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SHOOT1! 「俺の相棒!エアロドラゴン!!」

ー/ー



 消しゴムバトル! それは全国の小学生たちが誇りを懸けて挑む、究極のデスクスポーツ! 勝敗を分けるのは、力か、技か、それとも魂か……!?
 これは!そんな熱き戦いに魅せられ、消しゴムバトルの戦場にその身を投じた小学生、神風翔の激しき戦いの物語である!!
_________

 俺の名前は神風翔(かみかぜしょう)!小学五年生だ!
 突然だけど俺には苦手なものが三つある! 一つは…… 

「いたいた!! お~い!」 
「あ?」

 さっそくその一つが来ちまった……。なんかいやな予感がする……。

「どうしたんだよ、茜?そんな息切らして……」
「はぁ……はぁ……大変なのよ翔……!」
「大変ってなにが?」
「とにかく一緒に教室来て!!」
「あ!?ちょ!?放せってお前!!俺はこれから帰ってベイプレートZ見るんだから!!」
「アニメなんかより大事なの!とにかく来なさい!!」
「放せ~~~~!!!あれ~~!!」

はい、というわけで一つ目……。下校中だった俺を今ものすごい馬鹿力で教室まで連行しようとしてるこの女、皆守茜(みなもりあかね)。 
 こいつとは幼馴染なんだが、昔っから自分がこうって決めたことには意地でも従わせる滅茶苦茶気がつえぇ女で、今見たいに何か厄介ごとに首突っ込んでは俺を巻き込むんだ! 
 とはいえまだ奇跡が起きて厄介事ではない可能性も0.0000001%くらいはある! 
 俺は教室に連行されながらもその一縷の希望に賭けて茜に聞いた!!が……
 
「で?今日はなに?なにがあったんだよ?」
「あいつ!また権堂のバカが宙斗のやつをいじめてんのよ!」
「え~~またかよ!!!!」
「え~!!じゃない!!あんた親友でしょ!?助けてあげないと!!」 

 というワケで俺の苦手なもの二つ目!! 
 厄介事に巻きまれること!なのにこいつときたらなんで俺を必ず巻き込もうとするかね!?

「ていうか!お前が止めてやりゃいいじゃんよ!!」
「え~?権堂って身体でかいし、あたしみたいなか弱い乙女じゃ無理だもん」「ア~ハイハイソーデスネ」 

 人の身体宙に浮かせながら走れるくらいの馬鹿力にかなうやつなんてこの世にいねぇだろって言おうと思ったけど、間違いなく入院することになるからやめた……とそろそろ教室が近づいてきたな……。なんか言い争ってる声が聞こえてきやがる……!

「権堂くん!返してよ!ボクの消しゴム!!」
「へへ!こんなレアな消しゴムお前にはもったいないぜ宙人」 

 どうもまた宙斗のバカが珍しい消しゴムをガキ大将の権堂に奪われたみてぇだな……。あいつ前もこんなことがあったときにももう持ってくんなって言ってやったのにこりねぇやつだぜ……。でも、ま……

「そこまで~!!宙人!助っ人を連れて来たわよ!!!」

 毎度毎度こういう争いに首突っ込む茜のバカの方がよっぽどかぁ……。ほら見ろさっそくクラスの視線が俺に集まって来てやがる……。俺は助っ人するなんて言ってないのに……! 

「しょ、翔ちゃ~ん!!」 

 さっそく情けねえ声で泣きべそかきながら宙斗が駆け寄ってきやがった……。一応事情を聞いてやるか……まぁだいたいわかってるんだけど……

「どしたぁ宙斗?」
「ボクの最新型の消しゴム[ブラックナイト]が権堂君に取られちゃったんだよぉ!お願い翔ちゃん!取り返してよ!!!」

 はぁ~やっぱこのパターンだ……。
 下らねぇ……消しゴムなんかに変な名前つけやがって……。

「お小遣い貯めて買った最新型なんだよ!!お願い!!!!」
「……」

 あほくさい話だがこのバカ、畠中宙斗(はたなかちゅうと)は生粋の消しゴムコレクターだ。小遣いの大半を珍しい消しゴムや最新の消しゴムにつぎ込んで、日夜それらに合うカスタマイズを研究している……らしい。 
 まぁこいつの場合は度が過ぎてるが、こいつだけじゃなく消しゴムにやたらとご執心の小学生は多い……。毎日毎日学校の休み時間やら放課後やら、果ては下校途中の公園でもおっぱじめやがる……。傍から見てたら狂人の集まりだ。 
 で。いま宙斗から消しゴムを奪ったガキ大将、権堂大輔(ごんどうだいすけ)……こいつもまぁ例にもれずバカだ。消しゴムにご執心なのはいいが、そのためにこうやってクラスメイトが珍しい消しゴムをもってくると暴力に任せてそれを奪おうとしやがる……。とはいえ前にこういうことがあったときは先生を呼んで現場を押さえてもらったから懲りたと思ったんだがなぁ……。
 まぁ仕方ねぇ、とりあえず強硬手段を取る前に説得だけでもしてやるかぁ……。

「おい、権堂!! 人の消しゴム取ってやるなよ? こいつ明日からの授業消しゴムなしですごせってのか? そりゃいくら何でも可哀そうだろうがよ?」「へ!こいつにこんな消しゴムはもったいねぇよ!! だが確かにお前の言う通り授業中消しゴムなしってのもかわいそうだ。だからこいつをやるよ。 そら! 」 

 そう言って権堂が放った消しゴムはどんなだったと思う? だいぶ使い込まれたために真っ黒で、かなり小さくなった……言っちまえば9割消耗されたゴミみたいな消しゴムだったんだ。 
 それを拾った宙斗の顔はみるみる真っ赤になってしまいには泣き出しちま
った。

「ひ、ひどいよぉ! 返してよボクのブラックナイトォ!!」 

 そう泣きじゃくる宙斗を権堂のバカは面白そうに笑ってやがる……。

「は!! お前みたいなへなちょこなんかより俺に使われた方がこいつも幸せだろうが!!」 

 その瞬間、俺の中で何かが切れちまった

「てめぇ!!!」 
 
 こんな消しゴムごときにバカだとは俺も思うけど、でも……!それでも宙斗にとって大事なものを奪ってヘラヘラ笑っているこいつに我慢できず俺は殴りかかった!!がしかし……

「ああ~!! 神風のやつがごんちゃんに暴力振るおうとしてる~!! 先生呼びに行こうぜ~」
「なに!!?」

 権堂の取り巻きがヘラヘラ笑いながらそう言い放ち、俺の拳は権堂の顔面すれすれで止まった……。

「どうした?殴るんじゃねぇのかよ?え?」

 余裕の表情でそう煽る権堂をそのまま殴りつけたいが……でもそんなことをしたら俺のたった一人の家族であるじいちゃんに迷惑が掛かる……。それを考えたら拳をそれ以上まえに動かすことができなかった……。

「卑怯よ!!自分が最初に暴力で宙斗から消しゴム奪ったくせに!!」 

 茜がそう叫ぶが権堂は余裕を崩さない……。

「はぁ~?それは誰が見たんだよ!? 証拠はあるのかぁ!? なぁ!? クラスのみんな!! 俺がそんなことしたの見てたかぁ!?」
「……」

 クラスのみんなは自分にも被害が及ぶことを恐れてか、みんな黙りこくってやがる……。 

「ほら!! 誰も知らねぇってよ!! お前の見間違いじゃないのかぁ!!? 適当言ってんじゃねぇよ! ウソツキ女!!」
「な!なによ!!」
「ウソツキだからウソツキって言ってるんだよ!!ある意味お似合いの3人組かもなぁ! 弱虫に! 暴力野郎に! ウソツキ女!! クズの集まりじゃねぇか!!ギャッハッハッハッハッ!!」
「……」
  
 茜は今にも泣きだしそうなのを必死にこらえてやがる……。それを見た瞬間もう俺は我慢ができなくなった!確かにこいつはおせっかい焼きだし、こんなことに巻き込んできやがるけどウソツキじゃねぇ!茜も宙斗もクズなんかじゃねぇ!!じいちゃんには悪いけどこいつら全員ぶん殴って意地でも訂正させてやる!! そう思って再び拳を振りかざしたその時だった……。

「権堂君! 神風くん!! そこまで!!!」

 突如男の声が教室に響き渡って俺の拳は止まリ、そして教室にいる全員の視線が声の出どころである教卓に集中した。
 最初は担任の若林かと思ったんだけど、そこには若林ではなく、黒いスーツ姿に赤いマントを羽織り、顔には白い仮面という異様な姿の謎の男が立っていたんだ。 

