災厄の壺 7
ー/ー
「じゃあな」
ウートゴが刀を振り下ろそうとしたその瞬間、ムツヤの胸元のペンダントが紫色に光った。
それと同時に刀は謎の力に弾かれて遠くへ飛んでいく。
距離を取って何が起きたんだとウートゴはムツヤを見る。
そこには女が立っていた。露出の多いドレスと褐色の肌。

(イラスト:しだれ彩先生)
「はじめまして、邪神サズァンよ」
「はは、そりゃどうも」
「あら、意外と混乱しないのね」
「そりゃ、こんなデタラメな裏の道具ばかり見てたらな」
サズァンは険しい表情を崩さずにウートゴを睨みつけていた。
「本当はこういう事しちゃいけないんだけどね」
「だったら大人しくお引取り願えませんかね、邪神様っ!!」
そう言ってサズァンに手裏剣を投げるも、圧倒的な魔力で軌道を捻じ曲げられてしまう。
「ムツヤ、早く薬を飲んで。私は長く持たないから」
薄れゆく意識の中でムツヤはハッとし、カバンから回復薬を取り出して飲む。
「っく、神ともあろうお方が、随分人間1人を贔屓にしたもんだな」
ウートゴに出来るのは悪態を付くことぐらいだ。目の前でムツヤを葬る千載一遇の好機を逃してしまった。
「ムツヤだから贔屓したってわけじゃないわ。ムツヤはこの世界の…… 最後の希望なのよ」
「亜人を滅ぼすだけで世界がどうなると?」
「黙れ下衆。そんなお前達のくだらない計画の話をしているわけではない」
サズァンは普段見せない神の威厳を出してウートゴを罵る。
「サズァン様……」
そんな中、ムツヤは傷が治り立ち上がっていた。
「ムツヤ、平気?」
「サズァン様…… ありがとうございまず」
ムツヤが礼を言うと、サズァンは振り返ること無く言う。
「お願いムツヤ。アイツを倒して」
ハッとし剣を強く握ると同時に、サズァンはスゥーッと透明になり、消えていった。
「邪魔が入ったな、それじゃ続きと行こうか」
ウートゴはまた分身体を作って、全員でムツヤめがけて走ってきた。
ムツヤは目を閉じて、ゆっくりと開く。
剣を引き抜いて、1体を頭から両断した。それは分身体であったが、断面からは業火が吹き出て消滅する。
「へぇ、今のは殺す剣だったな」
余裕ぶって言ったが、ウートゴの心には「まずいな」といった焦りが生まれた。
今までの戦いとは比べ物にならない速さと威力でムツヤは剣を振るう。
裏の住人の本気はここまでのものかとウートゴは思った。
投げる手裏剣はすべて弾かれ、斬撃は刀ごと分身体が叩き斬られていく。
「こうなりゃ俺も最後の手を使うしかないな」
ウートゴはムツヤに聞こえないよう小声で自分自身に言い聞かせた。自身の腕と脚に気力と魔力をありったけ込めて強化する。
1歩踏み込んで飛び出す。2歩3歩と走る度にその速さは上がっていった。捨て身の特攻だ。
金属がぶつかり合う激しい音と衝撃が辺りに響き渡る。
それが収まると、ムツヤとウートゴは距離を置いて背中合わせで立つ形になっていた。
「ガアアァァァ」
ウートゴは脇腹から鮮血を吹き出した後、業火に包まれた。
「やってくれたなァ、ムツヤアアアアアアア!!!!」
ムツヤは恐ろしさから剣を持つ手が震えていた。人の肉を斬る嫌な感触が手と頭から離れない。
地面に倒れたウートゴはムツヤの元へ這いずってやって来る。
「ムツヤ…… はぁはぁはぁ…… いいか…… 人殺しは呪われるんだよ…… お前は一生呪われるんだ……」
彼なりに一矢報いようとしたのか、そこまで言った後全身が業火に包まれて絶命した。
剣を納めたムツヤは急に気分が悪くなった。耳鳴りがして景色が回っている。
思わずしゃがんでハァハァと息をする。
