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花言葉は「追憶」①

ー/ー



 遺体の側に落ちていたのは、紫苑(シオン)の花だった。
 その花言葉は、『追憶』
 これは、一人の少女がたどった、悲劇的な人生を綴った物語だ。

   ※

 おそらく私は、幼いころから『恋』というものに対して自覚的な女の子だった。それは若気の至りだよ、などと諭されたこともあるが、私はそうは思わない。

「特定の誰かを高く評価し、その相手を想う感情」

 辞書で『恋』という単語を引くと、でてくる文言がこれだ。
 当時の私が抱いていた感情を言葉にするならこれで正しいし、私が先生を想う気持ちは、今でも衰えるどころか熱く燃え上がる一方なのだから、この感情を恋と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
 恋をすると女性は可愛くなり、男性はカッコよくなると言う。時を経て、私は素敵な女性になった。久しぶりに会った先生も変わらずカッコよかったから、あの日からずっと先生は誰かに恋をしていたのかもね。
 私は今でも恋をしているよ。あの日から変わることなく、ずっとね。
 先生はどうかしら?
 ずっと一緒にいようね、先生。

   ※

 先生は、私が高校一年生のときの担任教師だった。
 年齢は二十五歳。彼女はいなくて独身。シックな色のスーツに、鮮やかな色のネクタイ。スーツの色が明るめの時は、逆にネクタイの柄と色を控え目にするなど着こなしのセンスがいい。
 顔は、平均より少し整っているくらいで取り立ててイケメンでもないが、清潔感のある短髪とバランスの良い肩幅をしていて、その立ち居姿は大人の男を感じさせて女子生徒からわりと人気があった。
 先生に憧れていたのは当然私も同じで。
 詰めたスカート丈。
 ソックスの長さとネクタイの結び方。
 目立ちたいと思ってもその程度で、高校生の身分じゃお洒落で大した差も付けられない。可愛い洋服を買いたくても、小遣いだって限られているのだし。そういった、くすぶった色の青春の中では、先生のファッションセンスはそれはそれは輝いて見えた。百八十を超える長身のその背中を、目で追うようになるまで、さほど時間は要さなかったのだ。


「X2+(a+b)X+ab=(X+a)(X+b)」
「うーん……」
「わかる?」
「どうして、公式を分解しないといけないんでしょうね。先生」
「どうして? と言われても、因数分解だからねえ」

「そういうものなの」と子どもに言い聞かせるみたいに優しい口調の先生に首を傾げると、「わかっていないんだね」と今度は笑われた。
 口元を手で覆って笑うとき、年齢以上に幼く見えるの、なんかズルいなって時々思う。
 西向きにある教室の窓から、燃えるような夕焼け空が見える。ガラス一枚隔てた先から、えい、おー、と野球部員たちの掛け声が聞こえてくる。
 私は数学がとにかく苦手だったので、赤点を取ったことで数学の担当だった先生から補習授業を受けているところだ。季節はもう十月で、一学期の終わりに補習授業を受けたとき三人だったクラスメイトは、今ではすでに私一人だ。
 私だけが取り残されたみたいだが、狙ってこうなったわけじゃない。数学は元々苦手なのだ。なのだが、ある意味これは狙い通りだ。
 なぜならば――。

「先生」
「ん、なんだい?」
「キス、したいかも」
奈津美(なつみ)は、甘えん坊さんだなあ。学校ではダメだって言ったでしょ」
「でも」
「キスだけね」

 落ち着いた声が私の耳朶(じだ)をくすぐって、指で顎を上げられたかと思うと素早く唇を重ねられた。
 先と先が、軽く触れ合うだけの啄むみたいなキス。物足りない。
 それなのに、たったこれだけのことで私の体はしっかり反応してしまうのだ。先生が欲しくて堪らなくなって体が火照るこの瞬間、生きているって強く感じる。