「だ、だれだよ!! この不審者!!! おい! 先生呼びにいこうぜ!!」

 珍しく権堂が真っ当なことを言ってみんな一気に冷静になるが、仮面の男は気にした様子を見せずに堂々とした調子で声を張り上げた。

「君たちの気持もわかるが、まぁ待ちたまえ!私は断じて怪しいものではない!私は……いいか!私の名前は!!」

 謎の仮面男の言葉を全員がゴクリ、と固唾をのんで待った。

「私の名は!! マスクドイレイザー!!」
「……」

訪れる一瞬の静寂……そして……

「やっぱただの不審者じゃねぇか!! 若林! 若林よんでこい!!」
「ああ!ちょっと待って!! 断じて! 断じて怪しいものじゃないから!!」 

 さっきまでの堂々とした姿はどこへやら、情けない声を上げてクラスメイトたちを仮面の男は止めようとしている……なんなんだこのおっさんは……?
 まぁただの変態だろうなと思って、おっさんのことは置いておき、再び権堂の方に向き直ろうとした瞬間、宙斗のやつが急に大声で叫び出した。 

「マスクドイレイザー……てあのマスクドイレイザー!!?」
「……ゴホン!いかにも!そのマスクドイレイザーだとも!!! 知っていていただいて光栄だ、畠中宙斗くん!!」

 宙斗がそう叫んだ瞬間、騒がしかった教室が静まり返った。と思ったらみんな口々に「うそ?まじ?」とか「サインもらわなきゃ」とか言ってやがる……このおっさん結構有名人なのか?とか思っていると、周りの反応に気をよくしたのか、おっさんは急にもとの堂々とした感じに戻った。ほんとなんなんだこのおっさん……。

「あのとか、そのとか、なんなんだよ宙斗……このおっさんのこと知ってんのか?」
「おっさんとは失敬な!私はお兄さんだぞ!!神風くん!!」
「はいはい……で?だれなんだこのおっさん」
「翔ちゃん!このおっさ……マスクドイレイザーさんはね?WEC……ワールドイレイズチャンピオンシップの二代目チャンピオンなんだよ!!」
「いかにも!!」

おっさんがさっきから口をはさんできてうるさいが無視して俺は宙斗に問いかける。

「なんだそのワールドなんとかって?」
「知らないの翔ちゃん!世界中の消しゴムバトラーたちがその腕を競う世界最高峰の大会だよ!!?」
「しらねぇよ……。要するに世界最高峰の暇人のあつまりで、このおっさんは世界最強の暇人ってことだろ?」
「フハハハハハ!世界最強の暇人とはご挨拶だな神風くん!!」
「うるせぇな!!いちいち会話に割って入ってくんじゃねぇよおっさん!!」「おにいさんだ!!!!」 
 
 なんか変なやつに絡まれちまったな……。とっとと消しゴム取り返して帰ろう……。
 再び俺は権堂たちの方をにらみつけた。しかし……。
 
「ふむ……なんか変なやつに絡まれたな……。早く消しゴムを取り返して帰ろう……。今の君の心境はそんなところかな?神風くん」
「こ、こころ読むんじゃねぇよ!! 気持ち悪いおっさんだな!!」
「だからおに……!ゴホン……まぁいいだろう! だが取り返すために暴力とは感心できんな……」
「!?」 

 拳を振り上げようと思ったのに、このおっさんは俺が気づくよりも早く俺の腕をつかんで止めていた……。
「いつのまに……」
「消しゴムを取り返したくば、暴力に頼るべきではない……。君もだ権堂くん!」
「ああ!?」
「君も普段から消しゴムバトルにいそしんでいる身ならわかるね?欲しいものは消しゴムバトルで手に入れろ!!!」
「な、なに言ってんだ!!?」

 さすがの権堂も訳が分からないといった様子だ……。当たり前だよ、なにが消しゴムバトルだよ……。

「……と思ったがなかなかいいこというじゃねぇかおっさん!!」
「フハハハハハ!やはり君も消しゴムバトラーなのだな!!そう言ってくれるとおもったよ!!」 

 いや乗るなよ権堂!意味わからねぇだろうが!!
「つまり!俺が消しゴムバトルで勝てばこのブラックナイトは俺のものってわけだな!? それでいいよな! 宙斗!!」
「え? え~……たしかにそうなっちゃうよね……」 

 いやならねぇだろ!!なんで消しゴムバトルならしょうがないみたい空気になってんだよ!?マジかこいつ!?

「というわけだ、神風くん!! 宙斗くんのブラックナイトを取り返したくばやることは一つ!! ズバリ! 消しゴムバトルだ!!」
「お願い翔ちゃん!! 勝ってボクのブラックナイトを取り返して!!!」「翔!!やってやりなさい!!」
「さぁこい!! 神風!!」

 途端に、周囲のクラスメイト達も「おお!!」とか「マスクドイレイザーの仕切りで消しゴムバトルとかすげぇ!!」とか滅茶苦茶盛り上がってやがる……。だが……

「……なに盛り上がってんだ? 俺は消しゴムバトルなんて下らねぇ遊びやらねぇよ」
「……え?」
「「「え~!!!!???」」」 

 なんか連中勝手に盛り上がって勝手に驚いてるが俺の苦手なものその3。それは「消しゴムバトル」だ。理由は単純「下らねぇから」それだけだ。それと……いや、下らねぇからってだけだ!

「あのよ? こんな下らねぇガキの遊びなんか付き合うわけねぇだろ? おっさんもいい年こいてバカ見てぇなことしてんなよ? ダセェってマジで」
「そんな……翔ちゃん……」
 
 追いすがろうとする宙斗には悪いが本心からの言葉を目の前のバカどもにぶつけてやった。だってそうだろ?こんな遊びにマジになるのなんてせいぜい小1か2のガキだけだ。なのにみんなマジになってバカ見てぇ……。

「ちょっと翔!」
「バカバカしい……俺は帰るからあとはもう好きにやってくれ……」

 茜の制止も振り切り、俺はもう宙斗の消しゴムのことなんて放って帰ろうと教室の出口に向かう。しかし教室のドアに手をかけた瞬間に仮面のおっさんの発した言葉が俺の動きを止めた。

「逃げるのかね、神風くん? 残念だ。君の父、神風真破(かみかぜまっは)なら決して背を向けなかったろうに……」
「……!? なんでおっさんが俺の父ちゃんの名を知っているんだ!!」

 途端におっさんの胸ぐらに掴みかかるが、おっさんはすぐに俺を払いのけた。

「ぐあ!!」
「ちょ! 大丈夫翔!? ちょっとイレイザーさん!!」

 倒れる俺を心配して茜が駆け寄りキッとおっさんをにらむが、おっさんは何事もなかったかのように俺を見下ろしながらやかましく声を張り上げた。

「ああ知っているとも! 君の父、神風真破は私でさえ敵わなかった最強の消しゴムバトラーだったからな!!」
「「「!!!???」」」 

その言葉に教室は再び静まり返り、やがてざわつき始めた。 

「マスクドイレイザーを破った?」
「うそでしょ?公式記録にそんなのどこにも!!」 

 クラスメイトたちは口々によくわからないことを言ってやがるがそれも無視して、仮面のおっさんは続けた。

「神風くん……君はお父さんが亡くなったと思い込んでいる、いや、君のおじいさんからそう聞かされて育ってきた。違うかい?」
「!!?」

 瞬間、また教室は静まり返り、茜をはじめ、クラスメイトたちの視線が俺とおっさんに集中した。でもそんな視線に構ってられないくらい、俺の心はざわついていたんだ……。
 だって、なんでこのおっさんがそんなことを知ってるんだと思ったし、なによりもその言い方は……!!

「イレイザーさん! 何言ってるんですか!! 翔ちゃんのお父さんは!!」
「そうよ! 翔のお父さんは翔が幼稚園の頃に交通事故で!」

 そう茜と宙斗が声を張り上げるのを遮って俺はおっさんに問いかけた。

「おっさん……もしかして……おやじは生きてるってのか……?」

 おっさんはだまってうなずく。

「ど、どこにいるんだよ!! あのバカおやじは!? あいつが!! あいつが家をほったらかしにしたせいで俺の母ちゃんは!!!」

 そう叫んだ瞬間、おっさんは無言のまま俺の目の前に小さなアタッシュケースを差し出した。

「は?」

 訳が分からない俺をよそにおっさんは語りだす

「真実を知りたくばこのアタッシュケースを受け取るがいい」

 その言い方からおやじの手がかりが入っているのか?と思って俺はアタッシュケースを開いた……が……

「なんだこれ?」
「消しゴム……よね?」

 俺と茜は二人で首を傾げた。中に入っていたのは丁寧に緩衝材に包まれた小さな消しゴムだけだった。変なカバーがついてるってくらいしか変わったところがない、ただの消しゴムだ。

「おっさん!!なんの冗談だ」
「それは! 君の父さんから君に渡すよう頼まれた君の相棒{エアロドラゴン}!!」
「はぁ!!?」

 まじで訳が分からん。こんな消しゴムに変な名前つけやがって……と思ったんだが……よくよく見ると結構カッコいい……。 消しゴム本体は青い以外は普通の消しゴムって感じだが先端部に二つ黄色い斜めのラインが左右対称に入っていて目みたいだ。そして、白をベースにしたカバーはゴテゴテしているが、親指、人差し指、中指がそれぞれセットしやすいようにへこみがあり握りやすい。けど、何よりも目を引いたのはカバーの尻の部分から小さく左右に一枚ずつ伸びた金色の羽根みたいな出っ張りだ……まぁすくなくとも普通の文具として使わせるつもりはないというのは一目みてわかった……。
 眉間に皺を寄せてその変な消しゴムを見つめているとおっさんはまた話し出した。

「彼が消えた謎を知りたくば、そのエアロドラゴンを使ってこの消しゴムバトルの世界で戦うほかはない。どうするね? 神風君。いや、神風翔くん!!」

 その問いかけに俺は迷った……。普段だったら、こんなバカ見てぇな遊びに付き合ったりしないんだが、おやじの事を知りたかったし……なによりも……。

(こいつ……戦いたがってる……!) 

