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第百十三話

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 最初に言うならば、鍾馗蓮|《ショウキ レン》……彼女は裏切り者の中でも、別格の強さを誇っていた。その理由こそ、彼女自身の師は待田自身。英雄学園内で育てることのできなかった残虐性が、飛躍的に成長したのだ。それに、何より怪人の力の適応度が他よりも圧倒的に優れていたのだ。
 鍾馗の怪人体……というより、装甲と一体化した怪人の力は、今まで敵対してきたどの相手よりも薄気味が悪かったのだ。
 英雄としての装甲は、頭部装甲以外全て。しかしその装甲の色は淀んだ紫。スクレップ自体が活躍した時代が不明のため、前時代の鎧や胴具足をモチーフとする他装甲とは異なった、近未来的な見た目をしていた。
 それぞれに、うっすらと錆びた加工がされており、手にしているのは因子元であるスクレップそのもの。赤錆びた片手剣であり、それ自体に既に歪んだ魔力がエンチャントされているため、それ自体が醸し出す覇気もかなりのものであった。
 赤錆びた剣と強固な如意棒、どちらが勝つ? そう言われたら、武具としてある程度優れた如意棒、そう答える人物が多いだろう。しかし、スクレップはただの古びた剣ではない。
 ある武勇に優れた王が存在し、その王が振るっていた剣こそスクレップ。しかしその時には錆び付いてはおらず、真っ当な剣であった。
 時は流れ、その王には一人の子供が生まれた。その子はウッフェと言った。王は長い間の平穏を享受するために、王は自身の愛剣スクレップを地面に埋めた。
 その子が成長していくと同時に、王は年月に抗うことは出来ず、次第に老いていった。それを機に敵国が攻めてくる事態に発展。ウッフェは父や国のために、敵国からの決闘を受けることにしたのだ。
 しかし、決闘準備の際、屋敷にあったどの剣も、ウッフェの膂力や剣術に耐えられる剣はなく、思い悩んでいた。その時、王は自身がかつて埋めたスクレップの存在を思い出した。掘り出されたスクレップは酷く錆び付いてはいたが、ウッフェの剣術に耐えうる強靭さを持ち合わせていたのだ。
 結果、試し切りもせず臨んだ決闘は、まさかの圧勝である。一人だけでなく二人も相手にしておきながら、スクレップとウッフェの力は偉大であったのだ。
 その伝承をそのままに、そこに凶悪さを追加。それこそが、鍾馗の力であった。
 今まさに打ちあう透は、その力の異常性を思い知っていた。元々英雄科でもない中で、そこまでの出力を出せるのは、そういない。元から力を偽っていたか、あるいは本来の潜在能力が待田によって引き出されたのか。その真意は定かではない。
 しかしこれだけは言えた。全ての攻撃の破壊力が、常軌を逸していた。少し前にグラトニーと相対した透だからこそ分かる、彼女はグラトニー以上の強さを、この短時間で有していたのだ。
 何度も打ちあう中で、如意棒の長いリーチが少々不利であった。破壊力が他の片手剣よりも上な中で、弾かれた後に正位置に戻す、その工程がどうも煩わしく思えて仕方が無かった。
 伊達に戦闘訓練を経験していない透は、その状況判断も流石のものであった。
 一瞬にして如意棒を手のひらサイズにまで縮小。打ちあっていた鍾馗は一瞬バランスを崩す。
 その隙を見逃すことはなく、一瞬にして元の太さかつ十倍以上に伸長させ、腹部に強烈無比な一撃をお見舞いする。
 しかし、それで終わることはなく、如意棒を一瞬で消すと、今度はスクレップの及ばない至近距離戦に戦いの場を変更。
 風の力を活かした、高速インファイトを一瞬にして叩きこんだ。
 多くの有象無象を巻き込みながら、ビルを数棟倒壊させるも、それで終わることはなく。
 その場から、クラウチングスタートで駆けだすと、一息に暴風を伴いながら、跳躍。
 着地地点に向け、位置エネルギーを生かした拳を叩きこむ。
 咄嗟に鍾馗は回避するも、透は何手も先を読む。
 スクレップを振るおうとする鍾馗の右手首を左上段掌底にて弾き、武器を落とさせる。
 胴体ががら空きになった瞬間、右肘の辺りから暴風を渦巻かせ、急加速する渾身の右ストレート。クリーンヒットするその一撃は、辺りのビルや地面、それらを余波のみで破壊するほどの一撃であった。