苦しい、何か急に病気にでも掛かったかのようだ。
人を殺す時、より近くで、より直接的に手を下すと大きなストレスになると言われている。
例えるならば、矢で射るよりも剣で斬る方が、殺すことに不慣れなものにとって精神的苦痛が大きくなるのだ。
ムツヤは人を殺めることに抵抗を持っていた。いや、多くの人間はそうなのだろうが……。
「ムツヤ殿っ!! ムツヤ殿!!」
ハァハァと肩で荒い息をしているムツヤの元に駆け寄る影が1人、モモだ。
「ムツヤ殿!! どうしたのですか!? 怪我をしたのですか!?」
しゃがみ込んで心配そうにムツヤを見つめてモモは声を掛けていた。他の仲間達は辺りを警戒している。
「終わりました…… ウートゴは倒しました…… 俺が、俺がっ……」
ムツヤを見かけて思わず一直線に走ってしまい気が付かなかった。足元に転がっている黒い人形の消し炭に。
次の瞬間、モモはムツヤを抱きしめていた。甲冑で硬い感触だったが、優しさと温かさが伝わる。
「あ、あああぁぁぁ……」
思わず涙が溢れてムツヤは声を絞って泣いた。仲間達はそれを見ていることしか出来なかった。
「ムツヤ、お前はよくやった。だが、私達にはまだやるべき事がある」
アシノの言う通りだ。自分達はキエーウの本拠地へ向かい災厄の壺を叩き壊さなければならない。
「俺はっ、俺は大丈夫です!! 行きましょう!!」
モモがムツヤを放すと立ち上がり言った。仲間達はそれを見て頷く。
「ウートゴの野郎は倒したんだ。後は壺を壊すだけだな。ムツヤ、先行してくれ」
「わがりまじだ!!」
ムツヤはキエーウの本拠地へ走り出す。その後ろを馬車に乗った皆で追った。
キエーウの襲撃は無い。先程の戦いで大方倒してしまったのだろう。
今は壺を壊すことだけを頭に置いて、それ以外を考えないようにムツヤは走る。
探知盤を取り出して確認をしても、辺りに裏の道具の反応はない。
一方馬車の上でアシノは遠い目をして考え事をしている様だった。
「アシノ何考えてるの?」
「いや、あんな奴でも一応昔は仲間だったんでな」
「そう……」
「どこで道を間違えたんだろうな」
複雑な気持ちだったが、戦いに集中するために目を瞑る。
しばらく走ると探知盤の北側に赤い点が数個浮かび上がった。その場所にキエーウの本拠地はあるのだろう。
裏の道具の反応がある場所へもう少しだけ近づくと、ムツヤの千里眼が使える範囲内になった。
ムツヤは能力を使い、遠くを見る。そこには少し小さめな一軒家が建っている。
キエーウの本拠地と言うのだからもっと邪悪で巨大な建物を想像していたが、これは意外だった。
早速、連絡石を使ってアシノと会話をする。
「アシノさん、見えました。小さな家があります」
「そうか…… 恐らく治安維持部隊へのカモフラージュだろう。気を付けろよムツヤ」
「わがりまじだ!」
ムツヤは魔剣を引き抜いて、それを片手に持ったまま走り出した。
向こうも気付いたのか、フードを被った人影が大勢こちらへ向かって来るのが見える。
数分走り、そろそろかち合うかといった時に遠くから矢が飛んできた。
ムツヤは軽々とかわして反撃を入れようとする。
しかし、その瞬間、魔法を撃とうとした手を止める。
「エルフ!?」
思わずそう口に出てしまった。ムツヤを射ろうとしたのはどう見てもエルフだった。
「うがああああ!!」
剣を構えて走ってくる者達もよく見るとオークにエルフに獣人といった亜人達だ。
「なっ、どうなってんだ!?」
ムツヤは混乱していた。攻撃を避けるのは容易いが、何故自分が襲われているのかがわからない。
