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ー/ー まどろみのなかで、ユウくんと目が合った。ユウくんのきれいな瞳がまっすぐにわたしを見つめている。きれい。思わずわたしは声に出す。なにが? 瞳。瞳? うん、ユウくんの、瞳。
ユウくん。わたしはユウくんの背中に手をまわす。立っているときには届かない、ユウくんの背中の上のほう。ユウくんの体からはあまいにおいがする。ケーキとかキャンディとか、そういうのとはちがう、あまいにおい。紗羽って、いいにおいがするよね。ユウくんが言う。わたしからはどんなにおいがしているんだろう。ユウくんのと似たにおいだったら、うれしい。
「夢を見ていたの」
「どんな?」
ユウくんがたずねる。わたしはユウくんの目を見つめ、ううん、と首を振る。
「忘れちゃった」
「そっか」
「ユウくんは、なにをしていたの?」
「なにも。ただ紗羽の寝顔を見てたんだ」
「寝顔なんか見て、楽しいの?」
「うん。紗羽、まるで死んでいるみたいにぐっすり眠ってた」
まだ死んでないよ。笑いながら言うと、そうだね、とユウくんもゆっくり微笑む。くすくす、くすくす。ふたりだけの小さな秘密をこっそり確かめ合うみたいに。
「ねえ」
がまんできなくなって、わたしはきく。
「ユウくんは、いつわたしを殺すの?」
ユウくんの答えはいつも決まって、
「そのうちね」
「そのうちじゃわかんない」
わたしはちょっとすねてみる。
「じゃあ、近いうち、かな」
「まだわかんない」
小さいこどもみたいにわたしはいやいやをする。するとユウくんはちょっと身を起こして、そのやわらかい唇でわたしの口をふさいでしまう。はじめは抵抗しながらも、しだいにわたしはとろけてゆく。とろけて、最後はふにゃふにゃにされてしまう。ユウくんはとってもキスが上手。キスが上手な死神なのだ。
「ユウくんって、ずるい」
ふにゃふにゃになったわたしは、虫が鳴くみたいな声で言う。こうやっていつもごまかされちゃう。紗羽。ユウくんはわたしの前髪を手ですくって、おでこにそっとキスをする。水の上に葉っぱの船を浮かべるみたいな、やさしい口づけ。
ユウくん。わたしが呼ぶと、ユウくんはわたしをぎゅっと抱きしめる。ユウくんの大きな体のなかでわたしは小さな繭になって、とろとろと意識を溶かしていく。
わたしが寝てしまったあと、ユウくんはどうしているんだろう。また自分だけ寝ないで、死んだように眠るわたしの寝顔をじっと眺めているのかも。
ユウくんって、ずるい。
あまいにおいに包まれながら、わたしは目を閉じる。
ユウくん。わたしはユウくんの背中に手をまわす。立っているときには届かない、ユウくんの背中の上のほう。ユウくんの体からはあまいにおいがする。ケーキとかキャンディとか、そういうのとはちがう、あまいにおい。紗羽って、いいにおいがするよね。ユウくんが言う。わたしからはどんなにおいがしているんだろう。ユウくんのと似たにおいだったら、うれしい。
「夢を見ていたの」
「どんな?」
ユウくんがたずねる。わたしはユウくんの目を見つめ、ううん、と首を振る。
「忘れちゃった」
「そっか」
「ユウくんは、なにをしていたの?」
「なにも。ただ紗羽の寝顔を見てたんだ」
「寝顔なんか見て、楽しいの?」
「うん。紗羽、まるで死んでいるみたいにぐっすり眠ってた」
まだ死んでないよ。笑いながら言うと、そうだね、とユウくんもゆっくり微笑む。くすくす、くすくす。ふたりだけの小さな秘密をこっそり確かめ合うみたいに。
「ねえ」
がまんできなくなって、わたしはきく。
「ユウくんは、いつわたしを殺すの?」
ユウくんの答えはいつも決まって、
「そのうちね」
「そのうちじゃわかんない」
わたしはちょっとすねてみる。
「じゃあ、近いうち、かな」
「まだわかんない」
小さいこどもみたいにわたしはいやいやをする。するとユウくんはちょっと身を起こして、そのやわらかい唇でわたしの口をふさいでしまう。はじめは抵抗しながらも、しだいにわたしはとろけてゆく。とろけて、最後はふにゃふにゃにされてしまう。ユウくんはとってもキスが上手。キスが上手な死神なのだ。