 私と先生は付き合っている。
 こうしてたびたび、逢瀬を重ねる。

   ※

 初めてのエッチって、君はどんな感じだった?
 痛かったとか、気持ち良かったとか、様々な意見があるだろうけれど、私は間違いなく後者だった。
「とにかくもう、痛くて痛くて、早く終わってほしいとしか思えなかった」とか「もうめっちゃ緊張しまくりで、どんなことをしたのか全然覚えていない」とか。
 友人から聞かされる体験談は、大半がネガティブなものだったので凄く心配していたが、自分はまったくそうじゃなかった。私の体は、先生とひとつになるために、そのために生まれてきたんだとそう思った。たとえるならば、鞘と刀の関係か。少々、大袈裟な話ではあるが。
 先生とはたくさんエッチした。学校の中ではそんなことできないので、休みの日だったり、放課後だったり、学校以外のそれこそ色んな場所でした。
 こんな気持ちいいことがあるって知らなかったし、自分に向いていると思った。勉強なんかよりよほど。

   ※

「先生」

 薄闇に包まれた先生のアパート。ベッドの上で体を重ねたまま私は訊ねる。計算しつくした角度の、上目遣いで。

「なんだい?」
「私が卒業したら、結婚してくれる?」

 率直すぎる質問に、困ったように先生がくせ毛の襟足をかく。

「ん~……そうだなあ……。奈津美が、数学のテストで学年十番以内に入ったらね」
「うわ、ずるい。私の頭で十番なんて入れるわけないじゃん」
「ふふふ」

 案の定、はぐらかされてしまう。それでも、何度お茶を濁されても、私は同じ質問を愚直に繰り返すのだ。

「からかったお詫びでもないけど。これ、誕生日プレゼント」

 ベッドから立ち上がり、箪笥(タンス)の上から手に取って先生が差し出してきたのは、真っ白で四角くて、厚紙でできたギフトケースだ。小首を傾げて受け取って、「開けてみてもいい?」と訊ねる。

「もちろん」

 箱の中に入っていたのは、ピンクや赤など、三種類、六輪のアートフラワー。造り物ではあるが、一瞬本物かと見紛う出来だ。

「これは……?」
「本物ではないけれど、だからこそ、枯れることもなくずっと飾れるアートフラワーだよ。ブライダルフラワーを手掛けたこともあるデザイナーさんの手によるハンドメイドなんだ。この花はね――」と先生が花を順番に手に取って説明を始める。
 ――ラナンキュラス。花言葉は「あなたは魅力的」
 ――クリスマスローズ。花言葉は「いたわり」
 ――シザンサス。花言葉は「あなたと一緒に」

「奈津美。ずっと一緒にいようね」
「うん」

 あなたと一緒に、か。うふふ。
 先生のことが好きだから。好きだからこそ、同時に私はずっと不安を抱えていたのだ。この甘美な日々にも、いつか終わりがくるんじゃないのかと。二人の関係が、際どい綱渡りみたいなバランスの上に成り立っているのを知っていたから。
 だから。運命に抗うため、か細い二人の糸を繋ぐため、何度も同じ質問をしたのだ。よかった、と安堵する。私の祈り、届いてた。

 一時の平穏を得ていた私の心を、粉々に砕くイベントがついに起こる。心配事が、形となって現れる日がおとずれたのだ。
 二年生に進級した夏のある日。私は生徒指導室に呼び出された。学校内ではセックスをしていないし、呼び出される理由に心当たりがないんだけどなーと思いながら向かう。
 生徒指導室にはクラスの副担任だけがいて。その女性教師の話は、端的にいうと、先生を懲戒免職処分にしたという事後報告だった。

「まさか、そんなことになっているとは知らなかったの。もっと早く気づいてあげられれば良かった。ごめんね」と副担任が言う。
「ううん、そうじゃないの」
「いいのよ。辛かったんだよね。ごめんね」
「だから、そうじゃなくて」
「いいのよ。全部わたしに任せておいて」

