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第24話 ASURA

ー/ー



「愛は、道を照らす
  言葉は、呪いを持つ
   そして”彼”は、進まざるを得なくなった」


今から32年前、ある厳格なアシュラ一族の家庭で、新たな生が誕生した。

彼の名は、ヴィレイ・アシュラ。

彼の家系は、前を辿れば世界国家初代大統領にまで行きつく。
そして、世界国家初代大統領は200年前の『災厄』から世界を救った英雄の一人でもある。
つまり、彼はエリート家系の出身であるということだ。
ヴィレイにはそれぞれ兄と姉が一人ずついる。
彼は末っ子として生まれてきたのだ。
兄も姉も8歳のころにはトランスに到達できるほどの実力を有しており、文句なしのエリートであった。

ヴィレイは7歳になると、二人と同じように士官学校に入れられた。
誰もがヴィレイを期待の目で見つめた。

だが、彼らの期待は、大いに崩された。

身体能力テストは下から数えたほうが早く、学力も中の下ぐらいだった。
父からは、もはや虐待どころではないほどの散々な特訓を強いられた。

それでも、彼が頂点に立つことはなかった。

結局ヴィレイは10歳(アシュラ一族のトランス到達平均年齢は10歳)を過ぎてもトランスに覚醒することはなく、ついに、本格的に周りに遅れをとることになってしまった。
父には失敗作だと罵られ、母からは彼を産んだことに対して謝罪され、兄と姉にも無視される始末。

そしてその数か月後、母は自殺した。

それに対して、ヴィレイ以外の家族の者は淡々と葬儀を進めるだけ。
そこには何の感情もなかった。
彼らにとって、優秀な子を産めなくなった彼女は、用済みだったのだ。

そんな中だったが、ヴィレイは決して折れなかった。
徹夜で勉学に励み、朝または放課後には自主トレーニングを欠かさなかった。

そして訪れた定期卒業試験(世界国家士官学校の卒業試験は定期的に全学年で行われ、合格認定をもらえれば、その時点で卒業できる)。

結果は合格。努力の甲斐あってか、13歳(兄と姉は10歳)という若さでヴィレイは士官学校を卒業した。
もっとも、身体能力レベルは一般人より少しだけ上という評価ではあったが。
それでも彼は、充分エリートである。
1か月後、ヴィレイは陸軍への入隊が宣告された。
職を見つけたヴィレイは、即座に家を出た。
そんなヴィレイを止める者は、誰一人としていなかった。
入隊式の後、上官がヴィレイを呼び出した。

「話とは、何です?」

「君には、『班』をもってもらいたい」

「!?しかしッ...!」

「ハハハ...安心したまえ。班と言っても、君のように新人がそろった数人で構成される小規模なものだよ。それに、君の属する班を任せられているのは君一人ではない」

「?」

「入りたまえ」

すると、一人の軍人が入ってきた。女性だ。
黒髪に赤目...つまり...

「アシュラ一族...」

「何だ、初対面だったのか。同期のはずだろう?」

「アナタ、出身は?」

「え?エレノイア―」

「そうじゃなくて、士官学校の所在地」

「え?あ、ああ、ブリュッセルだけど...そっちは?」

「パリよ。名は、ミライ・アシュラ」

「なるほど。出身校が違ったのか」

上官は手をパンと叩いてそう言った。

「さて...本題に入るが、2人には班を持ってもらう。二人一組で、だ。ヴィレイ、君は身体能力こそ並みのアシュラ一族に劣るが、それ以外は至って優秀だ。ミライ、君は身体能力こそトップクラスだが、兵器使用が他人よりも少し劣る。そこで...」

「2人で補い合っていく、ですね」

「その通りだ、ヴィレイ。それでは2人とも、健闘を祈る」

「「ハッ!!」」

こうして解散となった2人。

「ねえ」

「えッ!?なッ...なに...?」

「ブリュッセルのチョコレートって本当に美味しいの?」

「う、うん...まあ」

「へえ...いつか食べてみたいな...」

「パリだって、美しい町だって話じゃないか」

「パリが?まさか!いっつもスリやひったくりが横行するうえ、ゴミが散乱しているパリが美しいわけないじゃない!」

「えッ...?そうなの...?知らなかった...。普通にショックだ...」

「ま、大体の人がそう言うわね。『パリ症候群』だなんて言われてるぐらいだし」

「そんなぁ...」

「...フフッ」

「?何がおかしいんだよ」

「そのあからさまな『ズーン』って感じがおもしろかったから」

「あはは...」

「...それじゃ、これからよろしく!ヴィレイ!」

「こちらこそ、ミライさん」

2人は握手を交わした。

運命が動いた瞬間であった。

次の日...

「彼らが君たちの班に所属することになった者たちだ」

そこにいたのは、4人の同じく新人である軍たちだった。3人男、1人女だ。

「それでは、各員、自己紹介を済ませてから解散するように」

そう言うと、上官はその場から立ち去った。

「おっ!ヴィレイじゃんか!」

そう言ったのは、4人のうちの一人。ヴィレイの同期だ。
他2人もヴィレイの同期であり、互いに再会を喜んだ。

「あら、アンタもウチの班だったのね」

「ええ、そうよ」

「知り合いだったのかい?2人とも」

ヴィレイが二人に話しかける。

「そう。下級生時代からの付き合い」

「そうなんだ」

その後、互いに自己紹介を終えると、ミライとヴィレイは4人に解散を告げた。

「さてと...。それにしてもたった4人だったなんて...。確かに、小規模な班だな。ま、ちょっと安心したけど」

「どうもこれから新たな作戦形態になるそうよ。比較的優秀な者には若いうちから指揮能力をつけさせるために、小規模な班を持たせるんだとか」

「へえ...。詳しいんだね。ミライさんはすごいや!」

「ミライ」

「へ?」

「ミライって呼んで。何か距離感あってイヤ」

「う、うん...分かったよ...ミライ」

ミライは少し微笑んだ。

「それじゃ、また」

「ええ」

こうして2人は互いの帰る場所へと帰っていった。




数日後、軍令部から召集命令がついに下った。

「では、今回の作戦内容を説明する」

ヴィレイ・ミライ班、その他の班はその内容を慎重に聞いた。

相手は『インドシナ解放戦線』。
東南アジア地域の独立を目論む組織である。
作戦内容はいたって単純。
相手勢力を包囲して叩き潰す、である。

「攻撃開始」

その掛け声とともに、一斉に軍は動き出した。

「さあ、行こう」

ヴィレイとその仲間たちは岩陰から攻撃を仕掛け、進撃する。

そんなときだった。

「...もう限界」

「え?き、急にどうしたんだ?ミライ」

「こんなチマチマした戦い、私には合わないわ!!ここは私に任せて!」

「え、ちょッ!?」

ミライは立ち上がった。彼女の姿があらわになる。

「バカめ!丸見えだ!!」

案の定、敵が銃撃してきた。
すると次の瞬間、

「ハアッ!!」

その掛け声とともに、衝撃波が広がった。
腕でガードしながら、ヴィレイはミライを見上げる。
ミライからは、桜色のオーラが出ている。
瞳も紅色から桜色に変化している。