 遥か遠くまで弾き飛ばされる鍾馗。それでも尚、透はファイティングポーズを取る。
「――どうしたよ、鍾馗センパイ。こんなんで……裏切ったわけじゃあねえんだろ? 少しくらい力、見せたらどうだよ」
 遥か遠く、瓦礫に呑まれつつも、その瓦礫を全て破砕しながら鍾馗は立ち上がった。薄気味悪く笑む鍾馗は、まさかのノーダメージ。血一つ見せない、そんな彼女に、これまでの中でもとりわけ尋常でない存在であることを知覚する。
「――どっから来てんだよ、その力と防御力」
『大したことはないよ、これが『教会』の力。それだけさ』
 首を何度か鳴らすと、指を鳴らす鍾馗。それと共に、辺りが突如として夜へと変わる。さらに弾かれたはずのスクレップが、鍾馗の手に戻った。
 時間としてはあまり変わらないようだが、不思議とこの状況を受け入れてしまう。
『ああ、別に特殊なことをしたわけじゃあないよ、辺りと空間を断絶しただけさ』
「……お前のベース能力は、何だ?」
 『簡単だよ』とだけ呟くと、鍾馗は己が手にブラックホールのような漆黒を瞬時に纏ったのだ。それはまごう事なき、希少性の高い力であることは理解できた。
『私の力は、『闇』。万物を飲み込む、黒さ。私は絵の具の中でも黒がとりわけ好きでね……全ての色を根底から腐らせ、上塗りしていく強さが好きなんだ』
 まるで緩慢な動作。透のものよりも圧倒的にスピードが劣るはずなのに。
 一瞬にして、透は鍾馗の傍にいたのだ。
『君の一撃、なかなか悪くなかったよ』
 その言葉と共に叩きこまれた拳は、透のものよりも圧倒的に力が劣っていた。圧倒的に速度が劣っていた。しかし。
 装甲が、骨が、肉が。悲鳴を上げていたのだ。
「――!?」
 吹き飛ばされることはない。芯に攻撃が届いたはずなのに、倒れる事すら許されない。
 そんな事情お構いなし、と言わんばかりに、天音透というサンドバッグ状態にあったのだ。
 その場から、一切動くことのできない透と、今までの恨みを晴らすように攻撃を叩きこんでいく鍾馗。
『私の力はね。対象……あるいはその概念に対しての恨みが強ければ強いほど、追加ダメージが発生するものなんだ。だから――最も英雄には不向きなベース能力なんだ、闇って』
 たとえ拳本体で与えるダメージが一だとしても、闇の力によって打ち込まれるダメージは百。
 透は、初めてこの能力を味わったものの、レアリティの高い力だからこその横暴を感じていたのだ。どんな無茶だろうと、大概どうにかしてしまうベース能力の中で、対人において殺す力が圧倒的に高いのは、闇であると。
 何とか足元の拘束を風の力で弾き飛ばし、距離を取る透。しかし、速度で完全に上回っているはずなのに、背中側にべったりと密着する鍾馗。
『私は、能力としては恵まれた。因子も程よく恵まれた。ただ……足りないものがあったんだ。それこそ、膂力。ウッフェほどの強靭さを、私は持ち合わせてなかった。そして――私はデバイスドライバーに嫌われた。まあ、正直分かってはいたよ。私は』
 当人の地力をある程度反映するデバイスドライバーとチーティングドライバー。その二つのうち、地力のハードルが低いのはチーティング。
 元々体が弱い彼女だったため、彼女はどれほど恵まれていようと一点の欠点によって変身が出来なかった。
 元から英雄が嫌いではあったが、その一件でさらに溝が深まったのだ。教師陣から勧められ、武器科に転身したものの、待っていたのは迫害。軽度の拒食症にも陥った結果、元から信者であった鍾馗は、真の意味で英雄学園を裏切ったのだ。
『だから――私思ったんだ。この世の英雄を、この力で全員殺せば。きっと……最後に満足できるハッピーエンドが待っているんだって』
 そう語る鍾馗の表情は、実に歪んでいた。まるで?を溶かしたように、歪に歪んでいたのだ。心底英雄を恨み、心底自分を恨み、心底嫉妬心の中で生きている証であった。
 透の装甲に刃を突き立てるも、寸前で風の鎧によって弾かれる。しかし、斬撃のダメージ自体は透に入っていく。
『だから。天音透? 死んで? ねえ死んで??』
「やな――――こった!!」
 風の鎧の風力を上げ、無理やり鍾馗を地面に叩き落す。その後追ってくることはなかったが、透の心には鍾馗の薄気味悪さや恐怖心が、しかと植え付けられたのだった。



