』そのものだった。
「まだ戦場じゃないはずだろ...」
ヒロは動揺を隠せない。
皆、その凄惨な光景に衝撃を受けた。
老若男女、全てが死体となっていた。
そして、そのどれもが、胴体に風穴が形成されていた。
そして、町の中心部に入ったその時、連はついに口を開いた。
「やっぱり...平和のためには恐怖が必要なんだね...」
皆はそんな連に対して、何の言葉もかけてやれなかった。
「......皆はどう思う?」
連は皆のほうに目を向ける。
その目はどこまでも濁っていた。
怒り、憎しみ、悲しみ、失望......様々な感情が彼の真っ黒な瞳の中で渦巻いていた。
「......俺たちは、連についていくぜ」
ヤスはそう答える。
「...そっか、ありがとう」
連はそれだけ言うと、ある家に入り、無言で中を漁り始めた。
こうして彼らは、故郷へ帰るための資金を集め、町を後にするのだった。
「......着いたな」
“事件”から約1週間後、一行はやっとの思いで帰郷した。
戦争の影響でなかなか帰ることができなかったが、戦局が極東公国・米国側有利に傾いたことで、“人道経路”が形成され、非営利組織などに所属する極東人やアメリカ人の帰国が一時的に可能になった。
こうして、彼らは今極東公国に立っている。
「帰ろう、家に」
連のその言葉に皆はうなずく。
「でも...」
「サラ?」
「......ユイのこと、どう言えばいいの?」
「.........」
そのとき、連は“あの光景”を思い出し、吐き気を一瞬感じながら返答する。
「まずは、家に帰らなきゃ」
今は、そのときじゃない。悲しみに暮れるのは、家に帰った後だ。
「......そうね。そうよね」
こうして、皆はそれぞれの家に帰ることにした。
レイは途中で実家の神社へと帰った。
マンションに向かっているとき、一行はある“貼り紙”を見た。
『捜索をお願いします!』
と書かれており、その下に何人もの子どもたちの写真。
「これって......」
エミがそう呟く。
その写真の子どもたちは、連たちのものだったのだ。
ここで皆は悟った。
自分たちは、社会ではもう既に死んでいるはずの人間なのだ、と。
もしかしたら、この貼り紙は自分たちの家族が作ったものなのかもしれない。
そう思うと、一行は早く帰らなければと思った。
そして、一行はマンションに入り、それぞれの家へと向かうのだった。
連は家の前でインターホンを鳴らす。
出たのは、連の父だ。
母親は連が物心つく前に、既に故人となっている。
「...はい、.........連?連なのか?」
次の瞬間、勢いよく扉が開かれる。
そして、連の父は、連を力いっぱいに抱きしめる。
「よかった...!本当に良かった...!これが夢じゃないなんて...!」
連の父は心の底から連の無事を喜んでいた。
その日の夜、連はどっと来た疲れを感じながら眠りにつこうとしていた。
父は何者かと連絡を取っていた。
連はそれを覗きながら聞くことにした。
会話を聞く中で分かったが、なんと、その相手は内閣総理大臣だった。
「生きていました。はい。息子です。他の子たちも生きています」
父の声は喜びで上ずんでいる。
その後は、事務的な会話となっていく。
「はい。ですので、どうか戸籍の再登録を─。......え?」
父は何か驚いた表情をしている。
「......しかし!...............はい。分かりました。はい。そうです...私は─」
連は耳を傾ける。
「私は、『八咫烏陰陽道』の当主ですから」
そう言うと、引き出しを開け、あるものを取り出した。
拳銃だ。
「はい。もちろんです。“国家の敵”は、“我々”が消します」
その後、連の父は電話を切り、大きなため息をついた。
そして...
「......すまない......すまない」
父は泣いていた。
しかし、その顔もたちまち覚悟に染まっていく。
『八咫烏陰陽道』
自分の家系はそんな名前の陰陽師であるということは、連も知っていた。
実際、陰陽師としての修行も父から受けていた。
しかし、それがどのような組織かまでは、このときまで知らなかった。
その後、連は即座にスマホのメールアプリを開くのだった。
翌日...日曜日の早朝...皆は連の家のベランダに飛び移り、集結した。
このとき、連の父は既に家から出ていた。
「...なあ、この後どうすんだよ...!?」
ヤスは小声で連に聞く。
「どうして私まで...?」
レイも困惑している。
連は家の中にある引き出しからいくつかある拳銃の中の一つをとり、皆に見せた。
皆は連の家に拳銃があることに驚愕した。
こうして、連は皆を自分の部屋にいくつかあるクローゼットに隠すことにした。
連は壁に耳をつけ、隣の家、サラの家の様子を確認する。
すると...