 今手にもっているこの変な消しゴムが、俺の手の中で今にも暴れ出したそうにしているのがなぜか伝わってきた。それになんでか消しゴムをもつ俺の右手を風が渦巻いているような、そんな感じがしたんだ……!

「……いいぜ……!」
「翔!」
「翔ちゃん!!」
「やってやる!! こいつで戦えば、おやじに会えるんだろ!!? おっさん!!」
「ふ……おにいさんな……? だがその通り! 君がそのエアロドラゴンで戦ったその先に! 君の父、神風真破は待っている!!」 

その言葉を聞いちまったらもうしょうがねぇ!ダセェ遊びだがのってやらぁ!

「じゃあ手始めに権堂!!てめぇをぶっ倒してやるぜ!!そんで宙斗の消しゴムを返してもらうぜ!!」

 しかしそれを聞いた権堂が嫌みな表情で笑った。

「ぶっ倒すってのは無理なんじゃねぇか? だってよぉ! お前消しゴムバトルやったことねぇだろう?」
「そ、そうだよ! 翔ちゃんルールだって知らないでしょう!?」
「ああ、知らねぇ」 

 きっぱりと答えたその瞬間、おっさんが大声で笑いだした。

「フハハハハハ!! 知らないのに自身満々と言った風情だな! 面白い! 実に面白いぞ神風くん!! いいだろう! 今回は私が君に基本的なルールを教えよう!! それでもいいかな? 権堂くん?」
「いいぜ?ルール知ったくらいで俺が初心者に負けるわけねぇからな!」 

 権堂のやつ……余裕かましやがって!今に吠え面かかせてやるからな!そういう思いを込めて睨みつけていると、おっさんは急に指をパチンと鳴らした。すると……

「「おわぁぁぁああ!!!」」

 俺と権堂の前に急に長机が降って来やがった!だれかが放り投げたとかじゃあもちろんない!まじで急に天井から降ってきやがったんだ! 
 一瞬命の危機に瀕した俺と権堂ははぁはぁと息を荒くしてその長机を見つめていたが、おっさんはそんなおれたちのことなど視界に入っていないかのように話し出した。

「説明しよう!! これこそが消しゴムバトルのバトルステージ! ストレートエッジ! 直線状のステージの端にお互いの消しゴムをセット! じゃんけんをして先行後攻を決めた後は、順番に己の分身たる消しゴムをデコピンでシュート! 相手の消しゴムにアタック!! 先に3回場外に落とすか、相手の消しゴムを大破させた方の勝ちだ!! ただし!シュートした際に勢い余って自分の消しゴムがリングアウトした場合は相手の得点になるから気をつけたまえ!!」
「な、なに言ってるのか早口でよくわからねぇよ……」
「オタク特有の早口ってやつね……」
「と、とりあえずデコピンで消しゴム弾いて3回場外に落とせばいいんだよ翔ちゃん!」
「ナ、ナイス宙斗!ま、それなら楽勝だぜ!!」 
「ふ……神風君。消しゴムバトルはそんな単純なものではないぞ? まぁ頑張ってくれたまえ」

 まぁ確かに、いろんなやつが熱中している以上そんな簡単なもんじゃないってのはなんとなくはわかっていた。でも……

(いけるよな……? 相棒?)

 さっき受け取ったばかりのはずなのにこいつとはなぜかずっと前から共に戦ったことがあるような気がしていた。
 さっきまで下らねぇってバカにしてたくせに何言ってんだ?っておもうよな?おれもそう思う。でもこいつとなら何故かどんなバトルでも絶対に勝てるってそんな気がしたんだ!

「へ! そいつがどんな力を持ってるかは知らねぇけどよ? 初心者ごとき、俺様がこの最新型を使ったら負けるはずねぇっての! なぁ! ブラックナイト!」

 そういうと権堂は真っ黒い大きな消しゴムを取り出した。普通の消しゴムと思いきや、先端部が尖っていて、まるで真っ黒い盾のような形状だ。
 しかもカバーの部分は黒い金属でできていて、所々金色のラインが入ってることから、まるで騎士の鎧のような重厚感だ……。
 見ただけで相当な重量があるのはわかる。どうやらブラックナイトという名に違わない相当な強敵のようだな……。

「ご、権堂君!! ボクのブラックナイトなのに!!」
「権堂あんたねぇ!」
「うるせぇ! ごちゃごちゃ言うな!! どうせ俺のものになるんだから今使ったっていいだろうが!!」
「そんなぁ~!」
「……翔! わかってるわよねぇ!! 絶対こんな奴にまけんじゃないわよ!!」 

 宙斗のすがるような視線と茜の俺を信じ切った視線を背中に受けて、俺はステージへと向かい、そして振り返った。

「任せとけ!! こんなやつあっという間にぶっ飛ばしてやるからよ!!」  

 ブラックナイトは確かに強敵なんだろう……。でも!全く負ける気がしなった!!

「さて権堂! 準備はいいよな!! 俺にやられる準備はよ!!」
「へ! ぬかしやがれ! ド素人が!」

 クラスメイトの視線が俺たちに集中する……。こんなことはよくあることだったけど、今回は違った。なんだかすごくワクワクする!いい意味での緊張感が俺の心を高鳴らせていた。
 そんな俺たちを見ておっさんはすこし笑うと、いままでより一層大きな声を張り上げた。
 
「ふ……では!! 両人とも準備はいいな!? ならば消しゴムを定位置にセットせよ!!」
 
 俺は汗ばんだ手で相棒を白いラインにセットした。斜向かいに立つ権堂も同じようにブラックナイトをセットする。

「では……じゃんけん用意!!」
「「じゃん! けん! ぽい!!」 

 結果は俺の勝利! 権堂の後攻だ!

「へ! ビギナーズラックってやつだな! まぁいいさ、先行くらいくれてやるよド素人!」
「抜かしがれ!」
「では神風翔!合図とともにシュートだ!! いくぞ!! 3、2,1」

カウントダウンとともに俺の心臓の鼓動はどんどん高まる。いまならすげぇのが撃てる気がする!! 

「イレイズ! ゴー!!!」

 掛け声とともに右手のデコピンで相棒をぶっぱなした!!

「いけぇ!!俺のエアロドラゴン!!」 

 狙いは正確だ!!相棒は権堂のブラックナイト目掛けて一直線にぶっとんだ!当たる!

 ガイン!

 鈍い音が響いたかと思うと相棒はシュウウウという煙を立ててブラックナイトの前で静止していた……。

「な!ばかな!!」

 狙いは正確だったはず!それなのにブラックナイトを一ミリも動かせていないなんて……。
 俺は動揺しながらゆっくりと相棒を回収して、再びラインにセットした。

「ど、どういうことなの……?だってものすごい威力だったわよ……? 翔の一撃は……」

 俺のうしろで狼狽えながら問いかける茜に、宙斗が震える声で答えた。

「足りなかったんです……翔ちゃんの攻撃力じゃ……。ブラックナイトの重さは5kg……に対して翔ちゃんのエアロドラゴンは見た感じ、せいぜい30g……」
「何よそれ!! それじゃあ翔がどれだけすごい一撃を出しても……!」
「不可能、だろうな……彼を倒すことは……」 

  二人の会話に入ったおっさんはそう淡々と告げている……。なんだってんだよ……!いきなり俺は負けちまうのか……!?

「おいおい!!? さっきまでの威勢はどうしたんだよド素人!! じゃあ次はこっちの番だぜ!! ところでイレイザーさん! アイテムの使用はOKなのかい?」
「無論! OKだ! 相手に直接危害を加えなければ、それはカスタマイズの範疇として認められる!」
「ようし! なら遠慮なく!!」
「では準備はいいな!? 3・2・1!」

 カスタマイズ?何をするつもりなんだ?そんな疑問を口にする前に権堂は自分の筆箱から何かを取り出した。あれは……なんだ? 

「まさかあれは! 翔ちゃん気を付けて!!」
「イレイズ! ゴー!!」 

 ドゴォン!! 

 宙斗が警告するよりもはやく、黒い物体が俺の相棒目掛けて放たれ、着弾とともにすさまじい轟音を立てながら煙を巻き上げた。 
 そして煙が消えると……

「!? あ、相棒……!」

 俺の相棒は机の下に無残に転がっていた。
「あ……ああ……」
「ブラックナイト! 一ポイント!」

 おっさんがブラックナイトの先制点を告げた。そんな……こんな簡単に先制点を取られるなんて……!権堂のやつ……何をしやがったんだ……!?