「...トランス」

ミライは銃撃にビクともせず、単身、敵に向かって突撃した。

「なんだ!?アイツ化け物か!?」

「アシュラ一族か...!クソッ...!『神殺し』め...!」

数十秒後、敵の目の前にミライが現れた。

「あ...あ、あ...ぎゃあああああああ」

そんな悲鳴とともに、敵はミライによって蹂躙されていった。




作戦は成功。世界国家の圧勝に終わった。
その後、皆、エレノイアの家へと帰っていった。
ヴィレイは独り、モヤモヤしながら眠りにつくのだった。




それからというもの、数々の作戦に参加したヴィレイたちだったが、ほとんどがミライの独走状態の中での活躍だった。
そんな中、また次の作戦が始まろうとしていた。

「次はアフリカか...」

「あー...アヂィー」

仲間たちが音を上げている中、ヴィレイとミライは敵の基地を発見した。

「あれが基地ね」

「ああ、それにしても周辺には何の武装もないな」

目の前に広がるのは、広大な平原。

「平原...、平原...?ッ!!まさかッ...!」

ヴィレイが勢いよく顔を上げると、ミライが平原を渡ろうとしていた。

「待て!!ミライ!!」

「?どうしたの、ヴィレイ」

「別のルートから行こう。向こうの山岳地帯から回り込むぞ」

「別にいいじゃない。待ち伏せなんて、当たって砕けろよ」

「違う!!ここから先は地雷原だ!!死にたいのか!?」

「!!」

「...分かっただろ。行こう」

「...分かったわ」

ヴィレイの予想通り、平原には大量の地雷が仕掛けられていたことが分かった。
ヴィレイ・ミライ班が先陣を切って回り込みを行ったため、被害を最小限に抑えられた。




エレノイアにて、ミライがヴィレイに対して口を開いた。

「今思ったんだけど...、トランス使えば地雷なんて大したことなかったわね」

「...そういうことじゃないだろ」

「?何か言った?」

「何で分からないんだ…?君が渡れても、俺たちには渡れない。班はバラけちゃいけないんだ。それに俺たちが別のルートを渡らなかったら、他の軍の被害も広がる。...どうして、どうしてそんなことも分からないんだ!?」

「.........」

「それだけじゃない!!君だってそうだ!!トランスがあるからと余裕こいて...油断した時に大ケガを負ったりしたらどうするんだ!?今回の件だって、俺が何も言わなきゃ、何の対策もなしに地雷原を歩くところだったじゃないか!!何でもっと自分を大切にしないんだ!?」

「!!」

「全く...」

「...ごめんなさい。これからは気を付けるわ。教えてくれてありがとう」

「!?...らしくないな。いつもの君なら、『そんなのつまらない』って言うところだぞ」

「言ってほしかった?」

「いや、それはない」

「あっそ。...私、初めてだった」

「何が?」

「誰かに心配されるのが」

「…?」

「私はアシュラ一族として生まれた。だから、肉体の強度は人外レベル。そのせいで...どれだけ痛みを味わっても、全部『アシュラ一族なのだから大したことないだろう』で片付けられて...。どうにかして心配してほしくて、一度、骨を折ったこともあった...。でも結果は同じ。残ったのは、折れた痛みと、”ここ”の痛みだけ」

そう言うと、ミライは自身の胸に手を当てた。

「じゃあ...今まで無茶していたのは、心配されるためか?」

「いいえ...。でも...”そう”かもしれないわね...」

そう言うと、ミライはしみじみとした顔で夕暮れを見つめた。




数日後、今度は北部地方の反乱鎮圧。

「いつの世も戦い、か...」

「それをどうにかするのが”私たち”、でしょ?」

「...そうだな」

ヴィレイは実を言うと、この”世界”に嫌気がさしていた。

より良い世界ならば反乱が起こるはずがない。

そう考えたからだ。

「そんなに不満なら大統領にでもなっちゃえばいいのよ」

「バカ言うなよ...」

一行は敵の潜伏するという場所の近くまで来た。
一行は歩き続ける。

「やけに静かだな」

「...なるほどね」

「?」

「ごめんなさい。一旦目立つかもだけど...。ハアッ!!」

ミライがトランスを発動する。

「相変わらず凄い衝撃波だ...!少しでも油断すれば吹き飛ばされる...!」

そのときだった。

衝撃波に耐えかねた敵の一人が吹き飛ばされた。

「ええいッ!もうどうにでもなれぇ!!突撃ィ!!」

次の瞬間、白い衣で身を包んでいた者たちが立ち上がると、多国籍軍に対して総攻撃を仕掛けてきた。
反乱軍は、圧倒的な軍事力を誇る多国籍軍に成す術もなく、なぎ倒されていった。

「ふゥーッ。終わったわね...」

ミライがトランスを解除した。

そのときだった。

「ミライ!!伏せろ!!」

ヴィレイがそう叫んだ。
ミライは伏せる。
ヴィレイは小銃から一発ぶっ放す。
すると、岩陰から襲撃を加えようとしていた敵の一人がミライの背後で倒れた。

「ありがとう、ヴィレイ。助かったわ」

「恩には着ないさ」

軍は撤退を開始した。
そんな中、ヴィレイは先ほど射殺した敵の姿を見ていた。
その正体は...