扉が開けられる音が聴こえてきた。
その後、子どもの安否を聞く声。連の父の声だ。
それに返答する声が聞こえる。サラの母の声だ。
「ぜひ会わせてほしいのですが」
「どうしてですか?」
「私たちの仲ではないですか」
「......本当だったんですね」
「?」
すると、サラの母はあるものを突き出す。
それは手紙だった。
そこには、自分が家を出ることと、その理由について書かれていた。
そこには、連の父が明日自分を消しに来るから、と書かれていた。
「......そうですか。残念です」
突然連の父の声のトーンが下がった。
次の瞬間、大きな物音が何度か聴こえ、その後、連の父がサラの家を離れていく音が聴こえた。
その後、連の父は次々と家を回っていくと、今度はマンションの階段を下りていく音が聴こえる。
レイの神社へと赴いたのだ。
レイの表情は絶望で塗りつぶされた。
そして十分ほど過ぎたころ、連の父はついに自宅へと帰ってきた。
鍵が開く音が聴こえる。
クローゼットの中で、サラは泣いていた。
扉が開いた。
「......連、お前だな?」
連の父は、扉の前に立ち、拳銃を構える連にそういった。
連の父は、漆黒のコートに漆黒のスーツを身に着けていた。
そこには、連の知らない父の姿があった。
「......父さん、平和ってそうやって作るものなの?」
「......ああ。そうだ」
「...そうか。それなら...」
連は引き金を引く。
「僕たちの平和は...!僕たちで作る!!」
連はついに発砲した。
しかし、銃弾は連の父の腕によって防がれてしまった。
連の父の腕は、赤いオーラを発している。
陰陽道の力だ。
連の父は、連の手から拳銃を払い落とし、連をつかみ上げた。
「あの子たちはどこにいる」
「...言わない!」
「...言うんだ、連」
「......」
「......頼む。お前まで殺したくない...」
「......」
次の瞬間だった。
突然扉が開いた。
扉を開けたのはサラだった。
サラは拳銃を拾い上げると、連の父に銃口を向ける。
その目は悲しみと怒りの涙で濡れている。
「...そこにいたのか。今、楽にしてやる...」
連の父はサラに目を向ける。
次の瞬間だった。
「あああああああっ!」
そんな叫びとともに、ヤスが連の父に突撃した。
ヤスの『増幅』によって倍増された脚力による突撃は、連の父でさえ吹っ飛ばされるほどのレベルだった。
連の父は扉を破壊しながら吹っ飛んで、マンションの通路に倒れる。
「サラ!!やれ!!」
「......!私は...私は...」
サラの手は震えていた。
それもそのはず。
彼女は生まれて一度も、人を殺したことが無い。
「早く!!」
連も叫ぶ。
しかし...
「あと数秒...遅かったな...」
連の父はヤスを投げ飛ばし、連を蹴っ飛ばした。
「がはっ!ごほっごほっ!!」
連は壁にたたきつけられ、せき込む。
そしてサラの銃を取り上げ、その銃口を─
「......?な......」
突然背中に激痛が走る。
背中には、包丁が刺さっていた。
包丁を持っていたのは、エミ。
次の瞬間、ヒロ、タカ、ジュンの3人が続々と刃物を持って連の父に真正面から突撃した。
「うっ...がっ...」
連の父は拳銃を落とし、跪く。
そして...
「終わりだ。父さん」
父に似た冷酷な目で、連は自分の父の頭を撃ち抜いた。
「はあっ...はあっ...」
連は息を荒げながら銃を下げる。
と、そのときだった。
連の父が手を伸ばしてきた。
「......っ!?まだ...!」
すると、そのまま連の父の手は、連の頭の上に置かれた。
「......ご...めん、な...連」
そう言いながら、連の父は連の頭を優しくなでた。
その様子は、今までともに人生を過ごした、父そのものだった。
その後、一気にその手から力が抜け、地面にその手はついた。
そして、連の父は、動かなくなった。
「ちょっと!何の音!?」
『!!』
あまりにも騒がしくしすぎたからか、隣人が飛び出してきた。
「い、いえ、なんでも...」
連がそう言うと、隣人は眉をひそめながら自分の家へと戻っていった。
連の父の死体は、ヤスの怪力でなんとか家の中に隠されていた。
皆、連の家の中に集まった。
サラ、ヤス、レイの3人が包丁を持ってきた。
そして
「俺たちにも、やらせてくれ」
「これからは皆、ずっといっしょだから。私たちにも、その“汚れ”分けさせて」
「お願いです...」
3人がそれぞれそう言った。
連はそれを承諾した。
すると、3人はそれぞれ連の父の死体に包丁を思い切り突き立てた。
こうして、皆の手は、平等に“汚れた”。
そう、皆はこれから“ずっといっしょ”だ。
もう、彼らには帰る場所がないのだから。