「なにが起きたんだって顔してるなぁド素人! おれはこいつをつかったのさ!」  

 権堂が勝ち誇ったような顔で俺に見せたもの……それは……!

「定規!?」
「そう! 定規! と鉛筆だ!!」
「なに? どういうことなの?」

 得意顔で権堂が見せつける二つを見ても、訳が分からないといった様子の茜はそう疑問を口にしている。その疑問に宙斗が再び答えた。

「てこの原理です……」
「てこの原理?」
「はい……! 権堂君はてこの原理で、定規の真ん中を鉛筆で支えて定規の片方に消しゴムを乗せたんです。そしてもう片方を思いっきり叩くと……」
「デコピンよりもはるかに大きな力で消しゴムを飛ばせる……ってこと?」「はい……」
「ふむ……重量のあるブラックナイトを扱うにはとても良い作戦だ! 見事だ! 権堂君!!」
「へへ! どうも!! これが俺の必殺! ブラックカノンだ!! どうだド素人!!! さぁ次はお前の番だぜ!!?」

 おっさんに褒められた権堂は得意顔だ……!くそ!冗談じゃねぇぞ、何が必殺技だ!!あんな防御力に加えてこの破壊力って……どうやったら勝てるってんだ!!俺は、焦りから相棒を乱暴に拾い上げた……その時……

 シュー……シュー…… 

 どこからか……小さく呼吸しているような音が聞こえた……。

「!?」

 俺は周りのだれかの呼吸音が聞こえてるのかと思って周囲を見渡した……!でも違うようだった……。

(じゃあだれが……?……!?) 

 シュー……シュー……

「!? ……こいつ、まるで生きてるみたいに!!!」

 俺は右手に相棒を拾いあげて確信した!相棒が小さく……でも確実に呼吸をしている!!しかも……

「こいつ……風を纏っている……?」

 相棒を中心に小さく風が渦を巻いているのを感じた。

「は!?」

 その時……俺のなかで何かがひらめいた気がした。確実ではないかもしれないが……でももしかしたらあのブラックナイトを倒す方法が……!!

(やれるよな……? 相棒……!)

「神風君!! 君の番だ! 早くセットしたまえ!!」
「それとももう棄権するかぁ? せっかくの新しい消しゴムがぶっ壊れちまうかもしれねぇぞぉ?」 

 俺は静かに相棒をラインにセットして、それから権堂を見やり……笑った。

「あん? なに余裕かましてんだ?」
「別に余裕ってわけじゃあねぇさ? けどよ? そうやって笑ってるお前が吠え面かくと思うと自然と笑えちまってな」
「なんだと!? このド素人!!!」
「まぁ黙ってみてろや」
「なら準備はいいな!? 3・2・1!」 

 俺の心にはもう焦りとかそういう感情はなくなっていた。今はただただ相棒と呼吸を合わせる……ただそれだけしか頭にない。

 シュー……シュー…… 
 
 だんだんと相棒の呼吸が早くなる……と同時に相棒が身に纏う風の勢いも増していく。俺もそれに合わせて呼吸を早める。

 シュー……シュー……ヒュー……

 呼吸を合わせるとともに何か……身体中に風を纏っているような……そんな不思議な感覚になっていく……。そして……

 ヒュー……ヒュー……ヒュォォォォ……

 その呼吸と身に纏う風の強さが最高点に達する……その瞬間に……

「イレイズ・ゴー!!!」

 ぶっぱなす!!!!!! 
 相棒は俺の身に纏った風をもその身に纏い、弾丸のように空中を回転しながらブラックナイト目掛けて突っ込んでいった!やっぱりだ!こいつ、風を纏って操る力があるんだ!! 

「よっしゃいけぇぇ!!」 

ビュオオオオオオオオ!!! 

身に纏う風は回転の力でさらに勢いを増し、小さな竜巻となってブラックナイトに迫っていく!!
「うわぁ!」
「きゃああああ!!」

 クラスメイトたちもあまりの風に耐えきれず吹っ飛ばされそうになっている!すげぇ威力だ!!これなら!!!!!

ドクン!!

「!?」
 
 これならいける!そう思った瞬間、俺の心臓が大きく脈打ち……そして「必殺」の二文字が脳内をよぎった……! 

(もしかして……相棒が?)

 相棒を見つめると、何かをもとめるように青く、鈍い輝きを風の中で放っていた。それでわかった!……相棒が求めているものが何かを!!

「いくぜ相棒!! 必殺!!」 

 相棒は俺の叫びに呼応するように竜巻の中で青く輝き始め、竜巻の威力をさらに高めている!!やっぱりそうか……必殺技の名前は、ちゃんと欲しいよな!!相棒!!!任せろエアロドラゴン!!最高の必殺技をお前とともに放ってやろうじゃねぇか!!!いくぜぇ!!!!

「トルネード……ブラストォ!!!!!!!」

ギュォォォォォォォ……!!バシューーーーーーン!!!! 

 叫びとともに一気に解き放たれたそれは、極限まで青く輝く相棒を中心に巨大な竜巻となり、うなりを上げてブラックナイトに直撃した!

「う!うわぁああああああああ!!」 

 権堂のやつもブラックナイトとともに教室の奥までものすごい勢いではじき飛ばされ激突し、そのまま気を失った……てこれだとどうなるんだ?勝敗は持ち越し? おっさんに聞こうとおもって探すが……あれ?いない?っていうか……

「やべぇ!! 教室中とんでもねぇことになってる!!!」 

 トルネード・ブラストの威力が高すぎたみたいだ……。 
 幸い窓は割れてねぇけど、教室中の机やら椅子やらがひっくり返って大変なことになってる……。クラスメイト達の姿も見えねぇし……もしかして開いてた窓から皆外に吹き飛ばされちまったのか……!!? とんでもないことをやらかしてしまったかもしれねぇ、と背筋がゾーとするのを感じていると、突然ひっくり返って山見たいになった机がボコっと盛り上がり、中からボロボロになったおっさんや、ほかのクラスメイト達がはい出てきた。 
 そしておっさんは激しく咳き込み、それから深呼吸を一つすると大きく声を張り上げた。

「ゲフンゲフン!!!ゲッフ!! すぅ~~~~~ふぅ……ウォッホン!! あ~……見事だった神風くん! さすがはあの男の息子、と言ったところだろう!! 見たところ権堂君は気絶して続行も不可のようだな……! ンよって!! 勝者!! 神風 翔くん!!」 

 勝者!!その言葉を聞いて俺のテンションは一気に上がる!!

「やったぜぇ!!! 茜! 宙斗!! だからいったろぉ!! ぶっ飛ばしてやるってよ!!」 

 ここで、茜と宙斗やクラスメイト達がわーって俺に駆け寄ってきて胴上げワッショイ!……のはずなんだが……あれぇ?全然だれもこっちに来てくれない……?おかしいぞぉ?

「み、みんな……どったの?」
「どったのじゃないわよ翔!!」
「やりすぎだよ!!翔ちゃん!!!」
「てめぇ教室の机直しやがれぇ!!!」
「ノートどっかいっちゃったじゃない!! さがしなさい!!!」

 とんでもねぇ殺気でみんなが押し寄せてきやがった!! 

「お、おっさん……! なんとかしてくれぇ……!!」

 神にすがるような目でおっさんを見つめたがあの野郎……

「ふははは!! 確かに君の力は素晴らしいが、それをコントロールできるようにせねばな!? というわけでその反省の意味を込めてみんなの教室をきれいにしておくように!! ではまた会おう!! あ、それから……今後は学校内でその必殺技は絶・対・に! つかわないように!! では!!!!」
「ちょ! 待てよ!! おやじのことを教えてくれんじゃねぇのかよ!!」「何……焦る必要はない……時がくればいずれわかるときがくる……」
「なんだよそれ!! あ~もう! じゃあせめて教室の片付け手伝ってくれよおっさん!!」
「フハハ! 神風君! 君に一ついい言葉を授けよう!! 自分のケツは……自分で拭け!!」
「はぁ!?」
「以上だ!!!」
「あ!おい!」 

 それだけ言うとあのおっさんは窓から飛び降りた……。とおもったらマントがハングライダーみたいなのに変形してそのまま彼方へと消えて行った。フハハハハハ!!アーハハハハハハ!!とかいうバカみたいな笑い声が遠くから響く中、殺気立つクラスメイト達のもとに一人残された俺がどうなったかは……言うに及ぶまい……。

___________

 その夜、俺はあの怪しいおっさんが言ってたことを思い返していた……。

(父ちゃんが生きている……? そんでそのカギを相棒が握っている? 一体なんなんだ?)

 答えの出ない疑問を延々と考え続ける。

 (彼が消えた謎を知りたくば、そのエアロドラゴンを使ってこの消しゴムバトルの世界で戦うほかはない。)

 その言葉を思い返し、俺はとてつもない何かに巻き込まれていこうとしている……そんな予感がしていた……。でも大丈夫!だって!