「子ども...」

ヴィレイは立ち尽くした。

「...レイ、ヴィレイ!!」

気が付くと、ミライがヴィレイの横にいた。

「はやく行きましょう」

「...ああ」

こうして一行は、エレノイアに帰還した。




「ミライ、君はこの”世界”が好きか?」

「何?突然」

「............」

「...ええ、大好きよ。だって今の”世界”のおかげで私たちは護られてるんだから」

「護られてる...?」

「だって、『災厄』が起こったのは、各国のにらみ合いが原因でしょう?200年前は200ほどの国が存在していたと言われているわ。そして、どの国も『生き残り』のために必死だった。そんなことになるなら、初めから沢山の国なんか無ければいいのよ。だから今、この世界国家による世界統治が始まってから200年、『災厄』も起こってないわ。そうでしょう?」

「人は...幸せなのかな」

「さあ、分からない。でも...少なくとも私は幸せ。だから私はこの”世界”を愛してる。この”世界”のおかげで、私はあなたという人に出会えたし」

「!!」

「まあ、どう考えるかはあなたの自由よ」

「.........」




ヴィレイは、いつものように独り、床につく。

「俺は...どうしたいんだ...」

電灯に映る自分の顔に、ヴィレイはそう問いかけた。




2週間後、今度はブリテン島(旧イギリス領土)の反乱勢力による大規模テロの鎮圧だ。
今回は都市が戦場。所謂市街戦だ。
歩兵として送られた一行は、苦戦を強いられた。
なにせ、敵はここらの土地勘が優れている。なぜなら、反乱勢力のメンバーのほとんどがここで生まれ育った者だからだ。
敵はマンションやアパート、ビルなどに立てこもりながら反撃を仕掛けてくる。

「クソッ...厄介なヤツらだ...!皆、油断するな!もうすぐ応援が来るはずだ!」

すると、数分後、ヘリ部隊が向かってきた。

「来た...!」

こうして敵は蹂躙される...はずだった。

敵は、ロケットランチャーを取り出すと、ヘリに向かってミサイルを放った。

「ハハッ、そんなの、素人に当てられるわけが―」

ヴィレイ・ミライ班の一人が相手を嘲笑おうとした次の瞬間、ミサイルは勝手に軌道を変えると、ヘリに命中した。

「!?バカな!?」

「まさか、あれは...ジャベリン...!?」

ジャベリンとは、1996年に旧アメリカ合衆国で開発された歩兵携行式多目的ミサイル。レーダーによる自立誘導により、目標に高確率で命中させることが可能な兵器。
所謂、ア連の兵器だ。

「お、おい...そんな、ガッ!?」

「!?」

ヴィレイが振り向く。

そこにいたのは、額に穴をあけられた班の仲間の姿だった。

「あ...」

即死。もう意識は、ない。
一行は立ち尽くした。

「おい!!何をしている!!早く撤退しろ!!もうすぐ空爆が始まる!!」

一行は他の軍たちに引っ張られながら戦線を離脱した。
ヴィレイは、離れていく同期の死体に向かって手を伸ばしながら、撤退していった。




あれから2週間が経った。
結局、ブリテン島はジャベリンの力をもってしても、数の暴力には敵わなかった。
この出来事をきっかけに、世界各地の反乱分子は沈静化した。

ヴィレイは帰還後、政府にア連の反乱勢力への関与の可能性を訴えた。
しかし、何度訴えても政府は沈黙を貫いた。

それからヴィレイは、自宅に引きこもってしまった。

訓練場にて、

「今日もいないの?」

「...ああ。どうもかなり参ってしまってるみたいだ...」

「.........私、行ってくる」

「え!?本気かよミライ!?」

「このまま彼がダメになっていくなんて...私は見ていられない!ヴィレイは人一倍責任感が強くて、仲間思いで...!でもちょっとおっちょこちょいで...天然なところもあるけど...でも...でも!!私は―」

「分かったわ。行ってきな」

「えっ...でも...」

「ニブい男子勢は黙ってなさい。ここはミライに行かせるべきよ。ミライ...お願いね」

「...うん、ありがとう」

ミライは堂々とした足取りで、ヴィレイの住むアパートへと向かっていった。




ヴィレイは独り、絶望していた。何もかもに絶望していた。

『世の中には知らないほうが良いこともある』
『若者にものを言う資格はない』
『アシュラ一族だからと言って良い気になるな』

「もう、いい...。どうでもいい...。いっそ...アイツのところに...」

「ヴィレイ!!」

「!?...ミライか。何しに来た」

「あなたを、救いに来た」

「!!」

「ヴィレイ、こっちを向いて」

「............」

「...私も、少し考えが変わった。この”世界”は間違ってる」

「!?」

「都合の悪いことは全部覆い隠して、逃げてばかり。こんなの...私の知ってる”世界”じゃない...。今『災厄』が起こったら...きっと逃げるでしょうね...あの連中は。200年前は、皆、正面から立ち向かったのに...」

「...俺に何ができる」

「”世界”を変えられる」

「冗談言うなよ。俺は無力だ。アシュラ一族なのにトランスも使えないんだぞ」

「…......」

「もう放っておいてくれ...。もう...疲れた...」

「嘘つき」

「は?」

「じゃあ...どうして?どうしてドアの鍵を開けっ放しにしていたの?」

「!!」

「本当は...救われたかったんじゃないの...?」

「...ミライ」

「!!」

ついにヴィレイは振り向いた。
彼の目は、腫れあがっていた。

「ヴィレイ...」

「俺には無理だよ...」

「できるよ」

「なんで―」

「あなたには人を動かす力を持ってる。私も、他の皆も、ほとんどヴィレイの指示の下で動いているし、それに...」

「......」

「あなたは独りじゃない。だって...私がいるもの」

「!!」

「だからもう独りで抱え込まないで。私に、その気持ちぶつけて。全部、私が受け止めてあげるから」

「...あれ?なんだコレ?」

「.........」

ヴィレイの目からは、涙が伝っていた。
何度払っても、ヴィレイの意思に反してそれは溢れ続ける。

「ハハッ...おかしいな...。こんなの...もう―」

そんなヴィレイを、ミライはそっと抱きしめた。

「大丈夫...大丈夫だから...」

ミライはそう言いながらヴィレイの背中を優しくさすった。
もう、ヴィレイは、耐えきれなくなった。
ヴィレイは泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。




「ミライ...ありがとう。もう大丈夫だから」

「あら、そう?私はもっと抱きしめていたかったけど」

「何を言い出すんだ...」

ヴィレイは苦笑いをした。
ミライはそれを見て少しムッとした。

「ヴィレイ...私、もっと知りたい。あなたのこと」

「どうして?」

すると、ミライはそっとヴィレイに口づけをした。

「...これじゃ、ダメ?」

「...............分かっタ...」

「ヴィレイったら......顔真っ赤」

「ミライだって...」

「うっ...」

こうして2人は結ばれた。
ヴィレイは、今までの自分のことを包み隠さずミライに話した。
ミライはその話を真剣に聞いてくれた。
ヴィレイにとっては、それが何よりも嬉しかった。




「...自分のことを誰かに教えられるって、こんなにうれしいんだ...」

「そうよ。とっても...」

「ありがとう、ミライ。俺、もう少しだけ頑張ってみるよ」

「うん、また何かあったら私を頼って。独りで抱え込むのは禁止!いい?」

「うん。わかったよ」

「その代わり、私の話もうんと聞いてもらうんだから」

「もちろん。いつでも聞くよ」

「フフッ...ありがと!」

ヴィレイにとって、初めて『生きてても良い理由』ができた瞬間だった。
こうしてヴィレイは、”世界”を変えるため、精進することを固く決意するのだった。

ミライの大好きな”世界”のために。

まず、”世界”を変えるためには、それなりの名声を持つことが必要だ。
そのため、ヴィレイは軍として大いに活躍した。
ミライは、そんなヴィレイを全面的にバックアップした。
こうして、ヴィレイとミライの2人の二人三脚の人生が始まった。

一年後...