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 最初に言うならば、鍾馗蓮|《ショウキ レン》……彼女は裏切り者の中でも、別格の強さを誇っていた。その理由こそ、彼女自身の師は待田自身。英雄学園内で育てることのできなかった残虐性が、飛躍的に成長したのだ。それに、何より怪人の力の適応度が他よりも圧倒的に優れていたのだ。
 鍾馗の怪人体……というより、装甲と一体化した怪人の力は、今まで敵対してきたどの相手よりも薄気味が悪かったのだ。
 英雄としての装甲は、頭部装甲以外全て。しかしその装甲の色は淀んだ紫。スクレップ自体が活躍した時代が不明のため、前時代の鎧や胴具足をモチーフとする他装甲とは異なった、近未来的な見た目をしていた。
 それぞれに、うっすらと錆びた加工がされており、手にしているのは因子元であるスクレップそのもの。赤錆びた片手剣であり、それ自体に既に歪んだ魔力がエンチャントされているため、それ自体が醸し出す覇気もかなりのものであった。
 赤錆びた剣と強固な如意棒、どちらが勝つ? そう言われたら、武具としてある程度優れた如意棒、そう答える人物が多いだろう。しかし、スクレップはただの古びた剣ではない。
 ある武勇に優れた王が存在し、その王が振るっていた剣こそスクレップ。しかしその時には錆び付いてはおらず、真っ当な剣であった。
 時は流れ、その王には一人の子供が生まれた。その子はウッフェと言った。王は長い間の平穏を享受するために、王は自身の愛剣スクレップを地面に埋めた。
 その子が成長していくと同時に、王は年月に抗うことは出来ず、次第に老いていった。それを機に敵国が攻めてくる事態に発展。ウッフェは父や国のために、敵国からの決闘を受けることにしたのだ。
 しかし、決闘準備の際、屋敷にあったどの剣も、ウッフェの膂力や剣術に耐えられる剣はなく、思い悩んでいた。その時、王は自身がかつて埋めたスクレップの存在を思い出した。掘り出されたスクレップは酷く錆び付いてはいたが、ウッフェの剣術に耐えうる強靭さを持ち合わせていたのだ。
 結果、試し切りもせず臨んだ決闘は、まさかの圧勝である。一人だけでなく二人も相手にしておきながら、スクレップとウッフェの力は偉大であったのだ。
 その伝承をそのままに、そこに凶悪さを追加。それこそが、鍾馗の力であった。
 今まさに打ちあう透は、その力の異常性を思い知っていた。元々英雄科でもない中で、そこまでの出力を出せるのは、そういない。元から力を偽っていたか、あるいは本来の潜在能力が待田によって引き出されたのか。その真意は定かではない。
 しかしこれだけは言えた。全ての攻撃の破壊力が、常軌を逸していた。少し前にグラトニーと相対した透だからこそ分かる、彼女はグラトニー以上の強さを、この短時間で有していたのだ。
 何度も打ちあう中で、如意棒の長いリーチが少々不利であった。破壊力が他の片手剣よりも上な中で、弾かれた後に正位置に戻す、その工程がどうも煩わしく思えて仕方が無かった。
 伊達に戦闘訓練を経験していない透は、その状況判断も流石のものであった。
 一瞬にして如意棒を手のひらサイズにまで縮小。打ちあっていた鍾馗は一瞬バランスを崩す。
 その隙を見逃すことはなく、一瞬にして元の太さかつ十倍以上に伸長させ、腹部に強烈無比な一撃をお見舞いする。
 しかし、それで終わることはなく、如意棒を一瞬で消すと、今度はスクレップの及ばない至近距離戦に戦いの場を変更。
 風の力を活かした、高速インファイトを一瞬にして叩きこんだ。
 多くの有象無象を巻き込みながら、ビルを数棟倒壊させるも、それで終わることはなく。
 その場から、クラウチングスタートで駆けだすと、一息に暴風を伴いながら、跳躍。
 着地地点に向け、位置エネルギーを生かした拳を叩きこむ。
 咄嗟に鍾馗は回避するも、透は何手も先を読む。
 スクレップを振るおうとする鍾馗の右手首を左上段掌底にて弾き、武器を落とさせる。
 胴体ががら空きになった瞬間、右肘の辺りから暴風を渦巻かせ、急加速する渾身の右ストレート。クリーンヒットするその一撃は、辺りのビルや地面、それらを余波のみで破壊するほどの一撃であった。