 「俺とお前なら絶対に負けない!そうだろ相棒!!!」

 呼応するように瞳を輝かせる相棒にニッと笑いかけ、俺は布団の中に潜り込んだ。 


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 消しゴムバトル! それは全国の小学生たちが誇りを懸けて挑む、究極のデスクスポーツ! 勝敗を分けるのは、力か、技か、それとも魂か……!?
 これは!そんな熱き戦いに魅せられ、消しゴムバトルの戦場にその身を投じた小学生、神風翔の激しき戦いの物語である!!
_________
 俺の名前は神風翔(かみかぜしょう)!小学五年生だ!
 突然だけど俺には苦手なものが三つある! 一つは…… 
「いたいた!! お~い!」 
「あ?」
 さっそくその一つが来ちまった……。なんかいやな予感がする……。
「どうしたんだよ、茜?そんな息切らして……」
「はぁ……はぁ……大変なのよ翔……!」
「大変ってなにが?」
「とにかく一緒に教室来て!!」
「あ!?ちょ!?放せってお前!!俺はこれから帰ってベイプレートZ見るんだから!!」
「アニメなんかより大事なの!とにかく来なさい!!」
「放せ~~~~!!!あれ~~!!」
はい、というわけで一つ目……。下校中だった俺を今ものすごい馬鹿力で教室まで連行しようとしてるこの女、皆守茜(みなもりあかね)。 
 こいつとは幼馴染なんだが、昔っから自分がこうって決めたことには意地でも従わせる滅茶苦茶気がつえぇ女で、今見たいに何か厄介ごとに首突っ込んでは俺を巻き込むんだ! 
 とはいえまだ奇跡が起きて厄介事ではない可能性も0.0000001%くらいはある! 
 俺は教室に連行されながらもその一縷の希望に賭けて茜に聞いた!!が……
「で?今日はなに?なにがあったんだよ?」
「あいつ!また権堂のバカが宙斗のやつをいじめてんのよ!」
「え~~またかよ!!!!」
「え~!!じゃない!!あんた親友でしょ!?助けてあげないと!!」 
 というワケで俺の苦手なもの二つ目!! 
 厄介事に巻きまれること!なのにこいつときたらなんで俺を必ず巻き込もうとするかね!?
「ていうか!お前が止めてやりゃいいじゃんよ!!」
「え~?権堂って身体でかいし、あたしみたいなか弱い乙女じゃ無理だもん」「ア~ハイハイソーデスネ」 
 人の身体宙に浮かせながら走れるくらいの馬鹿力にかなうやつなんてこの世にいねぇだろって言おうと思ったけど、間違いなく入院することになるからやめた……とそろそろ教室が近づいてきたな……。なんか言い争ってる声が聞こえてきやがる……!
「権堂くん!返してよ!ボクの消しゴム!!」
「へへ!こんなレアな消しゴムお前にはもったいないぜ宙人」 
 どうもまた宙斗のバカが珍しい消しゴムをガキ大将の権堂に奪われたみてぇだな……。あいつ前もこんなことがあったときにももう持ってくんなって言ってやったのにこりねぇやつだぜ……。でも、ま……
「そこまで~!!宙人!助っ人を連れて来たわよ!!!」
 毎度毎度こういう争いに首突っ込む茜のバカの方がよっぽどかぁ……。ほら見ろさっそくクラスの視線が俺に集まって来てやがる……。俺は助っ人するなんて言ってないのに……! 
「しょ、翔ちゃ~ん!!」 
 さっそく情けねえ声で泣きべそかきながら宙斗が駆け寄ってきやがった……。一応事情を聞いてやるか……まぁだいたいわかってるんだけど……
「どしたぁ宙斗?」
「ボクの最新型の消しゴム[ブラックナイト]が権堂君に取られちゃったんだよぉ!お願い翔ちゃん!取り返してよ!!!」
 はぁ~やっぱこのパターンだ……。
 下らねぇ……消しゴムなんかに変な名前つけやがって……。
「お小遣い貯めて買った最新型なんだよ!!お願い!!!!」
「……」
 あほくさい話だがこのバカ、畠中宙斗(はたなかちゅうと)は生粋の消しゴムコレクターだ。小遣いの大半を珍しい消しゴムや最新の消しゴムにつぎ込んで、日夜それらに合うカスタマイズを研究している……らしい。 
 まぁこいつの場合は度が過ぎてるが、こいつだけじゃなく消しゴムにやたらとご執心の小学生は多い……。毎日毎日学校の休み時間やら放課後やら、果ては下校途中の公園でもおっぱじめやがる……。傍から見てたら狂人の集まりだ。 
 で。いま宙斗から消しゴムを奪ったガキ大将、権堂大輔(ごんどうだいすけ)……こいつもまぁ例にもれずバカだ。消しゴムにご執心なのはいいが、そのためにこうやってクラスメイトが珍しい消しゴムをもってくると暴力に任せてそれを奪おうとしやがる……。とはいえ前にこういうことがあったときは先生を呼んで現場を押さえてもらったから懲りたと思ったんだがなぁ……。
 まぁ仕方ねぇ、とりあえず強硬手段を取る前に説得だけでもしてやるかぁ……。
「おい、権堂!! 人の消しゴム取ってやるなよ? こいつ明日からの授業消しゴムなしですごせってのか? そりゃいくら何でも可哀そうだろうがよ?」「へ!こいつにこんな消しゴムはもったいねぇよ!! だが確かにお前の言う通り授業中消しゴムなしってのもかわいそうだ。だからこいつをやるよ。 そら! 」 
 そう言って権堂が放った消しゴムはどんなだったと思う? だいぶ使い込まれたために真っ黒で、かなり小さくなった……言っちまえば9割消耗されたゴミみたいな消しゴムだったんだ。 
 それを拾った宙斗の顔はみるみる真っ赤になってしまいには泣き出しちま
った。
「ひ、ひどいよぉ! 返してよボクのブラックナイトォ!!」 
 そう泣きじゃくる宙斗を権堂のバカは面白そうに笑ってやがる……。
「は!! お前みたいなへなちょこなんかより俺に使われた方がこいつも幸せだろうが!!」 
 その瞬間、俺の中で何かが切れちまった
「てめぇ!!!」 
 こんな消しゴムごときにバカだとは俺も思うけど、でも……!それでも宙斗にとって大事なものを奪ってヘラヘラ笑っているこいつに我慢できず俺は殴りかかった!!がしかし……
「ああ~!! 神風のやつがごんちゃんに暴力振るおうとしてる~!! 先生呼びに行こうぜ~」
「なに!!?」
 権堂の取り巻きがヘラヘラ笑いながらそう言い放ち、俺の拳は権堂の顔面すれすれで止まった……。
「どうした?殴るんじゃねぇのかよ?え?」
 余裕の表情でそう煽る権堂をそのまま殴りつけたいが……でもそんなことをしたら俺のたった一人の家族であるじいちゃんに迷惑が掛かる……。それを考えたら拳をそれ以上まえに動かすことができなかった……。
「卑怯よ!!自分が最初に暴力で宙斗から消しゴム奪ったくせに!!」 
 茜がそう叫ぶが権堂は余裕を崩さない……。
「はぁ~?それは誰が見たんだよ!? 証拠はあるのかぁ!? なぁ!? クラスのみんな!! 俺がそんなことしたの見てたかぁ!?」
「……」
 クラスのみんなは自分にも被害が及ぶことを恐れてか、みんな黙りこくってやがる……。 
「ほら!! 誰も知らねぇってよ!! お前の見間違いじゃないのかぁ!!? 適当言ってんじゃねぇよ! ウソツキ女!!」
「な!なによ!!」
「ウソツキだからウソツキって言ってるんだよ!!ある意味お似合いの3人組かもなぁ! 弱虫に! 暴力野郎に! ウソツキ女!! クズの集まりじゃねぇか!!ギャッハッハッハッハッ!!」
「……」
 茜は今にも泣きだしそうなのを必死にこらえてやがる……。それを見た瞬間もう俺は我慢ができなくなった!確かにこいつはおせっかい焼きだし、こんなことに巻き込んできやがるけどウソツキじゃねぇ!茜も宙斗もクズなんかじゃねぇ!!じいちゃんには悪いけどこいつら全員ぶん殴って意地でも訂正させてやる!! そう思って再び拳を振りかざしたその時だった……。
「権堂君! 神風くん!! そこまで!!!」
 突如男の声が教室に響き渡って俺の拳は止まリ、そして教室にいる全員の視線が声の出どころである教卓に集中した。
 最初は担任の若林かと思ったんだけど、そこには若林ではなく、黒いスーツ姿に赤いマントを羽織り、顔には白い仮面という異様な姿の謎の男が立っていたんだ。 
「だ、だれだよ!! この不審者!!! おい! 先生呼びにいこうぜ!!」
 珍しく権堂が真っ当なことを言ってみんな一気に冷静になるが、仮面の男は気にした様子を見せずに堂々とした調子で声を張り上げた。
「君たちの気持もわかるが、まぁ待ちたまえ!私は断じて怪しいものではない!私は……いいか!私の名前は!!」
 謎の仮面男の言葉を全員がゴクリ、と固唾をのんで待った。
「私の名は!! マスクドイレイザー!!」
「……」
訪れる一瞬の静寂……そして……