 私と先生は、ちゃんと付き合っていたんだよ。
 セックスすると、気持ちよかったの。
 喉元まで出かかった言葉は、発せられることなく弾けて消えた。どこから情報がもれたのかはわからない。けれど、どういった経緯(いきさつ)でこうなったのかは、なんとなく予測できたから。
 私のママは、世間一般的に言うところの、PTA会長というやつだ。保護者のなかで一番偉いひと。その、偉いひとの貴重な一人娘が教師と肉体関係を持っていたわけだ。ママとしても体裁が悪いし、学校としても明るみになっては困る不祥事だしで。そりゃあもう、教師が一女生徒に無理やり淫行を迫ったという話にして首を切りたかったわけだ。
 自分たちにも非があるのを棚に上げて、まるでトカゲのしっぽ切りだな、と思ってしまう。大人の世界って世知辛い。

 それからは私も気持ちを入れ替えて、先輩やら同級生やらを捕まえてセックスした。
 この段階になって気がついたんだけど、女の私から誘うと入れ食いだ。いや、入れ食いという表現はどうなのか。それは男視点での言い方か?
 とにもかくにも、とっかえひっかえ抱いた。もとい、抱かれた。個人的なオススメ物件は、見るからに大人しそうな三年生の男子。すぐ別れ話を持ち出しても後腐れしないし、これといった反論も抵抗もしてこない。差し詰め都合のいい男。
 ところが。ところが。
 まったく気持ちよくないんだなあ。
 体の相性が悪いというか燃えないというか。
 友人にそれとなく聞いたら、「それは無性愛じゃないの?」と心配された。他者に対する性的な惹かれの欠如とか、性行為に対する欲求が少ないとか、存在しないことだと言われた。
 いつのまに、私はそんな体になったの?
 先生を失ったあの日から?
 タイミングとしては、それで間違いなかった。
 やっぱり、私には先生しかいない。先生ともう一度会いたいーって強く願ったから、きっと奇跡が起きたのだ。