ヴィレイが朝食を食べ終え、後片付けを行おうとしていたそのとき、突然ドアをノックする音が聞こえた。
この荒いノックの仕方はミライだと、ヴィレイはすぐに分かった。

「どうした?こんな朝早くに」

「私、今日からここに住むから」

「は?」

よく見ると、ミライの隣にはたくさんの荷物があった。

「マジか...」

「...ダメ?」

「いや、それはない」

こうして2人の同棲生活が始まった。

元々一人暮らしをするつもりで借りていた部屋だったので、とても部屋が狭く感じた。
しかし、ヴィレイにとって、それはこの上ない幸せだった。

さらに一年後...

このころには2人も順調に出世をしてきていたので、小さな部隊を持つようになっていた。
2人が部隊を率いながら敵軍を蹴散らす様は、まさにヒーローそのものであった。
こうしてヴィレイは、名声を手に入れた。

そして...

それからさらに一年が経過した。
ヴィレイもミライもこのころには16になっていた。
そんな2人にいつものように任務が与えられた。
内容は、最近勢力を広げ、ついに反乱を起こしたIS(I State)の鎮圧だった。

「さあ、行こう」

「ええ」

こうして2人とその部隊は、中東へと向かった。
中東へ降り立つと、そこはすでに戦場となっていた。

「突撃ーッ!!」

ヴィレイがそう叫ぶと、部隊は一斉攻撃を始めた。
結果は世界国家の勝利。捕虜も1人確保できた。

ここで2つ問題が生じる。

まず1つ目は、本隊の存在である。
明らかに本隊にしては、今回の敵勢力の規模が小さすぎるからだ。

そして2つ目。それは拠点の場所である。
戦いに勝ったところで、拠点を潰さなければ何も始まらない。

これら2つをヴィレイは捕虜から尋問することにした。
集落の者たちに案内されたヴィレイは、岩山にある洞穴の中で尋問することとなった。
付き添いでミライもそこにいた。

「さあ、お前の知ってること、全て話してもらおうか」

「...い」

「何?」

「...お前らに話すことなど、何も無い...!」

「なんだと?」

すると、突然捕虜の者が暴れだした。
集落の者たちは、何やらにやついている。

「!?」

ヴィレイとミライは捕虜の者を取り押さえようと、相手のもとに走り出す。
ミライのほうがはやく相手の元まで到達しようとしていた。

「アッラーに...栄光あれ」

そう告げると、捕虜の者は上着を脱ぎ捨てた。
彼の上半身には、大量の手榴弾が巻きつけられていた。
捕虜の者が1本の紐を引っ張ると、紐につなげられていた全ての手榴弾のピンが外れた。

次の瞬間、洞穴の中は爆炎に包まれた。

ほんの、ほんの一瞬の出来事だった。

爆発の衝撃で岩山が崩れ、2人はガレキの下敷きになった。

「う、うう...アイツら...グルだったのか...」

「ヴィレイ...ケガは...ない...?」

「!!ミラ......イ...?」

ミライから、片腕が消えていた。
その他の身体の一部も”欠けている”。

「ど...どこに...」

「ヴィレイ...もう...いいわ」

「何言ってんだよ!!こんなこと...こんなこと、あってたまるか!!!!」

どうして、どうしてこうなった。

あのとき、ミライは自分よりもはやく相手に到達しようとしていた。
そのことで、ミライはヴィレイの前にいるという状態になっていた。
彼女は、偶然にもヴィレイの盾となったのだ。

あのとき、自分のほうがはやく相手に到達していれば...。

集落の罠にもっとはやく気づいていれば...。

捕虜など作らなければ...。


もっと自分に力があれば...。


後悔ばかりが、ヴィレイの頭の中を駆け巡った。

「ヴィレイ...」

「ミライ...俺...どうしよう、これ...なあ...ミライ...」

「落ち着いて、ヴィレイ」

「............」

「もう...時間がない」

「............」

「私ね、こんな時にやっとわかったの」

「......何が?」

「”運命”だったんだよ。私たちが出会ったのは」

「.........」

「ヴィレイ...」

「...なに?」

「最後に...お願い......聞いてくれる?」

「!!............うん」

「あなたに...私の”全て”をあげる。だから...私の大好きな”世界”を護って...」

そう告げると、ミライはそっとヴィレイの背中に腕をまわし、掌を乗せると、直後、一気に力が抜け、ついに、息絶えた。




「ハハ、まんまと騙されやがったな。アホどもが」

「おう、これでアシュラはいない!あとはコッチのもんだぜ!!」

次の瞬間、ガレキの山から飛び出した桜色の光の柱が、天を貫いた。

「!?」

「なんだ!?何が起こった!?」

何者かが、ガレキの山の頂上で立っている。

ヴィレイ・アシュラ。トランスに目覚めし者だ。

彼は、その圧倒的な力をもって、敵を一掃した。

「......帰ろう、ミライ」

ヴィレイはミライの遺体を抱えて、歩き出した。

彼の桜色の瞳を持つ目からは、涙が伝っていた。

その後、葬儀を終え、自分の部屋に帰ったとき、ヴィレイは"気づいた"。
そして、彼はポツリと、呟いた。

「部屋……広くなっちまったなぁ……」




それからも、いっときは軍として活躍していたヴィレイだったが、セイレーンの教官を経て、ついに軍を辞め、政界へと足を踏み入れた。
そして...今に至る。




「今日からお前たちの教官を担当することになった、ヴィレイだ。よろしくな!」

「あ、あのぉ...」

「?どうした?ティエラ...だったか」

「『きょーかん』ってなんですか?」

「うん、何事にも疑問を持つ姿勢、素晴らしいぞ、ティエラ。これからもその姿勢を貫くといい。えーっと、『教官』ってのはな...ま、『先生』みたいなもんだ」

「『せんせい』かあ...。えへへっ...よろしくね!ヴィレイさん!」

「ああ、よろしく!」




なあ、ティエラ......俺は、ちゃんとお前の『せんせい』でいられたかな...。

ミライ...俺も、もうすぐそっちに行くよ...。

ヴィレイは静かに目を閉じようとした。




が、ヴィレイはなんと、そこから意識を持ち直した。
彼の意志とは関係なしに、だ。

!!......そうか......そうだよな......そう簡単に諦めちゃダメだよな...