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ウートゴが刀を振り下ろそうとしたその瞬間、ムツヤの胸元のペンダントが紫色に光った。
それと同時に刀は謎の力に弾かれて遠くへ飛んでいく。
距離を取って何が起きたんだとウートゴはムツヤを見る。
そこには女が立っていた。露出の多いドレスと褐色の肌。
(イラスト:しだれ彩先生)
「はじめまして、邪神サズァンよ」
「はは、そりゃどうも」
「あら、意外と混乱しないのね」
「そりゃ、こんなデタラメな裏の道具ばかり見てたらな」
サズァンは険しい表情を崩さずにウートゴを睨みつけていた。
「本当はこういう事しちゃいけないんだけどね」
「だったら大人しくお引取り願えませんかね、邪神様っ!!」
そう言ってサズァンに手裏剣を投げるも、圧倒的な魔力で軌道を捻じ曲げられてしまう。
「ムツヤ、早く薬を飲んで。私は長く持たないから」
薄れゆく意識の中でムツヤはハッとし、カバンから回復薬を取り出して飲む。
「っく、神ともあろうお方が、随分人間1人を贔屓にしたもんだな」
ウートゴに出来るのは悪態を付くことぐらいだ。目の前でムツヤを葬る千載一遇の好機を逃してしまった。
「ムツヤだから贔屓したってわけじゃないわ。ムツヤはこの世界の…… 最後の希望なのよ」
「亜人を滅ぼすだけで世界がどうなると?」
「黙れ下衆。そんなお前達のくだらない計画の話をしているわけではない」
サズァンは普段見せない神の威厳を出してウートゴを罵る。
「サズァン様……」
そんな中、ムツヤは傷が治り立ち上がっていた。
「ムツヤ、平気?」
「サズァン様…… ありがとうございまず」
ムツヤが礼を言うと、サズァンは振り返ること無く言う。
「お願いムツヤ。アイツを倒して」
ハッとし剣を強く握ると同時に、サズァンはスゥーッと透明になり、消えていった。
「邪魔が入ったな、それじゃ続きと行こうか」
ウートゴはまた分身体を作って、全員でムツヤめがけて走ってきた。
ムツヤは目を閉じて、ゆっくりと開く。
剣を引き抜いて、1体を頭から両断した。それは分身体であったが、断面からは業火が吹き出て消滅する。
「へぇ、今のは殺す剣だったな」
余裕ぶって言ったが、ウートゴの心には「まずいな」といった焦りが生まれた。
今までの戦いとは比べ物にならない速さと威力でムツヤは剣を振るう。
裏の住人の本気はここまでのものかとウートゴは思った。
投げる手裏剣はすべて弾かれ、斬撃は刀ごと分身体が叩き斬られていく。
「こうなりゃ俺も最後の手を使うしかないな」
ウートゴはムツヤに聞こえないよう小声で自分自身に言い聞かせた。自身の腕と脚に気力と魔力をありったけ込めて強化する。
1歩踏み込んで飛び出す。2歩3歩と走る度にその速さは上がっていった。捨て身の特攻だ。
金属がぶつかり合う激しい音と衝撃が辺りに響き渡る。
それが収まると、ムツヤとウートゴは距離を置いて背中合わせで立つ形になっていた。
「ガアアァァァ」
ウートゴは脇腹から鮮血を吹き出した後、業火に包まれた。
「やってくれたなァ、ムツヤアアアアアアア!!!!」
ムツヤは恐ろしさから剣を持つ手が震えていた。人の肉を斬る嫌な感触が手と頭から離れない。
地面に倒れたウートゴはムツヤの元へ這いずってやって来る。
「ムツヤ…… はぁはぁはぁ…… いいか…… 人殺しは呪われるんだよ…… お前は一生呪われるんだ……」
彼なりに一矢報いようとしたのか、そこまで言った後全身が業火に包まれて絶命した。
剣を納めたムツヤは急に気分が悪くなった。耳鳴りがして景色が回っている。