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 遺体の側に落ちていたのは、|紫苑《シオン》の花だった。
 その花言葉は、『追憶』
 これは、一人の少女がたどった、悲劇的な人生を綴った物語だ。
   ※
 おそらく私は、幼いころから『恋』というものに対して自覚的な女の子だった。それは若気の至りだよ、などと諭されたこともあるが、私はそうは思わない。
「特定の誰かを高く評価し、その相手を想う感情」
 辞書で『恋』という単語を引くと、でてくる文言がこれだ。
 当時の私が抱いていた感情を言葉にするならこれで正しいし、私が先生を想う気持ちは、今でも衰えるどころか熱く燃え上がる一方なのだから、この感情を恋と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
 恋をすると女性は可愛くなり、男性はカッコよくなると言う。時を経て、私は素敵な女性になった。久しぶりに会った先生も変わらずカッコよかったから、あの日からずっと先生は誰かに恋をしていたのかもね。
 私は今でも恋をしているよ。あの日から変わることなく、ずっとね。
 先生はどうかしら?
 ずっと一緒にいようね、先生。
   ※
 先生は、私が高校一年生のときの担任教師だった。
 年齢は二十五歳。彼女はいなくて独身。シックな色のスーツに、鮮やかな色のネクタイ。スーツの色が明るめの時は、逆にネクタイの柄と色を控え目にするなど着こなしのセンスがいい。
 顔は、平均より少し整っているくらいで取り立ててイケメンでもないが、清潔感のある短髪とバランスの良い肩幅をしていて、その立ち居姿は大人の男を感じさせて女子生徒からわりと人気があった。
 先生に憧れていたのは当然私も同じで。
 詰めたスカート丈。
 ソックスの長さとネクタイの結び方。
 目立ちたいと思ってもその程度で、高校生の身分じゃお洒落で大した差も付けられない。可愛い洋服を買いたくても、小遣いだって限られているのだし。そういった、くすぶった色の青春の中では、先生のファッションセンスはそれはそれは輝いて見えた。百八十を超える長身のその背中を、目で追うようになるまで、さほど時間は要さなかったのだ。
「X2+(a+b)X+ab=(X+a)(X+b)」
「うーん……」
「わかる?」
「どうして、公式を分解しないといけないんでしょうね。先生」
「どうして? と言われても、因数分解だからねえ」
「そういうものなの」と子どもに言い聞かせるみたいに優しい口調の先生に首を傾げると、「わかっていないんだね」と今度は笑われた。
 口元を手で覆って笑うとき、年齢以上に幼く見えるの、なんかズルいなって時々思う。
 西向きにある教室の窓から、燃えるような夕焼け空が見える。ガラス一枚隔てた先から、えい、おー、と野球部員たちの掛け声が聞こえてくる。
 私は数学がとにかく苦手だったので、赤点を取ったことで数学の担当だった先生から補習授業を受けているところだ。季節はもう十月で、一学期の終わりに補習授業を受けたとき三人だったクラスメイトは、今ではすでに私一人だ。
 私だけが取り残されたみたいだが、狙ってこうなったわけじゃない。数学は元々苦手なのだ。なのだが、ある意味これは狙い通りだ。
 なぜならば――。
「先生」
「ん、なんだい?」
「キス、したいかも」
「|奈津美《なつみ》は、甘えん坊さんだなあ。学校ではダメだって言ったでしょ」
「でも」
「キスだけね」
 落ち着いた声が私の|耳朶《じだ》をくすぐって、指で顎を上げられたかと思うと素早く唇を重ねられた。
 先と先が、軽く触れ合うだけの啄むみたいなキス。物足りない。
 それなのに、たったこれだけのことで私の体はしっかり反応してしまうのだ。先生が欲しくて堪らなくなって体が火照るこの瞬間、生きているって強く感じる。
 私と先生は付き合っている。
 こうしてたびたび、逢瀬を重ねる。
   ※
 初めてのエッチって、君はどんな感じだった?
 痛かったとか、気持ち良かったとか、様々な意見があるだろうけれど、私は間違いなく後者だった。
「とにかくもう、痛くて痛くて、早く終わってほしいとしか思えなかった」とか「もうめっちゃ緊張しまくりで、どんなことをしたのか全然覚えていない」とか。
 友人から聞かされる体験談は、大半がネガティブなものだったので凄く心配していたが、自分はまったくそうじゃなかった。私の体は、先生とひとつになるために、そのために生まれてきたんだとそう思った。たとえるならば、鞘と刀の関係か。少々、大袈裟な話ではあるが。
 先生とはたくさんエッチした。学校の中ではそんなことできないので、休みの日だったり、放課後だったり、学校以外のそれこそ色んな場所でした。