そうだろ...?ミライ。

そうだ...まだだ...!まだ!

「死ねないッ!!」

次の瞬間、桜色の光の柱が飛び出し、がれきの山から天を貫いた。

「!?」

「...一体、何が...!?」

ティエラとN・ヤスヒロは突然の事態にひどく動揺した。

ガレキの山は、衝撃波により、一瞬で吹き飛んだ。
そこにいるのは、全身が桜色の光に覆われた者。
彼は、巫(シャーマン)でも、大統領でもない。

そこにあるのは、”世界”のためにたった独りで立ち向かう”救世主”の姿であった。

彼はドンと拳を胸に当て、堂々と叫んだ。

「”世界”は......俺が護る!!!!」


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それでも、彼が頂点に立つことはなかった。
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結果は合格。努力の甲斐あってか、13歳(兄と姉は10歳)という若さでヴィレイは士官学校を卒業した。
もっとも、身体能力レベルは一般人より少しだけ上という評価ではあったが。
それでも彼は、充分エリートである。
1か月後、ヴィレイは陸軍への入隊が宣告された。
職を見つけたヴィレイは、即座に家を出た。
そんなヴィレイを止める者は、誰一人としていなかった。
入隊式の後、上官がヴィレイを呼び出した。
「話とは、何です?」
「君には、『班』をもってもらいたい」
「!?しかしッ...!」
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「?」
「入りたまえ」
すると、一人の軍人が入ってきた。女性だ。
黒髪に赤目...つまり...
「アシュラ一族...」
「何だ、初対面だったのか。同期のはずだろう?」
「アナタ、出身は?」
「え?エレノイア―」
「そうじゃなくて、士官学校の所在地」
「え?あ、ああ、ブリュッセルだけど...そっちは?」
「パリよ。名は、ミライ・アシュラ」
「なるほど。出身校が違ったのか」
上官は手をパンと叩いてそう言った。
「さて...本題に入るが、2人には班を持ってもらう。二人一組で、だ。ヴィレイ、君は身体能力こそ並みのアシュラ一族に劣るが、それ以外は至って優秀だ。ミライ、君は身体能力こそトップクラスだが、兵器使用が他人よりも少し劣る。そこで...」
「2人で補い合っていく、ですね」
「その通りだ、ヴィレイ。それでは2人とも、健闘を祈る」
「「ハッ!!」」
こうして解散となった2人。
「ねえ」
「えッ!?なッ...なに...?」
「ブリュッセルのチョコレートって本当に美味しいの?」
「う、うん...まあ」
「へえ...いつか食べてみたいな...」
「パリだって、美しい町だって話じゃないか」
「パリが?まさか!いっつもスリやひったくりが横行するうえ、ゴミが散乱しているパリが美しいわけないじゃない!」
「えッ...?そうなの...?知らなかった...。普通にショックだ...」
「ま、大体の人がそう言うわね。『パリ症候群』だなんて言われてるぐらいだし」
「そんなぁ...」
「...フフッ」
「?何がおかしいんだよ」
「そのあからさまな『ズーン』って感じがおもしろかったから」
「あはは...」
「...それじゃ、これからよろしく!ヴィレイ!」
「こちらこそ、ミライさん」
2人は握手を交わした。
運命が動いた瞬間であった。
次の日...
「彼らが君たちの班に所属することになった者たちだ」
そこにいたのは、4人の同じく新人である軍たちだった。3人男、1人女だ。
「それでは、各員、自己紹介を済ませてから解散するように」
そう言うと、上官はその場から立ち去った。
「おっ!ヴィレイじゃんか!」
そう言ったのは、4人のうちの一人。ヴィレイの同期だ。
他2人もヴィレイの同期であり、互いに再会を喜んだ。
「あら、アンタもウチの班だったのね」
「ええ、そうよ」
「知り合いだったのかい?2人とも」
ヴィレイが二人に話しかける。
「そう。下級生時代からの付き合い」
「そうなんだ」
その後、互いに自己紹介を終えると、ミライとヴィレイは4人に解散を告げた。
「さてと...。それにしてもたった4人だったなんて...。確かに、小規模な班だな。ま、ちょっと安心したけど」
「どうもこれから新たな作戦形態になるそうよ。比較的優秀な者には若いうちから指揮能力をつけさせるために、小規模な班を持たせるんだとか」
「へえ...。詳しいんだね。ミライさんはすごいや!」
「ミライ」
「へ?」
「ミライって呼んで。何か距離感あってイヤ」
「う、うん...分かったよ...ミライ」
ミライは少し微笑んだ。
「それじゃ、また」
「ええ」
こうして2人は互いの帰る場所へと帰っていった。
数日後、軍令部から召集命令がついに下った。
「では、今回の作戦内容を説明する」
ヴィレイ・ミライ班、その他の班はその内容を慎重に聞いた。
相手は『インドシナ解放戦線』。
東南アジア地域の独立を目論む組織である。
作戦内容はいたって単純。
相手勢力を包囲して叩き潰す、である。
「攻撃開始」
その掛け声とともに、一斉に軍は動き出した。
「さあ、行こう」
ヴィレイとその仲間たちは岩陰から攻撃を仕掛け、進撃する。
そんなときだった。
「...もう限界」
「え?き、急にどうしたんだ?ミライ」
「こんなチマチマした戦い、私には合わないわ!!ここは私に任せて!」
「え、ちょッ!?」
ミライは立ち上がった。彼女の姿があらわになる。
「バカめ!丸見えだ!!」
案の定、敵が銃撃してきた。
すると次の瞬間、
「ハアッ!!」
その掛け声とともに、衝撃波が広がった。
腕でガードしながら、ヴィレイはミライを見上げる。
ミライからは、桜色のオーラが出ている。
瞳も紅色から桜色に変化している。
「...トランス」
ミライは銃撃にビクともせず、単身、敵に向かって突撃した。
「なんだ!?アイツ化け物か!?」
「アシュラ一族か...!クソッ...!『神殺し』め...!」
数十秒後、敵の目の前にミライが現れた。
「あ...あ、あ...ぎゃあああああああ」
そんな悲鳴とともに、敵はミライによって蹂躙されていった。
作戦は成功。世界国家の圧勝に終わった。
その後、皆、エレノイアの家へと帰っていった。
ヴィレイは独り、モヤモヤしながら眠りにつくのだった。