思わずしゃがんでハァハァと息をする。
苦しい、何か急に病気にでも掛かったかのようだ。
人を殺す時、より近くで、より直接的に手を下すと大きなストレスになると言われている。
例えるならば、矢で射るよりも剣で斬る方が、殺すことに不慣れなものにとって精神的苦痛が大きくなるのだ。
ムツヤは人を殺めることに抵抗を持っていた。いや、多くの人間はそうなのだろうが……。
「ムツヤ殿っ!! ムツヤ殿!!」
ハァハァと肩で荒い息をしているムツヤの元に駆け寄る影が1人、モモだ。
「ムツヤ殿!! どうしたのですか!? 怪我をしたのですか!?」
しゃがみ込んで心配そうにムツヤを見つめてモモは声を掛けていた。他の仲間達は辺りを警戒している。
「終わりました…… ウートゴは倒しました…… 俺が、俺がっ……」
ムツヤを見かけて思わず一直線に走ってしまい気が付かなかった。足元に転がっている黒い人形の消し炭に。
次の瞬間、モモはムツヤを抱きしめていた。甲冑で硬い感触だったが、優しさと温かさが伝わる。
「あ、あああぁぁぁ……」
思わず涙が溢れてムツヤは声を絞って泣いた。仲間達はそれを見ていることしか出来なかった。
「ムツヤ、お前はよくやった。だが、私達にはまだやるべき事がある」
アシノの言う通りだ。自分達はキエーウの本拠地へ向かい災厄の壺を叩き壊さなければならない。
「俺はっ、俺は大丈夫です!! 行きましょう!!」
モモがムツヤを放すと立ち上がり言った。仲間達はそれを見て頷く。
「ウートゴの野郎は倒したんだ。後は壺を壊すだけだな。ムツヤ、先行してくれ」
「わがりまじだ!!」
ムツヤはキエーウの本拠地へ走り出す。その後ろを馬車に乗った皆で追った。
キエーウの襲撃は無い。先程の戦いで大方倒してしまったのだろう。
今は壺を壊すことだけを頭に置いて、それ以外を考えないようにムツヤは走る。
探知盤を取り出して確認をしても、辺りに裏の道具の反応はない。
一方馬車の上でアシノは遠い目をして考え事をしている様だった。
「アシノ何考えてるの?」
「いや、あんな奴でも一応昔は仲間だったんでな」
「そう……」
「どこで道を間違えたんだろうな」
複雑な気持ちだったが、戦いに集中するために目を瞑る。
しばらく走ると探知盤の北側に赤い点が数個浮かび上がった。その場所にキエーウの本拠地はあるのだろう。
裏の道具の反応がある場所へもう少しだけ近づくと、ムツヤの千里眼が使える範囲内になった。
ムツヤは能力を使い、遠くを見る。そこには少し小さめな一軒家が建っている。
キエーウの本拠地と言うのだからもっと邪悪で巨大な建物を想像していたが、これは意外だった。
早速、連絡石を使ってアシノと会話をする。
「アシノさん、見えました。小さな家があります」
「そうか…… 恐らく治安維持部隊へのカモフラージュだろう。気を付けろよムツヤ」
「わがりまじだ!」
ムツヤは魔剣を引き抜いて、それを片手に持ったまま走り出した。
向こうも気付いたのか、フードを被った人影が大勢こちらへ向かって来るのが見える。
数分走り、そろそろかち合うかといった時に遠くから矢が飛んできた。
ムツヤは軽々とかわして反撃を入れようとする。
しかし、その瞬間、魔法を撃とうとした手を止める。
「エルフ!?」
思わずそう口に出てしまった。ムツヤを射ろうとしたのはどう見てもエルフだった。
「うがああああ!!」
剣を構えて走ってくる者達もよく見るとオークにエルフに獣人といった亜人達だ。
「なっ、どうなってんだ!?」
ムツヤは混乱していた。攻撃を避けるのは容易いが、何故自分が襲われているのかがわからない。