「やっぱただの不審者じゃねぇか!! 若林! 若林よんでこい!!」
「ああ!ちょっと待って!! 断じて! 断じて怪しいものじゃないから!!」 
 さっきまでの堂々とした姿はどこへやら、情けない声を上げてクラスメイトたちを仮面の男は止めようとしている……なんなんだこのおっさんは……?
 まぁただの変態だろうなと思って、おっさんのことは置いておき、再び権堂の方に向き直ろうとした瞬間、宙斗のやつが急に大声で叫び出した。 
「マスクドイレイザー……てあのマスクドイレイザー!!?」
「……ゴホン!いかにも!そのマスクドイレイザーだとも!!! 知っていていただいて光栄だ、畠中宙斗くん!!」
 宙斗がそう叫んだ瞬間、騒がしかった教室が静まり返った。と思ったらみんな口々に「うそ?まじ?」とか「サインもらわなきゃ」とか言ってやがる……このおっさん結構有名人なのか?とか思っていると、周りの反応に気をよくしたのか、おっさんは急にもとの堂々とした感じに戻った。ほんとなんなんだこのおっさん……。
「あのとか、そのとか、なんなんだよ宙斗……このおっさんのこと知ってんのか?」
「おっさんとは失敬な!私はお兄さんだぞ!!神風くん!!」
「はいはい……で?だれなんだこのおっさん」
「翔ちゃん!このおっさ……マスクドイレイザーさんはね?WEC……ワールドイレイズチャンピオンシップの二代目チャンピオンなんだよ!!」
「いかにも!!」
おっさんがさっきから口をはさんできてうるさいが無視して俺は宙斗に問いかける。
「なんだそのワールドなんとかって?」
「知らないの翔ちゃん!世界中の消しゴムバトラーたちがその腕を競う世界最高峰の大会だよ!!?」
「しらねぇよ……。要するに世界最高峰の暇人のあつまりで、このおっさんは世界最強の暇人ってことだろ?」
「フハハハハハ!世界最強の暇人とはご挨拶だな神風くん!!」
「うるせぇな!!いちいち会話に割って入ってくんじゃねぇよおっさん!!」「おにいさんだ!!!!」 
 なんか変なやつに絡まれちまったな……。とっとと消しゴム取り返して帰ろう……。
 再び俺は権堂たちの方をにらみつけた。しかし……。
「ふむ……なんか変なやつに絡まれたな……。早く消しゴムを取り返して帰ろう……。今の君の心境はそんなところかな?神風くん」
「こ、こころ読むんじゃねぇよ!! 気持ち悪いおっさんだな!!」
「だからおに……!ゴホン……まぁいいだろう! だが取り返すために暴力とは感心できんな……」
「!?」 
 拳を振り上げようと思ったのに、このおっさんは俺が気づくよりも早く俺の腕をつかんで止めていた……。
「いつのまに……」
「消しゴムを取り返したくば、暴力に頼るべきではない……。君もだ権堂くん!」
「ああ!?」
「君も普段から消しゴムバトルにいそしんでいる身ならわかるね?欲しいものは消しゴムバトルで手に入れろ!!!」
「な、なに言ってんだ!!?」
 さすがの権堂も訳が分からないといった様子だ……。当たり前だよ、なにが消しゴムバトルだよ……。
「……と思ったがなかなかいいこというじゃねぇかおっさん!!」
「フハハハハハ!やはり君も消しゴムバトラーなのだな!!そう言ってくれるとおもったよ!!」 
 いや乗るなよ権堂!意味わからねぇだろうが!!
「つまり!俺が消しゴムバトルで勝てばこのブラックナイトは俺のものってわけだな!? それでいいよな! 宙斗!!」
「え? え~……たしかにそうなっちゃうよね……」 
 いやならねぇだろ!!なんで消しゴムバトルならしょうがないみたい空気になってんだよ!?マジかこいつ!?
「というわけだ、神風くん!! 宙斗くんのブラックナイトを取り返したくばやることは一つ!! ズバリ! 消しゴムバトルだ!!」
「お願い翔ちゃん!! 勝ってボクのブラックナイトを取り返して!!!」「翔!!やってやりなさい!!」
「さぁこい!! 神風!!」
 途端に、周囲のクラスメイト達も「おお!!」とか「マスクドイレイザーの仕切りで消しゴムバトルとかすげぇ!!」とか滅茶苦茶盛り上がってやがる……。だが……
「……なに盛り上がってんだ? 俺は消しゴムバトルなんて下らねぇ遊びやらねぇよ」
「……え?」
「「「え~!!!!???」」」 
 なんか連中勝手に盛り上がって勝手に驚いてるが俺の苦手なものその3。それは「消しゴムバトル」だ。理由は単純「下らねぇから」それだけだ。それと……いや、下らねぇからってだけだ!
「あのよ? こんな下らねぇガキの遊びなんか付き合うわけねぇだろ? おっさんもいい年こいてバカ見てぇなことしてんなよ? ダセェってマジで」
「そんな……翔ちゃん……」
 追いすがろうとする宙斗には悪いが本心からの言葉を目の前のバカどもにぶつけてやった。だってそうだろ?こんな遊びにマジになるのなんてせいぜい小1か2のガキだけだ。なのにみんなマジになってバカ見てぇ……。
「ちょっと翔!」
「バカバカしい……俺は帰るからあとはもう好きにやってくれ……」
 茜の制止も振り切り、俺はもう宙斗の消しゴムのことなんて放って帰ろうと教室の出口に向かう。しかし教室のドアに手をかけた瞬間に仮面のおっさんの発した言葉が俺の動きを止めた。
「逃げるのかね、神風くん? 残念だ。君の父、神風真破(かみかぜまっは)なら決して背を向けなかったろうに……」
「……!? なんでおっさんが俺の父ちゃんの名を知っているんだ!!」
 途端におっさんの胸ぐらに掴みかかるが、おっさんはすぐに俺を払いのけた。
「ぐあ!!」
「ちょ! 大丈夫翔!? ちょっとイレイザーさん!!」
 倒れる俺を心配して茜が駆け寄りキッとおっさんをにらむが、おっさんは何事もなかったかのように俺を見下ろしながらやかましく声を張り上げた。
「ああ知っているとも! 君の父、神風真破は私でさえ敵わなかった最強の消しゴムバトラーだったからな!!」
「「「!!!???」」」 
その言葉に教室は再び静まり返り、やがてざわつき始めた。 
「マスクドイレイザーを破った?」
「うそでしょ?公式記録にそんなのどこにも!!」 
 クラスメイトたちは口々によくわからないことを言ってやがるがそれも無視して、仮面のおっさんは続けた。
「神風くん……君はお父さんが亡くなったと思い込んでいる、いや、君のおじいさんからそう聞かされて育ってきた。違うかい?」
「!!?」
 瞬間、また教室は静まり返り、茜をはじめ、クラスメイトたちの視線が俺とおっさんに集中した。でもそんな視線に構ってられないくらい、俺の心はざわついていたんだ……。
 だって、なんでこのおっさんがそんなことを知ってるんだと思ったし、なによりもその言い方は……!!
「イレイザーさん! 何言ってるんですか!! 翔ちゃんのお父さんは!!」
「そうよ! 翔のお父さんは翔が幼稚園の頃に交通事故で!」
 そう茜と宙斗が声を張り上げるのを遮って俺はおっさんに問いかけた。
「おっさん……もしかして……おやじは生きてるってのか……?」
 おっさんはだまってうなずく。
「ど、どこにいるんだよ!! あのバカおやじは!? あいつが!! あいつが家をほったらかしにしたせいで俺の母ちゃんは!!!」
 そう叫んだ瞬間、おっさんは無言のまま俺の目の前に小さなアタッシュケースを差し出した。
「は?」
 訳が分からない俺をよそにおっさんは語りだす
「真実を知りたくばこのアタッシュケースを受け取るがいい」
 その言い方からおやじの手がかりが入っているのか?と思って俺はアタッシュケースを開いた……が……
「なんだこれ?」
「消しゴム……よね?」
 俺と茜は二人で首を傾げた。中に入っていたのは丁寧に緩衝材に包まれた小さな消しゴムだけだった。変なカバーがついてるってくらいしか変わったところがない、ただの消しゴムだ。
「おっさん!!なんの冗談だ」
「それは! 君の父さんから君に渡すよう頼まれた君の相棒{エアロドラゴン}!!」
「はぁ!!?」
 まじで訳が分からん。こんな消しゴムに変な名前つけやがって……と思ったんだが……よくよく見ると結構カッコいい……。 消しゴム本体は青い以外は普通の消しゴムって感じだが先端部に二つ黄色い斜めのラインが左右対称に入っていて目みたいだ。そして、白をベースにしたカバーはゴテゴテしているが、親指、人差し指、中指がそれぞれセットしやすいようにへこみがあり握りやすい。けど、何よりも目を引いたのはカバーの尻の部分から小さく左右に一枚ずつ伸びた金色の羽根みたいな出っ張りだ……まぁすくなくとも普通の文具として使わせるつもりはないというのは一目みてわかった……。
