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「清村くん。どうか……受け取って下さい」
「え、僕に……!?」
 夢のようだった。いや、本当に夢じゃないだろうか。
 お洒落なカフェの中……キュッと口を結んだ緊張した表情で、僕にその可愛らしい小包を渡すのは、職場で四番目に人気の原田さん。流れるような清楚な黒髪を耳に掛け、頬を薄らと染めて、じんわりと潤んだ瞳を僕に向ける。
「私、ずっと清村くんのことが好きでした。付き合って下さい!」
「も……もちろん! 喜んで!」
「嬉しい……どうぞ、チョコレートを召し上がって」
「はい! 喜んで!」
 夢見心地で小包を開けると……何て可愛いんだ! ホワイトチョコで『I LOVE YOU』の文字が描かれた、ハート型のチョコがそこにあった。
 一欠片、口に含んで噛み締めるだけで、ふんわりとした甘さと芳ばしい香りが広がり、この胸いっぱいに幸せが溢れる。
「甘い……原田さん。すごく美味しいよ」
 とろけそうな想いで、ぼぉっとした。
 何て、幸せなんだ。冴えない僕が、まさかこんなに素敵な彼女からバレンタインチョコを貰えて、さらに告白までされるだなんて……。
 うっとりと見詰めていると、彼女の大きな瞳がキラッと怪しく光ったような気がした。
「清村くん、美味しい?」
「うん、とっても!」
「本当に、私に付き合ってくれる?」
「うん、もちろん!」
「良かった……じゃあ、是非とも付き合って欲しい場所があるの」
「えっ?」
 とろけるほどに甘いチョコレートを味わった僕は、彼女に手を引かれてカフェを出た。

「ここは……」
 何て綺麗なんだろう。遥かな空をオレンジ色の夕焼けが染めていた。
 原田さんに連れて来られたのは、オフィスビルの屋上。きっと、付き合った最初の思い出にするために、とっておきの場所へ連れて来てくれたんだ。
「こっちよ、こっち!」
「うん!」
 僕は彼女に手を引かれるがままに、何処までも付いて行く。
 そう、どこまでも……
 って、あれ?
 いつの間にか、僕達はフェンスを乗り越えていて……一歩先に足を踏み出せば、全てがおもちゃのように小さく見える地面まで真っ逆さま。そんな、危険な位置まで来ていた。
「原田さん……?」
「清村くん! 私と一緒にこの憎むべき現世を抜け出して、遥かな夕焼け空へ、羽ばたきましょう!」
「はい?」
 何を言っているのか、理解出来なかった。
 恐る恐る、改めて彼女の顔を見ると……にっこりと笑っているけれど、その目は何処か、イッている。僕の背中にゾクリと悪寒が走った。
「いや、原田さん。何を言っているんだ。そんなことをしたら、僕達、ぐちゃぐちゃになって死んでしまう……」
「あらぁ、いいじゃない。私達、この世界では死んでも、異世界で勇者様と妖精のお姫様に転生して、楽しく幸せに生きていけるのよ」
「いや、それは今、流行りのラノベの中だけの話だから。実際は、絶対にそんなこと起きないから!」
 必死で説明するも、唐突にイカれた彼女は言葉が通じる状態ではなかった。
「清村くん。私のチョコ、食べたでしょ? 付き合ってくれるって、言ったでしょ?」
「そりゃ、そうだけど。それは決して、そういう意味では……」
「そういう意味なのよん!」
「で……ぐわぁあわ、わぁぁぁぁぁぁー!」
 手を握ったまま飛び降りた彼女に引かれた僕は、当たり前のように足を踏み外して。地面へ向かい、真っ逆さま……


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「清村くん。どうか……受け取って下さい」
「え、僕に……!?」
 夢のようだった。いや、本当に夢じゃないだろうか。
 お洒落なカフェの中……キュッと口を結んだ緊張した表情で、僕にその可愛らしい小包を渡すのは、職場で四番目に人気の原田さん。流れるような清楚な黒髪を耳に掛け、頬を薄らと染めて、じんわりと潤んだ瞳を僕に向ける。
「私、ずっと清村くんのことが好きでした。付き合って下さい!」
「も……もちろん! 喜んで!」
「嬉しい……どうぞ、チョコレートを召し上がって」
「はい! 喜んで!」
 夢見心地で小包を開けると……何て可愛いんだ! ホワイトチョコで『I LOVE YOU』の文字が描かれた、ハート型のチョコがそこにあった。
 一欠片、口に含んで噛み締めるだけで、ふんわりとした甘さと芳ばしい香りが広がり、この胸いっぱいに幸せが溢れる。
「甘い……原田さん。すごく美味しいよ」
 とろけそうな想いで、ぼぉっとした。
 何て、幸せなんだ。冴えない僕が、まさかこんなに素敵な彼女からバレンタインチョコを貰えて、さらに告白までされるだなんて……。
 うっとりと見詰めていると、彼女の大きな瞳がキラッと怪しく光ったような気がした。
「清村くん、美味しい?」
「うん、とっても!」
「本当に、私に付き合ってくれる?」
「うん、もちろん!」
「良かった……じゃあ、是非とも付き合って欲しい場所があるの」
「えっ?」
 とろけるほどに甘いチョコレートを味わった僕は、彼女に手を引かれてカフェを出た。
「ここは……」
 何て綺麗なんだろう。遥かな空をオレンジ色の夕焼けが染めていた。
 原田さんに連れて来られたのは、オフィスビルの屋上。きっと、付き合った最初の思い出にするために、とっておきの場所へ連れて来てくれたんだ。
「こっちよ、こっち!」
「うん!」
 僕は彼女に手を引かれるがままに、何処までも付いて行く。
 そう、どこまでも……
 って、あれ?
 いつの間にか、僕達はフェンスを乗り越えていて……一歩先に足を踏み出せば、全てがおもちゃのように小さく見える地面まで真っ逆さま。そんな、危険な位置まで来ていた。
「原田さん……?」
「清村くん! 私と一緒にこの憎むべき現世を抜け出して、遥かな夕焼け空へ、羽ばたきましょう!」
「はい?」
 何を言っているのか、理解出来なかった。
 恐る恐る、改めて彼女の顔を見ると……にっこりと笑っているけれど、その目は何処か、イッている。僕の背中にゾクリと悪寒が走った。
「いや、原田さん。何を言っているんだ。そんなことをしたら、僕達、ぐちゃぐちゃになって死んでしまう……」
「あらぁ、いいじゃない。私達、この世界では死んでも、異世界で勇者様と妖精のお姫様に転生して、楽しく幸せに生きていけるのよ」
「いや、それは今、流行りのラノベの中だけの話だから。実際は、絶対にそんなこと起きないから!」
 必死で説明するも、唐突にイカれた彼女は言葉が通じる状態ではなかった。
「清村くん。私のチョコ、食べたでしょ? 付き合ってくれるって、言ったでしょ?」
「そりゃ、そうだけど。それは決して、そういう意味では……」
「そういう意味なのよん!」
「で……ぐわぁあわ、わぁぁぁぁぁぁー!」
 手を握ったまま飛び降りた彼女に引かれた僕は、当たり前のように足を踏み外して。地面へ向かい、真っ逆さま……