 遥か遠くまで弾き飛ばされる鍾馗。それでも尚、透はファイティングポーズを取る。
「――どうしたよ、鍾馗センパイ。こんなんで……裏切ったわけじゃあねえんだろ? 少しくらい力、見せたらどうだよ」
 遥か遠く、瓦礫に呑まれつつも、その瓦礫を全て破砕しながら鍾馗は立ち上がった。薄気味悪く笑む鍾馗は、まさかのノーダメージ。血一つ見せない、そんな彼女に、これまでの中でもとりわけ尋常でない存在であることを知覚する。
「――どっから来てんだよ、その力と防御力」
『大したことはないよ、これが『教会』の力。それだけさ』
 首を何度か鳴らすと、指を鳴らす鍾馗。それと共に、辺りが突如として夜へと変わる。さらに弾かれたはずのスクレップが、鍾馗の手に戻った。
 時間としてはあまり変わらないようだが、不思議とこの状況を受け入れてしまう。
『ああ、別に特殊なことをしたわけじゃあないよ、辺りと空間を断絶しただけさ』
「……お前のベース能力は、何だ?」
 『簡単だよ』とだけ呟くと、鍾馗は己が手にブラックホールのような漆黒を瞬時に纏ったのだ。それはまごう事なき、希少性の高い力であることは理解できた。
『私の力は、『闇』。万物を飲み込む、黒さ。私は絵の具の中でも黒がとりわけ好きでね……全ての色を根底から腐らせ、上塗りしていく強さが好きなんだ』
 まるで緩慢な動作。透のものよりも圧倒的にスピードが劣るはずなのに。
 一瞬にして、透は鍾馗の傍にいたのだ。
『君の一撃、なかなか悪くなかったよ』
 その言葉と共に叩きこまれた拳は、透のものよりも圧倒的に力が劣っていた。圧倒的に速度が劣っていた。しかし。
 装甲が、骨が、肉が。悲鳴を上げていたのだ。
「――!?」
 吹き飛ばされることはない。芯に攻撃が届いたはずなのに、倒れる事すら許されない。
 そんな事情お構いなし、と言わんばかりに、天音透というサンドバッグ状態にあったのだ。
 その場から、一切動くことのできない透と、今までの恨みを晴らすように攻撃を叩きこんでいく鍾馗。
『私の力はね。対象……あるいはその概念に対しての恨みが強ければ強いほど、追加ダメージが発生するものなんだ。だから――最も英雄には不向きなベース能力なんだ、闇って』
 たとえ拳本体で与えるダメージが一だとしても、闇の力によって打ち込まれるダメージは百。
 透は、初めてこの能力を味わったものの、レアリティの高い力だからこその横暴を感じていたのだ。どんな無茶だろうと、大概どうにかしてしまうベース能力の中で、対人において殺す力が圧倒的に高いのは、闇であると。
 何とか足元の拘束を風の力で弾き飛ばし、距離を取る透。しかし、速度で完全に上回っているはずなのに、背中側にべったりと密着する鍾馗。
『私は、能力としては恵まれた。因子も程よく恵まれた。ただ……足りないものがあったんだ。それこそ、膂力。ウッフェほどの強靭さを、私は持ち合わせてなかった。そして――私はデバイスドライバーに嫌われた。まあ、正直分かってはいたよ。私は』
 当人の地力をある程度反映するデバイスドライバーとチーティングドライバー。その二つのうち、地力のハードルが低いのはチーティング。
 元々体が弱い彼女だったため、彼女はどれほど恵まれていようと一点の欠点によって変身が出来なかった。
 元から英雄が嫌いではあったが、その一件でさらに溝が深まったのだ。教師陣から勧められ、武器科に転身したものの、待っていたのは迫害。軽度の拒食症にも陥った結果、元から信者であった鍾馗は、真の意味で英雄学園を裏切ったのだ。
『だから――私思ったんだ。この世の英雄を、この力で全員殺せば。きっと……最後に満足できるハッピーエンドが待っているんだって』
 そう語る鍾馗の表情は、実に歪んでいた。まるで?を溶かしたように、歪に歪んでいたのだ。心底英雄を恨み、心底自分を恨み、心底嫉妬心の中で生きている証であった。
 透の装甲に刃を突き立てるも、寸前で風の鎧によって弾かれる。しかし、斬撃のダメージ自体は透に入っていく。
『だから。天音透? 死んで? ねえ死んで??』
「やな――――こった!!」
 風の鎧の風力を上げ、無理やり鍾馗を地面に叩き落す。その後追ってくることはなかったが、透の心には鍾馗の薄気味悪さや恐怖心が、しかと植え付けられたのだった。