 眉間に皺を寄せてその変な消しゴムを見つめているとおっさんはまた話し出した。
「彼が消えた謎を知りたくば、そのエアロドラゴンを使ってこの消しゴムバトルの世界で戦うほかはない。どうするね? 神風君。いや、神風翔くん!!」
 その問いかけに俺は迷った……。普段だったら、こんなバカ見てぇな遊びに付き合ったりしないんだが、おやじの事を知りたかったし……なによりも……。
(こいつ……戦いたがってる……!) 
 今手にもっているこの変な消しゴムが、俺の手の中で今にも暴れ出したそうにしているのがなぜか伝わってきた。それになんでか消しゴムをもつ俺の右手を風が渦巻いているような、そんな感じがしたんだ……!
「……いいぜ……!」
「翔!」
「翔ちゃん!!」
「やってやる!! こいつで戦えば、おやじに会えるんだろ!!? おっさん!!」
「ふ……おにいさんな……? だがその通り! 君がそのエアロドラゴンで戦ったその先に! 君の父、神風真破は待っている!!」 
その言葉を聞いちまったらもうしょうがねぇ!ダセェ遊びだがのってやらぁ!
「じゃあ手始めに権堂!!てめぇをぶっ倒してやるぜ!!そんで宙斗の消しゴムを返してもらうぜ!!」
 しかしそれを聞いた権堂が嫌みな表情で笑った。
「ぶっ倒すってのは無理なんじゃねぇか? だってよぉ! お前消しゴムバトルやったことねぇだろう?」
「そ、そうだよ! 翔ちゃんルールだって知らないでしょう!?」
「ああ、知らねぇ」 
 きっぱりと答えたその瞬間、おっさんが大声で笑いだした。
「フハハハハハ!! 知らないのに自身満々と言った風情だな! 面白い! 実に面白いぞ神風くん!! いいだろう! 今回は私が君に基本的なルールを教えよう!! それでもいいかな? 権堂くん?」
「いいぜ?ルール知ったくらいで俺が初心者に負けるわけねぇからな!」 
 権堂のやつ……余裕かましやがって!今に吠え面かかせてやるからな!そういう思いを込めて睨みつけていると、おっさんは急に指をパチンと鳴らした。すると……
「「おわぁぁぁああ!!!」」
 俺と権堂の前に急に長机が降って来やがった!だれかが放り投げたとかじゃあもちろんない!まじで急に天井から降ってきやがったんだ! 
 一瞬命の危機に瀕した俺と権堂ははぁはぁと息を荒くしてその長机を見つめていたが、おっさんはそんなおれたちのことなど視界に入っていないかのように話し出した。
「説明しよう!! これこそが消しゴムバトルのバトルステージ! ストレートエッジ! 直線状のステージの端にお互いの消しゴムをセット! じゃんけんをして先行後攻を決めた後は、順番に己の分身たる消しゴムをデコピンでシュート! 相手の消しゴムにアタック!! 先に3回場外に落とすか、相手の消しゴムを大破させた方の勝ちだ!! ただし!シュートした際に勢い余って自分の消しゴムがリングアウトした場合は相手の得点になるから気をつけたまえ!!」
「な、なに言ってるのか早口でよくわからねぇよ……」
「オタク特有の早口ってやつね……」
「と、とりあえずデコピンで消しゴム弾いて3回場外に落とせばいいんだよ翔ちゃん!」
「ナ、ナイス宙斗!ま、それなら楽勝だぜ!!」 
「ふ……神風君。消しゴムバトルはそんな単純なものではないぞ? まぁ頑張ってくれたまえ」
 まぁ確かに、いろんなやつが熱中している以上そんな簡単なもんじゃないってのはなんとなくはわかっていた。でも……
(いけるよな……? 相棒?)
 さっき受け取ったばかりのはずなのにこいつとはなぜかずっと前から共に戦ったことがあるような気がしていた。
 さっきまで下らねぇってバカにしてたくせに何言ってんだ?っておもうよな?おれもそう思う。でもこいつとなら何故かどんなバトルでも絶対に勝てるってそんな気がしたんだ!
「へ! そいつがどんな力を持ってるかは知らねぇけどよ? 初心者ごとき、俺様がこの最新型を使ったら負けるはずねぇっての! なぁ! ブラックナイト!」
 そういうと権堂は真っ黒い大きな消しゴムを取り出した。普通の消しゴムと思いきや、先端部が尖っていて、まるで真っ黒い盾のような形状だ。
 しかもカバーの部分は黒い金属でできていて、所々金色のラインが入ってることから、まるで騎士の鎧のような重厚感だ……。
 見ただけで相当な重量があるのはわかる。どうやらブラックナイトという名に違わない相当な強敵のようだな……。
「ご、権堂君!! ボクのブラックナイトなのに!!」
「権堂あんたねぇ!」
「うるせぇ! ごちゃごちゃ言うな!! どうせ俺のものになるんだから今使ったっていいだろうが!!」
「そんなぁ~!」
「……翔! わかってるわよねぇ!! 絶対こんな奴にまけんじゃないわよ!!」 
 宙斗のすがるような視線と茜の俺を信じ切った視線を背中に受けて、俺はステージへと向かい、そして振り返った。
「任せとけ!! こんなやつあっという間にぶっ飛ばしてやるからよ!!」  
 ブラックナイトは確かに強敵なんだろう……。でも!全く負ける気がしなった!!
「さて権堂! 準備はいいよな!! 俺にやられる準備はよ!!」
「へ! ぬかしやがれ! ド素人が!」
 クラスメイトの視線が俺たちに集中する……。こんなことはよくあることだったけど、今回は違った。なんだかすごくワクワクする!いい意味での緊張感が俺の心を高鳴らせていた。
 そんな俺たちを見ておっさんはすこし笑うと、いままでより一層大きな声を張り上げた。
「ふ……では!! 両人とも準備はいいな!? ならば消しゴムを定位置にセットせよ!!」
 俺は汗ばんだ手で相棒を白いラインにセットした。斜向かいに立つ権堂も同じようにブラックナイトをセットする。
「では……じゃんけん用意!!」
「「じゃん! けん! ぽい!!」 
 結果は俺の勝利! 権堂の後攻だ!
「へ! ビギナーズラックってやつだな! まぁいいさ、先行くらいくれてやるよド素人!」
「抜かしがれ!」
「では神風翔!合図とともにシュートだ!! いくぞ!! 3、2,1」
カウントダウンとともに俺の心臓の鼓動はどんどん高まる。いまならすげぇのが撃てる気がする!! 
「イレイズ! ゴー!!!」
 掛け声とともに右手のデコピンで相棒をぶっぱなした!!
「いけぇ!!俺のエアロドラゴン!!」 
 狙いは正確だ!!相棒は権堂のブラックナイト目掛けて一直線にぶっとんだ!当たる!
 ガイン!
 鈍い音が響いたかと思うと相棒はシュウウウという煙を立ててブラックナイトの前で静止していた……。
「な!ばかな!!」
 狙いは正確だったはず!それなのにブラックナイトを一ミリも動かせていないなんて……。
 俺は動揺しながらゆっくりと相棒を回収して、再びラインにセットした。
「ど、どういうことなの……?だってものすごい威力だったわよ……? 翔の一撃は……」
 俺のうしろで狼狽えながら問いかける茜に、宙斗が震える声で答えた。
「足りなかったんです……翔ちゃんの攻撃力じゃ……。ブラックナイトの重さは5kg……に対して翔ちゃんのエアロドラゴンは見た感じ、せいぜい30g……」
「何よそれ!! それじゃあ翔がどれだけすごい一撃を出しても……!」
「不可能、だろうな……彼を倒すことは……」 
  二人の会話に入ったおっさんはそう淡々と告げている……。なんだってんだよ……!いきなり俺は負けちまうのか……!?
「おいおい!!? さっきまでの威勢はどうしたんだよド素人!! じゃあ次はこっちの番だぜ!! ところでイレイザーさん! アイテムの使用はOKなのかい?」
「無論! OKだ! 相手に直接危害を加えなければ、それはカスタマイズの範疇として認められる!」
「ようし! なら遠慮なく!!」
「では準備はいいな!? 3・2・1!」
 カスタマイズ?何をするつもりなんだ?そんな疑問を口にする前に権堂は自分の筆箱から何かを取り出した。あれは……なんだ? 
「まさかあれは! 翔ちゃん気を付けて!!」
「イレイズ! ゴー!!」 
 ドゴォン!! 
 宙斗が警告するよりもはやく、黒い物体が俺の相棒目掛けて放たれ、着弾とともにすさまじい轟音を立てながら煙を巻き上げた。 
 そして煙が消えると……
「!? あ、相棒……!」
 俺の相棒は机の下に無残に転がっていた。
「あ……ああ……」
「ブラックナイト! 一ポイント!」
 おっさんがブラックナイトの先制点を告げた。そんな……こんな簡単に先制点を取られるなんて……!権堂のやつ……何をしやがったんだ……!?
「なにが起きたんだって顔してるなぁド素人! おれはこいつをつかったのさ!」  
 権堂が勝ち誇ったような顔で俺に見せたもの……それは……!