それからというもの、数々の作戦に参加したヴィレイたちだったが、ほとんどがミライの独走状態の中での活躍だった。
そんな中、また次の作戦が始まろうとしていた。
「次はアフリカか...」
「あー...アヂィー」
仲間たちが音を上げている中、ヴィレイとミライは敵の基地を発見した。
「あれが基地ね」
「ああ、それにしても周辺には何の武装もないな」
目の前に広がるのは、広大な平原。
「平原...、平原...?ッ!!まさかッ...!」
ヴィレイが勢いよく顔を上げると、ミライが平原を渡ろうとしていた。
「待て!!ミライ!!」
「?どうしたの、ヴィレイ」
「別のルートから行こう。向こうの山岳地帯から回り込むぞ」
「別にいいじゃない。待ち伏せなんて、当たって砕けろよ」
「違う!!ここから先は地雷原だ!!死にたいのか!?」
「!!」
「...分かっただろ。行こう」
「...分かったわ」
ヴィレイの予想通り、平原には大量の地雷が仕掛けられていたことが分かった。
ヴィレイ・ミライ班が先陣を切って回り込みを行ったため、被害を最小限に抑えられた。
エレノイアにて、ミライがヴィレイに対して口を開いた。
「今思ったんだけど...、トランス使えば地雷なんて大したことなかったわね」
「...そういうことじゃないだろ」
「?何か言った?」
「何で分からないんだ…?君が渡れても、俺たちには渡れない。班はバラけちゃいけないんだ。それに俺たちが別のルートを渡らなかったら、他の軍の被害も広がる。...どうして、どうしてそんなことも分からないんだ!?」
「.........」
「それだけじゃない!!君だってそうだ!!トランスがあるからと余裕こいて...油断した時に大ケガを負ったりしたらどうするんだ!?今回の件だって、俺が何も言わなきゃ、何の対策もなしに地雷原を歩くところだったじゃないか!!何でもっと自分を大切にしないんだ!?」
「!!」
「全く...」
「...ごめんなさい。これからは気を付けるわ。教えてくれてありがとう」
「!?...らしくないな。いつもの君なら、『そんなのつまらない』って言うところだぞ」
「言ってほしかった?」
「いや、それはない」
「あっそ。...私、初めてだった」
「何が?」
「誰かに心配されるのが」
「…?」
「私はアシュラ一族として生まれた。だから、肉体の強度は人外レベル。そのせいで...どれだけ痛みを味わっても、全部『アシュラ一族なのだから大したことないだろう』で片付けられて...。どうにかして心配してほしくて、一度、骨を折ったこともあった...。でも結果は同じ。残ったのは、折れた痛みと、”ここ”の痛みだけ」
そう言うと、ミライは自身の胸に手を当てた。
「じゃあ...今まで無茶していたのは、心配されるためか?」
「いいえ...。でも...”そう”かもしれないわね...」
そう言うと、ミライはしみじみとした顔で夕暮れを見つめた。
数日後、今度は北部地方の反乱鎮圧。
「いつの世も戦い、か...」
「それをどうにかするのが”私たち”、でしょ?」
「...そうだな」
ヴィレイは実を言うと、この”世界”に嫌気がさしていた。
より良い世界ならば反乱が起こるはずがない。
そう考えたからだ。
「そんなに不満なら大統領にでもなっちゃえばいいのよ」
「バカ言うなよ...」
一行は敵の潜伏するという場所の近くまで来た。
一行は歩き続ける。
「やけに静かだな」
「...なるほどね」
「?」
「ごめんなさい。一旦目立つかもだけど...。ハアッ!!」
ミライがトランスを発動する。
「相変わらず凄い衝撃波だ...!少しでも油断すれば吹き飛ばされる...!」
そのときだった。
衝撃波に耐えかねた敵の一人が吹き飛ばされた。
「ええいッ!もうどうにでもなれぇ!!突撃ィ!!」
次の瞬間、白い衣で身を包んでいた者たちが立ち上がると、多国籍軍に対して総攻撃を仕掛けてきた。
反乱軍は、圧倒的な軍事力を誇る多国籍軍に成す術もなく、なぎ倒されていった。
「ふゥーッ。終わったわね...」
ミライがトランスを解除した。
そのときだった。
「ミライ!!伏せろ!!」
ヴィレイがそう叫んだ。
ミライは伏せる。
ヴィレイは小銃から一発ぶっ放す。
すると、岩陰から襲撃を加えようとしていた敵の一人がミライの背後で倒れた。
「ありがとう、ヴィレイ。助かったわ」
「恩には着ないさ」
軍は撤退を開始した。
そんな中、ヴィレイは先ほど射殺した敵の姿を見ていた。
その正体は...
「子ども...」
ヴィレイは立ち尽くした。
「...レイ、ヴィレイ!!」
気が付くと、ミライがヴィレイの横にいた。
「はやく行きましょう」
「...ああ」
こうして一行は、エレノイアに帰還した。
「ミライ、君はこの”世界”が好きか?」
「何?突然」
「............」
「...ええ、大好きよ。だって今の”世界”のおかげで私たちは護られてるんだから」
「護られてる...?」
「だって、『災厄』が起こったのは、各国のにらみ合いが原因でしょう?200年前は200ほどの国が存在していたと言われているわ。そして、どの国も『生き残り』のために必死だった。そんなことになるなら、初めから沢山の国なんか無ければいいのよ。だから今、この世界国家による世界統治が始まってから200年、『災厄』も起こってないわ。そうでしょう?」
「人は...幸せなのかな」
「さあ、分からない。でも...少なくとも私は幸せ。だから私はこの”世界”を愛してる。この”世界”のおかげで、私はあなたという人に出会えたし」
「!!」
「まあ、どう考えるかはあなたの自由よ」
「.........」
ヴィレイは、いつものように独り、床につく。
「俺は...どうしたいんだ...」
電灯に映る自分の顔に、ヴィレイはそう問いかけた。
2週間後、今度はブリテン島(旧イギリス領土)の反乱勢力による大規模テロの鎮圧だ。
今回は都市が戦場。所謂市街戦だ。
歩兵として送られた一行は、苦戦を強いられた。
なにせ、敵はここらの土地勘が優れている。なぜなら、反乱勢力のメンバーのほとんどがここで生まれ育った者だからだ。
敵はマンションやアパート、ビルなどに立てこもりながら反撃を仕掛けてくる。
「クソッ...厄介なヤツらだ...!皆、油断するな!もうすぐ応援が来るはずだ!」
すると、数分後、ヘリ部隊が向かってきた。
「来た...!」
こうして敵は蹂躙される...はずだった。
敵は、ロケットランチャーを取り出すと、ヘリに向かってミサイルを放った。