「ユウくんって、ずるい」
ふにゃふにゃになったわたしは、虫が鳴くみたいな声で言う。こうやっていつもごまかされちゃう。紗羽。ユウくんはわたしの前髪を手ですくって、おでこにそっとキスをする。水の上に葉っぱの船を浮かべるみたいな、やさしい口づけ。
ユウくん。わたしが呼ぶと、ユウくんはわたしをぎゅっと抱きしめる。ユウくんの大きな体のなかでわたしは小さな繭になって、とろとろと意識を溶かしていく。
わたしが寝てしまったあと、ユウくんはどうしているんだろう。また自分だけ寝ないで、死んだように眠るわたしの寝顔をじっと眺めているのかも。
ユウくんって、ずるい。
あまいにおいに包まれながら、わたしは目を閉じる。
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まどろみのなかで、ユウくんと目が合った。ユウくんのきれいな瞳がまっすぐにわたしを見つめている。きれい。思わずわたしは声に出す。なにが? 瞳。瞳? うん、ユウくんの、瞳。
ユウくん。わたしはユウくんの背中に手をまわす。立っているときには届かない、ユウくんの背中の上のほう。ユウくんの体からはあまいにおいがする。ケーキとかキャンディとか、そういうのとはちがう、あまいにおい。|紗羽《さわ》って、いいにおいがするよね。ユウくんが言う。わたしからはどんなにおいがしているんだろう。ユウくんのと似たにおいだったら、うれしい。
「夢を見ていたの」
「どんな?」
ユウくんがたずねる。わたしはユウくんの目を見つめ、ううん、と首を振る。
「忘れちゃった」
「そっか」
「ユウくんは、なにをしていたの?」
「なにも。ただ紗羽の寝顔を見てたんだ」
「寝顔なんか見て、楽しいの?」
「うん。紗羽、まるで死んでいるみたいにぐっすり眠ってた」
「どんな?」
ユウくんがたずねる。わたしはユウくんの目を見つめ、ううん、と首を振る。
「忘れちゃった」
「そっか」
「ユウくんは、なにをしていたの?」
「なにも。ただ紗羽の寝顔を見てたんだ」
「寝顔なんか見て、楽しいの?」
「うん。紗羽、まるで死んでいるみたいにぐっすり眠ってた」
まだ死んでないよ。笑いながら言うと、そうだね、とユウくんもゆっくり微笑む。くすくす、くすくす。ふたりだけの小さな秘密をこっそり確かめ合うみたいに。
「ねえ」
がまんできなくなって、わたしはきく。
「ユウくんは、いつわたしを殺すの?」
ユウくんの答えはいつも決まって、
「そのうちね」
「そのうちじゃわかんない」
わたしはちょっとすねてみる。
「じゃあ、近いうち、かな」
「まだわかんない」
がまんできなくなって、わたしはきく。
「ユウくんは、いつわたしを殺すの?」
ユウくんの答えはいつも決まって、
「そのうちね」
「そのうちじゃわかんない」
わたしはちょっとすねてみる。
「じゃあ、近いうち、かな」
「まだわかんない」
小さいこどもみたいにわたしはいやいやをする。するとユウくんはちょっと身を起こして、そのやわらかい唇でわたしの口をふさいでしまう。はじめは抵抗しながらも、しだいにわたしはとろけてゆく。とろけて、最後はふにゃふにゃにされてしまう。ユウくんはとってもキスが上手。キスが上手な死神なのだ。
「ユウくんって、ずるい」
ふにゃふにゃになったわたしは、虫が鳴くみたいな声で言う。こうやっていつもごまかされちゃう。紗羽。ユウくんはわたしの前髪を手ですくって、おでこにそっとキスをする。水の上に葉っぱの船を浮かべるみたいな、やさしい口づけ。
ユウくん。わたしが呼ぶと、ユウくんはわたしをぎゅっと抱きしめる。ユウくんの大きな体のなかでわたしは小さな繭になって、とろとろと意識を溶かしていく。
わたしが寝てしまったあと、ユウくんはどうしているんだろう。また自分だけ寝ないで、死んだように眠るわたしの寝顔をじっと眺めているのかも。
ユウくんって、ずるい。
あまいにおいに包まれながら、わたしは目を閉じる。
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