 こんな気持ちいいことがあるって知らなかったし、自分に向いていると思った。勉強なんかよりよほど。
   ※
「先生」
 薄闇に包まれた先生のアパート。ベッドの上で体を重ねたまま私は訊ねる。計算しつくした角度の、上目遣いで。
「なんだい?」
「私が卒業したら、結婚してくれる?」
 率直すぎる質問に、困ったように先生がくせ毛の襟足をかく。
「ん~……そうだなあ……。奈津美が、数学のテストで学年十番以内に入ったらね」
「うわ、ずるい。私の頭で十番なんて入れるわけないじゃん」
「ふふふ」
 案の定、はぐらかされてしまう。それでも、何度お茶を濁されても、私は同じ質問を愚直に繰り返すのだ。
「からかったお詫びでもないけど。これ、誕生日プレゼント」
 ベッドから立ち上がり、|箪笥《タンス》の上から手に取って先生が差し出してきたのは、真っ白で四角くて、厚紙でできたギフトケースだ。小首を傾げて受け取って、「開けてみてもいい?」と訊ねる。
「もちろん」
 箱の中に入っていたのは、ピンクや赤など、三種類、六輪のアートフラワー。造り物ではあるが、一瞬本物かと見紛う出来だ。
「これは……?」
「本物ではないけれど、だからこそ、枯れることもなくずっと飾れるアートフラワーだよ。ブライダルフラワーを手掛けたこともあるデザイナーさんの手によるハンドメイドなんだ。この花はね――」と先生が花を順番に手に取って説明を始める。
 ――ラナンキュラス。花言葉は「あなたは魅力的」
 ――クリスマスローズ。花言葉は「いたわり」
 ――シザンサス。花言葉は「あなたと一緒に」
「奈津美。ずっと一緒にいようね」
「うん」
 あなたと一緒に、か。うふふ。
 先生のことが好きだから。好きだからこそ、同時に私はずっと不安を抱えていたのだ。この甘美な日々にも、いつか終わりがくるんじゃないのかと。二人の関係が、際どい綱渡りみたいなバランスの上に成り立っているのを知っていたから。
 だから。運命に抗うため、か細い二人の糸を繋ぐため、何度も同じ質問をしたのだ。よかった、と安堵する。私の祈り、届いてた。
 一時の平穏を得ていた私の心を、粉々に砕くイベントがついに起こる。心配事が、形となって現れる日がおとずれたのだ。
 二年生に進級した夏のある日。私は生徒指導室に呼び出された。学校内ではセックスをしていないし、呼び出される理由に心当たりがないんだけどなーと思いながら向かう。
 生徒指導室にはクラスの副担任だけがいて。その女性教師の話は、端的にいうと、先生を懲戒免職処分にしたという事後報告だった。
「まさか、そんなことになっているとは知らなかったの。もっと早く気づいてあげられれば良かった。ごめんね」と副担任が言う。
「ううん、そうじゃないの」
「いいのよ。辛かったんだよね。ごめんね」
「だから、そうじゃなくて」
「いいのよ。全部わたしに任せておいて」
 私と先生は、ちゃんと付き合っていたんだよ。
 セックスすると、気持ちよかったの。
 喉元まで出かかった言葉は、発せられることなく弾けて消えた。どこから情報がもれたのかはわからない。けれど、どういった|経緯《いきさつ》でこうなったのかは、なんとなく予測できたから。
 私のママは、世間一般的に言うところの、PTA会長というやつだ。保護者のなかで一番偉いひと。その、偉いひとの貴重な一人娘が教師と肉体関係を持っていたわけだ。ママとしても体裁が悪いし、学校としても明るみになっては困る不祥事だしで。そりゃあもう、教師が一女生徒に無理やり淫行を迫ったという話にして首を切りたかったわけだ。
 自分たちにも非があるのを棚に上げて、まるでトカゲのしっぽ切りだな、と思ってしまう。大人の世界って世知辛い。
 それからは私も気持ちを入れ替えて、先輩やら同級生やらを捕まえてセックスした。
 この段階になって気がついたんだけど、女の私から誘うと入れ食いだ。いや、入れ食いという表現はどうなのか。それは男視点での言い方か?
 とにもかくにも、とっかえひっかえ抱いた。もとい、抱かれた。個人的なオススメ物件は、見るからに大人しそうな三年生の男子。すぐ別れ話を持ち出しても後腐れしないし、これといった反論も抵抗もしてこない。差し詰め都合のいい男。
 ところが。ところが。
 まったく気持ちよくないんだなあ。
 体の相性が悪いというか燃えないというか。
 友人にそれとなく聞いたら、「それは無性愛じゃないの?」と心配された。他者に対する性的な惹かれの欠如とか、性行為に対する欲求が少ないとか、存在しないことだと言われた。
 いつのまに、私はそんな体になったの?
 先生を失ったあの日から?
 タイミングとしては、それで間違いなかった。
 やっぱり、私には先生しかいない。先生ともう一度会いたいーって強く願ったから、きっと奇跡が起きたのだ。