「ハハッ、そんなの、素人に当てられるわけが―」
ヴィレイ・ミライ班の一人が相手を嘲笑おうとした次の瞬間、ミサイルは勝手に軌道を変えると、ヘリに命中した。
「!?バカな!?」
「まさか、あれは...ジャベリン...!?」
ジャベリンとは、1996年に旧アメリカ合衆国で開発された歩兵携行式多目的ミサイル。レーダーによる自立誘導により、目標に高確率で命中させることが可能な兵器。
所謂、ア連の兵器だ。
「お、おい...そんな、ガッ!?」
「!?」
ヴィレイが振り向く。
そこにいたのは、額に穴をあけられた班の仲間の姿だった。
「あ...」
即死。もう意識は、ない。
一行は立ち尽くした。
「おい!!何をしている!!早く撤退しろ!!もうすぐ空爆が始まる!!」
一行は他の軍たちに引っ張られながら戦線を離脱した。
ヴィレイは、離れていく同期の死体に向かって手を伸ばしながら、撤退していった。
あれから2週間が経った。
結局、ブリテン島はジャベリンの力をもってしても、数の暴力には敵わなかった。
この出来事をきっかけに、世界各地の反乱分子は沈静化した。
ヴィレイは帰還後、政府にア連の反乱勢力への関与の可能性を訴えた。
しかし、何度訴えても政府は沈黙を貫いた。
それからヴィレイは、自宅に引きこもってしまった。
訓練場にて、
「今日もいないの?」
「...ああ。どうもかなり参ってしまってるみたいだ...」
「.........私、行ってくる」
「え!?本気かよミライ!?」
「このまま彼がダメになっていくなんて...私は見ていられない!ヴィレイは人一倍責任感が強くて、仲間思いで...!でもちょっとおっちょこちょいで...天然なところもあるけど...でも...でも!!私は―」
「分かったわ。行ってきな」
「えっ...でも...」
「ニブい男子勢は黙ってなさい。ここはミライに行かせるべきよ。ミライ...お願いね」
「...うん、ありがとう」
ミライは堂々とした足取りで、ヴィレイの住むアパートへと向かっていった。
ヴィレイは独り、絶望していた。何もかもに絶望していた。
『世の中には知らないほうが良いこともある』
『若者にものを言う資格はない』
『アシュラ一族だからと言って良い気になるな』
「もう、いい...。どうでもいい...。いっそ...アイツのところに...」
「ヴィレイ!!」
「!?...ミライか。何しに来た」
「あなたを、救いに来た」
「!!」
「ヴィレイ、こっちを向いて」
「............」
「...私も、少し考えが変わった。この”世界”は間違ってる」
「!?」
「都合の悪いことは全部覆い隠して、逃げてばかり。こんなの...私の知ってる”世界”じゃない...。今『災厄』が起こったら...きっと逃げるでしょうね...あの連中は。200年前は、皆、正面から立ち向かったのに...」
「...俺に何ができる」
「”世界”を変えられる」
「冗談言うなよ。俺は無力だ。アシュラ一族なのにトランスも使えないんだぞ」
「…......」
「もう放っておいてくれ...。もう...疲れた...」
「嘘つき」
「は?」
「じゃあ...どうして?どうしてドアの鍵を開けっ放しにしていたの?」
「!!」
「本当は...救われたかったんじゃないの...?」
「...ミライ」
「!!」
ついにヴィレイは振り向いた。
彼の目は、腫れあがっていた。
「ヴィレイ...」
「俺には無理だよ...」
「できるよ」
「なんで―」
「あなたには人を動かす力を持ってる。私も、他の皆も、ほとんどヴィレイの指示の下で動いているし、それに...」
「......」
「あなたは独りじゃない。だって...私がいるもの」
「!!」
「だからもう独りで抱え込まないで。私に、その気持ちぶつけて。全部、私が受け止めてあげるから」
「...あれ?なんだコレ?」
「.........」
ヴィレイの目からは、涙が伝っていた。
何度払っても、ヴィレイの意思に反してそれは溢れ続ける。
「ハハッ...おかしいな...。こんなの...もう―」
そんなヴィレイを、ミライはそっと抱きしめた。
「大丈夫...大丈夫だから...」
ミライはそう言いながらヴィレイの背中を優しくさすった。
もう、ヴィレイは、耐えきれなくなった。
ヴィレイは泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
「ミライ...ありがとう。もう大丈夫だから」
「あら、そう?私はもっと抱きしめていたかったけど」
「何を言い出すんだ...」
ヴィレイは苦笑いをした。
ミライはそれを見て少しムッとした。
「ヴィレイ...私、もっと知りたい。あなたのこと」
「どうして?」
すると、ミライはそっとヴィレイに口づけをした。
「...これじゃ、ダメ?」
「...............分かっタ...」
「ヴィレイったら......顔真っ赤」
「ミライだって...」
「うっ...」
こうして2人は結ばれた。
ヴィレイは、今までの自分のことを包み隠さずミライに話した。
ミライはその話を真剣に聞いてくれた。
ヴィレイにとっては、それが何よりも嬉しかった。
「...自分のことを誰かに教えられるって、こんなにうれしいんだ...」
「そうよ。とっても...」
「ありがとう、ミライ。俺、もう少しだけ頑張ってみるよ」
「うん、また何かあったら私を頼って。独りで抱え込むのは禁止!いい?」
「うん。わかったよ」
「その代わり、私の話もうんと聞いてもらうんだから」
「もちろん。いつでも聞くよ」
「フフッ...ありがと!」
ヴィレイにとって、初めて『生きてても良い理由』ができた瞬間だった。
こうしてヴィレイは、”世界”を変えるため、精進することを固く決意するのだった。
ミライの大好きな”世界”のために。
まず、”世界”を変えるためには、それなりの名声を持つことが必要だ。
そのため、ヴィレイは軍として大いに活躍した。
ミライは、そんなヴィレイを全面的にバックアップした。
こうして、ヴィレイとミライの2人の二人三脚の人生が始まった。
一年後...
ヴィレイが朝食を食べ終え、後片付けを行おうとしていたそのとき、突然ドアをノックする音が聞こえた。
この荒いノックの仕方はミライだと、ヴィレイはすぐに分かった。
「どうした?こんな朝早くに」
「私、今日からここに住むから」
「は?」
よく見ると、ミライの隣にはたくさんの荷物があった。
「マジか...」
「...ダメ?」