「定規!?」
「そう! 定規! と鉛筆だ!!」
「なに? どういうことなの?」
 得意顔で権堂が見せつける二つを見ても、訳が分からないといった様子の茜はそう疑問を口にしている。その疑問に宙斗が再び答えた。
「てこの原理です……」
「てこの原理?」
「はい……! 権堂君はてこの原理で、定規の真ん中を鉛筆で支えて定規の片方に消しゴムを乗せたんです。そしてもう片方を思いっきり叩くと……」
「デコピンよりもはるかに大きな力で消しゴムを飛ばせる……ってこと?」「はい……」
「ふむ……重量のあるブラックナイトを扱うにはとても良い作戦だ! 見事だ! 権堂君!!」
「へへ! どうも!! これが俺の必殺! ブラックカノンだ!! どうだド素人!!! さぁ次はお前の番だぜ!!?」
 おっさんに褒められた権堂は得意顔だ……!くそ!冗談じゃねぇぞ、何が必殺技だ!!あんな防御力に加えてこの破壊力って……どうやったら勝てるってんだ!!俺は、焦りから相棒を乱暴に拾い上げた……その時……
 シュー……シュー…… 
 どこからか……小さく呼吸しているような音が聞こえた……。
「!?」
 俺は周りのだれかの呼吸音が聞こえてるのかと思って周囲を見渡した……!でも違うようだった……。
(じゃあだれが……?……!?) 
 シュー……シュー……
「!? ……こいつ、まるで生きてるみたいに!!!」
 俺は右手に相棒を拾いあげて確信した!相棒が小さく……でも確実に呼吸をしている!!しかも……
「こいつ……風を纏っている……?」
 相棒を中心に小さく風が渦を巻いているのを感じた。
「は!?」
 その時……俺のなかで何かがひらめいた気がした。確実ではないかもしれないが……でももしかしたらあのブラックナイトを倒す方法が……!!
(やれるよな……? 相棒……!)
「神風君!! 君の番だ! 早くセットしたまえ!!」
「それとももう棄権するかぁ? せっかくの新しい消しゴムがぶっ壊れちまうかもしれねぇぞぉ?」 
 俺は静かに相棒をラインにセットして、それから権堂を見やり……笑った。
「あん? なに余裕かましてんだ?」
「別に余裕ってわけじゃあねぇさ? けどよ? そうやって笑ってるお前が吠え面かくと思うと自然と笑えちまってな」
「なんだと!? このド素人!!!」
「まぁ黙ってみてろや」
「なら準備はいいな!? 3・2・1!」 
 俺の心にはもう焦りとかそういう感情はなくなっていた。今はただただ相棒と呼吸を合わせる……ただそれだけしか頭にない。
 シュー……シュー…… 
 だんだんと相棒の呼吸が早くなる……と同時に相棒が身に纏う風の勢いも増していく。俺もそれに合わせて呼吸を早める。
 シュー……シュー……ヒュー……
 呼吸を合わせるとともに何か……身体中に風を纏っているような……そんな不思議な感覚になっていく……。そして……
 ヒュー……ヒュー……ヒュォォォォ……
 その呼吸と身に纏う風の強さが最高点に達する……その瞬間に……
「イレイズ・ゴー!!!」
 ぶっぱなす!!!!!! 
 相棒は俺の身に纏った風をもその身に纏い、弾丸のように空中を回転しながらブラックナイト目掛けて突っ込んでいった!やっぱりだ!こいつ、風を纏って操る力があるんだ!! 
「よっしゃいけぇぇ!!」 
ビュオオオオオオオオ!!! 
身に纏う風は回転の力でさらに勢いを増し、小さな竜巻となってブラックナイトに迫っていく!!
「うわぁ!」
「きゃああああ!!」
 クラスメイトたちもあまりの風に耐えきれず吹っ飛ばされそうになっている!すげぇ威力だ!!これなら!!!!!
ドクン!!
「!?」
 これならいける!そう思った瞬間、俺の心臓が大きく脈打ち……そして「必殺」の二文字が脳内をよぎった……! 
(もしかして……相棒が?)
 相棒を見つめると、何かをもとめるように青く、鈍い輝きを風の中で放っていた。それでわかった!……相棒が求めているものが何かを!!
「いくぜ相棒!! 必殺!!」 
 相棒は俺の叫びに呼応するように竜巻の中で青く輝き始め、竜巻の威力をさらに高めている!!やっぱりそうか……必殺技の名前は、ちゃんと欲しいよな!!相棒!!!任せろエアロドラゴン!!最高の必殺技をお前とともに放ってやろうじゃねぇか!!!いくぜぇ!!!!
「トルネード……ブラストォ!!!!!!!」
ギュォォォォォォォ……!!バシューーーーーーン!!!! 
 叫びとともに一気に解き放たれたそれは、極限まで青く輝く相棒を中心に巨大な竜巻となり、うなりを上げてブラックナイトに直撃した!
「う!うわぁああああああああ!!」 
 権堂のやつもブラックナイトとともに教室の奥までものすごい勢いではじき飛ばされ激突し、そのまま気を失った……てこれだとどうなるんだ?勝敗は持ち越し? おっさんに聞こうとおもって探すが……あれ?いない?っていうか……
「やべぇ!! 教室中とんでもねぇことになってる!!!」 
 トルネード・ブラストの威力が高すぎたみたいだ……。 
 幸い窓は割れてねぇけど、教室中の机やら椅子やらがひっくり返って大変なことになってる……。クラスメイト達の姿も見えねぇし……もしかして開いてた窓から皆外に吹き飛ばされちまったのか……!!? とんでもないことをやらかしてしまったかもしれねぇ、と背筋がゾーとするのを感じていると、突然ひっくり返って山見たいになった机がボコっと盛り上がり、中からボロボロになったおっさんや、ほかのクラスメイト達がはい出てきた。 
 そしておっさんは激しく咳き込み、それから深呼吸を一つすると大きく声を張り上げた。
「ゲフンゲフン!!!ゲッフ!! すぅ~~~~~ふぅ……ウォッホン!! あ~……見事だった神風くん! さすがはあの男の息子、と言ったところだろう!! 見たところ権堂君は気絶して続行も不可のようだな……! ンよって!! 勝者!! 神風 翔くん!!」 
 勝者!!その言葉を聞いて俺のテンションは一気に上がる!!
「やったぜぇ!!! 茜! 宙斗!! だからいったろぉ!! ぶっ飛ばしてやるってよ!!」 
 ここで、茜と宙斗やクラスメイト達がわーって俺に駆け寄ってきて胴上げワッショイ!……のはずなんだが……あれぇ?全然だれもこっちに来てくれない……?おかしいぞぉ?
「み、みんな……どったの?」
「どったのじゃないわよ翔!!」
「やりすぎだよ!!翔ちゃん!!!」
「てめぇ教室の机直しやがれぇ!!!」
「ノートどっかいっちゃったじゃない!! さがしなさい!!!」
 とんでもねぇ殺気でみんなが押し寄せてきやがった!! 
「お、おっさん……! なんとかしてくれぇ……!!」
 神にすがるような目でおっさんを見つめたがあの野郎……
「ふははは!! 確かに君の力は素晴らしいが、それをコントロールできるようにせねばな!? というわけでその反省の意味を込めてみんなの教室をきれいにしておくように!! ではまた会おう!! あ、それから……今後は学校内でその必殺技は絶・対・に! つかわないように!! では!!!!」
「ちょ! 待てよ!! おやじのことを教えてくれんじゃねぇのかよ!!」「何……焦る必要はない……時がくればいずれわかるときがくる……」
「なんだよそれ!! あ~もう! じゃあせめて教室の片付け手伝ってくれよおっさん!!」
「フハハ! 神風君! 君に一ついい言葉を授けよう!! 自分のケツは……自分で拭け!!」
「はぁ!?」
「以上だ!!!」
「あ!おい!」 
 それだけ言うとあのおっさんは窓から飛び降りた……。とおもったらマントがハングライダーみたいなのに変形してそのまま彼方へと消えて行った。フハハハハハ!!アーハハハハハハ!!とかいうバカみたいな笑い声が遠くから響く中、殺気立つクラスメイト達のもとに一人残された俺がどうなったかは……言うに及ぶまい……。
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 その夜、俺はあの怪しいおっさんが言ってたことを思い返していた……。
(父ちゃんが生きている……? そんでそのカギを相棒が握っている? 一体なんなんだ?)
 答えの出ない疑問を延々と考え続ける。
 (彼が消えた謎を知りたくば、そのエアロドラゴンを使ってこの消しゴムバトルの世界で戦うほかはない。)
 その言葉を思い返し、俺はとてつもない何かに巻き込まれていこうとしている……そんな予感がしていた……。でも大丈夫!だって!
 「俺とお前なら絶対に負けない!そうだろ相棒!!!」
 呼応するように瞳を輝かせる相棒にニッと笑いかけ、俺は布団の中に潜り込んだ。