「いや、それはない」
こうして2人の同棲生活が始まった。
元々一人暮らしをするつもりで借りていた部屋だったので、とても部屋が狭く感じた。
しかし、ヴィレイにとって、それはこの上ない幸せだった。
さらに一年後...
このころには2人も順調に出世をしてきていたので、小さな部隊を持つようになっていた。
2人が部隊を率いながら敵軍を蹴散らす様は、まさにヒーローそのものであった。
こうしてヴィレイは、名声を手に入れた。
そして...
それからさらに一年が経過した。
ヴィレイもミライもこのころには16になっていた。
そんな2人にいつものように任務が与えられた。
内容は、最近勢力を広げ、ついに反乱を起こしたIS(I State)の鎮圧だった。
「さあ、行こう」
「ええ」
こうして2人とその部隊は、中東へと向かった。
中東へ降り立つと、そこはすでに戦場となっていた。
「突撃ーッ!!」
ヴィレイがそう叫ぶと、部隊は一斉攻撃を始めた。
結果は世界国家の勝利。捕虜も1人確保できた。
ここで2つ問題が生じる。
まず1つ目は、本隊の存在である。
明らかに本隊にしては、今回の敵勢力の規模が小さすぎるからだ。
そして2つ目。それは拠点の場所である。
戦いに勝ったところで、拠点を潰さなければ何も始まらない。
これら2つをヴィレイは捕虜から尋問することにした。
集落の者たちに案内されたヴィレイは、岩山にある洞穴の中で尋問することとなった。
付き添いでミライもそこにいた。
「さあ、お前の知ってること、全て話してもらおうか」
「...い」
「何?」
「...お前らに話すことなど、何も無い...!」
「なんだと?」
すると、突然捕虜の者が暴れだした。
集落の者たちは、何やらにやついている。
「!?」
ヴィレイとミライは捕虜の者を取り押さえようと、相手のもとに走り出す。
ミライのほうがはやく相手の元まで到達しようとしていた。
「アッラーに...栄光あれ」
そう告げると、捕虜の者は上着を脱ぎ捨てた。
彼の上半身には、大量の手榴弾が巻きつけられていた。
捕虜の者が1本の紐を引っ張ると、紐につなげられていた全ての手榴弾のピンが外れた。
次の瞬間、洞穴の中は爆炎に包まれた。
ほんの、ほんの一瞬の出来事だった。
爆発の衝撃で岩山が崩れ、2人はガレキの下敷きになった。
「う、うう...アイツら...グルだったのか...」
「ヴィレイ...ケガは...ない...?」
「!!ミラ......イ...?」
ミライから、片腕が消えていた。
その他の身体の一部も”欠けている”。
「ど...どこに...」
「ヴィレイ...もう...いいわ」
「何言ってんだよ!!こんなこと...こんなこと、あってたまるか!!!!」
どうして、どうしてこうなった。
あのとき、ミライは自分よりもはやく相手に到達しようとしていた。
そのことで、ミライはヴィレイの前にいるという状態になっていた。
彼女は、偶然にもヴィレイの盾となったのだ。
あのとき、自分のほうがはやく相手に到達していれば...。
集落の罠にもっとはやく気づいていれば...。
捕虜など作らなければ...。
もっと自分に力があれば...。
後悔ばかりが、ヴィレイの頭の中を駆け巡った。
「ヴィレイ...」
「ミライ...俺...どうしよう、これ...なあ...ミライ...」
「落ち着いて、ヴィレイ」
「............」
「もう...時間がない」
「............」
「私ね、こんな時にやっとわかったの」
「......何が?」
「”運命”だったんだよ。私たちが出会ったのは」
「.........」
「ヴィレイ...」
「...なに?」
「最後に...お願い......聞いてくれる?」
「!!............うん」
「あなたに...私の”全て”をあげる。だから...私の大好きな”世界”を護って...」
そう告げると、ミライはそっとヴィレイの背中に腕をまわし、掌を乗せると、直後、一気に力が抜け、ついに、息絶えた。
「ハハ、まんまと騙されやがったな。アホどもが」
「おう、これでアシュラはいない!あとはコッチのもんだぜ!!」
次の瞬間、ガレキの山から飛び出した桜色の光の柱が、天を貫いた。
「!?」
「なんだ!?何が起こった!?」
何者かが、ガレキの山の頂上で立っている。
ヴィレイ・アシュラ。トランスに目覚めし者だ。
彼は、その圧倒的な力をもって、敵を一掃した。
「......帰ろう、ミライ」
ヴィレイはミライの遺体を抱えて、歩き出した。
彼の桜色の瞳を持つ目からは、涙が伝っていた。
その後、葬儀を終え、自分の部屋に帰ったとき、ヴィレイは"気づいた"。
そして、彼はポツリと、呟いた。
「部屋……広くなっちまったなぁ……」
それからも、いっときは軍として活躍していたヴィレイだったが、セイレーンの教官を経て、ついに軍を辞め、政界へと足を踏み入れた。
そして...今に至る。
「今日からお前たちの教官を担当することになった、ヴィレイだ。よろしくな!」
「あ、あのぉ...」
「?どうした?ティエラ...だったか」
「『きょーかん』ってなんですか?」
「うん、何事にも疑問を持つ姿勢、素晴らしいぞ、ティエラ。これからもその姿勢を貫くといい。えーっと、『教官』ってのはな...ま、『先生』みたいなもんだ」
「『せんせい』かあ...。えへへっ...よろしくね!ヴィレイさん!」
「ああ、よろしく!」
なあ、ティエラ......俺は、ちゃんとお前の『せんせい』でいられたかな...。
ミライ...俺も、もうすぐそっちに行くよ...。
ヴィレイは静かに目を閉じようとした。
が、ヴィレイはなんと、そこから意識を持ち直した。
彼の意志とは関係なしに、だ。
!!......そうか......そうだよな......そう簡単に諦めちゃダメだよな...
そうだろ...?ミライ。
そうだ...まだだ...!まだ!
「死ねないッ!!」
次の瞬間、桜色の光の柱が飛び出し、がれきの山から天を貫いた。
「!?」
「...一体、何が...!?」
ティエラとN・ヤスヒロは突然の事態にひどく動揺した。
ガレキの山は、衝撃波により、一瞬で吹き飛んだ。
そこにいるのは、全身が桜色の光に覆われた者。
彼は、巫(シャーマン)でも、大統領でもない。
そこにあるのは、”世界”のためにたった独りで立ち向かう”救世主”の姿であった。
彼はドンと拳を胸に当て、堂々と叫んだ。
「”世界”は......俺が護る!!!!」